真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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日米地位協定全文とその見直し要求案

2012年10月28日 | 国際・政治
 2012年10月16日、新型輸送機オスプレイの強行配備に反発が広がる沖縄で再び米兵による強姦致傷事件がくり返された。そしてこの件に関し、仲井真沖縄県知事が、今回は、たまたま米兵が出国直前、県警が逮捕したが、米軍が逮捕したり、出国したりしていれば捜査できない可能性があり、「日米地位協定を改定しない限り、問題は出てくる」と指摘したことが報じられた。また沖縄県議会は17日の米軍基地関係特別委員会で、地位協定見直しなどを求める決議を全会一致で可決したという。
 
 「日米行政協定の政治史ー日米地位協定研究序説」明田川融(法政大学出版局)は、「行政協定・地位協定をめぐる政治史の今日的意義と課題」という項目の中で、1995年、当時の大田沖縄県知事が村山首相に提出した地位協定見直し案について触れている。1995年10月21日に開催された「米軍人による少女暴行事件を糾弾し、日米地位協定の見直しを要求する沖縄県民総決起大会」の日米地位協定の早期見直し等を含む大会決議の採択を受けたのものであった。
 そこで、日米地位協定の問題点を知るために、その10項目にわたる見直し案を同書から抜粋するとともに、日米地位協定全文を添付することにした。日米地位協定全文の各条には、外務省(トップページ>各国・地域情勢>北米>米国>日米地位協定)のページにある内容名を( )に入れて付けた。
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             むすび 沖縄返還と地位協定の適用

3 行政協定・地位協定をめぐる政治史の今日的意義と課題


 ・・・
 ①沖縄本島の20%米軍基地として提供し、振興開発に対する障碍となっている
   第2条<施設区域の提供>の改正
 ②航空機騒音に国内法を適用し、演習に対する規制明記を求める、第3条<施
   設区域に関する措置>の改正
 ③米軍機の緊急時以外の民間空港使用禁止と民間地域での行軍禁止を求める
   第5条<入港料、着陸料の免除>の改正
 ④那覇空港の進入管制業務の日本への移管に関する日米協議を求める、第6
   条<航空交通管理・通信>の改正
 ⑤入国時の米国人等に検疫などの国内法適用求める、第9条<合衆国軍隊構
   成員の地位>の改正
 ⑥軍用車輌に識別が容易な番号標を付けるよう求める、第10条<運転免許
   証>の改正
 ⑦民間車輌と同じ税率の自動車税を米軍人の車両にも適用することを求める、
   第13条<租税>の改正
 ⑧いかなる場合も米兵被疑者の拘禁を日本側ができることを求める、第17条
   <刑事裁判権>の改正
 ⑨米軍構成員から受けた被害は日本政府の責任で補償することを求める、第
   18条<民事裁判権・請求権の放棄>の改正
 ⑩日米合同委員会は基地に関して関係自治体の意向を聴取し、合意事項を公
   表するよう求める、第25条<合同委員会>の改正
とほぼ地位協定の全面改定案であった。
 この改定要求が指摘する地位協定の問題点と事例は、具体的かつ詳細なものであり、極めて説得力を持つ。

 ・・・

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 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく
 施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定
                (日米地位協定)

[前文]
 日本国及びアメリカ合衆国は、千九百六十年一月十九日にワシントンで署名された日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条の規定に従い、次に掲げる条項によりこの協定を締結した。

第一条(軍隊構成員、軍属、家族の定義)

 この協定において、

(a)「合衆国軍隊の構成員」とは、日本国の領域にある間におけるアメリカ合衆国の陸軍、海軍又は空軍に属する人員で現に服役中のものをいう。

(b)「軍属」とは、合衆国の国籍を有する文民で日本国にある合衆国軍隊に雇用され、これに勤務し、又はこれに随伴するもの(通常日本国に居住する者及び第十四条1に掲げる者を除く。)をいう。この協定のみの適用上、合衆国及び日本国の二重国籍者で合衆国が日本国に入れたものは、合衆国国民とみなす。


