真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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「属国」首相の振る舞い?

2023年01月30日 | 国際・政治

 岸田文雄首相が2月にウクライナへの訪問を検討していると報じられました。”ゼレンスキー大統領と対面すれば、さらなる支援を求められることは必至だろう”と言われています。防衛費大幅増額のみならず、さらなる出費が予想されると思います。

 日本の富を、アメリカの戦略に沿うかたちで流出させたり、軍事費大増額に当てたりすることによって、日本社会のあちこちで、追い詰められ、困窮する人々が増えていくことは明らかであり、日本が「属国」であることを示しているように思います。
 でも、メディアは、岸田政権を批判しても、陰に陽に岸田政権に圧力をかけるアメリカを批判することはしません。私は、そこに主要メディアに潜む共通の病根があるように思います。
 アメリカは、これまでウクライナへ242億ドル(約3兆2000億円)の支援をしたといいます。
 また、ゼレンスキー大統領のアメリカ議会での演説、”世界の安全保障と民主主義への投資”を受けて、先だって(昨年12月)、バイデン政権は、さらに25億ドル(約3200億円)の追加支援を発表したことが報道されました。バイデン大統領に戦争を終らせる気がなく、ウクライナ戦争による犠牲者がさらに増えることも、何とかしようとはしていないことがわかると思います。

 でも、日本は「平和憲法」をもつ国であり、憲法に則って、ウクライナ戦争の停戦・和解に尽くすべきだと思います。それが、敗戦後「法治国家」となった日本の当然のつとめだと思います。日本は、法的には「独立国」であり、アメリカの「属国」ではないのですから、法や道義・道徳を尊重する国として行動すべきだと思います。それが、ウクライナのためだけでなく、日本のため、また、世界のために求められていると思います。
 ところが、本当は、日本はいまだにアメリカの「属国」であり、「法治国家」ではないのでしょう、アメリカの戦略に沿うかたちで動いています。日本の主要メディアは、そこに立ち入ろうとしません。「属国」であることを受け入れているように思います。

 ふり返れば、ウクライナ戦争が始まるまでは、日本はロシアや中国と共存してきたのであり、これからも共存できないわけはないと思います。そういう意味では、森元首相鈴木宗男議員の発言は、自らの体験に基づく発言であり、ロシアとの関係に関する限り、間違ってはいないと思います。
 また、”国力から見てロシアが負けることはないと考える”という主張も、その通りだと思います。ロシアは大量の核兵器を所有する国です。二人の発言を「老害」などと小馬鹿にする人がいるようですが、メディアの情報を妄信して、一層犠牲者が増えることを考慮しないのは、大きな間違いだと思います。
 人命よりも領土を重視するような発言を続けるゼレンスキー大統領や、アメリカの覇権や利益のために、戦争のさらなる拡大を躊躇しないバイデン大統領の姿勢にこそ問題があることは、その発言や諸事実を冷静に見つめれば、専門家でなくてもわかることだと思います。

 下記の文章は「検証・法治国家崩壊 砂川事件と日米秘密交渉」吉田敏浩(創元社)から抜萃したものですが、アメリカが自国の覇権や利益のために、日本の司法に介入した事実が示されています。
 また、日本に対する二発の原爆の投下を含め、第二次世界大戦後も戦争をくり返し、数々の戦争犯罪を犯してきたのはアメリカであることを見逃してはならないと思います。
 自国の覇権や利益のために、ロシアや中国と共存しようとしないのもアメリカです。アメリカは、自国の覇権や利益の維持にやっきになっているのだと思います。
 だから、岸田首相の批判で終わらせず、法治国家として、ウクライナ戦争の停戦・和解のために努力するべきだと思うのです。

 現在、日本やアメリカは、「自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific)」などという言葉を使って、中国を非難し、悪者にしようとしているように思いますが、中国が違法にインド太平洋を支配しているというのであれば、きちんと指摘して、法的に解決すべきだと思います。
 台湾に対する大量の武器の売却や供与は、「自由で開かれたインド太平洋」という言葉が、印象操作でしかないことを示しているのではないかと思います。
 私は、ウクライナに対する軍事支援や台湾に対する武器の売却や供与の背景には、アメリカの覇権の衰退があり、アメリカは座視できない状況に追い込まれているのだと思います。


 三井物産戦略研究所の経済調査室、小村智宏氏によると中国は、アメリカを抜いて工業生産額世界一となったといいます。GDP構成比や一人当たりのGDPでは、まだアメリカと差があるようですが、工業生産額実額や世界シェアで中国がすでにアメリカを抜いているという事実は、注目に値すると思います。
 そして昨年12月、中国の習近平国家主席が中東のサウジアラビアを訪問し、サルマン国王と会談して、主要な原油の調達先である中東・湾岸産油国との関係の強化に努めたと言われています。だから、習近平国家主席のこの訪問は、”サウジアラビアとアメリカとの関係にくさびを打つ狙いがある”と言われるのだと思います。サウジアラビアが、プーチン大統領や習主席を、バイデン大統領よりも手厚く出迎えたという報道もありました。サウジアラビアがアメリカと距離を置くようになり、アメリカの立場が危うくなっていることを示していると思います。
 また、中国は巨大経済圏構想「一帯一路」のもと、サウジアラビアでインフラ投資を行っているといいます。サウジアラビアは、アメリカが安全保障上の脅威だとして輸入や販売の禁止措置をとっている中国の通信機器大手「ファーウェイ」とも協力し、5Gの普及を進めている、とも聞いています。

 さらに、欧米諸国による対ロシア経済制裁が続く中、サウジアラビアのサルマン皇太子は、ロシアのプーチン大統領と電話会談を実施し、2国間関係の全ての領域で、双方の関心を満たす方法で強化していくことで合意したという報道も目にしました。アメリカに追随していたサウジアラビアのこの変化は、見逃すことができないことだと思います。

 また、昨年イランとアルゼンチンが、BRICS(Brazil、Russia、India、China、South Africa、5カ国)への加盟を申請したということも、これからのアメリカが、今まで通りにはいかないことを示しているのではないかと思います。
 中国は、ドルの代わりに人民元などBRICSの諸通貨を決済に使う、既存の米国中心の経済体制から全く独立した国際経済システムを作ろうとしているともいわれています。
 そうした動きと関連すると思いますが、先日朝日新聞は、”南米共通通貨「創設めざす」”と題し、南米最大の経済大国ブラジルと2位のアルゼンチンが「共通通貨」の創設に向け協議を始めることで合意したという記事を掲載しました。アメリカ離れのあらわれのように思います。
 
 だから、ウクライナ戦争の背景に、また、アメリカの対中国政策の背景に、アメリカの覇権の衰退があることを見逃してはならないと思います。アメリカは、戦争をしてでも、ロシアと中国を孤立化、弱体化しなければ、莫大な資金によって支えられている社会が崩壊しかねない状況に追い込まれてきているのだろうと思います。

 イングリッシュ・プラウダは、ロシアのドミートリー・メドヴェージェフ安全保障会議副議長が、ロシアの武器は枯渇しないと語ったことを下記のようにつたえています。 
 Russia has sufficient stocks of weapons and means of destruction, Dmitry Medvedev, Deputy Chairman of Russia's Security Council said during a meeting of the working group of the military-industrial complex. The participants of the meeting discussed control measures over the production of most popular types of weapons, military and special equipment, Interfax reports.
 だから、”ロシア軍の弾薬や高精度ミサイルはほぼ枯渇”というような、欧米側の情報も、妄信してはいけないと思います。

 下記は、「検証・法治国家崩壊 砂川事件と日米秘密交渉」吉田敏浩(創元社)から、”「司法の独立どこへ」、真実を知った砂川事件元被告の怒り”の一部を抜萃しました。
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               「司法の独立どこへ」、真実を知った砂川事件元被告の怒り

 2008年4月10日に新原昭治がアメリカ国立公文書館で、マッカーサー大使の砂川裁判干渉に関する一連の文書を発見したのち、その事実は日本の新聞各紙で報じられました。たとえば同年4月30日の「毎日新聞」には「米大使、最高裁長官と密談」「『司法の独立、どこへ』元被告、怒りあらわ」の見出しで記事がのり、砂川事件の元被告で、1957年事件当時、明治大学の学生で抗議デモに参加していた土屋源太郎氏が、「司法の独立はどうなるのか。外国の大使に長官がなぜ審理見通しを語らなければならないのか。けしからん話だ」とコメントをよせています。
 その土屋氏(79歳、静岡市在住)に後日、筆者も話を聞きました。1959年3月30日、東京地裁での「伊達判決」の日、土屋氏は「おそらく有罪判決がでるだろう」と思っていたところ、「被告人は無罪」という予想外の判決が言いわたされ、うれしいというより以前に大変驚いたといいます。そして「米軍駐留は違憲」という判断がくだされたことを知り、「自分たちの主張そのものじゃないか」と、思わず胸が熱くなるのを覚えたそうです。傍聴席で一瞬ざわめきが起こったあと、法廷は静まりかえり、判決文を淡々と読みあげる伊達秋雄裁判長の顔を、誰もが食い入るように見つめていたと、土屋氏は記憶しています。
 しかし、検察が東京高裁へ控訴するという通常の手続きではなく、いきなり最高裁に跳躍上告したことは予想外だったと同時に、直観的に「何かおかしい。何か裏があるのではないか」と思ったそうです。
 最高裁では、弁護人の人数が制限されそうになったり、異例のスピード審理がおこなわれたりしたので、「跳躍上告をして、やっぱり安保改定のために『伊達判決』を一日も早く、くつがえそうとしているのだろう」という印象を抱いたといいます。だから、59年12月16日の最高裁判決の日は、「不当判決が出るだろう」と予想していたそうです。案の定、判決文を事務的に読みあげる田中耕太郎長官の口から、「原判決を破棄する」、「米軍駐留は合憲」の逆転判決が言いわたされたのでした。
 土屋氏は、アメリカの国立公文書館で砂川裁判干渉に関する文書が発見された、という事実を「毎日新聞」の記者から知らされ、コメントを求められたとき、「やっぱりアメリカからの裏工作があったのか」と合点がいくと同時に、「しかし、これほどまで露骨に干渉していたのか」と驚いたそうです。そして、「憲法が保障する三権分立が侵害されたことになる」と怒りがわきあがるとともに、「このままにしてはおけない。真相を徹底的に明らかにしなければならない」と心に決めたといいます。

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飼い慣らされたか、日本のメディア

2023年01月26日 | 国際・政治

 ベトナム戦争当時とは異なり、日本の主要メディアが、すっかりアメリカに飼い慣らされた報道をするようになったと思います。 

 1月20日、「いま聞く インタビュー」という欄で、朝日新聞の国末憲人記者が早稲田大学の古谷修一教授にインタビューした内容が掲載されましたが、そのなかに、
ロシアがウクライナに侵攻した時、これで時代が変わると考えた人は少なくなかった。しかし、そこで想定されたのは、軍事大国が力にモノを言わせて好き勝手に振舞う秩序なき時代の到来だった。ウクライナの反撃によってその恐れは遠のいたが、古谷さんの考える新時代は、そのような恐怖との時代とは逆だ。人権を中心に据えた希望の抱ける時代である。
 という文章がありました。
 現在、世界を相手にできるほどの圧倒的な軍事力を持ち、かつ世界最大の経済大国であるアメリカを抜きに、国際社会を論じ、ウクライナ戦争を語ることはできないと思います。にもかかわらず、国末憲人氏は、ウクライナ戦争の背景やウクライナ戦争に関わる国際情勢を語ることなく、上記のような論述をされています。きわめて観念的で、一面的な認識だと思いました。

 また、1月23日には、論説委員、駒木明義氏の「ウクライナ侵攻 行方は」と題する長文が掲載されましたが、副題は、”キーウ攻略 なお固執するプーチン氏”となっていました。そのなかに、下記のようにありました。
ウクライナはロシアの属国としてしか存在を許されないという信念を、プーチン氏は開戦後、繰り返し表明している。プーチン氏が欲しているのは、あくまでウクライナ全体なのだ。
 ではウクライナの頑強な抵抗をどう見て得いるのか。昨年末に開かれた国防省の幹部会では、次のように述べた。
「(ソ連崩壊後)我々の地政学的な競争相手は、旧ソ連地域、中でもウクライナの洗脳に着手した。」
「ウクライナ国民の洗脳は数十年わたって続いてきた」
 ウクライナの人びとが欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)に加盟したいと考えるのは、欧米に洗脳された結果だというのだ。
 開戦を決断した時点でプーチン氏は、ロシア軍が多くのウクライナ人から歓迎されると本気で信じていたようだ。今も自身の過ちを直視できず、ウクライナ人の洗脳を解くための正義の戦いという荒唐無稽な物語に、すがっているように思われる。
 実際には今回の戦争では身の毛もよだつような人道犯罪が繰り返されており、ウクライナの人たちの対ロシア感情は決定的に悪化している。

