残月剣 -秘抄- 水本爽涼
《剣聖②》第二十回
蟹谷は左馬介を急かせた。
「はあ…。幻妙斎先生に最近、お会いになったそうで…」
「ん? ああ、そのことか。権十にでも聞いたのか?」
左馬介は無言で頷いた。
「別に俺が先生をお呼びした訳ではないのだ。先生の方から急にお姿をお見せになった」
蟹谷が話すその辺りの経緯については、左馬介も権十から聞いていた。
「権十が申すには、何やら杖で御指南されたとか…」
定かではない話だから、左馬介は言葉尻を濁した。
「そうか…、その話を訊きにきたのだな?」
蟹谷は左馬介が千鳥屋へ足を運んだ意図を漸く理解したようだった。
「ええ、まあ…」
「俺の太刀筋を、恐らくどこかで見ておられたのだろう。振り抜く時に息を止めよ、と…」
「どういうことですか?」
「いや、それは俺にもよく分からぬが、どうも集中力を欠いておるようだ」