水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ  夏の風景(第七話) カラス

2009年12月05日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      
(第七話)カラス

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

.(回想) 玄関 外 早朝
   タイトルバック
   ラジオ体操から帰ってきた正也。玄関戸を開け、
内へ入る正也。玄関戸からゴミ袋を提げ、外へ出る未知子。
  未知子「気をつけてね(機嫌よく)」
  正也  「うん!(可愛く)」
   玄関内にある犬小屋のポチがクゥーンと鳴く。
玄関戸を閉め、家を出ていく未知子。
   
玄関の外景。
   O.L

2.もとの玄関 外 早朝

   O.L
   玄関の外景。
   帰ってきた未知子。出た時とは違い、かなり機嫌が悪い未知子。
  N   「今朝は母さんの機嫌が悪かった。その原因を簡単に云うと、全てはカラスに、その原因が由来する」

3.台所 朝
   食卓テーブルの椅子に座り、新聞を読む正也。玄関から炊事場に入り、朝食準備を始める未知子、何
やら呟いて愚痴っている。耳を欹
   (そばだ)てる正也。
  N   「入口で擦れ違った時の母さんは、普段と別に変わらなかった。でも、戻って以降の母さ
んは、様相が一変していた」
  [未知子] 「ほんと、嫌になっちゃう!…(小声で)」
   読むのを止め、さらに耳を欹てる正也。
  [未知子] 「誰があんなに散らかすのかしら!(小声で)」
  正也  「母さん、どうしたの?(心配そうに)」
   格好の獲物が見つかったという目つきで正也を見据える未知子。
  未知子「正也、ちょっと聞いてよっ!」
  N   「僕は、『いったいなんだよぉ…』と、不安になった。長くなるから簡略化すると、要はゴミの散乱
が原因らしい」
   離れから現れる恭之介。正也の隣の椅子に座る恭之介。
  恭之介「未知子さん、飯はまだかな…(炊事場の未知子を見遣り)」
   鼻息を弱め、俄かに平静を装う未知子。
  未知子「はい、今すぐ…」
  N   「母さんの鼻息は弱くなった。いや、それは納まったというのではなく、内に籠ったと表現した
方がいいだろう」
   小忙しくネクタイを締めながら食卓へ現れる恭一。正也の対面の椅子へ座る恭一。トースト、ハム
エッグ、サラダ、卵焼き、味噌汁、焼
   き魚などを次々に運ぶ未知子。それを次々に手際よく並べる正也。
無言で両手を合わせ、誰からとなく食べ始める三人。
  未知子「あなた、いったい誰なのかしら?(運びながら、少し怒りっぽく)」
  恭一 「ん? 何のことだ?(新聞を読みながら、トーストを齧って)」
   箸を止める恭之介。
  未知子「いえね…、ゴミ出しに行ったら散らかし放題でさぁ、アレ、なんとかならないの?(ようやく椅
子に座り)」
  恭一  「ああ…ゴミか。ありゃ、カラスの仕業さ。今のところは、どうしようもない。その内、行政の方で
なんとかするだろう…」
  未知子「それまで我慢しろって云うの?(不満げに)」
  恭一  「仕方ないだろ、相手がカラスなんだから」
   見かねて声をかけ、割って入る恭之介。
  恭之介「おふた方、まあまあ。…なあ、未知子さん。カラスだって生活があるんだ。悪さをしようと、やっ
てるんじゃないぞ。熊野辺りでは、
       カラスを神の使いとして崇めると聞く。まあ、見なかったこ
とにしなさい。それが一番!」
   恭之介を見遣る三人。タマが、仰せの通りと云わんばかりにタイミングよく、ニャ~と鳴く。
  N   「じいちゃんにしては上手いこと云うなぁ、と思った。でも、散らかる夏の生ゴミは臭い」
  恭一  「父さんの云う通りです。蚊に刺されて痒い思いをするのに比べりゃ、増しさ(笑って)」
  恭之介「あっ、恭一、いいこと云った。殺虫剤、忘れるなよ」
  恭一  「分かってますよ、父さん…(小声になり)」
  N   「薮蛇になってしまったと、父さんは萎縮してテンションを下げた」
   F.O
   タイトル「夏の風景(第七話) カラス 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第七話」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第三回

2009年12月05日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第三回
知識よりも実際の技でしか腕の向上はないのである。そういうことで、左馬介にとって、幻妙斎の出現を期待した自らが情けなかったのである。この時から、左馬介の剣に対する捉え方が著しく変
化していった。
 端午の節句が過ぎると、下駄履きの足裏がいつの間にか汗ばむようになる。雪駄に足袋でも冷えた冬の足元も、春先には足袋も取れ、そして今頃からは下駄履きである。その下駄履きの足も風呂の湯温が徐々に上がっていくように、季節とともに快適か蒸れへと変化する。そして秋には、ふたたび快適となり、やがては冷えを伴って足袋を欲するようになる…といった按排(あんばい)だ。この足元の感覚は、勿論、手先だってそうなのだが、剣をえたときの運びと微妙に関連を持っているのである。一年をして考えれば、厳寒の冬以外は生理的に辛さを感じるといっことはないが、それでも夏場は汗ばんで臭ったりして、不快感覚えることはあった。今年に入って初めて、左馬介はその感触覚えていた。梅雨入りには未だ少し早かったが、それでも初夏思わせる暖気が流れる暑い一日であった。昼の賄いの片付も終わり、午後の形稽古が始まる迄の僅かな休息の時が流ていた。


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