水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第十九回

2009年12月21日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第十九回
「ああ…蟹谷さん。薪はいつもの量を割って下されば結構です。賃は帰られる時に包ませて戴きます。それより、あちらの離れ
堀川の秋月様がお待ちでございますよ」
「えっ? 秋月…。左馬介ですか?」
「はい。確か、そう申されたようで…」
「いったい何用で?」
「さあ、そこのところはお訊きしておりませんから、しかとは分かり
かねますが…」
「そうですか、どうもご面倒をおかけしたようで…」
 何事だろう? と、首を捻りながら、蟹谷は左馬介が待つ離れ
の四畳半へと急いだ。
 離れに蟹谷が入った時、左馬介は、うつらうつらと首を縦に振
っていた。
「おい! 起きろ、左馬介!」
 背を叩かれ、左馬介は驚いて正気に戻った。後方をゆったり見上げると、そこには蟹谷が立っていた。その蟹谷が、ぐるっと
回り込むように左馬介の前へと出て、どっしり座る。
「いったい何の用だ? これから薪を割る野暮用があるから、早く云ってくれ」


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