真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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日航123便墜落事故から日米関係を考える NO4

2024年06月21日 | 国際・政治

 先だって、 中東のメディア、アルジャジーラは、パレスチナ自治区ガザ南部ハンユニスのナセル病院敷地内の地中から310人の遺体が見つかったと報じました。そして、ガザ当局は軍がパレスチナ人を処刑後、埋めて隠そうとした「集団墓地」だと非難し、国際刑事裁判所(ICCに捜査を要求したといいます。

 イスラエルによる学校や病院や難民キャンプの爆撃もくり返されました。戦争犯罪がくり返されてきたのです。

 また、CNNは、パレスチナ自治区ガザ地区で軍事衝突が始まった昨年10月7日以降、最初の1カ月間でイスラエル軍が数百発の「大型爆弾」を使ったことも明らかにしていました。それは、1000フィート(約305メートル)以上離れた住民らも死傷させる破壊力を持っているといいます。

 CNNとAI(人工知能)企業「シンセティック」による衛星画像などの分析で判明したということですが、その「大型爆弾」によって地面に刻まれた穴の直径は12メートル超で、500カ所以上にできていたといいます。この直径は、2000ポンド(約907キロ)爆弾が着弾した際に生じる規模と一致しているというのです。そして、ガザでの死者数の急増は2000ポンド爆弾のような「大型爆弾」の広範な利用が原因だというのです。ガザは地球上で人口密度が最も高い地域といわれており、「大型爆弾」の使用で多数のパレスチナ人市民が死ぬであろうことはわかりきったことだったと思います。だから、何度もくり返しているように、イスラエルの主張する「ハマス殲滅」は言い逃れであり、ほんとうは「パレスチナ人殲滅」、追い出しを意図しているのだと思うのです。ナチスドイツを思い出させるイスラエルの残虐な犯罪をふり返れば、「シオニズムを裏返すとナチズムになる」という高橋和彦氏の指摘は、単なる言葉遊びではないことがわかると思います。

 イスラエル独立後にネタニヤフ首相率いる政党「リクード」を設立したメナヘム・ベギンは、ユダヤ人の武装組織イルグンのリーダーとなった時にエルサレムのキング・デイヴィッド・ホテル爆破事件を実行したり、1948年の第一次中東戦争において、「デイル・ヤシーン村事件」といわれるパレスチナ人村民虐殺を行ったことで知られています。「パレスチナ人は2本足で歩く野獣である」と公言し、村民皆殺しを実行するようなテロリストが、イスラエルの政党「リクード」を設立しているのです。

 だから、ユダヤ人である世界的科学者、アイシュタインは、この村民虐殺に怒り、「その組織、手法、政治哲学、社会的訴えにおいてナチスやファシスト党と酷似している」と批判したこと、また、「過去の行動から、将来何をするか予想できる」と述べたこと(朝日新聞・佐藤武嗣)は、現在に通じる指摘であり、忘れてはいけない指摘だと思います。パレスチナ人を容赦なく殺し、追い出そうとしているイスラエルのユダヤ人(シオニスト)を容認してはいけないと思います。「シオニズムはナチズムの裏返し」であり、現在イスラエルを主導する政権は、ナチズムの野蛮性を持って、パレスチナを攻撃していると捉え、糾弾し、さまざまな制裁を加える必要があると思います。「ハマス殲滅」を掲げつつ、実は、パレスチナの地から、パレスチナ人を排除しようとしているイスラエルを容認してはいけないと思うのです。

 

 でも大戦後も、国際法に反する犯罪をくり返してきたイスラエルに、いまだ何の制裁も加えられない理由は、はっきりしています。

 だから、BRICS加盟国が拡大し、国際社会でアメリカ離れが進んでいるのは不思議ではないと思います。グローバルサウスが「ウクライナ平和サミット」の「共同声明」を支持しないのも、当然だと思います。そうした国際社会の大きな流れに逆行するようなG7の外交や対外政策では、世界平和は実現できないと思います。上川外相は、ハマスのイスラエル襲撃を非難し、イスラエルに連帯を表明しましたが、取り消すべきだと思います。 

 

 The cradleは、下記のようなことを伝えています。見逃すことができません。

A senior doctor from Gaza was killed in November while under interrogation by the Shin Bet, Israel's internal security service, Haaretz reported on 18 June.

 618日、ハアレツ紙が伝えたところでは、ガザ地区の上級の医師が、イスラエルの国内治安機関シン・ベトの尋問で殺害された、というような内容です。

 イスラエルにとっては、パレスチナ自治区ガザ地区で活動する国連機関(UNRWAの職員や医師も、不愉快な存在であり、ハマスと同類と見なされているのだろうと思います。

 

 そうしたイスラエルを支えるアメリカの正体を捉えるために、今回も「日航123便墜落 疑惑のはじまり 天空の星たちへ」青山透子(河出文庫)から、「3部 乱気流の航空業界 未来はどこへ」の「第一章 過去からのメッセージ」「群馬から通学している学生が抱いた疑問 その① 墜落地点報道」を抜萃しましたが、こうした疑惑が解明できない日本の現実を、はやく何とかしないと、恐ろしいことになるような気がします。台湾有事は、「ブチャの虐殺」のような中国軍による残虐事件のでっち上げをきっかけに、始められるような気がするのです。

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               3部 乱気流の航空業界 未来はどこへ

                 第一章 過去からのメッセージ

群馬から通学している学生が抱いた疑問 その① 墜落地点報道

・・・

 その中のひとりで、高崎市から通っている学生Hが、大きな群馬県の地図を黒板に広げて貼った。そして、墜落地点となった御巣鷹山の尾根を細長い棒で示しながら説明を始めた

・・・

 次に墜落地点が定まらなかったことに関して、地元の人々の声を聞いてきたことを話した。

 確かにあの時、テレビでは長野県北相木村の御座山、埼玉、長野、群馬の県境にある三国山、上野村の小倉山、諏訪山、ぶどう峠などを墜落場所と報道していた。

 学生Hは、それぞれの報道された場所に赤い丸印のマグネットをつけていた。

 しかし、地元ではそれらの場所について、どうも違うとの意見があったということだった。

 まず上野村の対応だが、夕方のNHKニュースの速報を聞き、812日の夜8時には上野村防災行無線で村民に一斉放送を行っていたのだ。日航機墜落事故に関する情報を連絡するように協力を依頼したのである。

 テレビはその後長野県北相木村付近に墜落したと報道していたのだった。

 しかし上野村では墜落現場が上野村と考えられると独自で判断し、2012分に職員招集をして、役場では村内放送して村民から情報を集めたところ、やはりほとんどが御巣鷹山方面(高天原山付近)との答えであった。村民たちは、自分の村に落ちたことをすでに気付いていたのである。

 説明する学生Hの顔をみんなが見た。

 ・・・

 学生Hは続けて「生存者を一番先に発見したのは地元の消防団だったんです」と発表した。

え!、なんとそんなわけだったの!」学生が口々に叫ぶ。

 一番先に生存者を発見したのは、地元の上野村消防団の人たちなのか!

 どうしても自衛隊のヘリで吊り揚げられたイメージが大きく、私たちはすっかり勘違いをしていたようだ。

 学生Hは「このスゲノ沢辺りで生存者が発見されました」と、地図を指した。

 突然、静けさを破る声が教室に響いた。その声の主である学生Iは、黒板の地図を指さしていた。「みんな、見てよ。地図、ほら、ぐるっと一周り、サークルだわ!」

え? なになに、サークルって?」

 学生Iは、教壇前に走り出て地図の前に立ち、群馬県上野村周辺を指さした。そこは先程、墜落現場がコロコロ変わったということで赤マルをつけた部分である。

埼玉県三国山」「長野県御座山」「上野村小倉山」「上野村ぶどう峠」

 一つひとつそれをなぞっていくと、楕円にゆがんでいるが一つのサークルとなった。

 なんと本当の墜落現場である御巣鷹の尾根、報道での通称「御巣鷹山」となっている場所を中心に、それらのおもな山や峠は等距離の場所に点在するのだ。

 逆に見ると、墜落現場を中心として円が描ける。まるでコンパスの軸を御巣鷹山に起き、ぐるりと円を描いていたようだ。その円の周りに事故当初に間違った墜落場所名が入り込む。その距離は8キロから10キロの5Nマイル(海里)くらいの計算となる。(1Nマイル=1.852メートル)

 5マイル、およそ9キロは急な山を登り降りしているうちに、78時間が経ち、夜明けを迎える時間となる距離だ。日が昇り、明るくなってから言い訳するとしたら、これぐらいの誤差は仕方がないと言える距離だ。

 もしかすると誰かが地図をテーブルの上に置いて、本当の墜落現場である御巣鷹山にコンパスの軸を置き、ぐりと回す。そこに引っ掛かってくる山や地図上に名前のある場所を次々と言って、そちらが墜落現場と言えば、地上では皆、散ってバラバラに探し始めるではないか。