 アメリカの関わりを抜きにウクライナ戦争を語ろうとするから、このようにすべて独裁者、プーチンの野望に基づく、残酷な戦争であるかのような論述をすることになるのだと思います。
 ”ウクライナの人々が欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)に加盟したいと考えるのは、欧米に洗脳された結果だ。”というプーチン大統領の主張は、”唐無稽な物語”でしょうか。
 私は、駒木明義氏に問い質したい気がします。
 それでは、オバマ政権下で国務次官補を務めてウクライナ問題を担当し(2020年にバイデン政権が誕生すると国務次官に復帰)、ウクライナやロシアから内政干渉を批判されていたビクトリア・ヌーランド(Victoria Nuland)が、「米国は、ソ連崩壊時からウクライナの民主主義支援のため50億ドルを投資してきた。」と発言している事実についてはどのように考えるのかと。50億ドルものお金は、いったい何に使われたのかと。

 私は、メディアのこうした報道を受け入れ難く、世界をリードしてきたアメリカという国の政治や諸政策の権力的で非民主主義的な側面を、いろいろな人の著書をもとに考えるようにしています。

 今回は「密約 日米地位協定と米兵犯罪」吉田敏浩(毎日新聞社)から、「第一章 密約の闇」を抜萃しました。
 私は、一日も早く不平等な日米地位協定を改め、「対等な日米関係」を確立して、中国やロシアと完全に自由な交流や貿易を進めて、日本の発展に結びつけてほしいと思います。
 アメリカの戦略に基づいて、中ロを敵視する姿勢を改め、米軍のやりたい放題を止めることができれば、経済的にも発展の可能性が広がり、北邦領土の問題も良い方向に進めることがきるのではないかと思います。
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                     第一章 密約の闇

 日米安保改定50周年の今年は、民主党中心の連立政権が唱えるように「対等な日米関係」へと転換できるかどうかの岐路にあたっている。沖縄の普天間基地移設問題が日米関係の争点となり、日米関係をめぐる論議も盛んだ

 安保改定50周年、密約の闇をあばく
 外務省では、政権交代直後の2009年9月16日、岡田克也外相が「外交は国民の信頼なくして成り立たない。しかるに、いわゆる『密約』の問題は、外交に対する国民の不信感を高めている。今回の政権交代を機に、『密約』をめぐる過去の事実を徹底的に明らかにし、国民の理解と信頼に基づく外交を実現する必要がある」として「調査命令」を発し、日米密約の調査がされてきた。その対象なったのは、四つの密約である。
 ①核兵器を積んだ米軍艦船の日本寄港や領海通過、同様の米軍機の一時飛来が、日米の事前協議なしにできるとする密約
 ②朝鮮半島有事の際は、日米の事前協議なしに、米軍が在日米軍基地を自由に使用し出撃できるとする密約。
 ③沖縄返還後も、有事の際は米軍が沖縄に核兵器を再び持ち込めるとする密約
 ④沖縄返還時の米国が負担すべき土地の原状回復補償費を日本が肩代わりする密約
 ①と②は1960年の安保改定時に、③と④は72年の沖縄返還時に結ばれた。何れも米国側に有利な裏の取り決めで、日本政府の対米従属の結果である。政府はその従属的姿勢を取りつくろうために、密約の存在をひた隠しにしてきた。
 しかし、今回の四密約の調査により、歴代の自民党政権と外務省が「存在しない」と言ってきた核持ち込みの密約関連文書などが発見された。国家の嘘が白日のもとにさらされた。国家が密約を結び、情報隠蔽をする黒い構造にひび割れが入った。
 しかし、政府がまだ事実解明に踏み切っていない密約がある。それは日米地位協定(巻末資料2)に関する密約群である。日米地位協定とは日米安保条約(巻末資料1)の付属協定で、在日米軍と米軍・軍属・その家族の権利や義務など法的地位を定めている。1960年の安保改定以前は行政協定と呼ばれた。
 全部で28条あり、施設・区域(基地や演習場など)の提供方式、米軍の基地使用権、米軍部隊の出入国や国内移動の権利、米軍による日本の公共役務の利用優先権、関税や課税などの免除、物資や労務の調達方式、駐留経費の負担方式、刑事裁判権、民事裁判権などに関する規定がある。
 日本が提供する施設・区域が限定されておらず、日米合同委員会の合意で決められる。
 「全土基地方式」とも呼ばれ、米軍に有利である。米軍は出入国自由、基地の運営・管理などに必要な全ての措置を執れる。基地返還の際の原状回復や補償義務を負わない、公務中の事件・事故の第一次裁判権保持など、多くの特権を認められている。米軍側に有利な取り決めが多い。

 不平等な日米地位協定
 たとえば最近では、2009年11月7日に沖縄県読谷村で、米兵が乗用車を運転中、66歳の日本人男性をはねて死亡させた轢き逃げ事件でも、犯人米兵の身柄引き渡しに米軍側が応ぜず、日本側による起訴・身柄引き渡し・逮捕まで2ヶ月もかかった。犯人米兵は読谷村にある米陸軍トリイ通信基地所属の二等軍曹で、男性をはねた後、そのまま基地にもどった。男性は道路沿いで血を流し死亡しているところを発見された。死因は頸椎骨折などだった。事故後、米兵が証拠隠滅のためであろう、乗用車を自動車修理工場に持ち込み、その車に男性の髪の毛や血がついていたことから、沖縄県警の捜査で米兵が特定された。
 県警の知らせで米軍側は犯人を基地内で監視下に置いた。米兵は県警による任意の事情聴取に3日間応じただけで、後は拒否した。地位協定では、被疑者の身柄が米軍側の手中にあるときは、起訴までは米軍側が拘束すると定めている。そのため、捜査が難航し、起訴までに時間がかかった。起訴前の速やかな身柄引き渡しを求める村民大会や県議会決議もなされたが、米軍は起訴前の引き渡しに応じなかった。
 1995年の沖縄での米兵による少女暴行事件を契機に、地位協定の改定を求める世論の高まりを受け、日米両政府は同年10月、米兵の身柄引き渡しに関する「運用の改善」に合意した。それは、「殺人または強姦という凶悪犯罪」に限って、日本側が起訴前の身柄引き渡しを要請すれば、米国側は「好意的考慮を払う」というものだった。
 しかし、あくまでも「好意的配慮を払う」ということであり、起訴前の身柄引き渡しの実現は極めて難しい。
 このように、罪を犯しても基地に逃げ込めば、日本側に身柄を拘束されないという米兵らの意識が、犯罪の温床になっている。米軍優位の不平等な地位協定は、米兵犯罪取り締まりに対する壁ともなっている。
 2004年8月に普天間基地の米海兵隊ヘリコプターが沖縄国際大学に墜落した事故でも、米軍が一方的に現場を封鎖し、日本側関係者を排除して機体を回収するなど、地位協定は米軍に特権的地位を与えてきた。
 その協定の背後に、米軍優位を絶対化する密約群が隠されているのである。
 日米安保体制のもと、戦後日本の米国に対する従属的な姿勢を象徴するのが、不平等な日米地位協定だ。現政権は連立政権の政策合意で「日米地位協定の改定を提起する」と掲げている。
 また、「情報公開の推進」も重要な政策として打ち出している。たとえば仙谷由人行政刷新相(現国家戦略相)も、「国民が見えない秘密の約束や協定があれば、それを見てもらう作業も進めたい」と述べ、行政の情報公開に強い意欲を示した(『朝日新聞』2009年10月10日)。
 政権交代と安保改定50周年を機に、密約を生む国家の秘密主義を正し、「国民の理解と信頼に基づく外交」を実現し、不平等な日米関係を根底から考え直すためにも、地位協定の密約の策闇に解明の光を当てるべき時がきている。 
   

 

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米台湾関係と日米合同委員会

2023年01月23日 | 国際・政治

  台湾の対中国大陸政策を担う「大陸委員会」の昨年10月の世論調査では、中台関係の現状維持を望む人が、86.3%にのぼるといいます。
 そんななか蔡英文総統の後を受けて、頼清徳副総統(63歳)が、台湾与党新党首に就くことが決まったとの報道がありました。
 でも、彼が、中国と距離を置く人であり、行政院長時代に「台湾独立の仕事人」と称したことがあるという事実が、私はとても気になります。
 蔡英文総統の支持率が約15%まで落ち込んだというのに、その原因を頼清徳新党首がきちんと踏まえているのか疑問に思うのです。

  2020年7月、アメリカのトランプ大統領は、テキサス州ヒューストンの中国総領事館に対し、経済スパイ活動に関わったとして突然閉鎖を命じましたが、この頃から米中関係は急速に悪化していったように思います。そして、アメリカは台湾の軍事力強化に乗り出したように思います。

 日本経済新聞は、2020年10月 ”米、台湾にまた武器売却 総額2500億円 中国は猛反発 米中衝突”と題して、つぎのような記事を掲載しました。

【台北=中村裕】米政府は26日、台湾への対艦ミサイルシステムなど総額23億7000万ドル(約2500億円)の武器売却を承認し、議会に通知した。21日には空対地ミサイル(AGM)など総額18億ドル(約1900億円)強の武器売却を承認したばかり。米国から台湾への武器売却が加速している。
 台湾は米国からの武器購入を増やし、軍事力の強化を急いでいる(7月、台中市)=ロイター
 今回売却を決めたのは、「ハープーン」と呼ばれる米ボーイング製の対艦ミサイル最大400発のほか、ハープーンを搭載した沿岸防衛システム100基など。
 21日にはボーイング製の空対地ミサイル「SLAM-ER」135発や、米ロッキード・マーチン製のロケット砲システム「HIMARS」など3種類の兵器システムの売却を承認したばかりだ。

 オバマ政権時代は中国への配慮を優先し、台湾への武器売却を控えた。オバマ政権2期目の2013年からの4年間で承認したのはわずか1回にとどまる。一方、トランプ氏が大統領に就任してから武器売却が増えた。約4年間の在任中に台湾への武器売却を承認したのは今回で9回目だ。
 総額は約174億ドル(約1兆8000億円)にのぼる。台湾の年間の国防予算の約3500億台湾ドル(約1兆2800億円)を大きく上回る規模だ。米中対立が過熱した19年から動きが速まった。米国が台湾に武器売却を承認した9回のうち、7回は19年以降に決めた案件となる。
 19年7月には「M1A2エイブラムス戦車」108両や、地対空ミサイルなど総額22億ドル(約2300億円)の売却を承認した。さらに同年8月には、F16の新型66機を総額2472億台湾ドル(約8900億円)で売却することを決め、大型案件を矢継ぎ早に承認している。

台湾の総統府は27日、「米政府が先週、台湾に3種類の武器売却を決めたのに続き、再び重要な防衛システムを提供することを決めたことに深く感謝する」とのコメントを発表した。
 台湾国防部のシンクタンクである国防安全研究院の蘇紫雲所長は、米国が今回決めた武器売却の意義について「台湾から先制攻撃はしないが、台湾沿岸から250キロメートルをミサイルで射程圏に入れた。対岸の中国・福建省も十分、台湾の陸地から攻撃できる射程内に入った」と指摘した。 
 そのうえで「中国軍はまだ台湾を十分に攻撃する能力は持たない。だが、軍事能力を引き上げており、台湾軍も5~10年前倒しで準備を進める必要がある」と語った。
 米台の急接近で、中国はいら立ちを募らせ、対抗措置に出ている。中国は26日、台湾に売却予定の武器を製造する米ロッキード・マーチンやボーイングの関連会社、レイセオン・テクノロジーズなど軍事関連企業に制裁を科すと発表した。
 軍事的な圧力も強めている。中国軍機は9月に、中国大陸と台湾を隔てる台湾海峡の「中間線」を越え、台湾側への侵入を繰り返した。さらに台湾南西部の防空識別圏にも10月に入ってから、計17日間(27日時点)にわたって侵入し、威嚇行為を繰り返している。
 中国外務省の汪文斌副報道局長は27日の記者会見で「米国は中国の内政に干渉し、中国の主権と安全に重大な損害を与えている。(台湾への武器輸出に)断固反対する」とコメントした。

 読み過ごすことのできない記事ですが、台湾に対するアメリカの武器売却は、その後、ますます激しさを増しているように思います。

 アメリカは、2022年9月2日、台湾に対し11億ドル(約1500億円)相当の武器を売却すると発表し、さらに、10/20(木) には、”米、台湾と武器開発検討”との報道もありました。

 また、バイデン政権は、2022/12/7、台湾に585億円相当の武器売却し、7度目であると伝えられています。
 当然中国は、激しく反発しています。
 だから、より一層、頼清徳氏の台湾与党新党首就任が気になるのです。
 アメリカは、頼清徳氏と手を結んで、中国の孤立化・弱体化のきっかけを掴もうとしているのではないかと想像してしまいます。

 下記は、「対米従属の構造」古関彰一(みずず書房)から、「日米合同委員会」に関する部分を抜萃しましたが、アメリカが、日本の主権を蔑ろにしていることを踏まえると、台湾に対する働き掛けが、アメリカの覇権や利益のためであって、決して台湾の人たちのためではないだろうということが考えられるからです。
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                     第一章 指揮権密約

   第九節 日米合同委員会の誕生

 合同委員会の設置
 日米行政協定は、先の「共同措置」の後に、「合同委員会」を設置し、その任務を次のように定めている。
 第26条第1項 この協定の実施に関して相互の協議を必要とするすべての事項に関する日本国と合衆国との間の協議機関として、合同委員会を設置する。合同委員会は、特に、合衆国が安全保障条約第一条に掲げる目的の遂行に当って使用するため必要とされる日本国内の施設又は区域を決定する協議機関として、任務を行う。

