水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第二十一回

2009年12月23日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第二十一回
「先生は、それを杖で示されたのですか?」
「ああ…まあ、そうだな」
 蟹谷は大雑把(ざっぱ)な経緯を吐露した。
「集中せよと…ただ、それだけですか?」
「面白い奴だ。そんなに詳しく訊いて、如何にする積もりだ?」
「如何にする、などという事ではありませんが、先生の仰せになった
ことを知りたい一存です…」
「ほおー、そうか…。いや、なに。先生は俺の稽古、といっても、薪
を割る斧の振り下ろしなのだが…」
「それが、どうだと?」
「どうも、俺が割る薪は均一ではないらしいのだ。それを先生は目敏(ざと)く見られていたようで、集中力を欠いておる…と云われた
のだ」
「なるほど、そういうことでしたか…」
 左馬介は蟹谷にことの委細を訊き、漸く得心がいった。
「では、私は、これにて。どうも、お忙しいところを失礼しました」
 左馬介は立ち上がり、廊下へ出ようと歩きだした。その後ろ姿
に、
「なんだ、もういいのか?」
 と、蟹谷の鋭いひと言が飛んだ。


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