水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 夏の風景 特別編(下) 怪談ウナギ(1)

2009年12月11日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      特別編
(下)怪談ウナギ(1)

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ、妖怪鰻(正也の夢に登場)

1.湧水家の全景 昼
   タイトルバック
   灼熱の輝く太陽。屋根の上に広がる青空と入道雲。

2.洗い場 昼
   日蔭で寝そべり、涼を取るタマとポチ。滾々と湧く冷水。

3.離れ 昼
   恭之介の部屋の定位置で昼寝をする正也。蝉しぐれ。
  N    「今日も茹(う)だっている。外は気温が優に三十五度はある。僕は洗い場で水浴びをした
後、昼寝をしようとしている。滾々と湧
        き出る冷水のお蔭で僕の体温は、かなり低くな
り、生温かい畳が返って心地よいくらいだ(◎に続けて読む)」
   熟睡する正也。
   タイトル「夏の風景 特別編(下) 怪談モドキ」


4.書斎 昼 
   書斎の長椅子に横たわり、顔を本で覆って眠る恭一。スイッチの入ったままのクーラー。
  N   「(◎)父さんは日曜ではないが、夏季休暇で書斎へ籠り、恐らくはクーラーを入れたま
ま読みかけの本を顔に宛行いつつ、長

       子で寝ている筈だ(◇に続けて読む)」

5.離れ 昼
   うらめしそうに外を見ながら、団扇をバタバタ扇ぐ恭之介。時折り、流れる汗を手拭いで拭く。
  N   「(◇)じいちゃんも、たぶん離れで団扇バタバタだろう」

6.玄関 内 朝 回想
   出かけようと靴を履く盛装した未知子。見遣る正也。犬小屋で薄目を開け、また閉じるポチ。
  未知子「役員だから仕方がないわ…。正也、あとは頼むわね(バタついて)」
  正也  「うん…」
  N   「母さんだけはPTAの集会で昼前に家を出たが、御苦労なことだ」
   玄関を出た未知子。閉じられた表戸。
   O.L

7.玄関 内 昼
   O.L
   開けられる表戸。玄関を入る未知子。台所から走ってくる正也。
  N   「母さんは五時前に帰ってきた。途中で鰻政に寄ったようで、手には鰻の蒲焼パックを
袋に入れて持っていた」
  正也  「お帰り!(可愛く)」
  未知子「今日は土用の丑だから、夕飯は鰻にしたわ…。それにしても高くなったわね…」
  N   「そんな苦情を僕に云ったって、物価が高くなったのは僕のせいじゃない。まあ、そんな
ことは夕飯の美味しい鰻丼を賞味して忘
       れたのだが…」

8.子供部屋 夜
   リフォームされた部屋。布団で眠る正也。
  N   「その夜、僕は怖い夢を見た。熱帯夜だったこともあり、寝苦しさから一層、夢を見やす
い状況だったと推測される。状況は兎も
       角として、夢の内容は実に怖いものだった。
今、思い出しながらお話ししても、身体が震えだすほどである」

9.≪正也の夢の中≫ 江戸時代の武家屋敷 夕方
   侍姿の恭之介。その後ろに従う侍姿の恭一。
  N  「夢で見た僕の家は江戸時代のお武家だった。じいちゃんは二本差しの颯爽とした武士
の出で立ちで、城から戻った風だった。
      じいちゃんの直ぐ後ろには、小判鮫のように、こ
れも武士の身なりの父さんが細々と付き従っていた」
  恭之介『今、立ち戻った!』
   出迎える武家の奥方の容姿の未知子。稚児姿の正也。
  未知子『お帰り、なさいまし…』
  正也  『お帰り、なさい? …』 

10.≪正也の夢の中≫ 武家の部屋 夜
   膳を囲んで夕餉を食べる家族四人。鰻の乗った皿。賑やかに笑う侍姿の恭之介。
  恭之介『この鰻は、実に美味じゃのう…(笑顔で)』
   楽しそうな四人。