 同条文は、「施設又は区域」という慣れない言葉を規定している。外国軍が長期に駐留するということは、軍人自身はもとより自身の家族を同伴し、それに伴う施設や労働者が必要になる。具体的には、単身並びに家族用の住宅、子どもの学校やそこで教える教員、家族が通う教会や牧師、スーパーマーケット、ゴルフ場等々である。つまり、外国軍が駐留し、生活するためには、軍事基地用地や軍人ばかりでなく、家族、軍属(米国籍の労働者)が必要であり、そのために施設は、軍事にかかわる滑走路やターミナル、格納庫、演習場ばかりでなく、民生にかかわる多様な「施設又は区域」が必要になる。
 つまり外国軍が駐留するということは、自国軍の駐留と違って、膨大な施設及び区域と経費、そればかりか軍人・軍属・家族の「安全」、さらに米軍の場合は「特権」を必要とした。その為の機関として設置されたのが「日米合同委員会」である。合同委員会は行政協定から地位協定に至る50年間に、なんと1600回以上開かれているという(吉田敏浩『「日米合同委員会」の研究』創元社、2016年、29頁)。

 合同委員会の構成
 合同委員会の日本側代表は外務省北米局長、米国側代表は在日米軍司令部副司令官が担当する。そのもとに「補助機関として各種分科委員会や各種部会などが下部組織として置かれて」おり、「2016年10月の時点で分科委員会が16、特別分科委員会が4、委員会が1、小委員会が1,特別専門委員会
1、部会が10、特別作業部会が1、特別作業班が1」という(吉田、前掲書)22頁)。17ある分科委員会などのうち、1992年当時、いくつかあった委員会名と代表名を挙げるとつぎのごとくである。左記の「代表」の上は日本側、下は米国側である。

 気象分科委員会(代表 気象庁長官、在日米海軍司令部気象課部員)
 刑事裁判管轄権分科委員会(代表、法務省刑事局総務課長、在日米軍司令部法務官)
 事故分科委員会(代表、防衛施設庁次長、在日米軍司令部第三部部長)
 施設特別委員会(代表、防衛施設庁長官、在日米軍司令部第四部部長)
 出入国分科委員会(代表、法務大臣官房審議官、在日米軍司令部第五部部長)
 環境分科委員会(代表、環境庁水質保全局企画課長、在日米軍司令部第四部副部長)
                            (吉田、前掲書、25頁)
 日本側は外務省を中心に各省庁の長官や部課長であるが、米国側は部長が多い。
 しかも米国側は全員が在日米軍所属であり、外交官(国務省)は一人としていないことに気づく。

 主権なき安保特別法
 対米従属の組織としての「日米合同委員会」とともに、安保条約・行政協定(地位協定)の法制度を擁護する一連の特別法がある。これもまた60年以上続く「年代物」であるが、そのいくつかを紹介してみたい。
  米軍基地のフェンスによく掲げられている基地内に入ることへの警告文は、この刑事特別法(日本本国とアメリカ合衆国との間の安全保障会議第三条に伴う刑事特別法)によっている。米軍基地内への侵入、米軍の機密の漏洩等に対し、日本の刑法の刑罰よりも特別に重く罰し、米軍、米軍基地を擁護することを目的としている。
 民事特別法(日本本国とアメリカ合衆国との間の安全保障会議第三条に伴う刑民事別法)は、米軍
の職務上の不法行為から生ずる損害の賠償責任を米軍が負うのでなく、日本政府が負うことを定めたもの。国家賠償法は、公務員が国民に損害を与えたときは、国または地方自治体が損害賠償を負うとしているが、この特別法により米軍の軍人などは日本の国家公務員なみに扱い、国が負うことにした。
 国有財産管理法(日本本国とアメリカ合衆国との間の安全保障会議第三条に伴う国有財産管理法)も、米軍が基地などを使用する際には国有地の特権的使用を定めている。国有財産法は、普通財産を「地方公共団体、水害予防組合及び土地改良区に無償で貸し付けることができる)(同法ニ十ニ条)と定めている。特別法は、この二十二条を根拠に「国は、協定を実施するための国有財産を合衆国の軍隊の用に供する必要があるときは無償で、その用に供する間、合衆国に対して当該財産の使用を許すことができる」としている。しかし、国有財産法ニ十二条が定める無償の対象としては、公園、ため池、墓地などであり、いわゆる公共の施設を前提としており、およそ軍事施設が「特別」と類推できるものではない。
 さらに、特別法は三条において「国は、当該(軍事施設)財産の返還にあたり合衆国に対し、その原状回復又はそれに代わる補償の請求を行わないものとする」と定め、米軍が基地返還に際して日本側が原状回復請求を行わないことを定めている。米軍基地には、滑走路、格納庫、貯蔵庫など堅牢堅固な施設があり、それをそのまま置去りにして、「飛ぶ鳥跡を濁す」規定である。
 土地等使用特別措置法(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基づく行政協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法)は、土地収用法の特別法であり、いまの沖縄で有効に実施され、土地所有者の怒りをかっている法律である。土地収用法とは、私有地を公共目的で国家権力が使用・収用するものである。したがって土地を有する個々人の私権を制限するものであり、一般には「強制収容」と言われるように、私権を守るためには限定的でなくてはならない。
 そこで、土地収用法は土地収用できる対象を「公共の利益となる事業」に限定し、たとえば「一般自動車道、堤防、貯水池、鉄道」といったごとく、全体で48を限定列挙している。(同法三条)。そこには「公共の利益」に該当しない軍事基地用地は含まれていない。したがって、自衛隊基地は収容できる対象にはなっていない。
 ところが土地等使用特別措置法は、米軍基地のみの私権の「強制使用」を可能にしている。これこそ、沖縄で大きな基地問題となっている法律である。これも、安保条約・地位協定(行政協)に基づく法律なのである。

 日米異なる戦後認識からの出発
 密約にせざるを得なかった理由はさまざまにあったのである。アメリカから見れば、日本再軍備とは、なにも日本のためにするものではなく、冷戦を遂行するにあたり、米国を含む国際社会の必要性の産物であった。「大日本帝国軍の再興」など夢にも考えていなかった。
 しかも、日本の侵略を受けた太平洋諸国の要請で、米国の介入しない日本再軍備はありえなかったのである。再軍備をする以上は米国への従属こそ、米国ばかりなく、米国のアジア太平洋支配にとって必須の要件であった。
 これに反して、日本政府、あるいは支配層の再軍備や憲法改正は、「大日本帝国の再興」意識しかなかった。したがって、「指揮権」という軍隊の本質にかかわる問題は鋭く対立することとなり、結果として「密約」を生んだ。その根源には日米ともに「憲法」、すなわち「戦争の放棄」があったことに気づくのである。
 そうしたなかで、昭和天皇の選択はじつにユニークであり、支配層のなかで傑出して世界の動向に敏感であったとみることができる。大元帥から平和主義者へ、そして日米安保礼賛へと変遷を続けた。「沖縄メッセージ」にしろ、米国が好まなかったであろう沖縄訪問を見合わせたことなど、日本の政治支配層以上に一歩先を歩んで対米従属の先鞭をつけてきたといえよう。日本の政治支配層の憲法改正には、帝国軍の再生とともに帝国軍による「日本精神の再興」という「ロマン」があり、どこか情緒的で、それは70年前後の今日でも持続しているが、昭和天皇にはそれはなかった。実に「現実主義者」であった。
 もちろん、再軍備によってつくられた軍隊を、すべての政治支配層が「帝国軍の再興」と見ていたわけではない。戦前からの帝国陸軍の軍人で、陸上自衛隊で陸上幕僚長を務め、1962年に退官した杉田一次は、第二次大戦下の欧米先進国では「ある国の最高司令官のもとにほかの国の軍隊を入れて指揮」してきたことを紹介した後、日本の自衛隊の指揮権をつぎのように述べている。

 今のような戦史的な観察からいたしますと、日本が、やはり集団防衛というようなことを考えますと、日本の防衛もこの範疇から例外であるということはできないと思います。ところがここに独立国としての主権の問題、また日本の国民感情が加味されて、非常に困難な政治問題となることが予測せられるところであって、これには平素から、その準備研究をするとともに、そういうことを国民に認識させておく必要がある。(杉田一次「陸上自衛隊の現状と日本の防衛」日本国際問題研究所・鹿島研究所編『日本の安全保障』鹿島研究所出版会、1964年 464頁)

  軍隊的指揮権のあり方、それはまさに国のあり方そのものであり、その在り方がその後、どのような様相を示しているのか、これこそ日本の安全保障と憲法が抱える基本問題であるが、それは後論で論ずることにしたい。
 米国政府にとって指揮権は、対日政策の「画竜点睛」であった。日本の対外主権国家、なかでも米国との対立関係に立つ対外主権は認めず、それを保証する行政協定で行政的、法的規制を定め、その頂点に「統一指揮権」があったと見ることができる。
 一方、日本政府は、行政協定交渉において「ギブ・アアンド・ギブ」(米国に与えるばかり=先の西村熊雄の言葉)であったため、「統一指揮権」を認めてしまえば、米国への対外主権を持たない従属国家そのものになると考えたに違いない。
 結果的には、統一指揮権は「密約」となったが、その後の「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」を通じて「指揮・調整」となって、今日まで生き続けている。行政協定が安保条約の改正にともなって地位協定となっても、沖縄県などの強い改正要求にもかかわらず、一条どころか一言も変わることなく「不磨の大典」であり続けていることは、「従属国家」が戦後日本の「不磨の大典」である証左であろう。

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「指揮権密約」と対米従属

2023年01月20日 | 国際・政治

 外交文書の公開を受け、朝日新聞はこのところ”「若泉文書」をたどる”と題して、沖縄返還にかかわる日米「密約」の問題を続けて掲載しています。その[]では、沖縄返還後の、緊急時に沖縄に核兵器を持ち込む密約のみならず、「糸と縄」と呼ばれた日本の「繊維輸出規制に関わる密約」もあったことが明らかにされています。

 下記の文章は、「対米従属の構造」古関彰一(みずず書房)から抜萃しましたが、同書には、「指揮権密約」、「安保改正での核密約」そして、今回朝日新聞が取り上げている、「沖縄返還と核密約」が取り上げられています。日本という国のあり方にかかわる重要な問題が、民主的な話し合いではなく、「密約」で決定されているということがわかります。

 アメリカという国が、大戦後、手を結んだ朝鮮の「李承晩」、インドネシアの「スハルト」、フィリピンの「マルコス」、ベトナムの「ゴ ・ディン・ジエム」は、いずれも「独裁者」とされている人物です。
 そうしたアジア諸国の独裁者と手を結んだアメリカは、日本では、戦時、東条内閣で商工大臣を務めた岸信介と手を結んでいます。
 だから私は、アメリカという国が、以前のような、直接権力を行使する植民地支配ではなく、相手国の権力者と手を結び、相手国の合意を取り付けて支配するという、新しいかたちの「植民地支配」をするようになったのだと思います。
 「密約」は、そのことを示しているのだと思います。アメリカが他国の独裁者と手を結び、民主的な組織やその代表者と手を結んでこなかったのは、民主的な相手では、「密約」を交わすことが難しく、思うように影響力を行使できないからだと思います。
 アメリカは、自国の政治や外交や諸政策が、民主主義に基づくものであることを装うために、直接権力を行使せず、相手国の独裁者と手を結び、搾取や収奪で得られた富を独裁者と共有するという、新しいかたちの「植民地支配」をしているのだと思うのです。

 そうしたことを踏まえてウクライナ戦争をみれば、Tucker Carlson Tonight の報道(https://twitter.com/i/status/1613110091104022531)が伝えている、
ゼレンスキー大統領が野党の活動を禁止し、反対派を追放し、「統一情報政策」と称してメディアを掌握し、主要な政敵を逮捕させて、その資産を押収させ、事実上一党独裁国家にしている
、というようなことも頷けるのです。
 何より、事前にアメリカと通じていなければ、ゼレンスキー大統領が、大国ロシアを相手に戦争を始めることなどできるわけはなかったと思います。また、バイデン大統領がロシアの「ウクライナ侵攻」をくりかえし予言していたのに、それを止めるために動かなかったことも、ゼレンスキー大統領が、事前にアメリカの意図する、ヨーロッパに対するロシアの影響力拡大を阻止するための戦争に合意していたからなのではないかと思います。

 日本では、先日、岸田首相が2023年~27年度の5年間の防衛費について、総額43兆円とするように浜田防衛相と鈴木財務相に指示したという報道がありましたが、私は、敵基地攻撃能力の保有のみならず、防衛費の大幅な増額を、何の話し合いもせず、首相が防衛相や財務相に指示したという手続きにも驚きました。民主主義の国家では考えられない独裁的な決定だと思います。
 その決定が、アメリカ、バイデン政権からの何らかの要請に基づくものか、あるいは、岸田首相のバイデン政権に対する忖度かはわかりませんが、中国の影響力拡大を阻止し、自国の覇権と利益を維持しようとする、アメリカの戦略に基づくものであることは間違いないだろう、と私は思います。
 下記の、「指揮権密約」は、現在も有効であり、日本有事の際は、自衛隊は、米軍司令官の指揮に従うことになるのだと思います。だから、万が一戦争が始まれば、日本が戦線の拡大を避けたいと思っても、自衛隊はそれを決定することはできないということだと思います。
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                     第一章 指揮権密約

