真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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シリア領土でのISISや傭兵武装集団戦闘員の訓練

2024年04月25日 | 国際・政治

 戦後、民主化されたはずの日本の政治や報道の右傾化には、目に余るものがあると思います。ちょっと海外の報道に接すれば、そのことが、分かります。 

 地域の視点を重視する報道機関、「The Cradle」は、先日、

ISIS kills Palestinian fighters in Syrian desert” という、下記のような情報を流しました。

https://thecradle.co/articles-id/24478 

 そして、 

The extremist group has stepped up its attacks on pro-Syrian forces since the beginning of Israel's war on Gaza 

 At least 20 fighters from Liwa al-Quds, a Palestinian armed group supporting the Syrian army, were killed when their bus was ambushed by unknown militants in the eastern countryside of Homs Governorate in Syria, Sputnik reported on 19 April.”

 と報じました。パレスチナの戦闘員20人が、バスで移動中、イスラエルのガザ攻撃の開始以降、アサド政権側の勢力に対する攻撃を強化していた過激派組織ISISに待ち伏せされて殺害されたというような内容です。

 また、見逃せないのは、シリアの合意なく、シリア領土に基地を設け、周辺を勝手に保護地域にして、アサド政権側の勢力を近づけないようにしているアメリカ軍によって、そのISISや傭兵武装集団戦闘員訓練されているという事実です。重大なことなのに、日本では報道がありません。

The Badia desert near Al-Suknah lies north of the 55-kilometer “protected” area surrounding the illegal US military base at Al-Tanf on the Syria–Iraq–Jordan border. 

Pro-Syrian forces are not allowed to enter the protected zone and are bombed by US warplanes if attempting to do so. 

The Syrian and Russian governments have accused the US of training militants from ISIS and other mercenary armed groups in the protected zone and allowing them to use it as a base for attacks on Syrian forces elsewhere in the Badia desert region.

 こうした事実が報道されないと、ウクライナ戦争やイスラエル・パレスチナ戦争の真相は、正しく理解できないと思います。世界中に基地を持つアメリカという国の対外政策や外交政策の実態は、こうした事実を踏まえることによって、はじめて客観的にとらえることができるようになるのだと思うのです。

 

 「ブチャの虐殺」が、ロシアを恐ろしい侵略国であり、話し合うことのできない悪魔のような国であると思わせるために、アメリカとウクライナによって画策されたとすれば、世界情勢の認識は、180度変わるだろうと思います。そして海外では、現にそうした指摘が数多くなされいることを見逃してはならないと思います。

 噂や、特定の国の主張をそのまま報道することなく、客観的事実を自ら取材したり、確認したりする努力をしなければ、その報道は、読者を欺瞞し、時には、犯罪に加担させたりする報道になると思います。

 戦時中の日本の報道が、そのことを示しているのに、現在の日本は、再び、大本営発表に変わって、アメリカ政府発表を、連日、何の検証もなく流しているようなので、とても心配になるのです。

 

 ウクライナ戦争の解説にあたった学者やジャーナリスト、また、安全保障の専門家と言われる人たちも、毎回ほとんど同じで、まるでホワイトハウスから派遣されたかのような解説に終始し、戦争の背景や原因について、日本政府やアメリカ政府と異なるとらえ方や考察をする人はほとんどいませんでした。

 また、イスラエル・パレスチナ戦争の背景や原因についても、深く掘り下げた報道に接することもほとんどありませんでした。だから、報道によって、ハマスに対する理解やイスラエル・パレスチナ戦争の理解を深めた日本人はほとんどいないのではないかと思います。

 だから、現在の日本の報道は、何を報道するかという面でも、どのように報道するかという面でも、深刻な状況に陥っていると思います。

 423日、朝日新聞は、「ひと」という欄で、赤根智子氏をとりあげました。「日本で初めて国際司法裁判所(ICC)の所長に就任」と題されていていました。そこに、

世界の人権侵害を追及してきた。233月にはウクライナに侵攻するロシアのプーチン大統領への逮捕状発行の審理に携わった。報復としてロシアから指名手配を受けたが、「証拠に基づいて判断した結果。覚悟は日本の検察官と同じ」

 とありました。でも、どんな証拠に基づき、どんな審理をしたのか、と私は疑問に思いました。ウクライナの人たちの証言やウクライナの人たちの提出した証拠だけで判断し、逮捕状が発行されたのではないかと思ったのです。日本国内の裁判でも、被害者側の証言や被害者側が提出した証拠だけで、逮捕状が発行されることはないのではないかと思います。

 逮捕状が発行されたときの報道は、国際司法裁判所(ICCが、

ロシア軍がウクライナの占領地から違法に子どもを連れ去った戦争犯罪の容疑の責任があるとして、ロシアのプーチン大統領に逮捕状を出したと発表した。ICCは、国家間の紛争や国内紛争で戦争犯罪や非人道的行為など最も重大な罪を犯した個人を国際法に基づいて訴追、処罰する。今回は、ロシア大統領府で子どもの権利を担当するリボワベロワ大統領全権代表にもプーチン氏と同じ容疑で逮捕状を出した。ロイター通信によると、ウクライナ侵攻をめぐって逮捕状が出るのは初めて。

 というような内容ばかりで、証言や証拠について踏み込んだ報道に接することはありませんでした。

 

 でも、ロシア側は、ドネツク・ルハンシク州の親ロシア派が実効支配する地域で、孤児院や社会福祉施設にいた子ども、また、父親が強制的に動員され、母親も出稼ぎに行くなどして、養育困難に陥っている子ども、さらに、祖父母や知人に預けられ、経済的な理由などから養育に適切な環境でない状況にある子ども親が収容所に送られるなどして、親と離ればなれになっている子どもなどをロシアに移送し、保護したといいます。だから、ロシア側は、「連れ去りではなく、保護」だと言っているのです。

 そして、ウクライナ戦争開始後、ロシアに「連れ去られた」といわれていた子どもの一部が帰還していることも、忘れてはならないと思います。

 

 私が問題だと思うのは、対処をしたと言っているプーチン大統領に逮捕状が発行されているのに、なぜ、ガザの子どもたちを現に殺害しているイスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状が発行されないのか、ということです。

 ロシアは、ウクライナの子どもたちを連れ去って殺害しているわけではありません。保護し、養育していると言っているのです。

 でも、イスラエルは、多くの子どもたちを日々殺害し、餓死させているのです。

 だから私は、国際司法裁判所(ICC)も、すでにアメリカの手によって、西側諸国の立場で、国際法を利用する組織にされてしまったのではないかと思うのです。

 先月、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、

イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザ地区で、子供たちが餓死している”と述べたことが報道されました。WHOのチームが、ガザ地区北部のアル・アウダ病院カマル・アドワン病院を視察し、「ぞっとする調査結果」をソーシャルメディアに投稿したともいうのです。

 それによると、食料不足により子供10人が死亡するなど、「深刻なレベルの栄養失調」が見られた。また、複数の病院が破壊されていたというのです。

 そして、ガザ地区の子ども12300人超がすでに死亡しており、4年間の世界紛争地を上回る数だというのです。でも、ネタニヤフ首相は、アメリカからの支援を受けて、ガザの攻撃を続けています。ネタニヤフ首相に逮捕状が発行される気配は、まったくありません。

 今回の特別軍事作戦(軍事侵攻)の目的として、ウクライナ東部に住むロシア系住民の保護を掲げ、子どもたちを戦闘地域から避難させるのは当然と主張しているプーチン大統領に逮捕状を発行しておきながら、パレスチナの子どもたちを日々殺害し、餓死させているイスラエルのネタニヤフ首相には、何の対応もしない国際司法裁判所(ICC)の所長になることが、「日本で初めて国際司法裁判所(ICC)の所長に就任」などといって誇れることなのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