(c)「家族」とは、次のものをいう。

(1)配偶者及び二十一才未満の子

(2)父、母及び二十一才以上の子で、その生計費の半額以上を合衆国軍隊の構成員又は軍属に依存するもの

第二条(施設及び区域の許与、決定、返還、特殊使用)


1(a)合衆国は、相互協力及び安全保障条約第六条の規定に基づき、日本国内の施設及び区域の使用を許される。個個の施設及び区域に関する協定は、第二十五条に定める合同委員会を通じて両政府が締結しなければならない。「施設及び区域」には、当該施設及び区域の運営に必要な現存の設備、備品及び定着物を含む。

(b)合衆国が日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の終了の時に使用している施設及び区域は、両政府が(a)の規定に従つて合意した施設及び区域とみなす。

2 日本国政府は、いずれか一方の要請があるときは、前記の取極を再検討しなければならず、また、前記の施設及び区域を日本国に返還すべきこと又は新たに施設及び区域を提供することを合意することができる。


3 合衆国軍隊が使用する施設及び区域は、この協定の目的のため必要でなくなつたときは、いつでも、日本国に返還しなければならない。合衆国は、施設及び区域の必要性を前記の返還を目的としてたえず検討することに同意する。

4(a) 合衆国軍隊が施設及び区域を一時的に使用していないときは、日本国政府は、臨時にそのような施設及び区域をみずから使用し、又は日本国民に使用させることができる。ただし、この使用が、合衆国軍隊による当該施設及び区域の正規の使用の目的にとつて有害でないことが合同委員会を通じて両政府間に合意された場合に限る


(b) 合衆国軍隊が一定の期間を限つて使用すべき施設及び区域に関しては、合同委員会は、当該施設及び区域に関する協定中に、適用があるこの協定の規定の範囲を明記しなければならない。

第三条(施設及び区域内外の管理)

1 合衆国は、施設及び区域において、それらの設定、運営、警護及び管理のため必要なすべての措置を執ることができる。日本国政府は、施設及び区域の支持、警護及び管理のための合衆国軍隊の施設及び区域への出入の便を図るため、合衆国軍隊の要請があつたときは、合同委員会を通ずる両政府間の協議の上で、それらの施設及び区域に隣接し又はそれらの近傍の土地、領水及び空間において、関係法令の範囲内で必要な措置を執るものとする。合衆国も、また、合同委員会を通ずる両政府間の協議の上で前記の目的のため必要な措置を執ることができる。


2 合衆国は、1に定める措置を、日本国の領域への、領域から又は領域内の航海、航空、通信又は陸上交通を不必要に妨げるような方法によつては執らないことに同意する。合衆国が使用する電波放射の措置が用いる周波数、電力及びこれらに類する事項に関するすべての問題は、両政府の当局間の取極により解決しなければならない。日本国政府は、合衆国軍隊が必要とする電気通信用電子装置に対する妨害を防止し又は除去するためのすべての合理的な措置を関係法令の範囲内で執るものとする。

3 合衆国軍隊が使用している施設及び区域における作業は、公共の安全に妥当な考慮を払つて行なわなければならない。

第四条(施設及び区域の返還、原状回復、補償)

1 合衆国は、この協定の終了の際又はその前に日本国に施設及び区域を返還するに当たつて、当該施設及び区域をそれらが合衆国軍隊に提供された時の状態に回復し、又はその回復の代りに日本国に補償する義務を負わない


2 日本国は、この協定の終了の際又はその前における施設及び区域の返還の際、当該施設及び区域に加えられている改良又はそこに残される建物若しくはその他の工作物について、合衆国にいかなる補償をする義務も負わない。

3 前記の規定は、合衆国政府が日本国政府との特別取極に基づいて行なう建設には適用しない。

第五条(船舶及び航空機の出入及び移動)


