黙って聞いていた鴫田は、署長が煎餅かよ…と下目遣いで見ながら小さく哂(わら)った。しかし、署長が煎餅を齧れば刑法に触れる・・という条文がないのも確かなのである。^^ 鳩村は署内で[煎餅おじさん]と陰口を叩かれていることを全く知らない。
「手羽崎さん、のちほど…」
「はあ…」
鳩村が署長室へ消えると、三人はふたたび話を続けた。
「で、管理官、俺達はこれからどちらの本部付になるんです?」
口橋は心配げに訊ねた。
「口橋さんは今まで通りでいいんですよ。君もな…。分化本部の方は新たに増員されるようです」
「そうですか…」
口橋と鴫田はそれを聞き、少し安堵(あんど)した。とはいえ、もう一度、老婆が籠る山中へ足を運ぶというのも気乗りがしない。
「ミイラが消えた・・というのは気になりますなあ…」
「私が影で調べさせた情報だと、どうも公安が動いた形跡を拭えないんだよ」
「公安が? 署長を通さずに、ですか?」
「ああ、だから署の沽券にもかかわるから、分化本部が設置された・・と、話はまあこうなるんです…」
「そうでしたか…
「署長としては来年の三月までは話を荒げたくないんだろうが…」
「ミイラはどこへ消えちまったんでしょうね?」
「さあ、そこまでは私にも分かりませんが、たぶん、公安が指示した病院の霊安室じゃないかと私は思うんです」
「ミイラの取り合いですか?」
「まあ、そのような…。建物にしろ、取り合いってのは、なかなか面倒な接点です」
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