 第一節 二度にわたる指揮権密約
 1950年6月にはじまる朝鮮戦争は、朝鮮半島はもとより、隣国日本にも重大な政治的変更をもたらすことになった。時は連合国の占領下にあり、しかも出来たばかりの憲法は「戦争の放棄」と「軍備不保持」を掲げていた。
 もちろん、米国政府は朝鮮戦争が始まる前の1948年初めから、すでに「民主化から再軍備へ」と対日占領政策の転換を始めていた。しかし、米国政府が日本政府に正式に「密約」を迫ったのは、他の連合国との関係もあり、日本が独立し、講和条約が発効した直後のことであった。この密約にいたる以前にも、占領期から「軍隊(自衛隊)創設に先立ち米国の指揮権掌握は必須」という構想があったが、本章ではこの点は第三節に譲って、まず「密約」の内容について紹介したい。

 クラーク米極東司令官から吉田首相へ
 自衛隊は、講和条約発効後に、警察予備隊から保安隊を経て1954年に設立された。その2年前に保安隊が生まれるが、その直後から、米陸軍は日本の再軍備を前提に日本の「新しい軍隊」が設置された際には、その指揮権を米軍が持つ必要があると考えていた。必ずしもよく知られた事実ではないが、米国政府は、軍隊を創設する以上、軍隊の規模以上に「その軍隊を誰が指揮するか」ということこそ譲ることのできない軍の性格の基本にかかわる問題である、と考えていた。
 日本再軍備にあたって軍隊指揮権を米軍が掌握するというこの問題は、米軍が日本再軍備を提起するにあたって、ただ日本再軍備のためのみならず、アジアの安全保障政策の一環としてその、必要性が米陸軍内部を中心に構想されたと見られる。
 こうした背景を前提に、指揮権密約の内容そのものをまず紹介することにしたい。
 米極東軍司令官クラーク(Mark W.Clark Commander in Chief of USForce)は、1952年7月26日、米統合参謀本部(Joint Chief of Staff:JCS)につぎのような電文メッセージを送っている。

 私は7月23日夕刻、吉田(茂)氏(首相)、岡崎(勝男)氏(外相)、マーフィー(Robert D.Murphy)駐日大使とともに、自邸で夕食をともにしたあと会談した。私はわが国政府が有事の際の軍隊(military force)の投入にあたり、指揮関係(command relationship)に関して、日本政府との間に明確な了解が存在することが不可欠であると考えている理由を(吉田、岡崎両氏に)ある程度詳細に示した。
 吉田氏は即座に有事の際に単一の司令官(a single comr)は不可欠であり、現状のもとでは、その司令官は合衆国によって任命されるべきである、ということに同意した。氏は続けて、この同意は日本国民に与える政治的衝撃を考えると、当分の間、秘密にされるべきである、と表明し、マーフィーと私はこの意見に同意した。(Message No.C-52588,283.21JAPAN(3-13-45)Sec.30. 古関彰一「日米会談で甦る30年前の密約㊤」「朝日ジャーナル」1981年5月22日、23頁。前記の「司令官」commanderの英文がcomrとあるが、電文のための縮小である)

 アリソン米駐日大使から吉田首相へ
 さらにその2年後の1954年、自衛隊設立の直前にも密約が行われている。ジョン・アリソン駐日大使(Ambassador to Japan,John M.Allison)が、合衆国下院外交委員会(U.S.House of Representatives Committee on Foreign Afairs)の聴聞会で行った証言が同委員会の議事録に記録されている。
 それによると、アリソンは米極東軍司令官のジョン・ハル(Gen.John Hull,Commander of U.S.Forces in the Far East)を伴って2月8日、吉田首相と会見したという。そこでの内容をアリソンはつぎのように証言している。

 われわれがかかえている問題のひとつは、米軍との共同計画にたいして、(日本政府から)無責任な口約束は数多くなされてきたが、いままでなんらの実際の計画はなされておらず、いま始まったところである、ということです。
 一週間前の先週の月曜日の夜、ジョン・ハルと私が吉田首相に離日のあいさつをした時、(吉田)氏がこの問題をとりあげ、共同計画担当官は アメリカ人の担当官とともに作業を開始することになろう、とわれわれに確証をあたえました。そこでわれわれは、日本軍ならびに在日米軍の使用を含む有事の際には、これに先立ってなんらかの計画をもち、なしうることをあらかじめ知っていることになりましょう。
 またこれは、日本国内の政治状況により、いかなる方法においても公表できないことでありますが、吉田首相はハル将軍と私にたいし、在日米軍使用を含む有事の際に、最高司令官はアメリカ軍人がなるであろうということはまったく問題ない、との個人的な保証を与えました。しかしながら政治的理由により、これが日本において公然たる声明となった場合、現時点ではうまくないことは明白であります。ハル将軍はこの点に関し吉田首相から与えられた保証にきわめて満足し、将軍はなんら公然たる声明もしくは文書を要求しない、と述べました。
(U.S.HOUSE OF Representatives,Committee on Foreign Affairs,Selected Executive Session H
earing of the Committee,1951-56 Vol.XVⅡ、US policy in the the Far East,Part1,1980,p,79 
 ,古関彰一「日米会談で甦る30年前の密約㊦」『朝日ジャーナル』1981年5月29日、88頁以下)

 一回目のクラークの場合も、ニ回目のアリソンの場合もどちらも吉田からの回答は内容的にはほぼ同一であったが、それはまた米国側が日本側に要求した内容も同一であったと見ることができよう。内容は有事の際に(in emergency)日本の軍隊はアメリカの単一の司令官の指揮下に入るということと、それを内密にするという二点であった。
 こうした重要な、まさに一国の「大事」にかかわる要求を、吉田首相はなぜじつに簡単容易に受け入れたのであろうか。一つには、後述するごとく米陸軍は「単一の指揮権」は不可欠と考えており、しかも日本政府に正式に日米安保条約の米側条約案のなかですでに日本政府に手交していたからであり、さらにまた、そもそも日米安保条約も日本再軍備も、単に「日米の問題」とは米国側は考えておらず、吉田にとって引くに引かれぬ問題だと認識していたからではないだろうか。
 そう推測できるのは、このアリソン証言からは、指揮権問題は有事の際の日米の共同計画が同時に進んでおり、それに吉田が「確証を与えて」いることである。つまり、日米の有事計画の一環として出されてきているということである。
 あるいはまた、同じ内容の密約をなぜ米側は二度も日本側にもとめたのであろうか。保安隊から自衛隊への組織変更があったためであろうか。それとも、吉田が日本の軍隊を有事の際に「アメリカ人の司令官」とすることについて何の条件も付けずに、即座に認めたことが、二人あるいは三人だけの密約というかたちの合意であったために念を押さないと不安だったのであろうか。たしかにその必要もあったであろうが、米側にとってそれにも増して密約を必要とする主要三点ほどの明確な理由が存在していた。
 そこで、こうした一見唐突な密約がつくられたように見える背景を、米国政治の視点から解明してみたい。

   第二節 占領政策の転換
 米国の「国家安全保障」
 占領政策の転換は、驚くほど急速に進んだ。日本国内では戦争の放棄を定め、限定的でない人権条項を定めた日本国憲法が公布され、その後施行されたのは1947年5月のことであったが、アメリカ本国政府では、その2ヶ月後の7月に冷戦に備えた「国家安全保障法(NSA)」がつくられた。
 この法律は、ヨーロッパから始まったソ連の共産主義体制を封じ込めるため、軍事組織の「総合化と統合化」を目指してつくられた。したがって、この法律のもとで、陸海空三軍の省を統括する国防総省(ペンタゴン)が、また閣議とは別に軍事組織の中核を担う国務(外交)・国防を中心に大統領が主宰する最高政策決定機関である国家安全保障会議(NSC)が、そしてさらに外国の情報・諜報を中心に扱う中央情報局(CIA)が新たに創設されたのであった。

 対日「限定的再軍備計画」
 一方、日本との関係では1948年2月にはロイヤル陸軍長官が「日本を反共の防壁にする」と宣言し、5月には陸軍部内部で起案し、統合参謀本部(JCS)で決定された「限定的再軍備計画」(JCS1380/48)が完成にいたり、それを受けて米国政府は国家安全保障会議によって「アメリカの対日政策に関する勧告」(NSC13/2)を決定したのである。
 先の「限定的再軍備計画」は、日本の経済復興とともに日本軍が米国の統制下で防衛を分担する組織と位置づけて、こう結論づけている。「日本の限定的軍隊は米国によって組織され、主として訓練され、厳重に監視されるできであり、国内の安全を維持し、外部の侵略に対する局地的防衛行動に従事し、国威の再興に貢献する目的のために存在すべきである」。米国から見て日本再軍備は、その最初の計画から米国に従属するよう運命づけられていたことになる。
 その際、米国は、日本の限定的軍隊を日本国憲法との関係でどのように見ていたのであろうか。同計画は以下のように述べている。「法形式上は憲法は防衛的軍隊を禁止するものではないということが論議されよう。しかしながら、憲法の前文ならびに今日まで発せられてきた占領諸命令は、憲法の意図が無条件に戦争を放棄し、軍隊を禁止し、平和を愛する諸民族の信義に日本の安全を託することにあることを明らかにしている」
 これに対し、この計画案のため東京に派遣された米陸軍の高官から、この計画案に対する見解を質された連合国最高司令官ダグラス・マッカーサーは、米陸軍による日本軍の再軍備計画に反対して、こう述べている。「日本人はもはや軍隊を支持しないであろう。彼らは、真剣かつ無条件に政治の手段として戦争を拒否している」。といってもマッカーサーは決して平和主義者であったわあけではない。マッカーサーは「沖縄基地があるではないか」とこう続けている。沖縄を要塞化すれば「日本本土に軍隊を維持することなく、外部の侵略に対し日本の安全を確保することができる」、と(Limited Military Armament for Jjapan, JCS1380/48,May18,1948. 古関彰一「米国における占領下日本再軍備計画」『法律時報』1976年9月号、69頁以下)
 こうしてマッカーサーは、「本土に平和憲法を! 沖縄に基地を」もたらしたのであった。したがって、マッカーサーのこうした見解もあり、JCSの日本再軍備計画はJCSの政策に国務省(外交)の見解を加え、国家安全保障会議の「対日政策」として、民主化よりも経済復興に力点を置くことになり、再軍備には否定的で「警察力の強化」を提言していた。(NSC/13/2)のであった。
 いずれにしても「ポツダム宣言」を中心とした連合国による「非軍事化と民主化」の政策から生まれた日本国憲法の公布からわずか2年にして、米国の対日政策は「再軍備と経済復興」の方向へと急展開したのであった。

 第三節 米国にとっての日本軍

 安保条約草案における指揮権
 1950年10月末、朝鮮戦争たけなわの頃、米陸軍省は日本占領下で日米安保条約草案を作成している。それは「日米相互安全保障協定の条文に含まれるべき諸点案(Draft of Points To Be Included in the Formlation of Terms of the United States-Japanese Birateral Agreement on Security)」と題し、その「第14項 日本軍(Japanese Armed Forces)の中には、以下のような規定がある。

 この規定が有効な間は、日本政府は陸海空軍を設置しない。これらの軍隊の兵力、軍事形態、構成、軍備、その他の組織上の特質に関し、合衆国政府の助言と合意がともなった場合、さらには、日本政府との協議のもとに合衆国政府の決定に全面的に従属する軍隊の創設計画(any schedule for their cration being in all respscts subject to the determation of United States Goverment) の場合は、その限りではない。
 敵対行為、もしくは差し迫った脅威をともなう敵対行為に対して、すべての日本軍は、海上保安庁も含めて、合衆国政府によって任命された最高司令官の統一指揮下(under the unified command of a Supreme Commander)に入る。(The Special Assistant for Occupied Areas in the Office on the Secretary of the Army(Magruder) to the Assistant Secretary of the States Far Eastern Affairs(Rusk),FRUS,1950,VL.Ⅵ VI,P.1341)

 この政策は、米国陸軍にとって、この段階での日本再軍備に対する基本政策を示していたといえよう。ただし、この協定案は、マグルーダー国防省占領地域担当特別補佐官の起案で、国防省の承認を得たものではなく、結果的には、安保条約にも行政協定にも含まれていないが、先述したその後の密約に生かされたのである。改めて確認しておきたいのは、創設されるべき軍隊は米軍の従属軍隊であり、米国の指揮下の軍隊である、ということである。 

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劣化ウラン弾と台湾有事

2023年01月15日 | 国際・政治

 私は、「在韓米軍 犯罪白書 駐韓米軍犯罪根絶のための運動本部」徐勝+広瀬貴子(青木書店)
の「Ⅲ 死の核兵器 劣化ウラン」に書かれていることも、きわめて重要なことだと思います。