1 合衆国及び合衆国以外の国の船舶及び航空機で、合衆国によつて、合衆国のために又は合衆国の管理の下に公の目的で運航されるものは、入港料又は着陸料を課されないで日本国の港又は飛行場に出入することができる。この協定による免除を与えられない貨物又は旅客がそれらの船舶又は航空機で運送されるときは、日本国の当局にその旨の通告を与えなければならず、その貨物又は旅客の日本国への入国及び同国からの出国は、日本国の法令による。

2 1に掲げる船舶及び航空機、合衆国政府所有の車両(機甲車両を含む。)並びに合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、合衆国軍隊が使用している施設及び区域に出入し、これらのものの間を移動し、及びこれらのものと日本国の港又は飛行場との間を移動することができる。合衆国の軍用車両の施設及び区域への出入並びにこれらのものの間の移動には、道路使用料その他の課徴金を課さない。


3 1に掲げる船舶が日本国の港に入る場合には、通常の状態においては、日本国の当局に適当な通告をしなければならない。その船舶は、強制水先を免除される。もつとも、水先人を使用したときは、応当する料率で水先料を払わなければならない。

第六条(航空・通信の体系、航空・航行施設に関する協力)


1 すべての非軍用及び軍用の航空交通管理及び通信の体系は、緊密に協調して発達を図るものとし、かつ、集団安全保障の利益を達成するため必要な程度に整合するものとする。この協調及び整合を図るため必要な手続及びそれに対するその後の変更は、両政府の当局間の取極によつて定める。

2 合衆国軍隊が使用している施設及び区域並びにそれらに隣接し又はそれらの近傍の領水に置かれ、又は設置される燈火その他の航行補助施設及び航空保安施設は、日本国で使用されている様式に合致しなければならない。これらの施設を設置した日本国及び合衆国の当局は、その位置及び特徴を相互に通告しなければならず、かつ、それらの施設を変更し、又は新たに設置する前に予告をしなければならない。


第七条(公益事業の利用)

 合衆国軍隊は、日本国政府の各省その他の機関に当該時に適用されている条件よりも不利でない条件で、日本国政府が有し、管理し、又は規制するすべての公益事業及び公共の役務を利用することができ、並びにその利用における優先権を享有するものとする。

第八条(気象業務の提供)

 日本国政府は、両政府の当局間の取極に従い、次の気象業務を合衆国軍隊に提供することを約束する。

(a)地上及び海上からの気象観測(気象観測船からの観測を含む。)

(b)気象資料(気象庁の定期的概報及び過去の資料を含む。) 

(c)航空機の安全かつ正確な運航のため必要な気象情報を報ずる電気通信業務


(d)地震観測の資料(地震から生ずる津波の予想される程度及びその津波の影響を受ける区域の予報を含む。)

第九条(米軍人、軍属及びその家族の出入国)

1 この条の規定に従うことを条件として、合衆国は、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族である者を日本国に入れることができる。

2 合衆国軍隊の構成員は、旅券及び査証に関する日本国の法令の適用から除外される。合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、外国人の登録及び管理に関する日本国の法令の適用から除外される。ただし、日本国の領域における永久的な居所又は住所を要求する権利を取得するものとみなされない。

3 合衆国軍隊の構成員は、日本国への入国又は日本国からの出国に当たつて、次の文書を携帯しなければならない。


(a)氏名、生年月日、階級及び番号、軍の区分並びに写真を掲げる身分証明書

(b)その個人又は集団が合衆国軍隊の構成員として有する地位及び命令された旅行の証明となる個別的又は集団的旅行の命令書

 合衆国軍隊の構成員は、日本国にある間の身分証明のため、前記の身分証明書を携帯していなければならない。身分証明書は、要請があるときは日本国の当局に提示しなければならない。

4 軍属、その家族及び合衆国軍隊の構成員の家族は、合衆国の当局が発給した適当な文書を携帯し、日本国への入国若しくは日本国からの出国に当たつて又は日本国にある間のその身分を日本国の当局が確認することができるようにしなければならない。