 そうこうしているうちに太陽が出てくる。そして本当の墜落現場をそれの中心に位置する御巣鷹山 と分かる。それぞれの場所から集合するはめとなる。これならば、現場の人々の証言とも一致する。

・・・

 もしそうならば、なぜ意図的に散らしのだろうか。いずれにしても、なぜそのような誤場所報道がなされただろうか。

 墜落現場の発見が遅れたことに関しては、当時の植村の村村長、黒澤丈夫氏もはっきりと異議を唱えていらっしゃった。地元の学生が言うには、黒澤村長とは、過疎の村にこのような立派な経歴の方がいるのかと誰もが思うような人だという。

 ・・・

 その黒澤氏は自らの戦争体験やパイロットとしての科学的な根拠をもって、事故当時の墜落地点の計測ミスについて大変な憤りを感じていた。

 将来のためにどうしても伝えなければならないことがあるとして、ご自身の著書『道を求めて─憂国の7つの提言』(上毛新聞出版局)でも特に次の二点について語っておられる。

 ①12日午後8時頃は、上野村南西部上空をヘリが盛んに富んでいた。

 火災も確認し、遭難地はここだと判断していたのだが、いったい誰が、いかなる判断で、長野県の北相木村御座山と断定したのか。

 これによって、一番大切な救難が混乱によって遅延し、その責任は大きく、断定は慎重に正確にすべきであった。夏山では火災の心配などない。また位置の特定は日本で技術的にも充分可能なはずであり、地上の者に正確な墜落場所を教える事は絶対に不可欠なことである。

②この時、誰が最高責任者であったのか。誰が総合指揮権を持っていたのか、まったくよくわからないままに、いくつもの対策本部が置かれて体制が整っていないことを実感した。国においても、誰が最高責任者だったのか、国政の中で、誰が統合して指揮をしていたのか、その実態はどこにあったのか、まったく見えなかった。

 こんなことで、今後の防衛や天災に果たして対処できるのか。将来のために今一度考えて備えておく必要性を現場にいて痛感した。

 突然の事故現場となった上野村で、滞りなくどうにか対策本部が形になっていったのも、黒澤丈夫村長がいたからだ、という声が多かった。現に、遺族側の人たちも、日航側の人間もそして現場にいて様々な仕事をしなくてはならなかった人々も、それぞれの胸の奥にある想いをすべて汲んでもらい、癒していただいたのも上野村の人々によるところが大きかった。お互いの立場を思いやったのも、黒澤村長の思慮深い言動によるものだったという。

 

 



 

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日航123便墜落事故から日米関係を考える NO3

2024年06月18日 | 国際・政治

 国際社会は、”二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害”を経験し、国際社会のトラブルを解決するために国際司法裁判所を設け、その基本方針を国連憲章に定めて、相互に”寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互に平和に生活し、国際の平和および安全を維持するためにわれらの力を合わせ、共同の利益の場合を除く外は武力を用いないことを原則”とすることを約束しました。

 でも、大戦後世界を主導してきたアメリカは、世界中に米軍基地を置き、国際司法裁判所を利用することなく、戦争や武力行使をくり返してきたと思います。法に基づいてトラブルを解決してこなかったのです。

 先日、「ウクライナ平和サミット」がスイスで開かれましたが、それは、ロシアを排除した一方的なサミットで、「平和」サミットといえるようなものでなかったと思います。発表された「共同声明」もそのことを示していると思います。

 日本国憲法には第32条に、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」と規定し、国民の裁判を受ける権利を保障しています。だからその考え方で、ロシアを排除した今回の「ウクライナ平和サミット」を捉えれば、その「共同声明」は、ロシアの権利や主張を考慮しておらず、法的には意味のないものだと思います。そういう意味で、サミットでのサウジアラビア外相の発言はきわめて重要だと思います。

 なぜ、国際司法裁判所を利用し、国連憲章の基本方針に沿ってきちんと法的に争わないのか、と思います。「ウクライナ平和サミット」の「共同声明」では、

1、ウクライナを含むすべての国家の主権と領土保全の尊重

2、原発の安全確保と核兵器使用の威嚇禁止

3 、食料安全保障とウクライナ産農産物の安全かつ自由な輸出

4 、強制連行されたウクライナ市民の帰還

5、戦争犯罪の責任追及、

6、ウクライナの復興

7、紛争の平和的解決に向けた外交努力の継続

などが盛り込まれているといいます。でも、ウクライナとロシアのトラブルを、ウクライナの言い分だけで解決しようとすることには問題があります。上記の17のすべての内容に、ロシアは異議があると思います。そのロシアの異議を無視することは、法を無視することです。「法の支配」を認めないことです。

 一例をあげると、プーチン大統領に逮捕状が出されたのは、ウクライナの占領地から違法に子どもを連れ去ったという戦争犯罪の嫌疑によるものでした。でも、ロシア側は、連れ去ったのではなく、保護したのだといっているのです。

 ロシアは、アゾフ大隊を中心とするウウライナ軍の攻撃を受けているドネツク・ルハンシク州を中心とする地域で、両親を亡くし孤児院や社会福祉施設にいた子ども、また、父親が強制的に動員され、母親も出稼ぎに行くなどして、養育困難に陥っている子ども、さらに、祖父母や知人に預けられ、経済的な理由などから養育に適切な環境でない状況にあると思われる子ども、親が収容所に送られるなどして、親と離ればなれになっている子どもなどをロシアに移送し、保護したといっているのです。だから、「連れ去りではなく、保護」だと言っているのに、それを一方的に連れ去りと断定して、戦争犯罪だというのは、いかがなものかと思います。実態はわかりませんが、法に基づけば、裁判所がロシアの主張に耳を傾け、きちんと調査をして、結論を出すべきだというのです。

 このロシア側の主張の詳細をもう一度確認し、情報源を示したいと思ってアクセスを試みたら、”404 Not Found 該当するページが見つかりません。ページは削除されたか、移動された可能性があります”と表示されました。だから今度は、グーグルの「Gemini(ジェミニ)」を使って、関連のサイトにアクセスし調べようとしたら、”ロシアによるウクライナの子ども連れ去り問題について、ロシア側の主張をそのまま伝えている日本語メディアは、情報公開の制限や検閲の影響もあり、現時点では確認できませんでした”という回答だったので驚きました。こんな情報でさえ、制限され、検閲の対象になるのかと思ったのです。ウクライナ側の情報はいろいろ出てくるのに、ロシア側の情報は制限され、検閲の対象になるというのは、なぜなのか、と思います。ずいぶんおかしな世の中になったように思います。

 「ウクライナ平和サミット」には、およそ90カ国以上の首脳や代表が参加したといいますが、ロシアはもちろん、ラテンアメリカの国々や中国は参加していません。また、「ウクライナ平和サミット」で採択された「共同声明」には、サウジアラビアや南アフリカ、インドなどおよそ10か国が支持しなかったともいいます。なぜなのか、ということを理解することが大事だと思うのですが、報道はありません。

 

 また、この「ウクライナ平和サミット」の報道が続いている最中、20240613日、”タイの閣議で、BRICS加盟に向けた意向書が承認された”という報道がありました。BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国によって2006年に設立されたということですが、2024年年1月からエジプト、イラン、エチオピア、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビアが加盟していると聞いています。かつて植民地支配をされた国々が手を結び、植民地支配をした国々に対抗しようとしているように見えます。そして、拡大が止まらないのです。

 日本は、かつて植民地を支配をした国としてG7に加わり、アメリカのお手伝い外交をしているようですが、それは、国際社会の流れに逆行し、日本国民を疲弊させるものだと思います。

 

 下記は、「日航123便墜落 疑惑のはじまり 天空の星たちへ」青山透子(河出文庫)から、「第3部 乱気流の航空業界 未来はどこへ」の「第一章 過去からのメッセージ」「●米軍の証言記事 事故から十年後に見えた真実」を抜萃しました。

 著者の青山氏が指導する学生たちの素朴な疑問と、素直な感情が、日航123便墜落事故の救助活動がすぐになされなかった問題の重要性を露わにしていると思います。

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                 3部 乱気流の航空業界 未来はどこへ

                   第一章 過去からのメッセージ

 

 ●米軍の証言記事 事故から十年後に見えた真実

 1995年の829日の新聞は、学生たちにもうひとつの衝撃と疑問を与える記事だった。この記事については、インターネット上で色々と付け足しの情報があるが、学生Gは、シンプルに新聞各紙を読んで考えてきた。

 米軍の準機関誌である『パシフィック・スターズ・アンド・ストライプス』(星条旗新聞)の8

27日付号が報道した内容は次の通りである。証言をしたのは、当時、米空軍第345戦術空輸団に所属していた元中尉のマイケル・アントヌッチ氏だ。

 

1985812日に発生した日航ジャンボ機墜落事故直後の当日夜、640分ごろ、C130輸送機で沖縄の嘉手納基地から横田基地に戻る途中の大島上空にて、日航機の機長が緊急事態発生と告げる無線を傍受した。墜落の20分後には群馬県上野村にある御巣鷹の尾根の墜落地点に到達して煙が上がるのを目撃した」