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イスラエルのパレスチナ人殲滅・追放作戦とサイクロン作戦

2024年04月21日 | 国際・政治

 さまざまなメディアが、国連の安全保障理事会で18日、パレスチナの国連加盟を求める決議案に、アメリカが拒否権を行使したことを伝えています。

 パレスチナはこれまで、国連に投票権のない「オブザーバー国家」として参加していましたが、今月2日に正式加盟を申請していたのです。それは、パレスチナのガザ地区やヨルダン川西岸地区でイスラエルの違法な人権侵害や入植活動が長く続いているのみならず、今、激しい武力攻撃を受けているので、国連に正式加盟して、一日も早くパレスチナ国家としてイスラエルと共存する「国家解決」を実現したいということだと思います。

 また、国連安保理の中東情勢に関する閣僚級会合でも、パレスチナは、国連への正式加盟について「我々の地域に平和をもたらすための重要な柱となる」と訴え、加盟を求める決議案への賛成を呼びかけたということです。

 これに対し、イスラエルの国連大使は、「パレスチナ自治政府は平和とは正反対の存在だ」と主張したとのことですが、それは、ネタニヤフ政権の「ハマス殲滅作戦」が、実は、「パレスチナ人殲滅作戦」であり、「パレスチナ人追放作戦」であることがわかると思います。ネタニヤフ政権は、パレスチナの地をイスラエルの地に変え、パレスチナ人の混在しないイスラエルにしたいのだろうと思います

 そして、パレスチナの、国連加盟を求める決議案に拒否権を発動したアメリカのバイデン政権も、ネタニヤフ政権との間に溝があるかのように装いつつ、ほんとうはネタニヤフ政権と一体であることもわかると思います。

 上川外相は、16日、イスラエルによるイラン大使館爆撃やイランのイスラエルに対する報復攻撃を受けて、それぞれの外相との電話会談で、双方に自制を求めたというのですが、イランに対しては、イスラエルのイラン大使館爆撃の時とは違い、「強く非難」をしたということを見逃してはならないと思います。会談は、日本側から呼びかけたということで、自主的な会談であったかのように受け止められていますが、実は、バイデン政権の戦略に基づく会談だった、と私は思います。お手伝い外交だったと思うのです。

 朝日新聞は、この件に関し、”上川氏、イランの報復攻撃非難、G7対応「二重基準」の指摘も”と題する記事を掲載しました。下記は、その前半部分です。

イランが在シリアの大使館への空爆の報復として、イスラエルへの直接攻撃に踏み切った中東情勢をめぐり、日本はイランとの「伝統的な友好関係」を生かした独自外交を描き切れずにいる。イスラエル寄りの米国と共同歩調を取り、主要七カ国(G7)メンバー国としてイランだけを非難する立場をとる日本についても、識者からは「ダブルスタンダード(二重基準)と見られかねない」との指摘が出ている。・・・”

 この記事にも私は問題があると思うのですが、それは、朝日新聞自身の主張が、何もないことです。識者は、二重基準を指摘しているというだけなのです。

 イランは、外交施設へのイスラエルの攻撃は国際法違反として報復攻撃に踏み切ったのに、G7は、その報復攻撃を強く非難する一方、イスラエルによるイラン大使館爆撃や報復に対する報復は非難しないで、イスラエルに連帯を表明しました。それは、人道に反する攻撃を続けるイスラエルを支え、イスラエルの戦争犯罪に加担するものだと思います。欧州連合も臨時の首脳会議を開き、イスラエルへの報復攻撃に踏み切ったイランへの制裁拡大を決定したということなので、同じ姿勢なのだと思います。

 だから、日米欧の首脳からは、イスラエルに批判的な言葉はいろいろ聞こえてきますが、こうした具体的な取り組みが、その言葉を否定していると思います。

 言い換えれば、イスラエルやイスラエルに連帯を表明したG7諸国、イランに対する制裁を決定したEUなどの首脳は、パレスチナの問題を話し合って解決しようとすることなく、イスラエルの「パレスチナ人殲滅・追放作戦」という武力的解決を支持しているということだと思います。そして、それがアメリカの戦略であることは、歴史が示していることだと思います。

 

 これまでアメリカは、世界中の戦争や紛争に介入してきました。そして、その介入の仕方は、いつも同じであったと思います。親米国家や親米組織は支援し、反米国家や反米組織は潰しにかかるということです。問題を、話し合いで解決しようとはしてこなかったともいえます。反米国家や反米組織を潰すためには、自ら「テロ組織」と指定した組織さえ利用してきたのです。それで思い出すのが、アフガニスタンの戦争です。

 

 アフガニスタンでは、1978年に「サウル革命」と呼ばれるクーデターで、共産主義政権が樹立されました。しかしながら、その共産主義政権は、アフガニスタンにおける旧体制の改革の諸問題、民族や部族間の諸問題、周辺諸国との関係の問題、宗教問題などで、混乱が続き安定することがなかったのです。特に、ムジャーヒディーンと呼ばれるイスラム反政府武装勢力との関係は深刻な問題だったといいます。 ムジャーヒディーンは、アミーン政権に対する抵抗運動を展開し、各地でゲリラ戦を繰り広げたため、国内の治安は急速に悪化することになったのです。だから、 1979年、大統領に就任したハフィーズッラー・アミーンは、窮地に陥り、ソ連へ介入を依頼したようですが、ソ連も、アミーン政権の崩壊とムジャーヒディーンの台頭を恐れていたので、介入を決め、アフガニスタンに侵攻したのです。

 問題は、その時に対ソ政策として、アメリカが、ゲリラ戦をくり広げていたムジャーヒディーンに武器や装備を供与し、支援しということです。そして、アメリカによるムジャヒディーンへの支援が、アルカイダのようないわゆる「過激派組織」の台頭をもたらしたと言われていることです。アルカイダの指導者、オサマ・ビンラディンは、ソ連のアフガニスタン侵攻(1979-1989)に抵抗したムジャヒディーンの一員で、彼はアラブ諸国から義勇兵を募り、資金調達を行う組織を設立して、ソ連軍に対する抵抗運動を支えていたのです。

 

 ムジャヒディンに対する武器や資金の提供をはじめとする計画の立案・実行を主導したのは、CIA の特殊活動部 (SAD)で、SADは、CIAの中でも秘密工作活動の、特に重要な役割を担う部門だといいます。ソ連のアフガニスタン侵攻開始後、SADはムジャヒディンへの支援活動に深く関与し、武器や資金の提供、訓練、情報収集などを行ったと聞いています。だから、その計画には「サイクロン作戦」というコードネームがついていたといわれています。

 

 また、見逃してはならないことは、ソ連軍の侵攻前から、アフガニスタン民主共和国政権とも戦闘を行っていたイスラム武装勢力への支援を、アメリカは強力に推進しており、数十億ドルもの資金を投入してたということです。さらに、それは「ソ連の軍事介入を誘発すること」が目的であったとも言われているのです。冷戦のさなかであったことを考えれば、簡単に否定できることではないと思いますし、ウクライナ戦争でも似たような作戦が展開されたのだおると思います。

 だから、アメリカの対外政策や外交政策は、いつも 親米国家や親米組織は支援し、反米国家や反米組織は潰しにかかるものであったといいたいのです。アメリカは、国際社会の戦争や紛争を、話し合いで解決しようとはしない国であるということです。

 

 先日、国連安保理は、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWAについて公開会合を開いたようですが、イスラエルは多くの理事国の主張を退け、UNRWAはイスラム組織ハマスの一部と主張したといいます。でも、その一方的な主張をするイスラエルを支援するアメリカのバイデン政権とイスラエルの関係を、正しく認識する必要があると思います。

 

 パレスチナの地に移住してきたユダヤ人が、パレスチナの地に「イスラエル」というユダヤ人国家を建国し、パレスチナの地から、パレスチナ人を追放しようとしている現実は、きわめて理不尽なことだと思いますが、それを止めることができないのは、アメリカが主導する西側諸国の対外政策や外交政策が、法や道義・道徳に基づいておらず、軍事力や経済力に依拠しているからだと思います。