5 1の規定に基づいて日本国に入国した者の身分に変更があつてその者がそのような入国の資格を有しなくなつた場合には、合衆国の当局は、日本国の当局にその旨を通告するものとし、また、その者が日本国から退去することを日本国の当局によつて要求されたときは、日本国政府の負担によらないで相当の期間内に日本国から輸送することを確保しなければならない。


6 日本国政府が合衆国軍隊の構成員若しくは軍属の日本国の領域からの送出を要請し、又は合衆国軍隊の旧構成員若しくは旧軍属に対し若しくは合衆国軍隊の構成員、軍属、旧構成員若しくは旧軍属の家族に対し退去命令を出したときは、合衆国の当局は、それらの者を自国の領域内に受け入れ、その他日本国外に送出することにつき責任を負う。この項の規定は、日本国民でない者で合衆国軍隊の構成員若しくは軍属として又は合衆国軍隊の構成員若しくは軍属となるために日本国に入国したもの及びそれらの者の家族に対してのみ適用する。

第十条(運転免許証及び車両)

1 日本国は、合衆国が合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族に対して発給した運転許可証若しくは運転免許証又は軍の運転許可証を、運転者試験又は手数料を課さないで、有効なものとして承認する。

2 合衆国軍隊及び軍属用の公用車両は、それを容易に識別させる明確な番号標又は個別の記号を付けていなければならない。


3 合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の私有車両は、日本国民に適用される条件と同一の条件で取得する日本国の登録番号標を付けていなければならない。

第十一条(関税及び税関検査の免除)

1 合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、この協定中に規定がある場合を除くほか、日本国の税関当局が執行する法令に服さなければならない。

2 合衆国軍隊、合衆国軍隊の公認調達機関又は第十五条に定める諸機関が合衆国軍隊の公用のため又は合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の使用のため輸入するすべての資材、需品及び備品並びに合衆国軍隊が専用すべき資材、需品及び備品又は合衆国軍隊が使用する物品若しくは施設に最終的には合体されるべき資材、需品及び備品は、日本国に入れることを許される。この輸入には、関税その他の課徴金を課さない。前記の資材、需品及び備品は、合衆国軍隊、合衆国軍隊の公認調達機関又は第十五条に定める諸機関が輸入するものである旨の適当な証明書(合衆国軍隊が専用すべき資材、需品及び備品又は合衆国軍隊が使用する物品若しくは施設に最終的には合体されるべき資材、需品及び備品にあつては、合衆国軍隊が前記の目的のために受領すべき旨の適当な証明書)を必要とする。


3 合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族に仕向けられ、かつ、これらの者の私用に供される財産には、関税その他の課徴金を課する。ただし、次のものについては、関税その他の課徴金を課さない。

(a)合衆国軍隊の構成員若しくは軍属が日本国で勤務するため最初に到着した時に輸入し、又はそれらの家族が当該合衆国軍隊の構成員若しくは軍属と同居するため最初に到着した時に輸入するこれらの者の私用のための家庭用品並びにこれらの者が入国の際持ち込む私用のための身回品

(b)合衆国軍隊の構成員又は軍属が自己又はその家族の私用のため輸入する車両及び部品

(c)合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の私用のため合衆国において通常日常用として購入される種類の合理的な数量の衣類及び家庭用品で、合衆国軍事郵便局を通じて日本国に輸送されるもの

4 2及び3で与える免除は、物の輸入の場合のみに適用するものとし、関税及び内国消費税がすでに徴収された物を購入する場合に、当該物の輸入の際関税当局が徴収したその関税及び内国消費税を払いもどすものと解してはならない。