11.≪正也の夢の中≫ 昔の子供部屋 夜
   布団で眠る稚児姿の正也。妖怪鰻が現れ、正也を揺り起こす。目を開ける正也。正也を驚か
す妖怪鰻。
  妖怪鰻『ヒヒヒ…お前が食べた鰻は、この儂(わし)じゃあ。このままでは成仏、出来ず、化けて
出たぁ~』
  正也  『僕の所為じゃない~!(喚いて)』
   問答無用と、正也の首を両手で絞めつける妖怪鰻。
  N   「これも今、思えば妙な話で、鰻に手がある訳もなく馬鹿げているのだが、夢の話だか
ら仕方がない」
  正也  『ど、どうすれば許して貰えるの?」
  妖怪鰻『儂の息子が斯(か)く斯くしかじかの小川で干上が
りかけているから、助けてくれるな
らば一命は取らずにおいてやろう…(偉
       そうに)』
  正也  『そ、そう致します…』
  N   「鰻に偉そうに云われる筋合いはない、とは思った
が、息苦しかったので、そう致します…などと敬語
遣いで命乞いをしたよう
       だった。怖かったのは、その小川を僕が知っ
ていたことである」

12.もとの子供部屋 夜
   うなされ、目覚める正也。目覚ましを見る正也。二時半過ぎを指す時計。また目を閉じ、布団
を被る正也。
   眠る、布団の中の正也。
   O.L

13.子供部屋 早朝
   O.L
   目覚める、布団の中の
正也。
  N   「その後、寝つけなかったものの、早暁には、まどろんで朝を迎えた。枕元は気のせい
か、多少、畳が湿気を帯びて生臭かった」

14.洗面所 早朝
   パジャマ姿で歯を磨く正也。離れから手拭いを提げて現れる恭之介。
  恭之介「おっ! 今朝は儂(わし)と互角に早いぞ、正也」
  正也  「なんか、よく寝られなかったんだ…」
  恭之介「そうか! 昨日は、熱帯夜だったからな。実は儂も、そうだ(笑って禿げ頭を片手で、こ
ねくり回し)」
  正也  「それにさ、怖い夢を見たよ…」
  恭之介「ふーん…、どんな夢だ?」
   昨夜、見た夢の子細を恭之介に話す正也。
  N   「僕は昨日の、おどろおどろしい夢の一部始終を洗い浚(ざら)い、じいちゃんに語っ
た」
  恭之介「ほう…、それは△§Φ▼フガ…。√∬▲フガフガガした方が◆★フガだろう」
  N   「じいちゃんは顔を洗って入れ歯を外したから、こんな口調となった。入れ歯語の通訳
をすれば、『ほう…、それは怖かったろう
       な。そのお告げのようにした方がいいだろう』
と、なる」

                                     ≪つづく≫


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残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第九回

2009年12月11日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第九回
だから、左馬介は外出の届を自筆で認(したた)め、許可印を師範代の井上から貰えば事が足りた。管理番を任されているという役割上の特典もあり、外出の容易さの便宜は、他の者に比べれば数段、認められ易いということもあった。井上に出入届を持っていくと、案の
定、許可印は容易(たやす)く貰うことが出来た。
 十五日の早暁、誰もが目覚めぬ頃に起き上がると、左馬介は少し早めの洗顔を済ませ、朝餉の準備だけはしておく。一日と十五日の月、二度の閉門日は、稽古がない分だけ食事の刻限が早まるのである。しかも、左馬介にとって、今日は外出をする日なのだから急ぐ必要があった。井上に云ってあるとはいえ、鴨下一人なのだからもとなく思え、一応は一馬に助勢を頼んでおいた。左馬介は朝餉準備を整え終わると、残飯で握り飯を三ヶ作り、竹の皮に包んだ。
そうしておいて、漸く空が白み始めた頃、道場を後にした。
 左馬介の進路が千鳥屋であることは疑う余地がない。だが、千屋に今、蟹谷がいるということは、まず有り得ない。道場にいると分かっている蟹谷に会えない、もどかしさは募るが、客人身分となっている蟹谷とは、道場の決めで会って口を利くことも、ままならないのである。道場には戻っているのだから…と素人目には映るが、そうはいかぬのが堀川なのであった。


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