≪脚色≫
夏の風景
(第四話)花火大会
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
N ・・湧水正也
その他 ・・猫のタマ、犬のポチ
1.台所 朝
タイトルバック
朝食後。食卓テーブルの椅子に座り、テレビを観る恭之介と正也。沈黙が続くテーブル。テレビの音と炊事場で未知子が片づけをす
る音のみが響く。
N 「僕の家では毎年、恒例の小さな花火大会が催される。とは云っても、これは、どこの家でも出来る程度の小規模なものなのだ
が…」
急須の茶を湯呑みに注ぎ、一気に飲み干す恭之介。
恭之介「正也、今日は例の大会だなぁ、ハハハ…」
正也 「じいちゃん、花火は買ってくれたの?」
恭之介「ん? いやぁ…。未知子さんが買うと云ってたからな…(表情を少し曇らせて)」
急に温和(おとな)しくなる恭之介。ふたたび、沈黙が続くテーブル。テレビの音のみが響く。タマが急に、ニャ~と美声で鳴く。椅子
を立って、子供部屋へ向かう正也。
テーマ音楽
タイトル「夏の風景(第四話) 花火大会」
キャスト、スタッフなど
2.玄関 朝
出勤しようと、框(かまち)に腰を下ろし、靴を履いている恭一。
N 「花火を買ってくるのは父さんの場合もあり、母さんになるときもあった。じいちゃんも買ってくれたとは思うが、僕の記憶では一
度こっきりだった。僕も主催者の手前、なけなしの小遣いをはたいて買い足し、花火大会を楽しむのが常だった」
子供部屋へ行く途中、恭一に気づき、立ち止まる正也。
正也 「今日は、花火大会だからね(可愛く)」
恭一 「そうだったな…。じゃあ、早く帰る(無愛想に)」
3.台所 夜
食後の団欒。恭之介、正也、未知子が食卓テーブルを囲む。テレビが賑やかに鳴っている。
N 「毎年、開始は夕飯後の八時頃だった。僕は昼間に近くの玩具屋でお気に入りの花火を少し買っておいた。そして何事もなく、い
よいよ八時近くになった」
正也 「花火はどこ? 母さん(可愛く)」
未知子 「えっ! 今日だった? 明日だと思ってたから買ってないの」
正也 「云ってたのに !(怨みっぽく云った後、グスンと少し涙して)}
涙目の正也を見遣る恭之介。
恭之介「正也! 男が、これくらいのことでメソメソするんじゃない!(顔を赤くして立って叱り」
涙ぐんだ目を擦る正也。恭之介を見上げる正也。
N 「僕の前には怒った茹で蛸が立っていた。でも、その蛸はすぐにグデンと柔らかくなった」
恭之介「まあ、いいじゃないか、今日でなくても…(優しく笑って)」
蕭々と現れる風呂上がりの恭一。
恭一 「フフフ…。正也も、まだ子供だな(ニヤリとし)」
黙って恭一を見遣る正也。
N 「云われなくたって僕は子供さ、と思った」
片隅に置いた袋を手に取る恭一。
恭一 「お父さん。こういうこともあろうかと、ほら、今年は私が買っておきましたよ(少し自慢げ に)」
恭之介「おぉ…珍しく気が利くな、お前(笑顔で)」
恭一「ついでにコレも買っときました(さも自慢げに)」
殺虫剤を袋から取り出し、恭之介に見せる恭一。
恭之介「ああ…コレなぁ。切れたとこだったんだ(喜んで)」
4.庭 夜
水の入った防火バケツ。縁台と庭先に座り花火を観賞する四人。闇に綺麗な火花を落とす花火。浮き上がる四人の姿。小さな歓声
と談笑。時折り、ウトウトする恭之介。少し離れた芝生で、四人の様子と花火を鑑賞するタマとポチ。
N 「しばらく経つと、暗闇の庭には綺麗な花火の乱舞が広がり、四人の心を癒していった。でも、じいちゃんは半分、ウトウトしてい
た」
F.O
タイトル「夏の風景(第四話) 花火大会 終」
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第四話」 をお読み下さい。