5 税関検査は、次のものの場合には行なわないものとする。

(a)命令により日本国に入国し、又は日本国から出国する合衆国軍隊の部隊

(b)公用の封印がある公文書及び合衆国軍事郵便路線上にある公用郵便物

(c)合衆国政府の船荷証券により船積みされる軍事貨物

6 関税の免除を受けて日本国に輸入された物は、日本国及び合衆国の当局が相互間で合意する条件に従つて処分を認める場合を除くほか、関税の免除を受けて当該物を輸入する権利を有しない者に対して日本国内で処分してはならない。

7 2及び3の規定に基づき関税その他の課徴金の免除を受けて日本国に輸入された物は、関税その他の課徴金の免除を受けて再輸出することができる。

8 合衆国軍隊は、日本国の当局と協力して、この条の規定に従つて合衆国軍隊、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族に与えられる特権の濫用を防止するため必要な措置を執らなければならない。


9(a)日本国の当局及び合衆国軍隊は、日本国政府の税関当局が執行する法令に違反する行為を防止するため、調査の実施及び証拠の収集について相互に援助しなければならない。

(b)合衆国軍隊は、日本国政府の税関当局によつて又はこれに代わつて行なわれる差押えを受けるべき物件がその税関当局に引き渡されることを確保するため、可能なすべての援助を与えなければならない。

(c)合衆国軍隊は、合衆国軍隊の構成員若しくは軍属又はそれらの家族が納付すべき関税、租税及び罰金の納付を確保するため、可能なすべての援助を与えなければならない。

(d)合衆国軍隊に属する車両及び物件で、日本国政府の関税又は財務に関する法令に違反する行為に関連して日本国政府の税関当局が差し押えたものは、関係部隊の当局に引き渡さなければならない。

第十二条(労務規定)

1 合衆国は、この協定の目的のため又はこの協定で認められることにより日本国で供給されるべき需品又は行なわれるべき工事のため、供給者又は工事を行なう者の選択に関して制限を受けないで契約することができる。そのような需品又は工事は、また、両政府の当局間で合意されるときは、日本国政府を通じて調達することができる。


2 現地で供給される合衆国軍隊の維持のため必要な資材、需品、備品、及び役務でその調達が日本国の経済に不利な影響を及ぼすおそれがあるものは、日本国の権限のある当局との調整の下に、また、望ましいときは日本国の権限のある当局を通じて又はその援助を得て、調達しなければならない。

3 合衆国軍隊又は合衆国軍隊の公認調達機関が適当な証明書を附して日本国で公用のため調達する資材、需品、備品及び役務は、日本の次の租税を免除される。

(a)物品税

(b)通行税

(c)揮発油税

(d)電気ガス税


 最終的には合衆国軍隊が使用するため調達される資材、需品、備品及び役務は、合衆国軍隊の適当な証明書があれば、物品税及び揮発油税を免除される。両政府は、この条に明示していない日本の現在の又は将来の租税で、合衆国軍隊によつて調達され、又は最終的には合衆国軍隊が使用するため調達される資材、需品、備品及び役務の購入価格の重要なかつ容易に判別することができる部分をなすと認められるものに関しては、この条の目的に合致する免税又は税の軽減を認めるための手続について合意するものとする。

4 現地の労務に対する合衆国軍隊及び第十五条に定める諸機関の需要は、日本国の当局の援助を得て充足される。

5 所得税、地方住民税及び社会保障のための納付金を源泉徴収して納付するための義務並びに、相互間で別段の合意をする場合を除くほか、賃金及び諸手当に関する条件その他の雇用及び労働の条件、労働者の保護のための条件並びに労働関係に関する労働者の権利は、日本国の法令で定めるところによらなければならない。


6 合衆国軍隊又は、適当な場合には、第十五条に定める機関により労働者が解職され、かつ、雇用契約が終了していない旨の日本国の裁判所又は労働委員会の決定が最終的のものとなつた場合には、次の手続が適用される。