 

 この報告を受けて同日午後95分に米海兵隊救難チームのヘリが厚木基地から現場に到着して、隊員がロープで現場に降りようとしたのだが、在日米軍司令部がある横田基地に連絡をすると担当の将校が「日本側が現在現場に向かっているので帰還せよ」という帰還命令を出したという。

 事故の生存者のひとりで日航アシスタントパーサーだった落合由美さんの証言では、「救助ヘリコプターが上空で回っているのがわかった。手を振ったが気付いてくれなかった。自分の周りでは数人の子どもたちの声が聞えたがそのうち聞こえなくなった」と言っている。これについてアントヌッチ氏は、落合さんが見たのは海兵隊のヘリだった、と証言しているのである。

 このことを伝える日本の各新聞記事をまとめると、在日米軍のヘリコプターが自衛隊より約12時間も早く墜落現場上空に到着しつつも、上官の指示で現場には降りなかったということである。

 最後にこの元軍人は、「在日米軍は事故直後にすでに現場を発見しており、もっと多くの命を救えたはずだ}と述べている。

 新聞記事はこの程度の内容でしかないが、この文章を読むと、一気に重い空気が教室中に流れた。

「信じられない!」

「冗談じゃないよ!」

「これじゃ、まるで見殺しじゃないか!」

「アメリカが知っていたのなら、日本も知ってたってこと?」

「墜落現場がコロコロ変わって不明だというのがNHKの報道だったんじゃないの?」

「落合さんが生きている人がもっといたって証言していたのに……」

「結局朝まで墜落現場が分からないと言ったじゃないか!」」

 若い彼らの憤りは止まらなかった。彼らだけでない。恐らく、この事実を聞いた人、この記事を読んだ人たちの全ての気持ちは同じだ。怒り以外の何ものでもなく、心底驚いた証言である。こんな重大なことが事故後10年も経ってからはっきりとした形で明らかになったのである。

 事故発生から深夜にかけて、確かに墜落現場は二転三転した。最終的には次の日の早朝、空が明るくなってから明確になったのだが、それでもまだNHKは異なる場所を繰り返し報道していた。

 事故当初の報道では明け方まで墜落現場は分からなかったとあるが、報道機関に偽りの情報が知らされていたということか……なぜ日本側は分からないふりをしていたのだろうか?

 しかし、十年後の元軍人のこの証言によれば、墜落のに20分後に墜落場所は群馬県上野村、御巣鷹の尾根付近とはっきりわかっていたことになる。

 そうなのか。墜落地点は墜落後20分後にすでに分かっていたのだ……。

 

 この日は米軍輸送機C130から連絡が防衛庁・空幕に入って、その直後、日本側は茨城県百里基地を緊急発進したF─4EJファントム戦闘機二機も場所を確認したという動きが記録されているが。正確な現場の位置を特定したのは翌朝であった。

 緊急時、生存の可能性を考えて1分でも1秒でも早く救助しなくてはならないことは、私自身も何度も行ったエマージェンシー訓練で実感しているが、こんな事は誰でも分かる。

 学生たちは怒りの声で叫んだ後、皆黙りこくってしまった。

 そこに何か恐ろしい不作為を感じたのであろう。直感的におかしいと思うのは当然である。当たり前の救助が行われなかった理由がどうしても見えてこない。

 あの時の報道で、自衛隊員が一生懸命生存者を救助し、ヘリコプターで吊り上げている写真は大変印象深かった。これほどまでに私たちのために頑張ってくれているのだという印象がとても強かった。実際に自衛隊員の家族がいる学生も多く、彼らはそれを誇りに思っていた。

 しかし、なぜ米軍が帰還命令を出してせっかくの救出もせずに戻り、その連絡を受けている日本側はそれより10時間も後に現場に到着したのだろうか。

 繰り返すが、落合さんの証言では、墜落直後は周りでたくさんの声がして、子どもも「頑張るぞ」と叫んでいたとのことである。多くの人たちが実際に生きていたのである。

 まさかそれを見殺しにするつもりで、わざわざ遅く行ったわけではないだろう。

 人命よりも大切な「何か」を守るためだったとでもいうのだろうか。

 何かを隠している?

 何のために?

 学生たちは、それぞれの頭の中で、その疑問点を解決すべく、いろいろと考えをめぐらせていたいった。場所を教えられても、技術や装備がなくて、米軍のように充分対応出来る訓練された人もいなくて、残念ながら日本側はすぐに現場にたどり着けなかった、そのことを国民に知られたくないから隠しているのだろうか ……。

 そこから見えてくる真実は、愚かな人間の単なるメンツなのか、浅はかな悪知恵なのか、ずるい人間の欲望なのか…。

 次々と浮かぶ疑問に、新聞記事の切り抜きだけでは答えが見えてこないような気がする。

 

 いずれにしても、10年後に見えた真実とは、墜落現場は墜落後20分ほどで分かっていたということだ。米軍が人命救助の為に現場に向かったヘリコプターから救助隊が降りる直前に帰還命令が出て降られなかった。日本側が断ったのか? それともそれは何らかの作為だったのか。誰かの指示によって、せっかく生き残っていた人たちがなくなったのか。消し去りたくても消せない疑問が次々に頭に浮かぶ。

 なお、テレビでもこのことを取り上げた番組あった。アントヌッチ氏はこの事実を誰にも語るなと言われていたそうである。ご自身は事故を伝える翌日の報道を聞いて愕然としたという。

「なんと、あれからすぐに救助したのではないのか、朝まで墜落現場不明とは? なんということだ。もっと多くの人を救出できたのに…」と絶句した、と手記の中で、その胸の内を明かしている。(カリフォルニア州サクラメント市発行『サクラメント・ビー』、1995820日付)

 学生たちはあの機内写真を見た後だけに、墜落現場で救助を待っている人たちの果てしない苦しみ、生きる希望、深い絶望、それらすべて思い、乗客や乗員の気持ちを敏感に感じ取っている。さらに、当時その現場に直行した人間が、10年間も明らかに出来ずにいたことについては次のような意見がでた。

 ある学生は、

もし日本の証言によって。真実が明らかになるとするならば、堂々ともっと早く証言してほしかった。この人はまだ人間としての最後の勇気があったが、日本側には、未だに話す人がいない。話す度胸もない人がいるということが同じ日本人として信じられない。知っていたら、今からでも教えてほしい」と語り、別の学生は、

もっともっと生きたかった人たちの叫び声を聞かないふりをする人とは、いくら任務だ、命令だと言っても信じられない人間だ。そのような人と結婚もしたくないし、同じ社会で暮らしたくない。万が一、生活のためや家族を守るためと言って、自分の父親が事実を沈黙するような人間だったなら、子供として許さない。だってもしかしたら自分の子供が犠牲になったのかもしれないじゃない! 

 子どものために黙っていたなどと言って欲しくない」と真剣に話す。

 

 立場でものを言う人はいるが、立場で沈黙する人もいるということが分かったということだ。日本側の対応を追及する記事がひとつもないのが残念だ。記者魂もないのだろうか、と私も思う。

 最後に学生Gは、

そのことを証言した元軍人は人として当然の行為である。もし自分の父親がその軍事さんの立場だったとしたら、そのような発言した父親を心から尊敬する」と意見を述べた。

 




 

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日航123便墜落事故から日米関係を考える NO2

2024年06月14日 | 国際・政治

 先日の欧州議会選挙で極右や右派が躍進し、ヨーロッパ諸国の指導者が混乱状態にあるという報道がありました。フランスのマクロン大統領が、歴史的大敗を受けて国民議会(下院)の電撃解散に踏み切ったということもくり返し報道されました。

 でも、その混乱の原因についての分析や考察が、適切になされているとは思えません。確かに、ヨーロッパ諸国で極右や右派が権力を握ると、国際社会は、ふたたび大戦前のような不安定な状況にもどってしまうと思います。でも、現在のG7NATO諸国の主導する国際社会も、行き詰まりを打開できる見通しはなく、G7NATO諸国の合意政策を継続する限り、混乱状態を脱することはできないと思います。

 そして、行き詰まり打開の道は、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELACの「カラカス宣言」や「カラカス行動計画」が示していると思います。

 2011に、ベネズエラの首都カラカスで開かれた中南米諸国33カ国の首脳会議で、「南アメリカ解放の父」と言われる英雄シモン・ボリバルを共に称賛し、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)設立原則を「カラカス宣言」と「カラカス行動計画」に記して、満場一致で採択したということが、新しい国際社会を生み出そうとする動きであると思います。ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELACの加盟国が、アメリカ合衆国とカナダを除く33カ国であるということがそれを示していると思います。だからそれは、欧米による搾取や収奪、また、新植民地主義的な支配を拒否ということだと思います。

