残月剣 -秘抄- 水本爽涼
《剣聖②》第十二回
「いえ、別に他意はありません。で、今日はお見えで?」
「はい…、恐らくは。月に五度(たび)、それも五の倍数日にお来しなのですが、それにしても、よく御存知で…。流石に御同門のお方でございます」
「いや、偶然です…」
丁稚だと多少、見縊(くび)っていた節がある左馬介なのだ。弁が立つ利口さには、ほとほと参った左馬介であった。
「一度(ひとたび)で手間賃は五十文。それが五度で二百五十文。丁度、一朱になります。他に旦那様のお供も月に一度なされ、これが一朱で、併せますと、月に二朱でございます」
訊いてもいないことを、嵩(かさ)にかかって諄々(くどくど)、よく喋(しゃべ)る丁稚だ…と、左馬介は無性に腹が立ってきた。
「そんなことは訊いておりません!」
左馬介は、つい声を大きくしていた。ほんの一瞬だが、もうどうでもいいか…、と思えた。丁稚は、左馬介のひと言を聞き流すようにして箒で店前を懸命に掃き始めた。秋ならば落ち葉で大変なのだろうが、梅雨に入ろうかという今の季節は、幸いにも大した芥もなく楽である。左馬介は丁稚が掃く様子を暫く眺めていたが、戸口の暖簾を潜り、店内へと入っていった。