(a)日本国政府は、合衆国軍隊又は前記の機関に対し、裁判所又は労働委員会の決定を通報する。

(b)合衆国軍隊又は前記の機関が当該労働者を就労させることを希望しないときは合衆国軍隊又は前記の機関は、日本国政府から裁判所又は労働委員会の決定について通報を受けた後七日以内に、その旨を日本国政府に通告しなければならず、暫定的にその労働者を就労させないことができる。

(c)前記の通告が行なわれたときは、日本国政府及び合衆国軍隊又は前記の機関は、事件の実際的な解決方法を見出すため遅滞なく協議しなければならない。

(d)(c)の規定に基づく協議の開始の日から三十日の期間内にそのような解決に到達しなかつたときは、当該労働者は、就労することができない。このような場合には合衆国政府は、日本国政府に対し、両政府間で合意される期間の当該労働者の雇用の費用に等しい額を支払わなければならない。


7 軍属は、雇用の条件に関して日本国の法令に服さない。

8 合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、日本国における物品及び役務の個人的購入について日本国の法令に基づいて課される租税又は類似の公課の免除をこの条の規定を理由として享有することはない。

9 3に掲げる租税の免除を受けて日本国で購入した物は、日本国及び合衆国の当局が相互間で合意する条件に従つて処分を認める場合を除くほか、当該租税の免除を受けて当該物を購入する権利を有しない者に対して日本国内で処分してはならない。

第十三条(課税)

1 合衆国軍隊は、合衆国軍隊が日本国において保有し、使用し、又は移転する財産について租税又は類似の公課を課されない。

2 合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、これらの者が合衆国軍隊に勤務し、又は合衆国軍隊若しくは第十五条に定める諸機関に雇用された結果受ける所得について、日本国政府又は日本国にあるその他の課税権者に日本の租税を納付する義務を負わない。この条の規定は、これらの者に対し、日本国の源泉から生ずる所得について日本の租税の納付を免除するものではなく、また、合衆国の所得税のために日本国に居所を有することを申し立てる合衆国市民に対し、所得についての日本の租税の納付を免除するものではない。これらの者が合衆国軍隊の構成員若しくは軍属又はそれらの家族であるという理由のみによつて日本国にある期間は、日本の租税の賦課上、日本国に居所又は住所を有する期間とは認めない。


3 合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、これらの者が一時的に日本国にあることのみに基づいて日本国に所在する有体又は無体の動産の保有、使用、これらの者相互間の移転又は死亡による移転についての日本国における租税を免除される。ただし、この免除は、投資若しくは事業を行なうため日本国において保有される財産又は日本国において登録された無体財産権には適用しない。この条の規定は、私有車両による道路の使用について納付すべき租税の免除を与える義務を定めるものではない。

第十四条(特殊契約者)

1 通常合衆国に居住する人(合衆国の法律に基づいて組織された法人を含む。)及びその被用者で、合衆国軍隊のための合衆国との契約の履行のみを目的として日本国にあり、かつ、合衆国政府が2の規定に従い指定するものは、この条に規定がある場合を除くほか、日本国の法令に服さなければならない。


2 1にいう指定は、日本国政府との協議の上で行なわれるものとし、かつ、安全上の考慮、関係業者の技術上の適格要件、合衆国の標準に合致する資材若しくは役務の欠如又は合衆国の法令上の制限のため競争入札を実施することができない場合に限り行なわれるものとする。

 前記の指定は、次のいずれかの場合には、合衆国政府が取り消すものとする。

(a)合衆国軍隊のための合衆国との契約の履行が終わつたとき。

(b)それらの者が日本国において合衆国軍隊関係の事業活動以外の事業活動に従事していることが立証されたとき。

(c)それらの者が日本国で違法とされる活動を行なつているとき。

3 前記の人及びその被用者は、その身分に関する合衆国の当局の証明があるときは、この協定による次の利益を与えられる。

(a)第五条2に定める出入及び移動の権利

(b)第九条の規定による日本国への入国


(c)合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族について第十一条3に定める関税その他の課徴金の免除