 同じように、アフリカ大陸にも、「アフリカ合衆国」の構想があります。アフリカ合衆国(United States of Africa)は、アフリカを統一国家とする構想で、クワメ・エンクルマやムアンマル・アル=カッザーフィーが提唱し、2007年、アフリカ連合9回サミットで、当時のリビアの指導者カッザーフィーが、具体的な提案したといいます。そして、現在もアフリカ連合において議論が継続されているといいます。反米主義者とて知られるカッザーフィーは、政治や経済の統合を進めて、欧米に対抗しようとしたのです。だから、この「アフリカ合衆国」の構想も、アフリカ諸国が結束して、欧米の搾取や収奪、また、新植民地主義的支配を拒否しようとするものなのだと思います。
 したがって、西アフリカのニジェール軍事政権が、フランスやアメリカに軍部隊の撤退を要請したことも、そういう流れのなかで、見る必要があると思います。ニジェール国内で欧米諸国への嫌悪感が高まり、デモがくり返されていたといわれているのです。

 大航海時代以来、欧米諸国は、ラテンアメリカやアフリカ、中東やアジアの国々を植民地支配し、吸い上げた利益で繁栄してきたといえると思います。戦後、多くの国が独立し、直接的な権力支配はあまり見られなくなったとはいえ、新植民地主義といわれるような新しいかたちの支配が、現在なお続いていると思います。だから、欧米が主導する国際社会、すなわち、搾取や収奪、新植民地主義的な他国支配、さらには、戦争がくり返される国際社会では、混乱状態を脱することはできず、根本的に解決されることはないと思うのです。

 そうした欧米の搾取や収奪、新植民地主義的支配を象徴するのが、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザに対する攻撃ではないかと思います。

 先日(68日)、IDF(Israel Defense Forces)のダニエル・ハガリ報道官は、パレスチナ自治区ガザ地区中部のヌセイラト人質救出作戦を実施し、人質4人の救出に成功したと発表しました。また、「120人の人質を取り戻すためにあらゆることを行う」とも述べたといいます。それは、国際法を守る意思はないということだと思います。

 パレスチナ自治区ガザの保健省は その人質救出作戦で、8日、283が死亡し、1日の死者数としては昨年12月半ば以降で最多を記録したと発表しているのです。でも、イスラエルがそれを受け止める様子はありません。きわめて差別的だと思います。ふだんは表に出て来ない欧米の差別性が、ハマスの攻撃を受けたイスラエルによって、露わにされることになったのだと思います。

 ネタニヤフ首相も、シェバ病院で救出された人質4人とその家族と面会した後に声明を発表し、そのなかで、「ハマスが人質を全員解放することを期待しているが、もし解放しないのであれば、われわれは人質を全員帰国させるためにあらゆる手段を講じる」と述べたといいます。一方的な主張であり、強引だと思います。そうした一方的で強引な主張が出てくるのは、民主主義を装いつつ、搾取や収奪、新植民地主義的な他国支配を続け、大戦後も各地で戦争をくり返し、武力行使をくり返してきたアメリカの差別的な戦略の影響だと思います。でも、アメリカは国際社会の反発を招かないように、うまくつくり話を交えて、自らの戦争や武力行使を正当化してきたのです。でも、情報手段の発展や世界的な交流の深まり、中国の著しい成長などによって、徐々に通用しなくなり、世界的にアメリカ離れ(欧米離れ)が進むことになったのだと思います。

 アメリカ合衆国とカナダを除く33カ国によるラテンアメリカ・カリブ諸国共同体の設立や、「アフリカ合衆国」構想が話し合われている理由は、欧米による搾取や収奪、また、新植民地主義的支配を拒否しようとする姿勢が背景にあるのだと思います。グローバルサウスやブリックスが力をもつようになってきたのも、そうした流れと切り離して受け止めることはできないと思います。

 岸田首相や上川外相が世界を飛び回って、グローバルサウスやブリックスの切り崩しに努めているようですが、国際社会の流れや発展に逆行するものであり、日本の利益にも反すると思います。

 そして、そう考えざるをえないような問題は、いたるところにあるのです。だから、今回も

日航123便墜落 疑惑のはじまり 天空の星たちへ」青山透子(河出文庫)から、「3部 乱気流の航空業界 未来はどこへ」の「第一章 過去からのメッセージ」「●不起訴の理由」の続きを抜萃しました。

 前回は、ボーイング社が日航123便墜落事故の関係者に対する検察の聴取を拒否したために、関係者全員を不起訴処分にせざるをえなかったことが中心でした。

 今回は、「隔壁破壊によって垂直尾翼が飛び、油圧配管が切断されて操縦が不能になった」という日航123便墜落事故の原因とされる話が、実は、「つくり話」である可能性が大きいという重大問題が中心です。

 下記のような記述を見逃すことができません。

私が検事正になったとたん、すでにマスコミが『検察不起訴か』などと報道し始めた。いったいどうなっているのかと驚いた。さらに捜査会議を開いたら、部下の検事はだれもこの事件は起訴できないと言った。

 タイ航空機事故では、”乗客の証言からはドーンというは破壊音とともに、機内与圧が急激に低下し、白い水蒸気のような気体が充満したことが明らかになっている。乗客乗員、89名が一瞬で航空性中耳炎になった。山口氏は日航機事故では「それがなかった」と指摘、従来の隔壁説に大きな疑問を投げかけている。さらに山口氏は一気に発言している。”

ボーイングが修理ミスを認めたが、この方が簡単だからだ。落ちた飛行機だけの原因ならいいが、全世界で飛ぶ飛行機の欠陥となると売れ行きも悪くなり、打撃も大きくなる。そこで、いち早く修理ミスとした”

山口から日航関係者への意見として、「整備陣もやるべきことをやっていなかった事実もある」ということや、彼らが最後まで非協力的であったという事実、さらに任意で事情を聞くと、必ず調書を一言ももらさず写して帰り、地検に呼んだ日本航空の人間すべてが判で押したような答えをする、と書いてあったという発表も付け加えた。”

事故に対しての責任を微塵も感じさせない振る舞いで苛立った捜査員が机を叩くと「✕時✕分、✕✕氏が机をたたく」ということまでメモしているということである。

 日航123便墜落後、東京地検検事が渡米して、ボーイング者側の事情聴取が行えるように米国司法省と協議を重ねたのに、捜査協力がえられず、ボーイング社より関係者の聴取拒否と回答されたために、膨大な事故に関わる資料や調書類が闇に葬られることになり、誰も起訴できず、賠償を得る可能性もなったところに、アメリカという大国の支配の「力」が見える、と私は思います。差別的だと思います。

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                 3部 乱気流の航空業界 未来はどこへ

                   第一章 過去からのメッセージ

 ●不起訴の理由

 ・・・

 なお、この事件を担当した山口悠介前橋地検検事正は遺族側からの強い要望で異例の説明会を開いたそうである。(1990717日に実施)

 それについての記事が時効直前の83日付毎日新聞朝刊に載っているのを取り上げた学生Fの発表が、その検察側の意見を反映していて、別の角度から物事を考えさせるきっかけとなった。記事の内容は以下の通りである。

 

 ゆったりと流れる利根川が見える前橋地検三階にある検事正室で遺族側21名、弁護士2名で山口氏との説明会は5時間にも及んだとある。

 山口氏はこの年の前年、19899月まで東京地検の次席検事であり、リクルート事件、平和相互銀行事件など、数々の政財界の汚職事件を手掛けている。いわばやり手の検事である。

 その山口氏はこう述べている。

私が検事正になったとたん、すでにマスコミが『検察不起訴か』などと報道し始めた。いったいどうなっているのかと驚いた。さらに捜査会議を開いたら、部下の検事はだれもこの事件は起訴できないと言った。それでも私は様々な角度から捜査した。

 捜査の結果、わかったことは修理ミスかどうか相当疑わしいということだ。事故原因にはいろいろな説がある。タイ航空機の時には、乗客の耳がキーンとしたという声があったが、今回はない。圧力隔壁破壊がいっぺんに起きたかどうかも疑わしい」

 この発言の中にあるタイ航空機事故は19861226日、高知県上空で起きた事故で、機体後部の圧力隔壁が破損して、大阪国際空港に緊急着陸した、前述の事件である。

 この時、乗客の証言からはドーンというは破壊音とともに、機内与圧が急激に低下し、白い水蒸気のような気体が充満したことが明らかになっている。乗客乗員、89名が一瞬で航空性中耳炎になった。 山口氏は日航機事故では「それがなかった」と指摘、従来の隔壁説に大きな疑問を投げかけている。さらに山口氏は一気に発言している。

まず、ボーイングが修理ミスを認めたが、この方が簡単だからだ。落ちた飛行機だけの原因ならいいが、全世界で飛ぶ飛行機の欠陥となると売れ行きも悪くなり、打撃も大きくなる。そこで、いち早く修理ミスとした。

 事故調査委員会の報告もあいまいだ。(膨大な書類を指して)これを見ても真の原因分からない。事故後の機体や遺体の写真、ボーイング社、日航、運輸省関連調書、何を見ても事故の報告書でしかなく、それからは本当の原因などは何もわからない。皆さんはわれわれが何か特別に大切なものを持っているように思っているかもしれないが、本当に原因が不明なのです」