 そして、それは、アメリカの政策決定におけるユダヤロビーをはじめとするユダヤ人諸団体のの影響力の結果であると思います。

 正確な数字はわかりませんが、現在、アメリカには、イスラエルとそれほど変わらないユダヤ人が住んでいるといいます。そして、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPACアメリカユダヤ人連合会(AJCその他を組織し、ロビイング活動、政治キャンペーンへの支援、有権者教育などを行っているといいます。特に、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)は、毎年多くのロビイストをワシントンD.C.に送り込み、議員や政府職員と会談しているのです。また、ユダヤ系ロビー団体は、シンクタンクやメディアを通じて世論に大きな影響を与えているともいわれています。

 また、富裕層の多いユダヤロビーは、政治献金においても、大きな力を持っており、ユダヤ系献金者は連邦候補者と政党行動委員会に多額の寄付するともいわれています。

 昔、ユダヤ人は「ジュー」(英語で「Jew」)と呼ばれて蔑まれたということですが、それは、ユダヤ人がキリスト教徒が忌み嫌う金融業や貿易を中心とする商業で、成功を収めていたことに由来するといいます。今も、ユダヤ人には、富裕層が多く、大きな政治的影響力を発揮するのは、そういう歴史があるからだろうと思います。

 

 だから、バイデン政権は、決してイスラエルを突き放すことはないと思います。突き放せば、自らの政権が崩壊することになるのだと思います。

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犯罪を犯しているのはイランかイスラエルか

2024年04月16日 | 国際・政治

 先日、朝日新聞は、バイデン大統領がアメリカのスペイン語放送「ユニビジョン」のインタビューに答えた内容の概略を、”バイデン大統領「ネタニヤフ氏は間違っている」”と題して掲載しました。インタビューでバイデン大統領は、「私がイスラエルに求めているのは、停戦して、今後68週間で全ての食料と医薬品が行き渡るようにすることだ」と述べたということです。”医療と食料を人々に提供しない言い訳はできない。今すぐやるべきだ”とも言ったといいます。

 さらに、ブリンケン国務長官も、市民を傷つけずにハマスを攻撃する代替策について、来週にもイスラエル側と協議する見通しを示したといいます。

 朝日新聞は、その意味を読者に示すかのように、”ガザ侵攻、イスラエルと溝深まる”という主題のような見出しもつけていました。

 でも、私は、こうした二人の発言は、アメリカがイスラエルと共有している戦略に基づくものだろうと思います。言い換えれば、高まる国際世論の批判を逸らすためのものだろうと思うのです。

 それは、こうした言葉とは裏腹に、アメリカのバイデン政権が、パレスチナ自治区ガザやヨルダン川西岸で戦争犯罪を続けるイスラエルのネタニヤフ政権に対して、水面下で戦闘機などの売却を承認していたことが分かったからです。ワシントン・ポスト紙(2004329日)によると、バイデン政権が、25機のステルス戦闘機および2300発以上の爆弾、その他、数十億ドル分相当の兵器の売却を承認していたと報じているのです。ワシントン・ポスト紙は、ガザへの軍事侵攻を続けるイスラエルに対して、バイデン政権が、民間人保護などを強く求めておきながら、水面下では兵器を供与している事実に対し、その矛盾を指摘する声があがっていることも報じているのです。

 また、見逃せないのは、バイデン政権が、過去に議会から武器売却の同意を得ていたということで、今回の武器の売却については、議会に通知していなかったばかりでなく、通常、外国への武器供与は、国防安全保障協力局のウェブサイトで情報公開されることになっているのに、今回の供与は公表されてもいなかった、という事実です。一般市民や国際世論を欺瞞する意図があったのではないか、と疑われます。 

 

 さらに、国連安全保障理事会は8日、パレスチナの国連加盟申請について協議をはじめたといいますが、アメリカはパレスチナの国連加盟に反対しているということも見逃すことはできません。アメリカの反対理由は不当で、法的には通用しないように思います。

 だから、アメリカは、イスラエルと事実上一体であり、決して、イスラエルを突き放し、孤立させることはないのだと思います。

 そういう意味で、私は、”ガザ侵攻、イスラエルと溝深まる”という朝日新聞の記事は、読者を欺瞞するものだと言いたいのです。

 

 アメリカの強いイスラエル支援の姿勢が、イスラエルのイラン大使館空爆につながっているという側面も見逃せません。アメリカがイスラエルに対する支援を止めれば、中東地域における戦いの拡大や、ネタニヤフ政権のラファ地上侵攻作戦も防ぐことができると思われますが、アメリカは、そういうことをしない国であることは、歴史が示していると思います。実態がどうであろうと、アメリカは、親米政権を支援し、反米政権を攻撃・転覆してきたのです。

 

 日本も、アメリカの肩代わりをするかのように、ウクライナ支援を強化したり、日米同盟を強化して、中国をにらんだ自衛隊の「南西シフト」を進めたり、急速な軍事予算の拡大をしたりしなければ、アメリカの戦争支援戦略を止める影響力を発揮することができると思います。

 戦争や紛争は、どちらかを支援したり、攻撃したりするのではなく、法に基づいて、話し合いによる解決を模索することが平和主義だと思います。アメリカに追随すれば、戦争を止めることはできないと思います。

 また、アメリカは、今なお、圧倒的な経済力と軍事力、さらには技術力などをもって、世界を思うように動かしていると思いますが、その衰退は明らかであり、その衰退を止めるためには、ロシアや中国など、非米・反米の国を弱体化するほかなく、戦争をやるしかない状態に陥っていることも、踏まえる必要があると思います。

 

 主要7カ国(G7)の首脳が、イランによるイスラエルへの攻撃を受けてテレビ会議を開き、声明で「直接的かつ前例のない攻撃」について、「最も強い言葉で明確に非難」したとの報道がありました。また、複数の国がイラン革命防衛隊(IRGC)をテロ組織に指定することを検討しているほか、各国で協調した制裁についても協議したと報道されています。イスラエルによるイラン大使館空爆がなかったかのような話で、随分おかしなことだと思いますが、それは、アメリカの覇権の大きさを示しているとも思います。

 イスラエルがイラン大使館を空爆したりしなければ、イランの反撃などはなかったということ、イランによるイスラエルへの報復攻撃を受け、パレスチナ自治区ガザでは14日、多くのパレスチナ人から喝采の声が上がったという事実も、見逃してはならないことだと思います。西側諸国がスラエルを支持し、支援するから、事態は悪化する一方なのだと思います。

 

 また、下記の抜粋文は、イスラエルの「パレスチナ難民救済事業機関(UNRW」敵視の姿勢を明らかにしていますが、イスラエルが、パレスチナ人を狭い地域に閉じ込め、支援なしには生きていけない状況に追い込んでおきながら、支援する組織を敵視しているという構図も見逃してはならないと思います。

  国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWAは、1949年の国連総会決議に基づき設立された組織です。イスラエルのパレスチナ占領によってパレスチナ自治区ガザやヨルダン川西岸のほか、レバノン、ヨルダン、シリアなど近隣諸国に避難し、難民となった多くのパレスチナ人を支援するためにできた組織で、避難所だけでなく、学校や病院も運営しているために、ガザだけで、約13000人のスタッフを雇っているといいます。だから、継続的な支援国の拠出資金が必要なのですが、UNRWAの一部職員がハマスのイスラエル攻撃に関与した疑いが浮上したということで、日本を含む多くの国が、パレスチナ難民救済事業機関(UNRW)に対する支援資金の拠出を停止しました。