 アメリカが湾岸戦争で大量に使用したという「劣化ウラン弾」は、原発で使用する核燃料の製造過程で生み出された廃棄物の劣化ウランを、金属ウランに加工し砲弾化したものだといいます。だから、装甲貫徹能力に優れ、しかも「ゴミ」の再利用であるため低コストなので、アメリカは、対戦車砲弾のみならず、装甲、巡航ミサイル=トマホークまで、ありとあらゆる兵器に劣化ウランを大量使用しているというのです。
 アメリカはイラクに対して膨大な量の劣化ウランを使用したため、イラク南部の何十万、何百万もの住民が、エアロゾル化した劣化ウランの微粒子、劣化ウランに汚染された食物や水からの被曝の脅威にさらされ続け、癌・白血病、免疫不全、神経系疾患をはじめとした様々な疾病が多発しているといいます。特に子供達の間で、先天的異常という深刻な被害が発生しており、癌に限っても、すでに1万人以上のイラクの人々が劣化ウラン弾が原因で死亡したと推定されるというのです。イラクに対するアメリカとNATOによる戦争は、重大な環境破壊を引き起こし、今なお子供達を殺し続けているというのです。
 
 したがって、冷戦後のアメリカの劣化ウランを使用した戦争を、「もう一つのヒロシマ=新しい型の核戦争」という人もおり、1996年、国連人権小委員会は、”劣化ウラン弾は非人道兵器・大量破壊兵器である”と決議しています。欧州議会も、劣化ウラン弾使用禁止の決議を行っているということです。
 さらに、見逃せないのは、日韓の米軍基地で劣化ウラン弾の事故が起きていますが、アメリカのエネルギー省が、米軍兵器の劣化ウランの利用は、核廃棄物処分方法の一つとみなしているという証言です。 

 ふり返れば、多くの学者や研究者が反対の声をあげていたのに、原爆を脅しではなく実際に投下したのもアメリカです。
 1899年にオランダ・ハーグで開かれた第1回万国平和会議において採択された「陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約」の「第二款 戦闘」の「第一章 害敵手段、攻囲、砲撃」に下記のような条文があります。
第22条:交戦者は害敵手段の選択につき、無制限の権利を有するものではない。
第23条:特別の条約により規定された禁止事項のほか、特に禁止するものは以下の通り。
毒、または毒を施した兵器の使用。
敵の国民、または軍に属する者を裏切って殺傷すること。
兵器を捨て、または自衛手段が尽きて降伏を乞う敵兵を殺傷すること。
助命しないことを宣言すること。
不必要な苦痛を与える兵器、投射物、その他の物質を使用すること。

 また、戦争における毒ガスや生物兵器などの使用禁止を定めた「ジュネーヴ議定書(Geneva Protocol)」、正式名称「窒息性ガス、毒性ガスまたはこれらに類するガスおよび細菌学的手段の戦争における使用の禁止に関する議定書」も、1928年に発効しています。

 こうした国際法に照らせば、アメリカの劣化ウラン弾の使用は、国際法に反するものだったと思います。
 さらに、アメリカが日本に投下した原爆、ベトナム戦争で大量にばら撒いた枯葉剤や大量に投下したナパーム弾なども、国際法違反であったと思います。

 そんな国際法違反をくり返しているアメリカが、本格的に台湾有事の画策をはじめていることを見逃してはならないと思います。

 アメリカの下院は10日、中国に対する特別委員会の設置を超党派の賛成多数で可決したといいます。また、アメリカの有力シンクタンクが中国の台湾侵攻を想定した模擬実験(シュミレーション)を重ね、9日に報告書を公開したといいます。朝日新聞の報道によれば、
想定した大半の条件下では、米国や日本の支援を受けた台湾が中国を撃退するが、「高い代償を伴う」と指摘。在日米軍を置く日本を台湾防衛の「要」と位置づけ、外交・軍事上の結びつきを深めるよう提言している。米戦略国際問題研究所(CSIS)が、昨年に進めた24回のシュミレーションをまとめた。想定では、2026年に中国が台湾に侵攻する。中国軍がはじめの数時間で台湾の海軍や空軍の大半を攻撃した後、台湾を包囲し、数万人の兵士が上陸すると仮定した。台湾が持ちこたえ、中国は台湾の侵攻に失敗したという。この防衛の要とされたのが日本だ。報告書は「豪州や韓国など他の同盟国も台湾防衛において一定の役割を果たすが、日本こそが要だ」と強調。・・・”
 ということです。いよいよ日本の戦争が現実のものになりつつあるように思います。

 アメリカは、台湾や日本に対する働き掛けを強化し、着々と準備を整えて、チャンスが到来すれば、ロシアと同じように、中国を孤立させ弱体化させるために、中国を悪者にして、戦端を開こうとしているのだと思います。中国と話しあって平和的に問題を解決しようとはしていないように思います。だからアメリカに追随することは、きわめて危険であると思います。

 12日、林外相が安保理で「法の支配」を訴えたというのですが、岸田政権は、日本国憲法では到底考えられないような敵基地攻撃能力の保有をはじめとする防衛力強化を議論なく進めています。岸田政権の進めている日米同盟の強化や防衛力の強化は、「法の支配」に逆行ることだと思います。
 また、アメリカは、朝鮮戦争をきっかけに、日本に憲法違反の再軍備を求め、さらに、日本国憲法に基づいて、自衛隊が「」、米軍が「」の役割分担をしていたにもかかわらず、その役割分担を反故にして、日韓や近隣諸国を巻き込み、軍事力で中国の影響力拡大を阻止しようとしているように思います。日米ともに、「法の支配」に逆行する動きをしていると思うのです。
 日米の外務・防衛担当閣僚による「日米安全保障協議委員会(2プラス2)」の内容は、実際は「法の支配」ではなく、「力が正義」の好戦的な内容だと思います。
 日本国憲法に対するアメリカの姿勢も一貫しておらず、アメリカの、その時、その時の都合で変わっており、明らかに「法の支配」に逆行していると思います。
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                   Ⅲ 死の核兵器 劣化ウラン

 1991年にクェート、イラク地域でおこった湾岸戦争以後、米国では参戦米軍人のあいだにいわゆる「湾岸戦争症候群(Gulf-war Syndrorm)と呼ばれる症状があった。この原因とされる劣化ウラン弾を駐韓米軍が保有しているという事実が明らかになるなかで、米国政府が事実上核廃棄物である劣化ウラン弾を軍需品として提供してきたという事実は衝撃的である。
 これに関連して、世界エネルギ情報センター(WISE)の96年7月の報告書によれば、事実上米国のエネルギー省は米軍にほとんど無償で劣化ウランを提供しており、結局これは核廃棄物処分方法の一つとみなされていると暴露した。また劣化ウラン弾が核分裂をおこさなくても、発砲されて発火する過程で約70%以上が微細粒子として大気中に露出することが実験で明らかになった。これに関連してイラク北部の医療統計によれば、小児がん患者の急増、奇形児出産、男性の無精子症などの現象が報告された。また米国国防省も公式報告書で、「劣化ウラン弾の使用は主に飲料水を通じて人体に影響を与えうる」と公式認定したのである。
 米軍により核兵器はなんの制裁措置もなく在来式武器に変身して山積みされており、ついに97年2月には漣川郡で米軍の軍政上の錯誤というそれだけの理由で劣化ウラン弾の一つが爆破処理された。つまり、米国の核廃棄物を韓国が代わりに保管していることになる。
 日本では駐日米軍が劣化ウラン弾を前年一年間訓練用に使用してきたという事実が97年2月に明らかになって、劣化ウラン弾撤収運動が市民運動の大きな流れとなった。また米国の市民団体は、5月8日の声明を通じて湾岸戦争症候群の原因である劣化ウラン弾の廃棄を主張し、力強い運動を展開している。
 これらの事件はいくつかの疑問を提起した。そのなかの一つは、軍事組織内で行政上の錯誤によって劣化ウラン弾は爆破されるものなのかということである。97年3月8日、ジム・コルスン報道官は公式文書を通じて、朝鮮半島で劣化ウラン弾を保有しているが訓練や管理上の問題で爆破されるなり使用されたことはないと言明した。ところが同年2月初めに行政上の錯誤で劣化ウラン弾が爆破処理されたと、5月16日に、ジム・コルスンが発表したのである。これをどう理解すべきであろうか。
 これまで駐韓米軍によるいくつかの事故において、米軍自ら事故に対する原因と結果を明らかにしたことはない。結局、米軍が、いや米国政府が日本と自国でおきている劣化ウラン弾反対デモをなだめるための計画的な事故である可能性が高いと思われる。これは日本と米国の市民団体の劣化ウラン弾被害への憂慮に対して説得力を得るために、「韓国で劣化ウラン弾が破裂した。しかし調査の結果、
人体には無害であり放射能汚染はなかった」という内容を公表するためのものと理解される。こうしたことをおこなうのに韓国くらい楽な国はない。これを証明するように5月22日、韓国の国防部は「砲弾処理地域の調査の結果、人体には無害であり放射能汚染はなかった」と発表した。
 8月に入ってベーコン報道官は「駐日米軍は劣化ウラン弾を沖縄近隣の鳥島に誤って発射した事件が公表された96年2月以後、沖縄米軍基地に貯蔵されていた劣化ウラン弾を潜在的に戦場に近い韓国に移送した」と発表した。(「毎日新聞」1997年8月15日)。駐韓米軍はこれについて「いかなる劣化ウラン弾も韓国に移し、配置したことはない」と語った。「運動本部」はこの報道に関連して緑色連合、環境運動連合、経済正義実現市民連合など市民・環境団体とともに韓国政府と駐日米軍の責任ある解明と同時に劣化ウラン弾の撤収をうながす声明書を発表した。しかし政府と米国当局からはなんの答弁もなかった。

 劣化ウラン弾問題の解決
 劣化ウラン弾問題の解決は困難だがとても簡単である。
 第一に、劣化ウラン弾は核廃棄物であるため、韓国からすべて撤収されなければならず、核廃棄物に対する一般的処理過程と同じく核廃棄物場に埋め立てられなければならない。
 第二に、このような朝鮮半島の生存に脅威的な状況が再発しないようにするには、韓国と米国との関係を互恵平等の原則にしたがって平等にしなければならない。韓国は主権国家であり米国の従属国ではないのであるから、韓米行政協定を全面改正して韓国政府が米軍の駐屯による公共秩序破壊(環境破壊、犯罪等)と地域の平和を脅かす軍事行為を統制すべきである。
 第三に韓国を中心に東アジア地域の各国が非核地帯化宣言をすべきである。これは地域の軍備競争を中断させ平和と和解への道を準備する一歩である。

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「チェスの駒」と米軍基地と欧米の野蛮

2023年01月12日 | 国際・政治

 今、英国チャールズ国王の次男ハリー王子の自伝「スペア」が、いろいろ話題になっています。朝日新聞は”アフガン従軍中に25人殺害”、”敵兵を「チェスの駒」自伝で”というような見出しを付けて報道しました。
 私は、この朝日新聞のとらえ方が大事だと思います。この自伝には、”この数字は私を誇らしくさせるものではなかったが、恥じ入るものでもなかった”とか”彼らは、チェス盤から取り除かれる駒であり、彼らが善良な人びとを殺してしまう前に排除されるべき悪人だった”という記述があることも取り上げていますが、とんでもないことだと思います。具体的な証拠も示さず、勝手に、”善良な人びとを殺してしまう悪人”と決めつけ、何の議論もせず、直接かかわりのないヘンリー王子が、アフガニスタンの人を殺してしまことは、驚くべき野蛮なことだと思います。
 英国軍関係者はBBCの取材に、敵兵を「チェスの駒」にたとえることは「間違い」と指摘したといいますが、大事なことは、王子がアフガニスタンの25人の「」を「チェスの駒」のように見なして殺したという事実であり、単なる表現の問題などではないと思います。
 アメリカやイギリスを中心とする有志連合の軍人はみな同じような感覚なのではないか、と私は思います。アジアやアフリカや中東やラテンアメリカに対するアメリカやイギリスの姿勢は、差別的であり、不遜であり、暴力的であり、残虐だと、私は思います。

 個人の場合、通常、人殺しが許容され得るのは、正当防衛上やむを得なかったというような時だと思いますが、有志連合のアフガニスタン侵攻やタリバーン支配地域の爆撃は、そういう正当防衛に当たるようなことがあったでしょうか。

 イスラム教の神学校で学んだ学生が中心となって結成した組織である「タリバーン」が、イギリスやアメリカを武力攻撃したでしょうか。

 それとも、アメリカが「対テロ戦争」を宣言すれば、アメリカがテロ組織と見なした組織や集団は爆撃されてもしかたがないということなのでしょうか。
 
 私は、9.11 、N.Y同時多発テロ実行組織とされているアルカイダとタリバーンは、決して同一組織ではないと思います。
 イスラム神学生を中心に組織されたタリバンの構成員は大半がアフガン人であり、民族的にはパシュトゥン人であるといいます。でも、国際テロ組織とされているアルカイダは、ほとんどがアラブ人やアフリカ人、中央アジアなどの出身者だと聞いています。組織的に協力関係にあるとしても、爆撃するのは許されることではないと思います。

