水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 夏の風景 特別編(上) 平和と温もり(1)

2009年12月09日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      特別編
(上)平和と温もり(1)

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也
   その他   ・・丘本先生、生徒達、猫のタマ、犬のポチ

1.湧水家の遠景 昼
   タイトルバック
   屋根の上の青空に広がる遠い入道雲。蝉しぐれ。

2.洗い場 昼
   麦わら帽子を被り、水浴びする正也。日蔭で涼むタマとポチ。湧き水の涼風が流れる日蔭で
心地よく眠るタマ。正也を、『元気なお方
   だ…』と云わんばかりに見遣るポチ。灼熱の太陽。
蝉しぐれ。
  N   「また夏がやってきた。そんなことは云わなくても巡ってくるのが四季なのだし、夏なの
である。じいちゃんが剣道で僕に云う、
      “自然体”って奴だ。…少し違うような気もす
るが、まあ、よしとしよう」
   恭之介が現れる。上半身の着物を脱ぎ、手拭いを湧水に浸けで拭く恭之介。
  恭之介「ふぅ~! 生き返るなぁ…(しみじみと漏らし)」
   各自、冷水を堪能する二人。
   タイトル「夏の風景 特別編(上) 平和と温もり」


3.台所 昼
   四人が食卓テーブルを囲み西瓜を食べている。テーブルに乗る切り分けられた俎板上の西
瓜。賑やかに展開する家族の雑談。
  恭之介「昔は三十度を超えりゃ、この夏一番のナントカとか云っとったんだがなあ、ワハハハ
ハハ…」
   豪快に笑い、西瓜を頬張る恭之介。細々と一切れに噛りつく恭一。
  恭一  「そうですねぇ。真夏日は、確かあったようですが、猛暑日というのは、なかったですか
ら…。当時は涼しかったですよね」
  未知子「ええ、そういえば、以前は日射病って云ってましたわ。今は熱中症とかで大騒ぎ(西
瓜を手にして)」
  恭之介「はい…。未知子さんの云う通りです」
  N   「今日も見たところ、じいちゃんは母さんに“青菜に塩”である。夏休みの到来は、今年
も僕に恩恵を何かにつけて与えてくれそ
       うである。その予兆が先だっても湧き上っ
た」
   台所に掛かっている━ 極 上 老 麺 ━ の額(がく)。
   O.L


4.(回想) 台所 朝
   O.L
   台所に掛かっている━ 極 上 老 麺 ━ の額(がく)。
   朝食を慌ただしく食べ終えた恭一が、席を立つ。腕時計を見つつ、出勤時間を気にしつつ玄
関へ向かう恭一。   
  未知子「あらっ? あなた、ネクタイは?」
   立ち止まって、振り返る恭一。
  恭一  「ん? クール・ビズだからネクタイはいいんだ」
  未知子「あら、そうだったわ…」
  N   「父さんの会社も半袖ワイシャツにノーネクタイの所謂(いわゆる)、エコ通勤へと切り替
わった。汗掻きの父さんは大層、喜んで
       いる」

5.(回想) 玄関 内 朝
   慌ただしく靴を履く恭一。通りかかり、立ち止まる恭之介。玄関へ出てきた登校する正也。
  恭之介「なんか…お前の格好は腑抜けに見えるな」
  恭一  「…」
   一瞬、二人を見遣る正也。黙って戸外へ出る恭一。靴を履く正也。
  N   「父さんは口を噤(つぐ)んで、敢えて反論しようとはしない。反論すれば必ず反撃さ
る…と、読んでいる節がある。縁台将棋で二
       手先を必死に読む程度の父さんにして
は大したものだ」
   台所へと消える恭之介。玄関を出ようとする正也。外から引き返した恭一が戸を開ける。犬
小屋のポチが、『何事だ! 朝っぱらから
   …』と云わんばかりに、薄目を開けて、ワン! と、
ひと声、小さく吠え、また目を閉じる。
  恭一  「おいっ! 正也、まだ。いるかっ?!(少し怒り口調の大きめの声で)…おお、いた
か。(冷静になって)この前、云ってたラジコ
       ン模型な。ボーナスが出たら夏休みに買
ってやるからなっ!(少し威張り口調で)」
  正也  「うん! 有難う。楽しみにしてる。じゃあ、遅刻するから、もう行くよ!」
  恭一  「おっ? おお…(拍子抜けして)」
   戸外へ出る正也。ポチが小さく、クゥ~~ンと鳴く。

6.(回想) 玄関 外 朝
   家から遠ざかる正也の歩く姿。
  N   「まあこのような、僕にとっては恩恵を与えてくれそうな幸先がいい予兆だった。しかし
半面には、夏休みが始まっても買って貰
       えないといった不吉な事態も有り得る訳で、
油断は禁物なのだった」
7.(回想) 学校 昼
   正也の教室の授業風景。教壇に立つ丘本先生がホーム
   ルームで何やら話している。生徒達の中にいる正也。    
  N   「自慢する訳ではないが、僕は校内トップか二番の好成績で、丘本先生に見込まれて
いるのだ。両親とも、そのことは知ってい
       るから、成績のことは諄々(くどくど)とは云
わない。但し、母さんは、勉強しなさい…とは口癖のように云うのだが…。好成績
       で
も、これだけは別で、母心としては、やはり安心出来ないのだろう」

                                    ≪つづく≫


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残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第七回

2009年12月09日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第七回
 左馬介は、すぐには声を掛けず間合いを推し量り、権十が堂に
向け歩き出した刹那、
「あのう…、ちと御訊ねしたき儀があるのですが…」
 と、権十の背へ徐(おもむろ)に投げ掛けた。その敬語遣いの声に、
権十はギクッと一瞬、背を丸め、驚き含みに立ち止まった。
「私めで、ございますか?」と振り向いて、権十は、ただ小さく返した。「はい。私は堀江門下の者ですが、先だって蟹谷さんが先生に会
れた現場におられたやに御聞きしたものでして…」
 武士らしくなく、下手より百姓の権十に迫る左馬介である。
「はあ…、いつぞやの千鳥屋でのお話でございましょうか?」
「ええ、そのことです。同門の鴨下に、そのことを話されたとか…」
「はい、確かに…。鴨下様にはお話をば致しました。で…?」
「なれば、その内容を、も少し詳しくお訊きしたいのですが…」
 左馬介は権十を足止めして、諄(くど)く食い下がった。
「そうは云われましてもねえ…。私ゃ、隠れて遠目に眺めておっただけですだ。…そんなこって、お二人の話の遣り取りまでは、聞いておりませ
んで…」
 むさい野良着の権十は、髷とも見分けがつかぬ頭髪に手を伸ばし、申し訳なさそうに首筋を掻きながら小さく笑った。


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