水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第二十回

2009年12月22日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第二十回
 蟹谷は左馬介を急かせた。
「はあ…。幻妙斎先生に最近、お会いになったそうで…」
「ん? ああ、そのことか。権十にでも聞いたのか?」
 左馬介は無言で頷いた。
「別に俺が先生をお呼びした訳ではないのだ。先生の方から急に
お姿をお見せになった」
 蟹谷が話すその辺りの経緯については、左馬介も権十から聞
いていた。
「権十が申すには、何やら杖で御指南された
とか…」
 定かではない話だから、左馬介は言葉尻を濁した。
「そうか…、その話を訊きにきたのだな?」
 蟹谷は左馬介が千鳥屋へ足を運んだ意図を漸く理解したよう
だった。
「ええ、まあ…」
「俺の太刀筋を、恐らくどこかで見ておられたのだろう。振り抜
く時に息を止めよ、と…」
「どういうことですか?」
「いや、それは俺にもよく分からぬが、どうも集中力を欠いておるようだ」


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