 第一次世界大戦後に締結された多国間条約の「パリ不戦条約」には、第一条に
 ”締約国ハ国際紛争解決ノ為戦争ニ訴フルコトヲ非トシ且其ノ相互関係ニ於テ国家ノ政策ノ手段トシテノ戦争ヲ抛棄スルコトヲ其ノ各自ノ人民ノ名ニ於テ厳粛ニ宣言スル
とあり、第二条には
締約国ハ相互間ニ起コルコトアルベキ一切ノ紛争又ハ紛議ハ其ノ性質又ハ起因ノ如何ヲ問ハズ平和的手段ニ依ルノ外之ガ処理又ハ解決ヲ求メザルコトヲ約ス
 とあります。アメリカやイギリスや有志連合の国々は、こうした条約を無視していると思います。

 2011年5月1日、米同時多発テロ実行組織とされているアルカイダの指導者、ウサマ・ビンラディン容疑者を、米軍が殺害した時、オバマ米大統領が、”正義は達成された”と強調したことが伝えられました。
 アルカイダが、どのような理由で、どのような計画に基づき、どのようにして犯行にいたったのかを、裁判で問うことなく、他国の領土に軍を送り、容疑者を急襲して殺すことが「正義」なのでしょうか。

 また、アメリカは、第二次世界大戦後も戦争をくり返しています。特に、ベトナム戦争イラク戦争では、戦端を開く事実をでっち上げて戦争に突入したことが明らかにされていると思います。
 ベトナム戦争における北爆開始のきっかけとなった「トンキン湾事件」の一部は、アメリカが仕組んだものだったことを、『ニューヨーク・タイムズ』が、いわゆる「ペンタゴン・ペーパーズ」を入手して暴露しましたし、イラク戦争の開始理由であった「大量破壊兵器」は、イラクには存在しませんでした。でも多くのベトナム人やイラク人が、無惨に殺されたのです。でも、アメリカの関係者は、何の裁きも受けてはいません。
 そうしたことを踏まえて現状をみれば、アメリカのロシアや中国に対する姿勢に問題があることは、容易に理解できることだろうと思います。アメリカは、国際法や道義・道徳に基づくことなく、アメリカに敵対する国を潰しにかかることがあるからです。

 しばらく前、「分断に向き合う」ということで、政治学者、板橋拓己東大教授の文章が、朝日新聞に掲載されました。そのなかに、
”「ロシア・ウクライナ戦争では、国連安全保障理事会の常任理事国が侵略を行いました。中国も、自由主義が根づかないまま大国になってしまいました。そうなると、自由民主主義を守る側も、力を備える必要が出てくる。『力の時代』にある程度、回帰せざるをえないのですが、問題はその後にどう行動するかです」
 「ロシアについていえば、侵略してはならないという国際秩序の根本のルールを破った以上、敗北させなければならない。しかし、敗者となったロシアをどう国際社会に報節していくかが問われてきます」
 とありました。驚きました。ロシアを”敗北させなければならない”などと書いていたからです。これはアメリカの主張だと思います。
 東大の教授ともあろう政治学者が、民主主義や自由主義を掲げるアメリカが、国際社会でその民主主義や自由主義を踏みにじっている実態について、看過していることに愕然とします。

 私は、全く逆に、アメリカによる主権侵害や搾取や収奪から逃れるために、守りをかためている国々が、アジアやアフリカや中東やラテンアメリカに多く存在することに目を向ける必要があると思います。一定程度、専制化せざるを得ない状況があることも見逃してはならないと思います。アメリカは、ちょとしたきっかけを利用して、政権転覆を意図することがあるからです。それは、すでに取り上げたいくつかの国の歴史が証明しています。

 アメリカは、韓国に基地を置き、主権を侵害し、韓国人の人権を無視するようなことを、韓国の政権の陰に隠れてやっています。それは、日本にも共通することだと思いますが、こうしたアメリカのやり方や、アメリカによる搾取・収奪を受け入れたくない国は、一定程度、専制化せざるを得ない面があると思うのです。

 アメリカが戦後多くの国で、独裁者と手を結び、独裁者を支援してきたのは、独裁者の陰に隠れて、搾取や収奪、その他、いろいろのことが自由にできるからだろうと、私は思っています。 

 下記は、「在韓米軍 犯罪白書 駐韓米軍犯罪根絶のための運動本部」徐勝+広瀬貴子(青木書店)から、「Ⅱ 米軍供与地による被害」の「3 強制的に農地を奪われた長佐里の農民」を抜萃しましたが、アメリカが相手国の政権の陰に隠れて、いろいろのことをやっていることがわかると思います。
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                   Ⅱ 米軍供与地による被害

     3 強制的に農地を奪われた長佐里の農民
(1) 事件の経過
 京畿道坡州市積善面長佐(チャンジュワ)里の住民たちは先祖代々農業をしながら平和に生きてきた。
 朝鮮戦争中、避難した住民たちは、戦争が終っても故郷に帰ることができなかった。長佐里一帯が軍事保護区域として定められ、出入りが禁止されて、その一部を米軍が訓練場として使用したのである。農民たちはしかたなく近隣の長城(チャンパ)里などに住みながら、出入証の発給を受けて農業をおこない暮らした。「出入営農」は昼間だけ農耕地への出入りが可能であったが、片時も休まず進められる軍事訓練などによって出入りが全面統制されることが多かった。さまざまな困難があったが、それでも統一されれば故郷に帰ることができるという希望があった。すくなくともこのときまで土地の主は農民たちだったからである。
 ところが、1973年のある日、手もとに届いた一枚の紙切れが、彼らの運命を変えてしまった。それは長佐里一帯の土地を挑発収用するという、韓国政府が発行した「挑発財産買収通知書」であった。1973~74年にかけて韓国政府は農民たちとなんの事前協議もなく、挑発財産整理にかかわる特別措置法を根拠として、長佐里一帯の約40万坪の土地を収用することにしたのである。当時は朴正煕軍事政権による暴圧的な状況であり、大統領緊急措置令が乱発された時代であったため「国家安全保障」の一言に農民の権利は完全に黙殺された。
 そのうえ、政府の補償額は信じられないほど少額だった。時価の三分の一にもならない坪当たりの単価270ウォンが買収価格であった。それも一度に支払われるのではなく、10年償還補償証券で強制買収したのである。この補償金で買える農地はどこにもなく、住民たちは途方に暮れてしまった。長佐里の農民たちは酒におぼれて、どうしようもない現実を恨み嘆いた。5~6人が農薬を飲んで自ら命を絶った。大部分の住民は10年を待たなければならない補償証券を債権業者に売ってしまったり、はなから債権償還を放棄してしまったりした。
 こうして挑発された土地はそのまま米軍に供与された。
 韓国軍は挑発直後、長佐里一帯の出入りを全面統制して武装した兵士たちに住民たちの接近を防がせた。しかし土地を奪われた住民たちは、農業を続けるために必死の努力を重ねた。韓国軍の銃剣に立ち向かい、坡州警察署などへの連行がくり返されたが住民たちは抵抗をやめなかった。このような苦闘の結果、1980年代の初めからは、再び出入証が発給されて農業ができるようになった。その代わり住民たちは軍当局に賃貸料を払わなければならなくなった。すでにその土地は国防部所有になってしまっていたためである。なんの問題もない農耕地を、軍事上必要であると強制的に挑発した政府が、本来の持ち主から土地使用料を徴収するという理解しがたい状況が発生したのである。
 たとえ使用料を払っても、生命ともいえる農地をとり戻したいという農民たちの願いは、1993年、金泳三政権の発足でかなえられるように思われた。金泳三政権は不要不急の軍用地を解除し、元の所有者の財産権を保護するという意思を明らかにした。93年12月の国会で、83年末以前に転売権が消滅した挑発財産に対して、被挑発者が95年末までに転売できるようにする特別措置法を通過させた。
 住民たちは挑発された土地を転売してほしいという陳情を国防部に出したが、予想もしない答弁が返ってきた。結論は不可能だということであった。理由は「長佐里一帯が米軍に供与されたため、米愚が返還しなければ転売は不可能である」というものであった。
 事実、このときまで住民たちは自分たちの土地が米軍に供与されたことはまったく知らなかった。供与がどういう意味であるのかもわからなかった。国防部、当該部隊に重ねて陳情を出したが結果は同じであった。こうした過程を経ながら農民たちは、韓米駐屯軍地位協定によって米軍に供与された土地は、米軍が返還しなければとり戻すことはできないということを知ることになった。

(2) 問題点
 住民たちが指摘する第一の問題点は、1973~74年におこなわれた挑発措置が合法的でないということである。なぜなら挑発法は、第一条で挑発が可能な状況を「戦時、事変またはこれに準ずる非常事態」と規定しているのに、当時はまったくそのような状況ではなかったからである。
 第二に、挑発当時の合法性の有無にかかわらず、10年以上軍事用地として使っていなければ、挑発法により元の所有者に転売すべきだという点である。現在、長佐里にはただの一人の米兵も駐屯しておらず、また米軍が訓練場として使用してもいない。事実、韓米駐屯軍地位協定の第2条3項によれば、軍事上必要が消滅した土地は原則的に韓国に返還しなければ ならない。しかし同じ条項には、「米軍との合意」が明示されており、米軍が返還に合意しなければとり戻す方法はない。米軍が許諾して初めて可能となるのである。
 おかしなことに、長佐里に駐屯しているのは韓国軍である。もともと米軍供与地は米軍当局が排他的使用権を行使する土地であるので、韓国軍が駐屯しているのは理解しがたい。これは米軍が実際に使用していないという証拠の一つとなりうる。韓国軍が長佐里で使用する土地はごく一部であるため、残り40余万坪は元の持ち主に転売することが適当である。しかし国防部は住民たちの陳情が重なると、米軍から返還されれば転売できるという主張に、米軍から返還された土地に国防部が軍事上必要がないと判断して、はじめて転売できるという条件を追加した。
 住民たちは最後の希望を「転売訴訟」にかけている。「運動本部」韓米行政協定改正委員会の張スヨン弁護士が引き受けて進行中である訴訟(97年1月20日提訴)の結果が、農民たちの思いをこめた生の活路になることに期待を込めている。

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日韓共通の米軍基地問題と覇権

2023年01月08日 | 国際・政治

 下記に取り上げられている、韓国における米軍基地内のゴルフ場やレストラン、スロットマシーンなどの米軍収益事業の問題、また軍人やその家族による英語講習の問題、さらに米軍関係者・外国人車両の取り締まりの問題は、日本にも共通の問題です。そして、そういう米軍基地が、日本や韓国にあることが、アメリカという国が、実は「覇権国家」であることを示しているように思います。

 日本の降伏後、連合国軍が日本に進駐し、GHQが対日占領政策を実施したのは仕方がなかったと思います。でも本来、1952年の講和条約発効後に、連合軍は撤退する約束であったと思います。ポツダム宣言の第12条には「前記諸目的ガ達成セラレ且日本国国民ノ自由ニ表明セル意思ニ従ヒ平和的傾向ヲ有シ且責任アル政府ガ樹立セラルルニ於テハ聯合国ノ占領軍ハ直ニ日本国ヨリ撤収セラルベシ」と定められていたのです。
 でも、占領終結後も米軍は占領軍の特権の多くを維持し続けました。
 講和条約発効後の米軍駐留政策に、天皇のいわゆる「沖縄メッセージ」がどれほど影響したかはわかりませんが、私は、宮内府御用掛の寺崎英成が、総司令部にシーボルトを訪ね、
”「天皇は、アメリカが沖縄をふくむ琉球の他の島々を軍事占領しつづけることを希望している。天皇の意見によると、その占領はアメリカの利益になるし、日本を護ることになる……」と語った・・・”
 という「天皇の、沖縄メッセージ」は、実は、アメリカ側の用意したアメリカに都合のよいシナリオを、天皇や日本の戦争指導層が、受け入れたのではないかと、想像してしまいます。天皇に責めを負わせるかたちの、あまりにアメリカに都合のよいシナリオのように思うのです。天皇とマッカーサーの11回にもわたる話し合いの内容が、ほとんど公開されないのもそうしたことがあるからではないか、と思ってしまいます。
 
 降伏の前後には、日本国内でも天皇の戦争責任の問題が話題にされています。
天皇も無責任ではあり得ない。せめて退位されるくらいのことは考えねばならぬ。そういう空気が、いまは故人になった政治家、現存している政治家の口から漏れていた
 とは、終戦時の鈴木貫太郎内閣の書記官長迫水久常氏の述懐です。
 また、幣原喜重郎内閣で憲法改正問題が討議されたさい、文相安部能成が、
天皇は無答責というが、道徳的にも責任を負わないという意味なのか……承詔必謹といって国民に服従の義務を負わせながら、本体たる天皇が無責任であるというのは、矛盾であると思う
と語ったと言います。当然の受け止め方であると思います。
 天皇自身も、
このさい私としてなすべきことがあれば、何でもいとわない”と終戦のさいに述べ、戦争犯罪人問題について、自身の退位で回避できないか、との趣旨を、木戸内大臣に語ったといわれています。
 にもかかわらず、天皇の戦争責任は問われませんでした。天皇はなぜ免訴されたのか。