 私は、その支援資金拠出停止も、おかしな話だと思います。なぜなら、UNRWAの一部職員がハマスのイスラエル攻撃にどのように関与したのか、また、UNRWAという組織が、そのことをどのように受け止めているのか、まったく不明だからです。どんな調査や聞き取りがなされ、その結果はどうであったのか、何もわかりません。にもかかわらず、支援資金の拠出を停止するということは、支援資金の拠出を停止した国が、パレスチナではなく、難民を生み出したイスラエルの側にあることを示しているように思います。パレスチナの地に、イスラエルというユダヤ人国家の建国を促し、多くのパレスチナ人を難民とし、苦難を強いておきながら、その支援をも断つという対応は、長く中東やアフリカ、アジアや中南米の国々を植民地として支配し続けてきた欧米の対応だと思います。

 イスラエルの「ハマス殲滅作戦」が、実は「パレスチナ人殲滅・追放作戦」であることは、イスラエルの見境のないガザ爆撃、また、イスラエルのリクードの歴史や政治家の言動、ネタニヤフ首相やネタニヤフ政権高官の発言などから察せられると思います。イスラエル軍が、ハマスと一般のパレスチナ人を区別している様子もありません。日本でも、便衣兵の問題が議論になったことがありますが、ガザやヨルダン川西岸地区で、パレスチナとハマスを区別することはできないだろうと思います。極論すれば、イスラエルのネタニヤフ政権にとって、パレスチナ人はすべてハマスなのだろうと思います。そうしたイスラエルのやりたい放題を止めなければ、戦争の拡大は防ぐことができないと思います。イランを支える国も少なくないと思います。

 下記は、「イスラム 超過激派」宮田律(講談社)、から「止まらない自爆テロ」を抜萃しました。

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             第五章 世界の「核爆弾」としてのパレスチナ・テロとイラクの泥沼

 

      止まらない自爆テロ

 ハマスにしろ、PLOにしろイスラエルを共通の敵として、パレスチナ人の権利拡大を図ろうとしている。つまりシャロン政権の強硬な姿勢は、パレスチナ各派をいっそう共闘させることになっているのだ。ハマスと「イスラムのジハード」の拮抗関係はほとんどない。パレスチナの過激派組織、「アル・アクサー殉教団(ファタハ内部の急進的組織)」「ハマス」「イスラムのジハード」などは、そのメンバーたちがイスラエルに対して自爆テロなどの攻撃を行っている。前述のとうり自爆テロは、自発的なもので、確かな指示・命令系統があるとはいえない。

 シャロン政権は結果的にハマスの活動を先鋭化させたり、またパレスチナ人の間におけるハマスのなど求心力を高める方策を取り続けている。シャロン政権の方針は、ガザでのハマスなど急進派の軍事的活動を徹底的に抑圧することにある。20049月終わりからイスラエルはガザ地区北部に対して軍事的制圧を行った。イスラエル軍は、イスラエル南部のゼデロトでハマスのミサイルによってイスラエル人の子どのも2人が殺害されたことへの報復として占領地最大のジャバリーヤ難キャンプ(およそ10万人の住民が住む)に侵攻して、80人のパレスチナ人を殺害したのである。しかし、犠牲者の多くはパレスチナ人のどもたちで、300人以上が負傷した。また、多くのパレスチナ人の家屋や農地が破壊され、数百人のパレスチナ人が家屋を喪失したとみられている。  

 パレスチナ市民の犠牲者は、ハマスや「イスラムのジハード」「アル・アクサー殉教団」などの民兵の犠牲者をはるかに上回っている。ベツレヘムを拠点とするイスラエルの人権団体は、ジャバリーヤ難民キャンプでは5万人のパレスチナ人が軍事的に包囲され、電気や水の提供が遮断され。食料も底をついたと報告した。

 イスラエル政府の公式発表では、ガザ自治区北部への軍事侵攻は、イスラエル南部に対するカッサーム・ロケット弾の発射を封じる事が目的だったという。カッサーム・ロケット弾は、ハマスなどパレスチナの武装勢力の手作りによるもので、イスラエルをてこずらせてきた。ハマスなどによる抵抗はあるものの、イスラエルの近代的な兵器の前にパレスチナ人たちは、ほとんど無力の状態なのだ。シャロン首相は、パレスチナ人の武力抵抗が行われる中で、ガザを放棄したくない。イスラエル軍がガザの抵抗にてこずりながら撤退するのは、イスラエルの威信低下になるからだ。

 2004103日にイスラエルのシャワル・モファズ国防相は、イスラエル軍の人道的な将校団をガザに派遣した。これらの将校とイスラエル国防軍は、ガザの難民キャンプで悲劇の発生を防ぐために活動するという構想を明らかにしたのだ。しかし、こうした構想が実際に有効に機能するとは思われない。いくら「人道支援」のためとはいえ将兵たちが、ガザで武力抵抗に遭った場合、パレスチナ人に対する報復を行ない、一般市民たちが巻き添えとなる可能性がないとはいえないのだから。

 イスラエルの『ハアレツ』紙に関連するインターネットのサイトである「ワッラ」は、世論調査を行ない、カッサーム・ロケット弾にどう対処するかという質問を出したところ、65%が軍事的、あるいはテクノロジーの力で防ぐことができると回答した。14%の人々が、政治的解決、すなわちガザからの撤退がミサイルの発射を防ぐことになるのではないかと答えた。

 ハマスは、イスラエルの人口密集地帯に対して、爆発物や自爆攻撃によって報復し、また、イスラエルの軍事基地を攻撃すると誓った。こうしたハマスの「誓約」がイスラエルの国民を恐怖に陥れていることは間違いない。しかし、イスラエル政府は、国民の批判が自らに向かうことを回避しようとし、国連、特に「パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に非難の矛先が向かうよう仕向けたのである。2004103日、イスラエル政府は、ガザのUNRWAの事務局長であるピーター・ハアンセンの辞任を要求した。イスラエルの主張によると、UNRWAの救急車がガザでカッサーム・ロケット弾の輸送に使われたというものだが、ハンセン事務局長は、「イスラエルがロケット弾だと主張した物体はじつは担架である」と反論した。このようなことから当初はイスラエル・パレスチナ問題に対して中立的な立場だったハンセン事務局長のような人物も、イスラエルにある種の反感を持つようになってしまった。

 ハマスや「イスラムのジハード」などパレスチナのイスラム勢力の活動は中東和平のバロメーターになっている。93年に「暫定自治に関する原則宣言」が成立し、中東和平が進むかに見えた時期、ハマスや「イスラムのジハード」の活動は一時的に影を潜めた。しかし現在、パレスチナのイスラム勢力は、イスラエルシャロン政権の強硬な姿勢に対して、過激な活動を志向するようになっている。イスラエルが力による抑圧を考え続けているうちは、イスラム勢力による自爆テロは決して無くならない。ハマスや「イスラムのジハード」の活動を抑制するには何よりも和平の進行が必要だ。20052月、エジプトのシャルム・エル・シェイクで、イスラエル・パレスチナ双方の暴力停止宣言があったものの、イスラエルには和平を積極的に進めようとする姿勢が見られない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ハマス殲滅作戦」は「パレスチナ人殲滅・追放作戦」

2024年04月11日 | 国際・政治

 ガザ地区のハマスは、パレスチナ人の人権を無視したイスラエルの政策や、それに抵抗する多数のパレスチナ人の殺害・拘束の結果組織されることになった抵抗組織だと思います。ハマスのメンバーは、生まれながらのテロリストなどではないということです。

 だから、ハマスのメンバーをテロリストとし、ハマスをテロ組織とする対応は、精神病や精神疾患に陥った人たちを、生まれた育った環境や人間関係、社会的状況などを考慮することなく、悪魔憑きであるとか悪霊に憑りつかれた人であると考えた時代の野蛮な対応と言わざるを得ないのです。イスラエルの「ハマス殲滅作戦」は、そういう意味で、精神病や精神疾患の患者に、祈祷やまじないやおはらいで対応していた時代のものだというのです。

 ガザにおいて、イスラエルの戦争犯罪がくり返されているにもかかわらず、いまだに、イスラエルの「ハマス殲滅作戦」を、少しやり過ぎがあるようだが、やむをえない対応だというようなアメリカを中心とする西側諸国の受け止め方は、根本的に間違っていると思います。