 そう言って、すべての書類が入ったキャビネット20本以上を遺族に見せた。その凄惨な事故の写真の数々を見た遺族たちは言葉を失ったという。

 

 学生Fは言った。

この担当検事自らが語ったのはすごいことだと思います。事故調査の結果、委員会で出した結論が疑わしいということを言っているのですから、本気だと思います。

 隔壁破壊によって垂直尾翼が飛び、油圧配管が切断されて操縦不能というのが事故の原因とする隔壁説だとすると、それに対して意見を言った山口検事の心には何か思うところがあったのでしょうか。ただ残念ながら、遺族はその気持ちを違う方向で受け取られたようです。なぜならば、『何をいまさら! 言い逃れか! それは、あなたたち検察が十分調査をしなかった、自分の仕事をしなかったからなのではないか』と言って、怒ってしまっているからです。つまり、検事の言い訳ととったようです。さらにそれを聞いたS評論家はこんなことを言いました。

わが国最高のメンバーである調査委員会の報告書を疑うならば根拠を示せ』

 こう言われてしまった山口検事は大変不愉快だったと思います。なぜならば、ここまで自分は正直な話をしているのに、この評論家はメンバーの評価だけを言っている、つまり、内容を客観視せずに運輸省側のために言っているような御用評論家だと思われても仕方がないでしょう。しかし結局は、山口検事の発言は無責任すぎる、という記事内容でした。でも、今となってもう一度、ゆっくり客観的に読んでみると、もし無責任ならば、わざわざこのような説明会など開かないのではないか。いくらでも避ける方法はあるはずで、むしろ、山口検事の心の中にあるわだかまりと良心がこのような発言をしたという見方は出来ないだろうか。と、そう感じたのです』

 

 なるほど、この学生の意見には感心した。物事を客観的に見る目がとても鋭い。私自身も気付かなかったことである。しかし「遺族の人たちは納得いかないだろうな」と思った。「そう考えるのはちょっと無理だろう」という意見も出た。

 また、山口から日航関係者への意見として「整備陣もやるべきことをやっていなかった事実もある」ということや、彼らが最後まで非協力的であったという事実、さらに任意で事情を聞くと、必ず調書を一言ももらさず写して帰り、地検に呼んだ日本航空の人間すべてが判で押したような答えをする、と書いてあったという発表も付け加えた。

 

 写して帰って同じ答をするということは、何を意味しているのか。

 自分を守るためにやってるのか、会社を守るためにしているのか、よく分からない。

 誰かが、「こんなおやじ最低!」と叫ぶ。

 さらに、事故に対しての責任を微塵も感じさせない振る舞いで苛立った捜査員が机を叩くと「✕時✕分、✕✕氏が机をたたく」ということまでメモしているということである。

 なんと情けないことだろうか。

 同じ会社の社員だった者として、これは許せない態度である。学生たちもこんな上司なら、すぐ会社を辞めたくなると言った。

 彼らは整備士という仕事に人生を懸けたプロの集団だったのではないか。

 自ら責務を持って仕事をしてたのではないのか。

 私もさすがに憤った。これがナショナルフラッグキャリアの看板を背負って昼夜問わず働いた仲間のすることなのだろうか。「何時何分、机をたたく」と書くことに何の意味があるのか。

 520名の命を考えるとその態度はどういうことなんだろうか。

 何を守り、何をしなくてはいけないか、分かっているとは思えない。会社の内部にいると世の中がまったく見えないものなんだろうか。

 学生たちは就職した職場をイメージして、これでは風通しが良いとは言えないし、自分がそれを強いられたらどうしようか、真剣に考えている。

 弱い立場の人間は、なかなか本音が言えるものではないということは分かる。

 ましてや修理ミスの嫌疑がある人たちは、どうしたら良いのか分からなかったのか。

 それでは、会社側が契約している弁護士たちにアドバイスされたのか。だとしたら、その弁護士は、それで何を守ろうとしていたのだろうか。

 法曹界で働く身内がいる学生は次の授業までに意見を聞いてくることも、この日の課題となったのである。

 ただ学生たちは、そんな態度をとる人間がいる職場では働きたくないというのが、共通の結論だった。私にとっては非常に悲しく、残念な意見であった。

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日航123便墜落事故から日米関係を考える NO1

2024年06月11日 | 国際・政治

 先日(69日)、朝日新聞に、”From The New York Times ニューヨーク・タイムズから読み解く世界 Drones Changed This Civil War Linked Rebels to the World ミャンマー 抵抗勢力は世界とつながる ドローンが変える軍事政権との戦い” と題する写真入りの記事が、でかでかと掲載されました。何の検証も、批判も、解説も、感想さえもない記事でした。世界を読み解くためには、ニューヨーク・タイムズを読めばよい、といわんばかりの内容に呆れました。

 日本のメディアとしての主体性の放棄ではないかと思ったのです。そんなことでは、平和な世界はつくれないと思いました。

 そういえば、ウクライナ戦争に関わる記事でも、朝日新聞記者が現地に取材に入って書いたのではなく、アメリカやウクライナからもたらされたと思われる内容の記事が、くり返し掲載されたことを思い出しました。慣れっこになってしまっているのではないかと想像しました。

 その書き出しは、下記のようなものでした。

ミャンマーで軍事政権と戦っている抵抗勢力の最も優秀な兵士の一人は、サンダルにショートパンツ姿だった。彼は武器を自慢げに披露しつつ、謝った。ほとんどバラバラの部品だったからだ。その兵士ジャンジー氏は、3Dプリンターで造形したプラスチックパネルを接着剤でくっつけていた、近くには中国製の農業用ドローンから取り出した電装品が地面に並べられ、配線はまるで手術を待つかのようにむき出しになっていた。……”

 ミャンマーで、軍事政権と戦っている兵士は、「抵抗勢力」として評価し、パレスチナでイスラエル軍による人権侵害やパレスチナ人殺害に抵抗して戦っているハマスの兵士は「テロリスト」であるとするようなニューヨーク・タイムズに依拠して、どうして世界が読み解けるのか、と私は思ったのです。

 

 今回取り上げるのは、「日航123便墜落 疑惑のはじまり 天空の星たちへ」青山透子(河出文庫)から、「3部 乱気流の航空業界 未来はどこへ」の「第一章 過去からのメッセージ」「●不起訴の理由」です。著者は、大学で教える学生の意見や素直な感想をうまく生かし、日航123便墜落事故の重大な問題を明らかにしています。

 私は、下記のような記述が、見逃せないのです。

ボーイング社側は4名で、1978年のしりもち事故修理指示書で、整備指示書にある検査員署名欄から名前を割り出したが、米国側司法省側の捜査協力が得られずに、ボーイング社より聴取拒否との回答によって氏名不詳となった。……事故機の修理ミスについて、担当作業員への事情聴取が断念された。このことがネックとなり、結果的には198991520名全員を不起訴処分とする方針を固めたと予測、……不起訴処分の方針を伝えた報道の翌月、102日に、実はボーイング社が修理ミスを正式に認めているとの回答をしていることが分かった

 理不尽だと思います。ニューヨーク・タイムズをはじめとするメディアが、単独機としては世界最悪の航空事故といわれる日航123便墜落の事故原因やその法的責任の問題をきちんととらえて報道していれば、捜査に国境の壁」などという内容の記事が書かれることはなかったと思います。また、”膨大な資料や調書類が国民の前から姿を消して、カーテンの向こう側で終わってしまう”ということもなかったのではないかと思います。日航123便墜落事故に関する”膨大な資料や調書類”が闇に葬られることになったのは、アメリカの司法省だけではなく、アメリカ政府、そして、日本にも駐在員を置いているようなアメリカの大手メディア、また、日本のメディアが、墜落事故の原因や法的責任に目をつぶったからだ、と私は思います。それは、事実の隠蔽や「つくり話」に基づく問題の処理に手を貸すことだ、と私は思うのです。

 日航123便墜落事故には、さまざまな問題がありますので、青山透子氏の記述に基づいて、さらに考えていきたいと思うのですが、下記のような指摘も参考になると思います。


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                3部 乱気流の航空業界 未来はどこへ

                  第一章 過去からのメッセージ

 ●不起訴の理由

 書類送検されたのは、日航で12名、運輸省側では、19787月に修理後検査を行なった運輸省修理改造検査担当者の東京航空局航空機検査官の4名である。

 そのうちのひとりは1987年に自宅で殺虫剤を飲んで自殺しており、被疑者死亡での送検である。事実上の飛行許可である耐空証明(航空機の飛行性能の安全性について運輸大臣が出した証明)を出していたことを苦にして亡くなったとのことであった。

 ボーイング社側は4名で、1978年のしりもち事故修理指示書で、整備指示書にある検査員署名欄から名前を割り出したが、米国側司法省側の捜査協力が得られずに、ボーイング社より聴取拒否との回答によって氏名不詳となった。(1988122日付各紙)



