水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 夏の風景(第三話) 疑惑

2009年12月01日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      
(第三話)疑惑

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也

1.子供部屋 夕方
   タイトルバック
   椅子に座り、机上で絵日記を書く正也。蝉が集く声。開けられた窓から入る夕映えの陽射し。
目を細める正也。
  N   「夏休みは僕たち子供に与えられた長期の休暇である。ただ、多くの宿題を熟(こな)
さねばならないから、大人のバカンスとは
       異質のものだ、と解釈している」
   一通り、書き終え、両腕を上へ広げて背伸びする正也。
  N   「今日の絵日記には、父さんと母さんの他愛もない喧嘩の様子を描いた。まあ、個人情
報保護の観点から、詳細な内容は書か
       なかったのだが、先生に知られたくなかっ
た…ということもある」
   絵日記を閉じる正也。遠くで道子が呼ぶ声。
 [未知子] 「正也~! 御飯よぉ~!」
 正也  「はぁ~い!(可愛く)」
   席を立ち、部屋を出ようとする正也。ふと、窓を閉め忘れたことに気づき、戻って閉め、溜息
をつくと、また椅子に座る正也。
   テーマ音楽
   タイトル「夏の風景(第三話) 疑惑」
   キャスト、スタッフなど   
  N   「二人の他愛もない喧嘩の経緯を辿れば、既に三日ほど前に前兆らしき異変は起きて
いた」

2.玄関 夕方
   誰もいない玄関。
   O.L

.(回想) 玄関 夕方
   O.L
   誰もいない玄関。T 「三日前」
   玄関戸を開け、バットにグラブを通して肩に担いだ正也が帰ってくる。正也が戸を閉めた途端、ふたた
び戸が開き、恭一がハンカチで
   汗を拭きながら入ってくる。
  恭一  「ふぅ~、今日も暑かったな…」
  正也  「うん!(可愛く)」
   靴を乱雑に脱いで上がる恭一。バットにグラブを通して肩に担いだまま、恭一に続いて上がる野球服姿の正
也。一瞬、立ち止まり、

   也の顔を見る恭一。
  恭一  「ほぉ~、正也も随分、焼けたなぁ! (ニコリと笑い)」
  正也  「まあね…(可愛く)」
  恭一  「今月は俺が一番だったな、助かる助かる…(ネクタイを緩めながら)」
   ふたたび慌ただしく歩きだし、正也に目もくれず、足早に奥へと消える恭一。

4.(回想)
 居間 夕方
   居間へ入った途端、乱雑に衣類を脱ぎ捨てる恭一。浴室へと消える恭一。
  N   「帰ったのは僕の方が早かったのに、逆転された格好だ。父さんは乱雑に衣類を脱ぎ
散らかして浴室へと消えていた」
   居間へ入る正也。台所から居間へ入る未知子。
  未知子「あらまあ、こんなに散らかして…。ほんとに困った人ねぇ(衣類を片づけながら)」
   
片づけ中、ふと、ズボン横に落ちた一枚の名刺らしきものに気づく未知子。クーラーで涼みながら、その様子を見ている正也。
  N   「落ちていた紙片がどういうものなのかは子供の僕には分からないが、どうも二人の
関係を阻害する、よからぬもののようだっ
       た」
   浴室から出て居間へ入ってくる恭一。クーラーで涼む正也。恭一に詰め寄る未知子。
  未知子「あなた、コレ、なによ!(膨れ面で)」
  恭一  「ん?  いやぁ…(正也に気づいて、曖昧に濁し)」
   正也の顔を垣間見る恭一。道子もチラッ! と、正也を見る。押し黙る二人。よからぬ雰囲気
を察して、居間から退去し、子供部屋へ
   向かう正也。

.(回想) 子供部屋 夕方
   子供部屋へ入る正也。机椅子に座った正也。
   O.L

6.もとの子供部屋 夕方
   O.L
   机椅子に座った正也。
  N   「その後、夫婦の間にどういう会話の遣り取りがあったか迄は定かでない。三日が経
った今も、二人の会話は途絶えている。
       息子の僕を心配させるんだから、余りいい親
じゃないように思う」
   突然、子供部屋へ入ってきた恭之介。
  恭之介「正也~、すまんがな…わしの部屋へコレをセットしといてくれ」
   蚊取り線香を正也に手渡す恭之介。
  正也  「じいちゃん、電気式の方がいいよ(蚊取り線香を受け取り)」
  恭之介「それは、わしも知っとる。だが、こいつの方がいいんだ(小笑いして)」
  正也  「ふぅ~ん…(何故かが、よく、分からず)」
   話題を変え、徐に(おもむろ)に訊く恭之介。
  恭之介「父さんと母さん、その後はどうなんだ?」
  正也  「えっ? …(恭之介の顔を見上げて)」
   沈黙する正也。それ以上は訊かない恭之介。   
  N   「僕はスパイじゃないぞ…と思った」
   F.O
   タイトル「夏の風景(第三話) 疑惑 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第三話」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖①》第二十八回

2009年12月01日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖①》第二十八回
 最近では味噌汁の出汁をとる煮干しの入れ加減も覚えたから、左馬介がそう口を挟む必要もなくなった。この一手間が省けると、左馬介も気疲れが失せる。門弟達が朝稽古を終える迄に賄いの準備を終え、整えておくといった要領も鴨下は日に日に掴み、時の無駄は解消されていた。また嘗(かつ)て左馬介がそうであったように、鴨下も少しずつ道場に馴染みつつあるようであった。賄いの準備を終え、朝稽古へ遅れながらも加われるようになったことで、左馬介も内心、胸を撫で下ろしていた。そうなれば、余裕が全てに生じてくる。技を忘れ、初心で望む剣聖への道も、全てが平静となる心の余裕
から胎動してくるような気がする左馬介であった。
 春の日々も巡り、早や皐月の鯉の吹き流しが葛西の町屋に棚引
く候となっていた。ここ、千鳥屋の瓦屋根にも、その光景は見られた。
「蟹谷さん、もう宜しゅうございますよ。あちらに酒肴を準備させておりますので、楽しんでからお帰り下さいまし。…それと、いつもの
ように僅かですが、包んでおきましたので、どうぞ…」
 主人の喜平は、薪割りに汗する蟹谷へ、そう優しげな声を掛けた。五郎蔵一家との一件があってからというもの、千鳥屋の堀川道場に対する肩入れは尋常ではない。現にこうして、堀川の蟹谷の小事を心よく認めて雇っていたし、丁重な遇(もてな)しまでしていた。


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