 フランスの哲学者シモーヌ・ド・ボーヴォワールは、『第二の性』と題する著書で、「人は女に生まれるのではない。 女になるのだ」と書いていました。「私たち女性は、生まれたときから自動的に女性であるわけではない」というのです。 生まれた育った環境や人間関係、社会的状況のなかで、「女になる」ということだと思います。

 言い換えれば、「人はテロリストに生まれるのではない。テロリストになるのだ」ということだと思います。「生まれたときから、テロリストであるわけではない」ということです。

 そして、ハマスのメンバーをテロリストにした責任のほとんどが、イスラエルにあることは誰にも否定できない事実だと思います。

 そのことを踏まえれば、イスラエルによる「ハマス殲滅作戦」が終わることはないと思います。それは、ハマスが、次々に新しいパレスチナ人メンバーを迎えて、抵抗を続けるからであり、周辺国のアラブ人をはじめとする諸民族が、ハマスに連帯して戦いを始めていることでもわかると思います。 

 ふり返れば、パレスチナの問題は、シオニズム運動の創始者として知られるハンガリー生れのユダヤ人、ヘルツルの呼びかけに応じて、世界中からパレスチナの地に、多数のユダヤ人が移り住んだことからはじまったのだと思います。特に問題は、イギリスの後押しを受けたユダヤ人が、パレスチナの肥沃な土地の大部分を占領し、パレスチナ人を生活困難な狭い地域に追いやって、合意なく、1948年に「イスラエル建国」を宣言してしまったことだと思います。

 多くのユダヤ人が、ヘルツルの呼びかけに応じるかたちで、パレスチナの地に移り住み、何世代にもわたって住み続けてきたパレスチナ人を排除するかたちで、パレスチナの地に、強引にイスラエル国家を建国(1948年)した事実が、現在の戦いにつながっていることを、無視しすることはきないと思います。

 そして、現在イスラエルのネタニヤフ政権は、さらに進んで、パレスチナの地からパレスチナ人を追放するため、「ハマス殲滅作戦」という「パレスチナ人殲滅・追放作戦」を展開しているのだと思います。パレスチナの地に、パレスチナ人がいる限り、イスラエルの安心・安全はないと考えられるからです。現在のイスラエルのガザに対する法を無視した攻撃がそれを示していると思います。

 

 また、「イスラム 超過激派」宮田律(講談社)の、下記の抜萃文も、それを示していると思います。

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           第五章 世界の「核爆弾」としてのパレスチナ・テロとイラクの泥沼

 

 イスラエルの暗殺作戦

 20009月にインティファーダが再開された後、イスラエルによって暗殺されたパレスチナ人の指導者は100人以上を数える。パレスチナ人指導者に対する暗殺は、1980年代の最初のインティファーダの後でも行われた。イスラエルによるパレスチナ人暗殺は長い歴史をもっているのだ。19727月にはPFLP(パレスチナ解放人民戦線)のジャーナリストであるガッサン・カナファニをベイルートで自動車にしかけた爆弾で殺害した。同じ年の10月には、ファタハ指導者のワイル・ズワイテルをローマで射殺した。19734月には詩人でジャーナリストのカマル・ナセルと他の2人のファタハのメンバー、ムハンマド・ナッジャールとカマル・イドワンをそれぞれベイルートの自宅で暗殺した。同年6月にはPFLPのムハンマド・ブーディアがパリで爆殺されている。そして1992年にはレバノンのヒズボラの事務局長であるアッバース・ムサウィが殺害された。さらに1995年には、パレスチナの「イスラムのジハード」の最高指導者であるファトヒー・シャカーキーがマルタ島で暗殺されたのである。 

 イスラエルはこれらの暗殺の口実を「テロリストの撲滅」としているが、殺害方法と動機はその時々で異なっている。1970年代には小グループによる巧妙な暗殺であったのが、最初のインティファーダ(19871992)の際には、殺害は「ミスタラヴィム」というイスラエル軍の特別部隊によって行われるようになった。2000年に始まるインティファーダでは、狙撃手を使ったり、また戦闘機や軍用ヘリによるミサイル攻撃を行うようになったりした。パレスチナ人指導者の暗殺は、政治的あるいは軍事的に重要な人物である場合に行われている。

 

 こうした暗殺を「イスラエルの文化」と語るパレスチナ人もいる。いずれにせよ、パレスチナ人との和平交渉に消極的なシャロン首相が、パレスチナを混乱状態にさせ続けるために暗殺作戦を展開している意図は否定できない。シャロン首相のガザ返還計画は、「西岸拡張計画」でもある。シャロン首相には、ガザを返還することによって、ヨルダン川西岸ではイスラエルの権益を強く主張したい意向がある。ブッシュ大統領は2003年、西岸を分けるため、シャロン首相が治安のために必要とする分離壁の問題を批判したが、大統領選挙の年である2004年にはことさらその問題に触れようとはしなかった。

 後で詳述するが、アフマド・ヤースィンを暗殺したことで、シャロン首相はその「戦いの場」を西岸・ガザを超えて拡大しようと考えたのかもしれない。イスラエルのハマス研究者はヤースィンの暗殺によって、ハマスは諸外国でもユダヤ人を標的にしたテロを行うようになるかもしれないと語った。実際、この指摘のとうり、200410月にはエジプトのリゾート地タバでイスラエル人観光客をねらったテロが発生し、イスラエル人30人以上が亡くなっている。

 シャロン首相にとっては、ハマスによるテロの拡大は、ブッシュ大統領の「対テロ戦争」の提唱と重なって都合がよいことなのかもかもしれない。ヤースィンを暗殺した後で、シャロン首相は「われわれにとってのビンラディンを殺害した」と発言した。「対テロ戦争」に従事することによって、シャロン首相はガザの軍事的抑圧、西岸の支配地の拡大に正当性が与えられると考えた。また、パレスチナ人がイスラエル人の人口を超すことを防ぐ様々な手段を講ずることも許容されると考えているに違いない。しかし、シャロン首相の手法は、ハマスのテロを長期化させ、パレスチナ情勢を一層悪化させるものであることは間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

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イスラエル軍によるハマス創設者ヤースィンの暗殺とアメリカ

2024年04月08日 | 国際・政治

 下記は、「イスラム 超過激派」宮田律(講談社)からの抜萃ですが、これを読めば、もともと敬虔で、もの静かな人物であったヤースィンが、なぜイスラム原理主義的な組織「ハマス」を創設し、武装化を進めたりすることになったのか、ということが理解できるように思います。ヤースィンの思想や戦略は、イスラエルの差別的、攻撃的対応抜きには語れないということです。

 でも、「ハマス殲滅」を意図するイスラエルにとっては、ハマスはイスラエルとは関係のない「テロ組織」であり、話し合いの対象ではなく「絶対悪」でなければならないのだと思います。だから、「絶対悪」のハマス創設者ヤースィンは、イスラエルの存在や圧迫とは無関係のテロリストであり、テロ組織を率いるヤースィンを殺しても罪に問われることはないということで、ヤースィンがガザ路上を、車椅子でモスクの礼拝に向っている時に、チャンス到来とばかりに、軍のヘリコプターのミサイル攻撃によって殺害したのだと思います。また、ヤースィンの他にも、ハマスのリーダーが、イスラエル軍によって殺害されていることも見逃してはならないと思います。

 下記のような文章によって、イスラエルのハマスに対する姿勢や行為を知れば、イスラエルの政党リクードのネタニヤフ政権が、自らの行為や事実を隠してパレスチナ人を殺す、恐ろしい政権だわかるような気がします。