 1989123日に前橋地検と東京地検が合同捜査体制を組んで捜査に乗り出し、東京地検検事が渡米して、ボーイング者側の事情聴取が行えるように米国司法省と協議を重ねたが、事故機の修理ミスについて、担当作業員への事情聴取が断念された。このことがネックとなり、結果的には198991520名全員を不起訴処分とする方針を固めたと予測、という報道があった。

 まだ検察当局の発表が出ていない中での予測報道である。

 それに対して航空評論家たちは、各メディアに次のようなコメントを寄せていた。

「ボーイング社と日航の責任分担は82であり、主犯はボーイングだが、検察当局がその責任追及ができないという。いくら国際的な法律の壁があるといっても、もっと執念を持って国境の壁を突き破ってしかるべきだ」

「これで膨大な資料や調書類が国民の前から姿を消して、カーテンの向こう側で終わってしまう。結果にこだわらずに裁判をして明らかにすべきだ。公開の場で責任問題を追及すべきであり、その社会的意義は大きく、国民も納得するのではないか」



 不起訴となったことで憤りを感じた学生も多かった。

「あれほどの事故なのに、誰も責任をとらないで済むのが信じられない」「今、こうやって暮らしているこの国とは、そうやって物事を簡単に済ませられる社会なのか……」「人災でありながらも、責任の所在が不明確な事故とはひどすぎる」

 次々と不満の声が上がる。

 不起訴処分の方針を伝えた報道の翌月、102日に、実はボーイング社が修理ミスを正式に認めているとの回答をしていることが分かった、とある。新聞各紙によると、その回答には、修理の日時、場所、修理計画、スタッフなどに触れており、「修理ミスをした」とはっきり認めたという。しかし、そのスタッフが具体的にどう修理したかなどの刑事責任追求となる点については、まったく触れていないという内容の記事だった。

 なんと修理ミスを認めて回答しているではないか。



 父親が自動車修理工場を経営しているという学生Dは、親にこのことを話して、いろいろな「大人」の立場を聞いてきた。

 以前、三菱自動車工業(現在の三菱ふそうトラック・バス)製造のトラックのタイヤが飛び、その事故で死者が出てもなお整備ミスとされた事件があった。結局、三菱自動車工業側が根本的な欠陥品のリコール対象車を隠して、事故原因を隠蔽していたという事実が分かった。

 整備工場側の整備ミスにされたこの事件を通じて全国の小さな修理工場は、当然のことながらプロとして精一杯正直に仕事をすることが最終的には自分を守り、真実を見つけることだと悟ったという。 ボーイング社の社員で、修理ミスをした人間がいるのであれば、それがミスであって、わざと手を抜いたのではないなら、きちんと出てきて自らを語るべきだという意見であった。

 さて、この事故を担当していた検事達も苦悩していたのである。「捜査に国境の壁」という内容の記事(19891124日付毎日新聞朝刊)を取り上げた学生Eは、「検事たちがワシントンの米司法省内で交渉しても、ボーイング社の修理担当者に、直接質問を投げかけることは出来なかったとありますが、それはなぜなのか調べました。

 

・・・中略

 

 もう一度、あの事故の法的な結末をここに記しておく。群馬県警から業務上過失致死傷容疑で書類送検された日航12名、運輸省4名(1名死亡)、ボーイング社4名(被疑者不詳)計20名と遺族から告訴、告発された三者の首脳ら12名(うち1名送検分と重複)の計31名全員を不起訴処分とした。 不起訴理由としては、送検分20名(1名の死亡者を除く)は「嫌疑不十分」遺族からの告訴、告発分はボーイング社首脳2名が「嫌疑不十分」日航、運輸省関係9名は「嫌疑なし」

 以上である。(19891223日付各紙)

 

 ボーイング社においても、技術担当者、品質管理責任者の指示が適切で、作業担当者は特定出来ず、具体的な過失は認定できないとした。

 ある遺族は、

ボーイング社を起訴すると、まるで日米関係の新たな問題になることを恐れているような雰囲気を感じた」と新聞記事の中で語っている。日米間の国境による法の壁は越えられなかったということか、それとも何か他に理由があるのだろうか。

 運輸省側も、航空会社が行う領収検査(メーカーから引き渡しを受ける際に行う機体仕上がりなどの各種機能チェック)に対して、検査官が支持監督権限を持つわけではなく、検査も不適切とは認め難いとした。

 日航側も、領収検査の不適切な点は指摘したものの、外見上修理ミスは発見できず、特別の検査が必要と思われなかったとして、修理ミスを発見する可能性はなかったことや、C整備についても当時19個の可視亀裂が生じていたとする事故調査委員会の調査結果について、「推定にとどまり、断定できない」とした。

 

 ただこの時、前橋地検は事故調査委員会の検査レベルのとり方が誤っていたことを指摘している。つまり、C整備での疲労亀裂発見確立の算定で、事故調査委員会は発見率を「60─14%」としていたが、地検側は「6.6─2.0%」であったとし。致命的な誤りを事故調査委員会が犯したとしている。ケタ違いの亀裂発見率である。

 事故調査委員会側はG2検査をしているととっており、地検はG─1検査と断定したためで、これはC整備の方法についての相違である。

 少し専門的になるが、この整備方法は重要であるので説明する。

 もともと整備マニュアルでは後部圧力隔壁は、G1(巨視的検査)でOKとなっていることを反映している。

 G1とは、一定範囲を60センチから1メートルの距離から目視することを基準としている巨視的な検査方式で、機体外面一般や貨物室ドアなど、構造部材の波打ちやゆがみ、変形などの発見を期待するものである。

 

 いずれにしても地検の不起訴理由に、このG1検査では修理ミスで生じた亀裂発見は難しかったとしたのであった。

 それならば、事故調査委員会は、なぜ整備ミスとしたのだろうか。 

 ヤニがべっとりと付いていたという記事や亀裂を指さした写真は一体何だったのだろう。

 最終的に前橋地検が出した結論は、「すべては推定にとどまり断定できない」となった。

夫は日航、ボーイング、運輸省だけでなく、地検にまで二度殺された」といった遺族の言葉を取り上げた学生がいる。国を救ってくれなかったという意味だ。

 ただ、もう一度考えてみる。すべては推定にとどまり、断定できないとある。

 これはもしかして本当の真実は別にあるという意味なのではないか……。

 そういう意見を出した学生もいた。

 なるほど、確かに、静まりかえった心で新聞記事を追っていくと、そういう道も見えてくる。

 これは結果を踏まえての遺族による不服申し立てを受け、審査をしていた前橋検察審査会は、1990425日午後「ボーイング社修理スタッフ2名、日航検査担当者2名については不起訴不当」とる議決を出した。刑事上の時効を迎える812日まであと、3ヶ月程である。

 しかし残念ながら結局、再び不起訴となった(1990713日付各紙)

 これで単独航空事故として史上最大の墜落事故においての刑事責任は誰ひとり問われることなく、1990812日に時効を迎えたのである。

 学生Eがレポートで、「この事故が誰も罪を問われることなく時効を迎えた」と発表を締め括る

と教室が静まり返った。

 「時効って冷たい響きだわ……」

 「今後は誰も罪を問えないなんて……」誰かがポツンとそう言った

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大事なことから目を逸らす報道

2024年06月08日 | 国際・政治

 先日、メキシコ市の市長だったクラウディア・シェインバウム氏が、メキシコ初の女性大統領になることが確実となったと、日本のメディアは報じました。でも、初の女性大統領であることが強調され、シェインバウム氏が、自身の師である左派ロペス・オブラドール大統領の後継者であることには、あまり突っ込んだ報道はなかったように思います。

 それは、大事なことから目を逸らす報道だと思います。なぜなら、アメリカと長い国境を接している隣国のメキシコが、アメとムチのアメリカの強力な圧力に負けず、中国との関係を深めている左派のロペス・オブラドール大統領の後継者を大統領に選んだということは重大なことだと思うからです。  

 選挙結果は、クラウディア・シェインバウム氏の圧倒的な勝利だったといいます。

 そのことを、ロシアのEnglish.pravdaは、アメリカはソロスの手下たちの努力にもかかわらず、惨めに敗北した、と伝えました。下記です。

Strong Mexican woman beats feeble US protege

The United States has "lost” the Mexico elections miserably, despite all the efforts of the Soros minions to return "democracy” to Mexico

 メディアは、クラウディア・シェインバウム氏の圧倒的な勝利について、その理由を考え、日本の国民に示す必要があるのではないかと、私は思いました。

 Twitterには、ロペス・オブラドール大統領の痛烈なアメリカ批判がたくさん投稿されています。どれも重大な内容だと思います。

 

 

 下記は、「現在メキシコを知るための60章」国本伊代(明石書店)から、「V 国際政治とメキシコ外交」の「30 対米外交」の「反米と依存と共存の関係」を抜萃しましたが、アメリカという国の「正体」ともいえるような対外関係の本質をつかむことができるのではないかと思います。

 メキシコのカルデロン大統領は、アメリカ連邦議会における演説の中で、

メキシコに流入する武器の80%はアメリカから違法に持ち込まれているもので、国境沿いに約7000軒の武器弾薬の販売店があることを指摘し、アメリカ側に武器流出に対する管理強化を要請した。