 そうしたことも考えると、米軍の沖縄駐留や天皇の戦争責任の問題に関し、日米で詳細な打合せが行われたのではないか、と私は思ってしまうのです。根拠はありませんが。 

 先日、朝日新聞は、”密約シナリオ「絶対極秘扱」”と題する記事を掲載しました。沖縄返還に関する当時の佐藤栄作首相とニクソン大統領の共同声明は、実は日本国民はもちろん、アメリカ国民や世界中の人びとを欺瞞する声明であったということが、公開された外交文書によって裏づけられたということです。1994年、佐藤栄作首相の密使として交渉にあたった若泉敬京都産業大学教授が、すでにその著書「他策ナカリシヲ信ゼント欲ス」(文藝春秋)で、明らかにしていたことが、公開された外交文書で裏づけられたということです。文書には、核の持ち込みを疑う”新聞記者からの質問は頭から否定する”などという約束があったといいます。そろって公然と嘘をつき通すという約束だと思います。恐ろしいことだと思います。

 そして、ウウライナ戦争の問題を論じるときに、そうした過去の事実をなかったことにして論じてはいけない、と私は思います。過去の歴史や戦争に至る経緯など、全体をみなければいけないと思います。

 1月6日の朝日新聞の朝日川柳に「いそいそと土産持参 防衛費」というのがありましたが、日米首脳会談に臨む岸田首相の姿勢を適確にとらえた川柳だと思いました。

 下記は、「在韓米軍 犯罪白書 駐韓米軍犯罪根絶のための運動本部」徐勝+広瀬貴子(青木書店)の米軍の収益事業関する部分を抜粋しました。
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             トピック 米軍は金もうけに来たのか──米軍の収益事業

 □ 駐韓米軍の年間売り上げ3千億ウォン
 1995年3月17日、米第八軍関係者によると、駐韓米軍は全国約110か所の米軍部隊内に米軍施設として設置されたクラブ、洋食堂、スロットマシーン約6000台、7つのゴルフ場などの運営によって、94年1年間で計2900億ウォンの売り上げをあげたことがわかった。
 これは韓国の30大財閥グループに匹敵する規模であり、1993年当時29位であった真露グループの売り上げ額の2倍に達する大きな商売をしたことになる。
 駐韓米軍側はスロットマシーンで稼いだ金のうち、運営費を除く収益金から少なくとも約1千億ウォンを米国防相などに送金したことを公表した。
 また施設利用者の韓国人の比率が80%程度であることも明らかになり、衝撃を与えている。鳥山(オサン)五五空軍基地ゴルフ場と城南ゴルフ場、龍山米第八軍司令部内の娯楽施設などは利用者の80~90%が韓国人であることが確認された。
 韓米行政協定には、米軍娯楽施設は「米軍の構成員と軍属およびそれらの家族」だけのためのものと明示されているにもかかわらず、駐屯米軍側が「韓国政府の認める個人と機関」も利用できるという行政協定合意議事録を楯にして施設を利用できる出入証を乱発し、韓国政府とも摩擦をおこしている。

 □ 第八軍による不法な──中学生から中年女性まで国籍不明英語の講習盛ん
 韓国の主権が及ばない「サンフランシスコ」と呼ばれる米第八軍基地内で軍属や米軍部隊の招請契約者による不法な英語講習が盛んにおこなわれている。彼らは、原則として米軍部隊関連の業務以外に報酬を受けて仕事をしてはならないのだが、大学で講義をもつなど、韓国人学生を相手にした英語講習は公然の秘密になっている。
 実際に毎週土・日曜日になると米第八軍の各ゲートと漢南洞一帯は4,5名ずつグループをつくる中高生たちで混みあっており、子どもたちを送り迎えする親の自動車も目につく。
 このような現象は大邱駐屯米軍基地でもおきていて、米兵の家族らに基地内外の宿舎で英語を習う韓国人学生は大邱だけで300~400名にのぼるほど、深刻な問題になっている。
 その講習費は兵、下士官、将校によって異なり、受講者が4、5人ずつグループを組んで1週間に2時間、1ヶ月4回で、1時間当たり1万ウォンから2万5千ウォンまでと多様である。
 問題になっているのは、まず第一に講師のなかには、米国で大学を出た将校もいるが、大部分は高等教育を受けていない兵士やその妻なので、体系的な教育ができるのかということと、大部分の教師が軍人であるためGI英語(軍人の間だけで通用する言語)しか学習できないということである。
 二番目として、英会話を習うことよりアメリカンドリームに酔って「米国文化」に浸ってしまう感受性をもつ生徒がほとんどのため、低俗な文化や低俗言語が無批判に受け入れられてしまうことが憂慮される。
 米兵が夫婦で講習する場合、一月の収入は500万ウォン程度になるため、韓国勤務を延長申請する例が多い。これは韓国を「くいもの」にしていることにほかならない。

 □ 米軍関係者・外国人車両取り締まりのむずかしさ
 ソウル市は、いままで1700台の駐韓外交官所有車両、および3000台の米軍所属車両の不法駐停車に対し罰金、過料の代わりに警告状だけを出して市民から不公平な取り締まりだという指摘を受けている。
 このためソウル市は、1995年11月1日から外国人違反車両が交通に支障を与えると判断された場合は、牽引して別途に費用を賦課する一方で、取り締まられた車両が罰金、過料などを滞納した場合、外務部にそのリストを通報して措置を求めるなど 取り締まり方法を強化した。
 しかし実際には、米兵と軍属、その家族などが相当数居住しているため、米第十九支援団と米第二十支援団が駐留する大邱地域では、「ことばが通じない」という理由で、外国人の違反車両を摘発してもそのまま放置されるなど、取り締まりができないでいる。
 取り締まりにあたっている警察官たちは、事前に政府レベルで外国人に向けて広報しておき、違反者には韓国語で違反事実を知らせ、理解できない場合は英語で記したカードなどを提示、取り締りをするのが適当だという。
 一般市民は、韓国人とアメリカ人を交通取り締まりにおいて差別することは誤った慣行であると指摘しており、民族の自尊心回復という次元からも英語ではなく韓国語で取り締まり活動をすることが望ましいという世論が形成されている。
 大邱南部警察署など市内警察では外国人車両の取り締まり策として、最近、交通取り締まりに必要な八つの英会話、八つの主要違反と交通事故処理に必要な英語表現を全警察官に熟知させるよう指示した。

 □ 金のなる木、米軍基地内ゴルフ場
 大邱第三次循環道路の敷設の障害になっている大邱南区大明五洞、キャンプ・ウォーカー内のA3飛行場の移転要求が激しさを増すなか、一部の地元の人たちが米軍基地内ゴルフ場に出入りしつづけたため、市民の非難を受けている。
 「韓米親善ゴルフ大会」のときには、市民の厳しい批判のなかで100人あまりの地元の人たちが参加し、市民の自尊心を傷つけもした。
 このようななかで、米第十九支援団と米第二十支援団が、ゴルフ会員権の取得に血眼になった地元の有力者に対し登録台帳にもない感謝状を乱発し、ゴルフ会員審査の際にはそれらを無効とした。このため地元の有力者は米軍の詐欺行為にひっかかって恥をさらしたと非難を受けている。
 彼らがゴルフ会員権取得のために便宜をはかってもらうために、米第十九支援団司令官と米第二十支援団司令官など米軍将校と家族170人に観光バス8台と経費いっさいを提供、慶州観光をさせた事実も明らかになり、さらに市民の怒りをかっている。
 一方、米第二十支援団はゴルフ会員審査で年間利用回数が関連ゴルフ場28回、クラブ41回以下の会員に対しては、収益性が低いという理由で資格をとりげてその数だけ利用実績の高い韓国人を会員として補充している。地元の有力者が、金のなる木である米軍部隊ゴルフ場を今後も利用する限り、問題になっているA3飛行場の移転は絶対に不可能である。また市民はゴルフ場会員権の自主返納など韓国人による米軍施設の利用自粛を強く求めている。

 □ 米軍基地内食堂に出入りするための特権証 
 釜山ハヤリア部隊など駐韓米軍基地内食堂を利用する一部の有力者が、年間100億ウォン以上を食費として支出しており、外貨を浪費しているばかりか民族的な恥辱をさらしている。
 ときに彼らは(米軍基地に自由に出入りできるという)身分を誇示する目的で食堂出入証を発給してもらうために米軍関連福祉会に相当な寄付金を出しており、一部の人は軍関係者の家族らにワイロを渡して米軍捜査隊の捜査を受けるなど物議を醸した。
 米軍基地内食堂の韓国人会員は釜山に約100人、大邱に約300人、ソウルに約1000人いることがわかった。最も多い会員数を確保したのはハヤリア部隊将校食堂のヘーブンクラブであり、韓国人会員は118人で一日平均40~50人が利用し、年間に払う食費(一回平均1万3000ウォン)だけでも、11億ウォンにのぼると推定されている。また年会費(一人当たり25万ウォン)だけでも2900万ウォンになり、少なくとも年間浪費される食費が全国では100億ウォンになる。これには国民感情を考慮して政府次元で強力な制限措置がくわえられなければならない。

 □ 釜山米軍部隊の商業的バザー
 釜山鎮(プサンジン)区の米ハヤリア部隊が基地内で物品販売を目的とするバザーを主催し、釜山鎮警察署に経費の支援を含む積極的な協力を公式要請した事実が明らかになり物議を醸した。
 これに対して釜山鎮警察署は、ウルグァイ・ラウンド妥結など米国に対する感情が悪化しているなかで学生のデモ発生が憂慮されるために、消費的傾向の強いバザーはほんとうの韓米間の親善にはならないと米部隊の要請を丁寧に断る一方、バザーをおこなうこと自体を自粛するように求めた。
 ハヤリア部隊のバザーは、毎年、春と秋の二回開かれているが、韓米親善という本来の目的はなくなり、米軍軍需物資と米国製品を高価格で販売する場と化して市民の非難を受けていた。
 また、ハヤリア部隊側は釜山米国人地域奉仕会の影響力を利用して、バザーを主管する韓米親善祝委員会と契約を締結し、電気料、トイレ使用料、ゴミ清掃料などの経費まで負担させてバザー1回につき4000万~5000万ウォンの収益を上げており、米部隊側が韓米親善を口実にして釜山市民を相手に収益事業をおこなっているという疑惑を生んでいる。
 

 

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スベトラーナ・アレクシェビッチと韓米行政協定

2023年01月04日 | 国際・政治

 NHKは、2023年1月1日”混迷の世紀「世界は平和と秩序を取り戻せるか」”と題して、ウクライナ出身のジャーナリストでノーベル平和賞作家、スベトラーナ・アレクシェビッチ氏のインタビューを放映しました。

 また、朝日新聞は1月1日朝刊のトップ記事で、関田航氏撮影のスベトラーナ・アレクシェビッチ氏の大きな写真とともに、根元晃氏のインタビュー内容を掲載しました。
 彼女の著書、『戦争は女の顔をしていない』や『アフガン帰還兵の証言』、『チェルノブイリの祈り』 などは、日本でも出版されており、広く知られていると思います。  
 私は、原発事故の問題を取り上げているときに『チェルノブイリの祈り』を手にしたことがありますが、スベトラーナ・アレクシェビッチ氏という人は、一般市民の視点で、ロシアという国の問題を深くとらえていると思いました。
 だから、戦争がなければ今回のような報道はとても意味のあることだと思います。でも今、ロシアとウクライナは戦争をしています。戦争中にこうした報道をすることは適切ではないと思いました。停戦・和解を遠ざけ、難しくすると思ったのです。

 2023年の1月1日、NHKと朝日新聞が、スベトラーナ・アレクシェビッチ氏を取り上げたのは、偶然の一致でしょうか。
 報道の意図はわかりませんが、ウクライナ戦争が続いている新しい年のはじめに、反ロの感情を幅広く、深く日本人に浸透させるような内容の報道をすれば、もともと停戦・和解をする気のないアメリカの戦略に沿うかたちで、戦争継続を支持する雰囲気をつくり出すことになり、多くの人びとを苦しめ、犠牲者を増やすことになる、と私は思います。

 ロシアという国にさまざまな問題があるとしても、ロシアは潰さなければならない国ではない、と私は思います。政権転覆しなければならない国でもない、と私は思います。停戦・和解は可能だと思うのです。今は停戦・和解を最優先すべきだと思います。
 私は、国際社会の平和と安定のためには、ロシアよりもむしろアメリカの方に問題が多いと思っています。アメリカは、六十を超す国々に大きな「基地」を持ち、隠然たる影響力を行使しつつ、第二次世界大戦後もいたるところで武力行使をしてきました。下記の抜粋文にあるように、他国の主権を侵害するような条約や協定を改めず、不平等な関係も維持しています。

 下記は、「在韓米軍 犯罪白書 駐韓米軍犯罪根絶のための運動本部」徐勝+広瀬貴子(青木書店)から「Ⅱ 米軍犯罪の実態と原因」の一部を抜萃したものですが、韓国にも、日本とほぼ同じようなアメリカによる隠然たる支配や理不尽な主権侵害があることがわかります。
 同書には”駐韓米軍は、自分たちが韓国国民を守るために来ているという傲慢な考えに浸っている。”などという文章もありますが、私も、アメリカが他国に基地を置いている第一目的は、アメリカの覇権と利益の維持拡大だろうと思います。
 だから、著者の徐勝(ソスン)氏がいうように、”アジアから米軍を撤退させる”ことによって、アメリカの隠然たる支配を終わらせ、自立した国家による国際機関をつくらなければ、超大国のエゴによる戦争がくり返され、同盟国や弱小国が、望むと望まざるにかかわらず、巻き込まれることになると思います。