 だから、そんなイスラエルを支えるバイデン米政権も、恐ろしい政権だと思います。

 329日、米紙ワシントン・ポスト(WP)は、世界中でイスラエル批判が高まっているにもかかわらず、バイデン米政権が、同国への爆弾や戦闘機の追加供与を承認していたと伝えました。追加供与は、約25億ドル相当のF35戦闘機25機のほか、MK84爆弾1800発以上、MK82爆弾500発以上が含まれる、というのです。

 また、国連人権理事会(47カ国)は5日、パレスチナ自治区ガザでの停戦を要請し、加盟国にイスラエルへの武器や弾薬、軍需品の売却や移転の停止を求める決議案を採択しましたが、採決では28カ国が賛成し、アメリカやドイツなど売却や移転をしている6カ国が反対、日本を含む13カ国が棄権したといいます。

 バイデン大統領や、ブリンケン国務長官のイスラエルのラファ侵攻にたいする批判や懸念は、本心ではないことを示していると思います。政権や政治家の評価は、言葉ではなく、何をやっているかで下されるべきだと思います。

 

 また、同じようにウクライナのゼレンスキー政権やゼレンスキー政権を支えるアメリカのバイデン政権にとって、ロシアは戦略的に「絶対悪」の侵略国でなければならず、話し合いの対象にすることはできないのだと思います。だから、ロシアの「特別軍事作戦」(ウクライナ侵攻)前の、ロシアに対するアメリカを中心とするNATO諸国の行為その他の対応は隠す必要があって、あらゆる組織や団体からロシア人を排除し、交流や情報のやり取りを遮断したのだと思います。ノルドストリームをめぐる米ロ対立やウクライナの政権転覆に関する問題などを話題にされたくないからだろうと思います。

 その影響を受けて、日本でも、日本人を欺瞞する報道がなされてきたと思います。

 ウクライナ戦争が始まった時、お昼のワイドショウその他のニュース番組にくり返し登場した、ロシアに詳しいジャーナリストやロシア政治、国際政治の専門家といわれる人たちの解説には、現実の米ロ関係を中心とする国際的な国家対立を無視する共通の問題があったと思います。

 それは、ロシアのヨーロッパ諸国に対する影響力の拡大が、アメリカの覇権や利益を損なうと考えているバイデン政権の対ロ戦略を隠し、ウクライナ戦争が、独裁者プーチン大統領個人の妄想によって始まったというような解説にあらわれていたと思います。

 気になった「話」を、いくつか歴史に関するもの、情報統制に関するもの、権力構造に関するもの、戦略に関するものなどに分けて列挙すると、

 

 一、ロシアが欧州からアジアにまたがる「帝国」を形成したのは、18世紀後半にエカテリーナ女帝がウクライナを併合して以降だが、ウクライナに執着するプーチンは、ソ連崩壊後独立したウクライナを再び「小ロシア」として組み込み、同化させた思いが強いと思われる。

 ウクライナ侵攻の背景には、プーチン氏の「ウクライナとロシアは一つの民族」との考えがあり、「偉大な帝国」復活の執念があると思われる。プーチン氏は「ウクライナの真の主権はロシアとのパートナーシップによってのみ可能だ」というようなことを言っている。

 プーチン氏の妄想というべき考えの根底にあるのは、ロシアは欧米とは異なる文明を有する偉大な「帝国」で、「ユーラシア主義」と言われるような偏った歴史観だ。

  ウクライナ戦争は、プーチン大統領が自分の歴史観を前面に押し出して始めたもので、その点で歴史と非常に関わりの深い戦争であるといえる。プーチンの考えは、ウクライナは広い意味でのロシア世界の一部であって、それを取り戻すだけだというものだが、帝政ロシア・ソ連の歴史や歴代の指導者たちの考えをふり返ると、彼の発言は単なる方便ではなく、この戦争が、歴史の中で積み重なってきたいろいろな動機を背負ったものであることがわかる。

 ロシアでは、法治より人治が優先され、強い指導者のもとで、つくられた過去の歴史が、現在の政治と直結させられる傾向がある。

 

 二、プーチン政権下で、重要な祝日と位置づけられている「対独戦勝記念日」が近づき、ロシアでは政権のプロパガンダを国民に刷り込むための様々な行事が開かれている。モスクワの「大祖国戦争中央博物館」で実施されている「真の遺訓」展もその一つだ。

 プーチン大統領は、メディアを使って情報を統制し、あらゆるところで、政権のプロパガンダを流しているので、多くのロシア人が見る世界は、国際社会の認識と大きく異なる。ロシアの人たちが住むのはまるで「アナザーワールド」だ。

 

 三、プーチン氏は、周辺を、パトルシェフ安全保障会議書記ら、旧KGB(ソ連国家保安委員会)出身の「チェキスト」とよばれる強硬派で固めており、強い指導力を発揮している。ロシア国民は声をあげることが難しく、民主化することも簡単ではないだろう。

 

 四、プーチン大統領は、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)の拡大に対する「被害妄想」でウクライナ戦争を始めた。日本もウクライナの代わりに攻撃されていた恐れもある。安全保障を考える時だ。

 プーチン氏は、米国が国内の分断などで指導力が低下した今こそ武力で国際秩序を変更する好機到来とみなしたのだろう。しかし、捏造された情報を口実に他国を侵略するのは、ナチス・ドイツのヒトラーに酷似する。軍事的冒険主義が行き着く先は破滅だと歴史が証明している。

 

 こうした主張を、くり返し、聞いたり読んだりしてきたのですが、プーチン大統領が語っているような、現実の米ロ関係やゼレンスキー政権とロシアの関係が抜け落ちているのです。

 プーチン大統領は確かに、「ウクライナとロシアは一つの民族」とか「ユーラシア主義」と言われるような歴史観を語っていますので、上記のようなとらえ方が、すべて間違っているとは思いませんが、ウクライナ戦争のきっかけは、そうした歴史観によるプーチン大統領個人の妄想ではなく、現実の米ロを中心とする国家関係だと思います。

 プーチン大統領は、くり返しアメリカを中心とするNATO諸国の脅威を語っているのに、それを無視していることが問題だと思うのです。

 

 国際社会の戦争や紛争は、相互の関係の矛盾・対立であり、必ず、経済的利益や領土問題の対立、宗教的対立、あるいは軍事的脅威に関する対立などがあると思います。

 だから、戦争に至る米ロ関係などに目をつぶり、ウクライナ戦争がプーチン大統領個人の妄想で始まったと主張することは、精神病や精神疾患に陥った人たちを、人間関係のなかで考察することなく、悪魔憑きであるとか悪霊に憑りつかれた人であると考え、祈祷やまじないやおはらいで対応しようとしていた時代のレベルだと思うのです。

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           第五章 世界の「核爆弾」としてのパレスチナ・テロとイラクの泥沼

 

                   アフマド・ヤースィンの暗殺

 

 イスラエルは、2004322日にハマスの指導者であるアフマド・ヤースィンを殺害した。ヤースィンは、敬虔で、もの静かな人物で、ハマスの精神的指導者として崇められてきた。イスラエルがヤースィンを殺害したのは、シャロン首相がガザ地区からの撤退を公約するようになり、ガザのハマスの運動を弱体化させることによって、ガザ社会の安定を築きたかったことがある。しかし、こうしたイスラエルのもくろみとは異なって、ハマスの影響力はいっそう高まることになり、またイスラエルはハマスの報復を恐れることになる。ヤースィンの死は、ハマスに深い精神的な衝撃を与えたことは間違いない。それでもヤースィンの死が、ハマスの活動を鈍らせるということはなかった。じつはヤースィンは健康状態の悪化もあって、亡くなる前の数年間は満足な活動ができなかった。

 アフマド・ヤースィン1936年にジュラの町で生まれた。1948年のイスラエル建国後の第

一次中東戦争の際に家族とともに難民としてガザに逃げた。彼は、ユダヤ人が彼の一族の土地を奪ったので戦う決意を持ったことを明らかにしている。さらに。彼のイスラエルへの憤りはガザ地区の貧困とともに増幅しい行った。1952年にサッカーで負傷して以来、残りの人生を身体的な障害を持ちながら送ることになる。