 などとあるのです。

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                   V 国際政治とメキシコ外交

                      30 対米外交

                    ★反米と依存と共存の関係★ 

 メキシコの外交政策は、第26章で取り上げた原則に基づき国際社会の中でメキシコが主権国家としての地位を保全することにある。しかしその対外政策の中で最も重要な課題は、常に約3200kmの国境線を共有するアメリカ合衆国との関係である。少なくとも北米自由貿易協定(NAFTA)が発効した1994年まで、メキシコは対米関係においても独自の外交路線を貫き、北方の巨人アメリカと対等であることが歴代政権に課された原則であった。この意味で、アメリカへの依存を強化したNAFTAの成立は、メキシコの外交政策を大きく転換させる分岐点となった。

 メキシコの対米関係には、19世紀前半のメキシコ・アメリカ戦争で現在のアメリカのテキサス州から以西のカリフォルニア州までを含む国土の半分以上を失ったこと、ポルフィリオ・ディアス時代、(18761911年)に資源開発を外国資本に依存した結果アメリカの経済支配を受けたこと、メキシコ革命の動乱期にメキシコ国内のアメリカ人の生命と財産を保護するという名目でアメリカ軍による武力干渉を受けたこと、アメリカ国内に合法的・非合法的に居住するメキシコ人に対するアメリカ側の仕打ちなどの歴史的な経緯があるため、メキシコの反米感情は根深い。その反米感情の中で1938年にカルデナス大統領が断行した石油の国有化は、アメリカに対するメキシコの確固たる姿勢を示したものとなった。しかし、第二次世界大戦中におけるメキシコの連合国側への参戦とアメリカ国内の労働力不足を補充するために締結したアメリカへの労働移民ブラセロの送り出し協定は、メキシコの対米政策の変化でもあり、その後のメキシコの対米外交は「反米・独立」と「すり寄り」との間でシーソーのように変化をし続けた。そして、1994年に発効したNAFTAによって、メキシコの対米関係は180度転換したといっても過言ではない。

 現代メキシコの対米関係で最大の問題は「移民」と「麻薬」である。合法・非合法を問わず、所得格差のある国家間を人々がより良い生活を求めて移動するのは自然の理である。さらにメキシコ人のアメリカ移住には、現在のアメリカの国土のほぼ半分がかつてメキシコ領であったという歴史と約3200キロメートルの長い国境を陸地で接しているという現実がある。メキシコ側はこの移住を自然の流れとして受け止め、対米外交政策としての移民問題を主としてアメリカ国内におけるメキシコ移民への差別・迫害・犯罪事件などにかかわる人権問題として対応してきた。しかし21世紀にはメキシコを経由してアメリカに不法入国しようとする国民の扱いが深刻化している。

 2010823日に発覚した72人の不法外国移民(非メキシコ人)の惨殺事件は、麻薬問題と国内の不法移民問題を明らかにし、メキシコ内外の注目を集めた。メキシコに不法入国した後にアメリカへさらに不法に越境しようとした72名の国籍は8カ国にのぼり、唯一生き残ったエクアドル人の証言でその詳細が明らかになったからである。メキシコの麻薬グループに入るか、15000ドルの越境料を払うかの要求を拒否したこのグループは殺害され、死体の下敷きとなった1人だけが助かった。メキシコ政府は自国の犯罪組織が殺害した人々(メキシコにとっては不法入国者)の出身国に謝罪すると同時に、麻薬密売組織の凶悪化の原因の一端がアメリカにあることも指摘した。

 

 2008年以降、両国間の緊急課題となっているのがこの「麻薬」である。麻薬をめぐる問題は古いが、2008年から2010年に麻薬カルテルは強大な組織犯罪者集団となっている。大麻を栽培する農民を巻き込み、麻薬精製と南米各国から送り込まれるコカインのアメリカ市場への密輸出のための人員を確保するために不法越境者を取り込み、メキシコの国境警備員および関係者の買収、地方警察官と政治家への賄賂、誘拐ビジネスなどで、アメリカとメキシコの間にある約3200キロメートルの国境をはさんだ地域は犯罪多発地帯と化してしまった。メキシコとアメリカ両国政府は「イニシアティブ・メリダ」を発足させ協調して麻薬カルテルの撲滅に乗り出したが、歩調は必ずしも一致してない。20105月に訪米したカルデロン大統領はアメリカ連邦議会における演説の中で、「イニシアティブ・メリダ」を通じた麻薬犯罪組織対策のためのアメリカの資金提供と国境警備の強化に感謝しながらも、メキシコに流入する武器の80%はアメリカから違法に持ち込まれているもので、国境沿いに約7000軒の武器弾薬の販売店があることを指摘し、アメリカ側に武器流出に対する管理強化を要請した。 

 そのほかの場面でも、カルデロン大統領はアメリカ側に強い抗議を続けている。20106月に起こったアメリカの国境警備隊員による不法越境者の殺害事件では、メキシコ政府はアメリカに強く抗議し、アメリカは即座に謝罪した。さらに9月にヒラリー・クリントン長官が「現在のメキシコは20年前のコロンビアの状態にあり、国土の一部が麻薬カルテルによって支配されている」と公式発言をしたときには、カルデロン大統領は直ちに猛反発して、オバマ米大統領は、謝罪ともとれる弁明をした。

 

 麻薬問題と対米関係は、カルデロン政権にとって神経をとがらせる問題である。国境に接する北部諸州では、メキシコの州警察および地方自治体警察の不備による無法地帯の出現と連邦軍の出動だけでなく、国境の税関へのアメリカの治安維持関係者の関与がメキシコの世論を逆なでしているからである。約3200キロメートルの米墨国境戦は世界で最も活発な物流前線で、メキシコの輸出の80%がこの国境を陸路でアメリカへ入っている。厳格な麻薬取締を求めるアメリカは2010年前半に9回にわたって税関業務に介入し、メキシコ側の税関職員に対して安全と業務に関する教育を行った。これらの活動は2007年に締結された米墨ニ国間税関戦略計画に基づくものであるが、国境地帯の無法状態を自力で解決できないメキシコにとってはアメリカに頼らざるを得ないのが現実である。(国本伊代)

 

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日本は、戦争に突き進むのか

2024年06月03日 | 国際・政治

 日本の主要メディアは、すっかりアメリカに取り込まれ、アメリカの戦略に基づいた報道をするようになってしまったと思います。

 しばらく前、栃木県那須町で夫婦の遺体が見つかった事件のニュースが、朝、昼、晩とほとんど同じ内容で毎日続き、辟易しました。遺棄現場の上空からの映像を何度見たかわかりません。こんなニュースがくり返される意味は何なのかと考えさせられました。投資詐欺であるとか、振り込め詐欺のように、視聴者が巻き込まれる心配がある事件の報道は、同じ内容でくり返されてもそれなりの意味があると思います。でも、最近の日本のニュースは、事件や事故、あるいは日本のスポーツ・チームや選手の活躍に関するものが大部分で、日本の将来や国民全体に関わるような内容のニュースは、ほとんど見られなくなってしまったと思います。

 先だっても、大勢の人たちが参加する「パンデミック条約改定反対デモ」が実施され、「WHOから命を国民まもる運動・大決起集会」では、参加者が、  自由を奪うな!」「自分の健康は自分で管理する!」などと声をあげていたのに、テレビのニュース番組では、一度も見たことはないのです。

 政府が進める沖縄県名護市の辺野古新基地建設の状況や自衛隊の南西シフトに関わる現場からのニュースもほとんど見たことがありません。でも辺野古新基地建設や自衛隊の南西シフト反対する集会が、国会前でも開かれているのです。それは、那覇市の「県民平和大集会」に全国各地で連帯する行動だったといいます。沖縄、鹿児島両県の島民らも参加して、「有事になれば基地のある島が狙われる」「戦争の準備は始まっている」と危機感を訴えているのです。そういう訴えは、沖縄だけの問題でしょうか。あたかも、議論の余地のない問題であるかのように、主要メディアが無視しているのは、やはり、沖縄の問題が、アメリカの戦略に関わっているからではないでしょうか。

 

 私は、下記のような問題も含めて、日本が直面している政治的問題を報じることが、アメリカの戦略に反するからだろうと考えるのです。

 アメリカは、何としてもアメリカに追随しない中国やロシアの勢力拡大を止めなければ、国家が維持できなくなる状況に陥っているのだ、と私は思っています。

 ウクライナ戦争に関しては、先日、バイデン米大統領がウクライナに供与した武器使ってロシア領攻撃を限定容認したといいます。現状ではウクライナ側が苦しい戦いになっているからではないかと想像しています。あくまでも、武力で決着させようとしているように思います。