 ウクライナ戦争がはじまる前、バイデン米大統領は、”ロシアがウクライナに侵攻したら、独ロを結ぶガスパイプラインノルドストリーム2」を終らせる”と強調したことが報道されました。”ドイツの管理下にある事業をどう止めるのか”という質問には”われわれにはそれが可能だ”と述べたということも報道されました。そして、現実にガスパイプライン「ノルドストリーム2」は爆破され、だれが爆破したのかは曖昧のままです。
 ウクライナ戦争の背景にあるこうした現実に目をつぶってならないと思います。
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                 Ⅱ 米軍犯罪の実態と原因

    1 米軍犯罪の実態と処理現況
 米軍犯罪は1945年9月8日に米軍が駐屯して以来、一日もやむことなく続いている社会現象である。 45年の米軍駐屯以後、10万件を超える米軍犯罪が発生した。韓国法廷で処罰されたのは97年10月現在で、そのうちの平均1~2%にすぎない。韓米行政協定発効後の67から87年の20年間に発生した米軍犯罪の総数は3万9,452件で、一日平均5件、年平均2200件である(犯罪にかかわった米軍関係者は4万5174人)。これに対し、韓国政府による裁判権行使率は0.7%である。
 また、この期間に申告された韓国人女性の強姦事件は72件である。報道されなかった事件および韓米行政協定の発効前である67年以前の事件まで含めると、米軍関係者によって強姦された韓国人女性は100人をはるかに超えるであろう。強姦と強盗は67~87年の20年間に最も高い比率となっている。
 80年以後、駐韓米軍を相手とする売春女性のなかで、自然死とは異なるなんらかの原因(他殺、疑問死など)による死亡者数は27人にのぼることが明らかにされている。92年から97年10月までに米軍関係者に殺害された女性は7人である。(このうち3人は米兵と結婚した女性であり、3人は売春女性)米軍犯罪の発生件数および傾向も少しずつ変化した。
 96年の政府統計によると、93年から96年6月までに2293件の米軍犯罪が発生した(一日平均1.8件)。このうち韓国政府が裁判権を行使したのはたった107件であり、93年以降の米軍犯罪に対する裁判権行使率は2%である。(97年1~8月の米軍犯罪480件、裁判権行使率7.3%)。
 これは警察の手で立件された犯罪の統計である。基地村の住民や売春女性の場合、犯罪にあっても申告すること自体をはばかる場合が多いので、現実の被害規模は表面化したものよりはるかに深刻である。
 1990年代に入ってからは、年平均1000件と米軍犯罪が減少していることがわかる。
 犯罪の内訳も、暴力および交通死亡が最も高い順位を占めている。これは駐韓米軍の兵力が3万
7000人に縮小されたたこと、また1980年代後半から韓国で「反米意識」が広がったことと深く関係している。また、1992年10月、米兵による尹クミ氏殺害事件をきっかけとして、「駐韓米軍犯罪根絶のための運動本部」が結成され、米軍犯罪の根絶および韓米行政協定の改定を世論に訴え続けてきたことも米軍犯罪の抑制につながっている。

 米軍犯罪被害に対する損害賠償はほとんどされなかった
 駐韓米軍により被害にあった韓国人は、損害賠償も満足に受けることができない。法的には損害賠償手続きがあるが、韓国人の権利はごく限られたものである。損害賠償申請をしたところで結果がでるまでには少なくとも一年以上かかり、手続きや規定が複雑で実際にはほとんど被害者の役に立たない。賠償は被害者の権利の面からも重要であるが、賠償がきちんとおこなわれた場合、米軍犯罪を抑制する効果をもつという点でも重要である。

    2 米軍犯罪の発生原因と問題点
 米軍犯罪のの根底には不平等な韓米関係という構造的な問題がある。米軍犯罪は米軍の傲慢さと占領軍的な態度、事大主義的な韓国政府、不平等な韓米行政協定という三つの要因がはたらいて生まれたものである。
(1) 不平等な韓米行政協定
 米軍犯罪に対する処罰を実質的に妨げているのは、「韓米行政協定」と呼ばれる「大韓民国とアメリカ合衆国間の相互防衛条約第四条による施設と区域、および大韓民国における「合衆国軍隊の地位に関する協定」(Agreement under Article 4 of the Mutual Defence Treaty between the Republic of Korean and the United States of America, Regarding Facilities, and Areas and the Status of  United States Armed Forces in  the Republic of Korea) である。(略称SOSA〔ROK-US Status of Force  Agreement〕)。
 韓米行政協定の呼称は、米国が上院の批准を要さない政府間の行政協定という立場をとっていることを示す。韓国では国会の批准を経ており、駐韓米軍地位協定(あるいは韓米駐屯軍地位協定)が本来の呼称といえる。韓米行政協定は本文と付属文書である合意議事録、了解事項など三つの文書で構成されており、三つの文書は31カ条と各条に含まれる数十の条項で構成される膨大な内容となっている。
 韓米相互防衛条約は朝鮮戦争末期である1953年に締結された。これに対し、駐韓米軍の基地使用、法的身分、民事請求権、通関、関税特恵などに関する規定である韓米行政協定はその14年後にようやく締結された。防衛条約の締結と同時に結ばれるべき協定が、このように長期にわたって放置されていたのは、台湾(45年、米華相互条約。65年、在華米軍地位協定)を除いて、NATOや日本はもちろん、フィリピンと比べても異例である。
 駐屯軍地位協定のなかで最も理想的な例は51年に締結されたNATO協定であり、韓米行政協定も協定条文からみればこれにならったものだといえるが、付属文書である合意議事録、了解事項によって本協定の内容が歪曲変質し、受入れ国である韓国の主権が大きく侵害されたものとなった。
 韓米行政協定は1967年に発効し、91年に改定されたが、もっとも重要な本文は手をつけられず下位規定だけの部分的な手直しにとどまった。95年11月、韓米両軍は再び改正のための会談に入ったが、96年10月の七次交渉後は、なんの進展もみていない。97年5月22日にワシントンで開かれた韓米政策協議会において米国側は、韓米行政協定改正に関する両国の立場があまりにも違うとして延期を主張した。結局米国は5月27日、韓国外務部に今年は韓米行政協定改正交渉をおこなわないという立場を示して、改正会談は中断された。
 労働法、安全企画部法の改悪には、早朝のぬきうちによる強行採決も辞さなかった金泳三政府が、国民の人権と生命を侵害する韓米行政協定の改正問題では、米国の一声になすすべを知らなかった。

 現行協定中、米軍犯罪と関連が深い第22条、刑事管轄権の不平等条項を調べてみると次のようになる。(第22条1項)  
   米軍軍属や軍人の家族は犯罪をおこしても処罰することはできない。
 米兵の家族や軍属が犯罪をおこしたときには、米軍が刑事管轄権を行使する。では米軍は軍人のかぞくや軍属の犯罪をきちんと処罰するだろうか? そうではない。1960年、米国連邦裁判所は軍属と軍人の家族を軍法会議において裁判することを違憲だとする判決を下した。しかも韓米行政協定の合意議事録には、「平和時、合衆国軍当局は軍族および軍人の家族に対して有効な刑事裁判権を持たない」とあるため、米軍当局は軍人の家族や軍属の犯罪に対しては行政的措置のみが可能である。
 NATO協定の場合、該当国家は軍属と軍人の家族にも裁判権を行使できるように保障されており、それとはきわめて対照的である。
   韓国に専属管轄権が保障されている事件の場合にも、米国側が要請するならば韓国は専属管轄権を放棄しうる。(合意議事録第22条2項)
 米軍犯罪に対する刑事管轄権は、韓米どちらか一方 の当事国が排他的に行使しうる「専属的管轄権」と、韓米両国ともに行使しうる「共同管轄権」に分けられる。ところがこの条項によると、韓国側に専属管轄権が保障されている場合にも、米国が要請すれば韓国は放棄できるようになっている。
   刑が確定し韓国刑務所に収監中の米兵も、いつでも本国に帰ることができる(合意議事録第ニニ条、七項)
 1987年に東豆川のタクシー運転手が殺された事件をみてみよう。正当にタクシー料金を要求した運転手を米兵がカミソリで殺害したのであるが、被告はわずか3年の刑を宣告されただけであった。そしてしばらく韓国刑務所で服役したが米国の要請により本国に送還され、不名誉除隊とすることで事件は集結した。これは韓国法院の宣告の効力を実質的に無力化させるものである。
  駐韓米軍には裁判を拒否する権利がある。(合意議事録第ニニ条第九項(1)身分に応じた軍服や私服の着用を認め、手錠をかけないことなど、合衆国軍隊の威信にふさわしい条件でなければ裁判を拒否する権利をもつ)
 これは韓国の司法を信用せず、裁判を拒否する自由を米軍に与える結果を生んでいる。大韓民国の司法権を本質的に無視し、侵害するものである。米軍基地内で韓国のタクシー運転手と米兵とのあいだにいさかいがあったからといって現行犯でもないのに明確な捜査や証拠もないまま、運転手に手錠をかけ連行する米軍の態度とは対照的だある。
 このほかにも公務執行中に発生した米軍犯罪については、米軍が一次的裁判権をもつようになっている。米兵が韓国人を殺したとしても公務中のことだと主張すれば、韓国政府はその米兵を処罰することはできない(公務中であるというのは米軍当局が発行した証明書があるかどうかによるが、これは米軍当局においてのみ発行されるようになっている)。韓米行政協定は米軍犯罪にに対する韓国人の人権と生命保護にはなんの役にも立たずむしろ米軍犯罪を合法化する「免罪符」になっている。
 韓米行政協定の問題は第二ニ条にとどまらない。第五条には米軍基地の無償使用が規定されており、第四条には米軍基地返還時に原状回復義務をもたないと明示し、米軍基地の環境汚染に対する責任を回避している。これ以外にも米軍犯罪被害者の賠償申請を妨げる第二三条の民事請求権、韓国労務者の労働権を制約した第一七条労務条項をはじめとして米軍にのみ有利な内容が大部分である。韓米行政協定は一言で表すならば、米軍に特恵を与えるための合法的装置だということができる。

   駐韓米軍の問題
 駐韓米軍は、自分たちが韓国国民を守るために来ているという傲慢な考えに浸っている。
 米軍は世界平和に寄与するという美名のもとに、攻撃的に教育、訓練されている。米軍犯罪を最も多くおこしている駐韓米軍の主力、第二師団の標語が「出生は偶然(Live by Chance)、愛は選択(Love by Choice)、殺人は職業(Kill by Profession) であるのは決して偶然ではない。また、米兵中の相当数が貧民出身であり、彼らはただ金もうけのために韓国に来ている(李承晩大統領の顧問であった米軍人ロバート・オリバーは、韓国駐屯米軍3万人中2000人はごろつきだと語った。米国の文筆家ケビン・ハードマンは在韓米兵を指して、アメリカ社会のありとあらゆる無能力者と犯罪者になる素質をもった人間たちだと、インターネットに一文を載せた〔97年9月〕)。
 このような米兵の犯罪を助長しているのは、犯罪者に対する米軍当局の態度である。米軍当局は、刑事裁判で処罰されてしかるべき米兵に対しても、ほとんど注意、譴責などの懲戒で処理している。彼らにとって米軍犯罪による韓国人の被害は、ささいな問題にすぎない。
 1992年10月、東豆川で米兵マークル・リー・ケネスにより尹クミ氏が殺害された際にも、当時の駐韓米軍司令官のロバート・W・リスカーシーは一言の謝罪や反省もなく次のように恩着せがましく語っている。
「最後に、両国間の緊密な繃帯関係の一環として米軍がここに来ているという事実に留意していただきたい。40年以上にもなる我々の友邦関係を通して、実に数十万人もの米兵が大韓民国の防衛に寄与するために自分たちの故郷と家庭を離れてここに来ており・・・」

(3)
 米軍犯罪に対する韓国政府の裁判権行使率の低さは、米軍犯罪がほとんど放置されていることを立証するものである。韓国検察は殺人、強盗、強姦などの重犯罪にあたらない事件については、軽微であるとの理由でその大部分の裁判権行使を放棄している。韓国人の場合なら当然、拘束、起訴され厳重処罰される事件が、米軍の仕業なら、いつの間にか軽微な事件になってしまう。これは、駐韓米軍が韓国軍の戦時軍作戦指導権をもつ「上官」であるという問題に根ざしており、米軍が韓国の政治、軍事、経済、文化など全領域にわたり強大な影響力を行使しているためだ。
 実際に被害者たちが最も苦痛に感じているのは、米軍犯罪に対する韓国捜査機関の姿勢である。第一線の警察では米軍犯罪が発生した場合、公正に捜査するのではなく、できるだけ事件を隠蔽しようとする。とくに米兵による被害や犯罪に遭った女性たちに対しては、米兵がどんな罪を犯したのか追及するのではなく、なぜ米兵とつきあったのかと責める態度になる。女性たちが最も多く被害に遭いながらも申告したがらない理由がここにある。

 

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