 1950年代の終わりにエジプトに留学し、そこでムスリム同胞団の思想に強い感化を受けるようになり、同胞団の活動に身を投じていった。1962年にガザ地区戻る際に、エジプト当局に拘束されたこともあるが、それはムスリム同胞団との関わりがあったからであった。ヤースィンは、ガザではモスク導師としてイスラム学やアラビア語を教えるようになった。彼は、1948年のパレスチナ喪失は、イスラム共同体が弱体化の傾向を示しているからだと訴えた。その解決のためには、イスラムの政治力を復活させ、また世俗的な力を弱めることだと考えるようになった。彼は、1970年代からイスラム原理主義的な集団をつくるようになり、ヨルダンのムスリム同胞団の支援などによって武装化を進めたこともあった。1984年には逮捕され、13年の懲役刑が言い渡されたが、翌年。PFLPGC(パレスチナ解放人民戦線司令部派)がイスラエル兵を釈放したことと交換に解放された。

 彼は、1987年にアブドゥル・アズィーズ・ランティスとともに、ハマスを創設する。ヤースィンは1989年にイスラエルによって逮捕され、パレスチナ人による暴動とイスラエル兵の殺害を扇動したとして40年の刑期を言い渡された。こうしてヤースィンは八年間獄中で過ごしているうちに、健康を悪化させ、片方の目の視力を失った。ところが1997年に彼は獄中生活から解放される。その釈放は、ヨルダンのフセイン国王が、ヨルダンで活動していたハマスの指導者ハリド・マシャールの殺害を企てたモサドの要員2人を釈放したこととの交換で行なわれた。ガザ地区に戻ったヤースィンの簡素で誠実な生活態度は、パレスチナ自治政府の幹部たちと対照なすものとみられた。20009月に<アル・アクサー・インティファーダ>が発生する前に、米国やイスラエルからの圧力を受けて、パレスチナ自治政府によって、ヤースィンは自宅軟禁されることになった。

 シャロン首相は、米国からの非難以外、国際社会の批判にはそれほど動じない。実際、米国ブッシュ政権のライス安全保障担当大統領補佐官(当時)は、ハマスは「テロリスト集団」であり、ヤースィンはテロに深く関与してきた、とヤースィン暗殺を支持した。また、国務省やホワイトハウスからはヤースィン暗殺についてあからさまな非難の声も聞かれることがなかった。ヤースィン暗殺問題は、国連の安保理に付託されたが、米国は予想どおり拒否権を発動した。

 シャロン政権が長期にわたるほど、家屋の破壊や、パレスチナ人指導者の暗殺を行ない、ガザの状況は悪化することが明らかである。一方で、パレスチナ自治政府にもガザの社会・経済を改善するだけの資産がない。イスラエルは、ブッシュ政権が提唱した和平への道筋であるロードマップを誠実に進行させる意図がなく、ロードマップはほとんど成果をもたらすことはなかった。ヤースィンの暗殺は、イスラエルによるヨルダン川西岸・ガザへの軍事侵攻、家屋の破壊、パレスチナ経済の停滞、和平の政治的イニシアチブに対する非難や拒絶などの意図や行為を表すものだった。

 明らかにシャロン政権はパレスチナ人との和平案を拒否する姿勢を見せている。和平案では、イスラエルが占領を終結させ、またパレスチナ国家の独立を認め、イスラエルとパレスチナは共存していかなければならないとしている。しかし、こうした外交的解決をシャロン政権は決して履行できない。シャロン政権は、ヨルダン川西岸の半分を手にして、またパレスチナ人には限定された自治を与えるのみで、地中海からヨルダン側に至る地域はイスラエル国家としか存在しないようにする意図があると考えられている。

 アフマド・ヤースィンの葬儀におよそ20万人が集まった。ヤースィンの暗殺に対する抗議集会は、イスラエル(イスラエル国内のパレスチナ人)、エジプト、ヨルダン、レバノン、シリア、スーダン、イラクとイランなどで開かれた。従来、ハマスをテロリスト集団と形容していたハビエル・ソラナEU(欧州連合代表)代表も、ヤースィンの暗殺は、和平プロセスにとってたいへん悪いニュースだ、と語ったが、この暗殺が、パレスチナ人たちを自爆攻撃を含む武装闘争支持に駆り立てるのではないかと危惧したのかもしれない。

 ヤースィンの暗殺以前、パレスチナ自治評議会政府やハマスなどパレスチナの各派は、イスラエルがガザから撤退した後、イスラエルに対するガザからの攻撃や、ガザにおける武闘活動を控えることで合意していた。しかし、ハマスの指導者の一人であるアブドゥル・アズィーズ・ランティスは、インティファーダの間、すべての停戦に向けてのイニシアチブに反対していた。こうしたランテスの姿勢は、パレスチナ自治評議会の腐敗に怒るガザの青年層の支持を得るものだった。

 イスラエルがハマスを武力でもって鎮圧しようとする姿勢は、ハマス内部の急進的傾向を強めるものだった。イスラエルによる鎮圧でたいていのハマスの政治部門や軍事部門の指導者たちは捕らわれるか殺害されてきた。イスラエル人がガザから撤退した後に、起こる混乱についてパレスチナ人が懸念している面もある。イスラエルがガザから撤退後も、かりに自爆テロが発生したりすれば、イスラエルはガザを再占領する可能性がある。こうした事態をシャロン首相が望んでいるとパレスチナ人たちは憂慮しているのである。

 ヤースィンが殺害された二日後の324日にパレスチナの新聞『アル・アイヤーム』紙に60人のパレスチナ知識人、また、パレスチナ自治政府関係者の署名入りで声明が出され、ヤースィン暗殺を非難するとともに、パレスチナ人には冷静に対処し、シャロン首相が植民地主義的な野心を起こさないように、平和的なインティファーダを追求するよう求めた。こういった呼びかけがあったものの、ハマスのあるメンバーはパレスチナ人は、イスラエルが占領を終え目的を達成するまで抵抗は続けるだと語った。

 

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アメリカのプロパガンダ発信要員と戦争解説のレベル

2024年04月01日 | 国際・政治

 現在の日本で、ウクライナ戦争やイスラエル・パレスチナ戦争を、経済や政治や領土などをめぐる対立関係の問題としてとらえることなく、あれこれ解説する専門家と言われる人たちは、私にはアメリカのプロパガンダ発信要員のように思えます。

 昔の人たちは、精神病や精神疾患に陥った人を、悪魔憑きであるとか、悪霊に憑りつかれた人であると受け止め、祈祷やまじないやおはらいで対応したといいます。でも、文明の発展とともに、徐々に精神病や精神疾患が、複雑な人間関係や環境のなかで、身体の病気と同じような病いに陥いることになったものと理解されるようになり、祈祷やまじないやおはらいではなく、医学的治療の対象とされるようになったといわれます。
 うつ病に代表されるように、人間関係のトラブルや大きなストレスを感じさせる状況を乗り越えることができれば、精神病や精神疾患の多くは、症状が改善できると考えられるようになったのです。
 そのことを確認したいと思っていたら、宮城大学、長岡芳久氏の「精神疾患患者の理解の変遷に関する研究」という論文があり、その文章の中に下記のような記述がありました。
フロイトのこれまでの精神疾患患者の理解と大きく異なる点は、患者が示す精神症状を単にその時点で捉えるだけではなく、症状を発達史的に解釈して主として幼児期の対人関係から説明しようとした。患者の生活歴により重点をおいた考察がなされるようになり、患者を歴史をもった存在として受け止められるようになった。フロイトの患者の内面に深く関心を向ける分析療法は、医師の人間としての存在を通じての患者の人間存在の開示の可能性を生み出し、“精神疾患は人間の病気”であるという確信を強くした。こうしたフロイトの患者を理解していく方法は、現象学や実存哲学主義の影響を受けながら、人間学派とよばれる精神疾患患者の全存在として理解しようとする動きにつながっていく。人間学とは、妄想などの症状を含めて人間関係や葛藤などを生きた生活史としてとらえて精神病者の全存在を理解しようとする立場とされている。
 とありました。

