≪脚色≫
夏の風景
(第七話)カラス
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
N ・・湧水正也
その他 ・・猫のタマ、犬のポチ
1.(回想) 玄関 外 早朝
タイトルバック
ラジオ体操から帰ってきた正也。玄関戸を開け、内へ入る正也。玄関戸からゴミ袋を提げ、外へ出る未知子。
未知子「気をつけてね(機嫌よく)」
正也 「うん!(可愛く)」
玄関内にある犬小屋のポチがクゥーンと鳴く。玄関戸を閉め、家を出ていく未知子。
玄関の外景。
O.L
2.もとの玄関 外 早朝
O.L
玄関の外景。
帰ってきた未知子。出た時とは違い、かなり機嫌が悪い未知子。
N 「今朝は母さんの機嫌が悪かった。その原因を簡単に云うと、全てはカラスに、その原因が由来する」
3.台所 朝
食卓テーブルの椅子に座り、新聞を読む正也。玄関から炊事場に入り、朝食準備を始める未知子、何やら呟いて愚痴っている。耳を欹
(そばだ)てる正也。
N 「入口で擦れ違った時の母さんは、普段と別に変わらなかった。でも、戻って以降の母さんは、様相が一変していた」
[未知子] 「ほんと、嫌になっちゃう!…(小声で)」
読むのを止め、さらに耳を欹てる正也。
[未知子] 「誰があんなに散らかすのかしら!(小声で)」
正也 「母さん、どうしたの?(心配そうに)」
格好の獲物が見つかったという目つきで正也を見据える未知子。
未知子「正也、ちょっと聞いてよっ!」
N 「僕は、『いったいなんだよぉ…』と、不安になった。長くなるから簡略化すると、要はゴミの散乱が原因らしい」
離れから現れる恭之介。正也の隣の椅子に座る恭之介。
恭之介「未知子さん、飯はまだかな…(炊事場の未知子を見遣り)」
鼻息を弱め、俄かに平静を装う未知子。
未知子「はい、今すぐ…」
N 「母さんの鼻息は弱くなった。いや、それは納まったというのではなく、内に籠ったと表現した方がいいだろう」
小忙しくネクタイを締めながら食卓へ現れる恭一。正也の対面の椅子へ座る恭一。トースト、ハムエッグ、サラダ、卵焼き、味噌汁、焼
き魚などを次々に運ぶ未知子。それを次々に手際よく並べる正也。無言で両手を合わせ、誰からとなく食べ始める三人。
未知子「あなた、いったい誰なのかしら?(運びながら、少し怒りっぽく)」
恭一 「ん? 何のことだ?(新聞を読みながら、トーストを齧って)」
箸を止める恭之介。
未知子「いえね…、ゴミ出しに行ったら散らかし放題でさぁ、アレ、なんとかならないの?(ようやく椅子に座り)」
恭一 「ああ…ゴミか。ありゃ、カラスの仕業さ。今のところは、どうしようもない。その内、行政の方でなんとかするだろう…」
未知子「それまで我慢しろって云うの?(不満げに)」
恭一 「仕方ないだろ、相手がカラスなんだから」
見かねて声をかけ、割って入る恭之介。
恭之介「おふた方、まあまあ。…なあ、未知子さん。カラスだって生活があるんだ。悪さをしようと、やってるんじゃないぞ。熊野辺りでは、
カラスを神の使いとして崇めると聞く。まあ、見なかったことにしなさい。それが一番!」
恭之介を見遣る三人。タマが、仰せの通りと云わんばかりにタイミングよく、ニャ~と鳴く。
N 「じいちゃんにしては上手いこと云うなぁ、と思った。でも、散らかる夏の生ゴミは臭い」
恭一 「父さんの云う通りです。蚊に刺されて痒い思いをするのに比べりゃ、増しさ(笑って)」
恭之介「あっ、恭一、いいこと云った。殺虫剤、忘れるなよ」
恭一 「分かってますよ、父さん…(小声になり)」
N 「薮蛇になってしまったと、父さんは萎縮してテンションを下げた」
F.O
タイトル「夏の風景(第七話) カラス 終」
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第七話」 をお読み下さい。