 また、アメリカは日本や韓国、フィリピンなどを巻き込んで、中国に対する圧力を強めています。先だっては、台湾と海軍の合同訓練を実施したことが報道されました。また、日米韓の協同訓練も計画されており、軍事的に対決する姿勢を強化しながら、口では「法の支配」を語るのですから、呆れます。中国が台湾近海で法に反することをしているのであれば、きちんとそれを指摘し、法的解決を目指すことが、「法の支配」の道だと思います。でも、現実問題はそういうことではないのだと思います。戦争屋といわれるアメリカは、今までと同じように、武力で解決しようとしているのだと思います。

 現在、アメリカが関与しなければ、中国が台湾のみならず、世界を敵に回すような武力攻撃をする理由などない、と私は思います。武力を行使し、中国を孤立させて、自らの覇権と利益を維持しようと躍起になっているのはアメリカだと思います。だから、台湾有事に関しても、何らかのでっち上げ事件が工作されるのではないかと心配しています。

 

 ふり返れば、国際社会が中華人民共和国を国連加盟国として承認し、国連安全保障理事の常任理事国として認める一方、台湾(中華民国)を国連から追放することしたのも、当時のアメリカの対中政策がもたらしたものだったと思います。当時のアメリカの対中政策における、「一つの中国」を国際社会が受け入れることになったのだと思います。それは、アメリカのニクソン大統領が中国を訪問したときの、「米中共同声明」が示していると思います。共同声明には、下記のようにあるのです。

米国は,台湾海峡の両側のすべての中国人が,中国はただ一つであり,台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している。米国政府は,この立場に異論をとなえない。米国政府は,中国人自らによる台湾問題の平和的解決についての米国政府の関心を再確認する。

 にもかかわらずバイデン政権は、中国を敵視し、台湾にくり返し高度な武器を売却して合同訓練などやっているのです。そういう意味では、アメリカと手を結び、中国を敵視している民進党の頼清徳氏は、ウクライナのゼレンスキー大統領と同じで、平和的ではない、と私は思います。

 

 私は、日本の平和と安全のためには、日米関係を見直す必要があると思い、日米関係を規定している「日米安保条約」や「日米地位協定」の問題をとり上げているのですが、今回は、「日米地位協定逐条批判」地位協定研究会著(新日本出版社)から、「三 労務の調達の肩代わり。為替管理の免除とドル軍票の使用」を抜萃しました。放置してはいけない内容だと思うのです。

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           三 労務の調達の肩代わり。為替管理の免除とドル軍票の使用

 

   1 労務の調達の肩代わり

 地位協定第124項は、米軍と第15条の諸機関が必要とする日本人従業員は、米軍と同機関の費用負担で日本政府が雇用し、米軍と同機関に提供する間接雇用の制度を定めている。米軍に雇用される日本人従業員を基本労務契約従業員(Master Labor ContractMLC従業員)、第15条諸機関に雇用される日本人従業員を諸機関労務従業員(Indirect Hire AgreementIHA従業員)と呼んでいる。前者は19516月に日米両政府間で締結された基本労務契約によって、後者は6111月に両国政府間で締結された諸機関労務協約によって、それぞれ、間接雇用制度に移行した。それまでは、米軍については、日本政府の費用負担で日本政府が従業員を雇用し、米軍に提供するという形態であった。第15条諸機関については、同機関の費用負担で同機関が従業員を雇用する直接雇用の制度であった。なお、基本労務契約は579月に新基本労務契約に改定されている。

 日本政府が労務の調達の肩代わりをするにあたっては、これらの従業員の「雇入れ、提供、解雇及び労務管理、給与の支給並びに福利厚生に関する事務」は都道府県知事に対する国の機関委任事務とされている(地方自治法別表第31、<33>)。この機関委任事務は、沖縄県や神奈川県などの米軍基地所在都道府県に多大な負担を強い、地方自治の本旨にとって大きな障害になっている。

 また、日本政府は516月制定の特別調達資金設置令により、「米軍や15条諸機関の需要に応じ行う物及び役務の調達を円滑に処理するため」(第1条)、特別調達資金の制度を設置し、米軍にたいして資金の立て替え払いの便宜まではかっている。

 さらに地位協定第126項は、保安解雇の制度まで定めている。保安解雇の基準は、「従業員が、米国側の保安に直接的に有害であると認められる政策を採用し、又は支持する破壊的団体又は会の構成員であること」(新基本労務契約第9章1b)などとされているが、実際は日本共産党などに加入したり、協力したりすることを理由とする解雇を容認する基準である。そして保安解雇の場合には、裁判所は労働委員会の解雇無効、原職復帰の決定が確定しても、米軍や第15諸機関は、その労働者の就労を拒否できるとされている。保安解雇の制度は、米軍の治外法権的特権と日本政府の従属的立場を象徴的にしめしている。

 

   2 為替管理の免除とドル軍票の使用

 外国為替管理とは、政府が外国為替の取引を管理することで、日本の外国為替管理は、194912月に制定された「外国為替及び外国貿易管理法」にもとづいて実施されている。ところが、地位協定第192項は、米ドルもしくはドル証券で、米国の公金であるもの、米軍人、軍属が勤務や雇用で取得したもの、米軍人、軍属とそれらの家族が日本国外の源泉から取得したものの、日本国内または国外への移転を、日本政府の外国為替管理の対象外とすると定めている。

 ところで、NATO地位協定第14条は、「軍隊、軍人、軍属とそれらの家族は、派遣国と受入国の双方の国の外国為替規制に服さなければならない」(1項)、「派遣国と受入国の外国為替当局は、軍隊、軍人、軍属とそれらの家族に適用すべき特別な規制を発することができる」(2項)と定めている。このNATOの地位協定第14条とくらべて、日米地位協定第19条では、受入国はすなわち日本の権利が尊重されていないことは、条文を比較するだけで明らかである。例193項は、米国当局は、米軍人らによる特権の乱用や日本政府の外国為替管理の回避を防止するため適当な措置をとらなければならないと定めているが、それはもっぱら米国当局の裁量に委ねられている。

 また、地位協定第20条は、米軍基地内に限定してであるが、合衆国によって「認可された者」がドル表示の軍票を「相互間の取引のため使用することができる」と規定している。軍票とは「戦地・占領地で、軍隊が通貨の代用として使用する手形」(広辞苑)のことである。「認可された者」は、合衆国軍隊、軍隊の構成員、軍属、それらの家族、軍事用販売機関(PK)、軍事郵便局、軍用銀行および米軍との契約者をさす。しかし、「外国為替管理令等の臨時特例に関する政令」(1952428日、政令127号)第4条第1項の大蔵大臣が指定する者として、「本邦に派遣された合衆国の大使、公使、領事その他これに準ずる使節及びその随員その他本邦にある合衆国の大使館、領事館その他これに準ずる施設に雇用され、又これらに勤務する合衆国の国籍を有する者(通常本邦に住所を有する者を除く)」(同日、大蔵省告示、752号)も軍票を自由に使用できると拡大されている。

 外務省は軍票が69年以降事実上使用されておらず、現在はドルが使用されている」と言うが、外務省の次のような見解は批判し、軍票使用を禁止させなければならない。

(1) NATO地位協定自体には軍票の規定がなく日米地位協定であるのは「わが国の為替管理の状況からして実際上便宜がある」ことによるという。これでは説明にまったくなってない。どのような便宜があるのか具体的に論証しなければならない。

2) 軍票銀行施設が軍票管理のため認められたものであれば、軍票が使用されていない現在、軍用銀行が米ドルを取り扱うことは認められるではないかとの疑問がありうると自問し、実際ドルのみ流通することがあっても、「制度として軍票の使用が認められる建前となっている限り、〔米軍当局は、日本政府の判断により必要があれば、いつでもドルの使用を廃止して軍票のみを使用させることになっている〕、軍用銀行施設は、制度上軍票を管理する任務を負っていると考えられるので」規定に問題がないという。

 これは軍票使用の徹底した弁護論であり、その使用のアメリカの便宜の確保擁護論である。

3)チェース・マンハッタン銀行等の軍用銀行は、日本の銀行法に服していないが、日本の金融市場から全く隔離した活動を行っているのであるから、日本がこれにたいする監督を行う意義がないと軍用銀行の存続を当然視している。

 これらは基地の「排他的使用権」に対応する「経済的租界」の容認と言わざるをえない。日本国内における通貨=経済的主権にかかわわる重大な問題である。

 軍票の実態に関するデータはまったく公表されていない。日本政府はそれを公表すべきであり、今後の「有事」などの際に米軍が大量に発行する可能性もあり、看過できない。

 なお、「ドイツ連邦共和国に駐留する外国軍隊に関して北大西洋条約当事国間の軍隊の地位に関する協定を補足する協定」(ドイツ補足協定)に軍票に関する規定がある(第69条)、それによれは軍隊・軍属の当局は「派遣国の通貨で表示される軍票を輸出し、輸入し及び所有する権利を有」し、「軍隊構成員、軍属および家族に対して」「派遣国の通貨で表示される軍票」を分配することができるが、その制度がドイツ政府の協力のもとに採用されている場合に限って認められる、ときわめて限定的であること、軍用銀行の規定がないことを付言しておきたい。

 

 

 

 

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