 こうした複雑な人間関係や社会関係のなかで精神病や精神疾患に陥いる人がいるように、世界でくりかえされている戦争や紛争も、国家や組織の複雑な国際関係のなかで起きる病気のようなものだと思います。相互の利益の対立や領土をめぐるトラブル、権利や義務の主張の対立、相手国の軍事攻撃に対する不安等が原因で、戦争や紛争が起きるのだと思います。だから、それを明らかにし、停戦や和解につなげる議論をすることが、学者や専門家の仕事だと思います。また、メディアの責任だと思います。戦争や紛争は、相互の関係に問題があるということであって、アメリカやウクライナやイスラエルが主張するように、相手側が100パーセント悪く、話し合いでは解決できないというようなものでは決してないと思います。
 でも、相互の関係の問題と受け止められたくないアメリカやウクライナは、ロシアを100パーセント悪いことにするために、プーチン大統領を「悪魔のような独裁者」にしたてあげ、ロシアのアスリートをオリンピックから排除するだけでなく、ロシア人をあらゆる組織や団体から切り離し、人的交流や情報のやりとりを遮断しました。プーチン大統領が、「なぜアスリートを政治に巻き込むのか」と非難したことは、どちら側が話し合いでの解決を拒否しているのかということを示していると思います。また、イスラエルが国際司法裁判所の「措置命令」を無視し、「ハマス殲滅」の方針で攻撃継続していることも、イスラエルが話し合いでの解決を受け入れないということを示していると思います。後ろ暗いところがあるように思います。

 メディアにくり返し登場した安全保障の研究者や、国際政治が専門の大学教授などは、ウクライナ戦争に関わる米露のトラブルやウクライナと一体となったNATO諸国の軍事訓練、攻撃体制の準備状況などを隠してウクライナ戦争を語っていたところに、それが窺えると思います。
 また、同じようにパレスチナのハマスが何時どのように結成され、なぜ過激化したのかということについての分析や考察、特に、イスラエルやイスラエルを支援してきたアメリカの諸政策の問題がメディアで取り上げられることはほとんどなかったと思います。そんなことでは、ハマスを理解することはできず、「ハマス殲滅」というイスラエルの方針を変えさせることもできないと思います。ハマスを知れば、「ハマス殲滅」が不可能であり、したがって、「ハマス殲滅」は、イスラエルの攻撃の継続を意味し、「パレスチナ人殲滅」につながる戦争犯罪の追認になってしまうと思います。

 そういう意味で、日本の国際政治や安全保障の専門家・学者は、いまだに、 精神病や精神疾患に陥った人を、悪魔憑きであるとか、悪霊に憑りつかれた人であると受け止め、祈祷やまじないやおはらいで対応しようとしていた時代のレベルの解説をしていると思います。
 現在の戦争の場合は、精神疾患おける祈祷やまじないやおはらいにあたるのが、武器の供与や財政支援という戦争支援策だと思います。 

 国際社会における戦争や紛争も、相互の関係の問題であり、必ず、経済的利益の対立や領土の問題、権利や義務の法律的問題、安全保障の問題その他があるのだと思います。それらを考慮して、理解を深め、戦争や紛争を解決に導くのが、 国際政治や安全保障の専門家・学者の責任であり、それを取り上げるのがメディアの仕事だと思うのです。戦争や紛争当事国の一方の側の支援の必要性を語るような解説や報道などもってのほかだ、と私は思います。はやく、祈祷やまじないやおはらいに夢中になった時代の対処の仕方を乗り越え、平和を取り戻すための議論をすべきだと思います。
 
 宮田律氏が明らかにしている、下記のような事実をきちんと受け止めなければ、ハマスを理解することはできず、イスラエルとパレスチナの戦争を解決することはできないと思います。ハマスを過激化させたのはイスラエルやイスラエルの側につき、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への支援基金拠出を停止した国々だと思います。下記は、「イスラム 超過激派」宮田律(講談社)からの抜萃です。
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           第五章 世界の「核爆弾」としてのパレスチナ・テロとイラクの泥沼

   イスラエルの暗殺作戦
 2000年9月にインティファーダが再開された後、イスラエルによって暗殺されたパレスチナの指導者は100人以上を数える。パレスチナ人指導者に対する暗殺は、1980年代の最初のインティファーダの後でも行われた。イスラエルによりパレスチナ人暗殺は長い歴史を持っているのだ。1972年7月にはPFLP(パレスチナ解放人民戦線)のジャーナリストであるガッサン・カナファニをベイルートで自動車に仕掛けた爆弾で殺害した。同じ年の10月には、ファタハ指導者のワエル・ズワイテルをローマで射殺した。1973年4月には詩人でジャーナリストのカマル・ナセルと他の2人のファタハのメンー、ムハンマド・ナッジャールとカマル・イトワンをそれぞれベイルートの自宅で暗殺した。同年6月にはPFLPのムハンマド・ブーディアがパリで爆殺されている。そして1992年にはレバノンのヒズボラの事務局長であるアッバース・ムサウィが殺害された。さらに1995年には、パレスチナの「イスラムのジハード」の最高指導者であるファトフィー・シャカーキーがマルタ島で殺害されたのである。
 
イスラエルはこれらの暗殺の口実を「テロリストの撲滅」としているが、殺害方法と動機はその時々で異なっている。1970年代には小グループによる巧妙な暗殺であったのが、最初のインティファーダ(1987~1992)の際には、殺害は「ミスタラヴィム」というイスラエル軍の特別部隊によって行われるようになった。2000年に始まるインティファーダでは、狙撃手を使ったり、また戦闘機や軍用ヘリによるミサイル攻撃を行うようになったりした。パレスチナ人指導者の暗殺は、政治的、あるいは軍事的に重要な人物である場合に行われている。
 こうした暗殺を「イスラエルの文化」と語るパレスチナ人もいる。いずれにせよ、パレスチナ人との和平交渉に消極的なシャロン首相が、パレスチナを混乱状態でさせ続けるために暗殺作戦を展開している意図は否定できない。シャロン首相のガザ返還計画は、西岸拡張計画」でもある。シャロン首相には、ガザを返還することによって、ヨルダン川西岸ではイスラエルの権益を強く主張したい意向がある。ブッシュ大統領は2003年、西岸を分けるため、シャロン首相が治安のために必要とする分離壁の問題を批判したが、大統領選挙の年である2004年にはことさらその問題に触れようとはしなかった。後で詳述するが、アフマド・ヤースィンを暗殺したことで、シャロン首相はその「戦いの場」を西岸・ガザを超えて拡大しようと考えたのかもしれない。イスラエルのハマス研究者は、ヤースィンの暗殺によって、ハマスは諸外国でもユダヤ人を標的にしたテロを行うようになるかもしれないと語った。実際、この指摘のとうり、2004年10月にはエジプトのリゾート地タバで、イスラエル人観光客をねらったテロが発生し、イスラエル人30人以上がなくなっている。
 シャロン首相にとっては、ハマスによるテロの拡大は、ブッシュ大統領の「対テロ戦争」の提唱と重なって都合がよいのことなのかもしれない。ヤースィンを暗殺した後で、シャロン首相は「われわれにとってのビンラディンを殺害した」と発言した。「対テロ戦争」に従事することによって、シャロン首相は、ガザでの軍事的抑圧、西岸の支配地の拡大に正当性が与えられると考えた。パレスチナ人がイスラエル人の人口を越すことを防ぐさまざまな手段を講じることとも許容れると考えているに違いない。しかし、シャロン首相の手法は、ハマスのテロを長期化させ、パレスチナ情勢を一層悪化させるものであることは間違いない。 

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