(d)合衆国政府により認められたときは、第十五条に定める諸機関の役務を利用する権利

(e)合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族について第十九条2に定めるもの

(f)合衆国政府により認められたときは、第二十条に定めるところにより軍票を使用する権利

(g)第二十一条に定める郵便施設の利用

(h)雇用の条件に関する日本国の法令の適用からの除外

4 前記の人及びその被用者は、その身分の者であることが旅券に記載されていなければならず、その到着、出発及び日本国にある間の居所は、合衆国軍隊が日本国の当局に随時に通告しなければならない。


5 前記の人及びその被用者が1に掲げる契約の履行のためにのみ保有し、使用し、又は移転する減価償却資産(家屋を除く。)については、合衆国軍隊の権限のある官憲の証明があるときは、日本の租税又は類似の公課を課されない。

6 前記の人及びその被用者は、合衆国軍隊の権限のある官憲の証明があるときは、これらの者が一時的に日本国にあることのみに基づいて日本国に所在する有体又は無体の動産の保有、使用、死亡による移転又はこの協定に基づいて租税の免除を受ける権利を有する人若しくは機関への移転についての日本国における租税を免除される。ただし、この免除は、投資のため若しくは他の事業を行なうため日本国において保有される財産又は日本国において登録された無体財産権には適用しない。この条の規定は、私有車両による道路の使用について納付すべき租税の免除を与える義務を定めるものではない。

7 1に掲げる人及びその被用者は、この協定に定めるいずれかの施設又は区域の建設、維持又は運営に関して合衆国政府と合衆国において結んだ契約に基づいて発生する所得について、日本国政府又は日本国にあるその他の課税権者に所得税又は法人税を納付する義務を負わない。この項の規定は、これらの者に対し、日本国の源泉から生ずる所得についての所得税又は法人税の納付を免除するものではく、また、合衆国の所得税のために日本国に居所を有することを申し立てる前記の人及びその被用者に対し、所得についての日本の租税の納付を免除するものではない。これらの者が合衆国政府との契約の履行に関してのみ日本国にある期間は、前記の租税の賦課上、日本国に居所又は住所を有する期間とは認めない。


8 日本国の当局は、1に掲げる人及びその被用者に対し、日本国において犯す罪で日本国の法令によつて罰することができるものについて裁判権を行使する第一次の権利を有する。日本国の当局が前記の裁判権を行使しないことに決定した場合には、日本国の当局は、できる限りすみやかに合衆国の軍当局にその旨を通告しなければならない。この通告があつたときは、合衆国の軍当局は、これらの者に対し、合衆国の法令により与えられた裁判権を行使する権利を有する。

第十五条(歳出外資金諸機関)

1(a)合衆国の軍当局が公認し、かつ、規制する海軍販売所、ピー・エックス、食堂、社交クラブ、劇場、新聞その他の歳出外資金による諸機関は、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の利用に供するため、合衆国軍隊が使用している施設及び区域内に設置することができる。これらの諸機関は、この協定に別段の定めがある場合を除くほか、日本の規制、免許、手数料、租税又は類似の管理に服さない。

(b)合衆国の軍当局が公認し、かつ、規制する新聞が一般の公衆に販売されるときは、当該新聞は、その頒布に関する限り、日本の規制、免許、手数料、租税又は類似の管理に服する。

2 これらの諸機関による商品及び役務の販売には、1(b)に定める場合を除くほか、日本の租税を課さず、これらの諸機関による商品及び需品の日本国内における購入には、日本の租税を課する。


3 これらの諸機関が販売する物品は、日本国及び合衆国の当局が相互間で合意する条件に従つて処分を認める場合を除くほか、これらの諸機関から購入することを認められない者に対して日本国内で処分してはならない。

4 この条に掲げる諸機関は、日本国の当局に対し、日本国の税法が要求するところにより資料を提供するものとする。

第十六条(日本国法令の尊重)

 日本国において、日本国の法令を尊重し、及びこの協定の精神に反する活動、特に政治的活動を慎むことは、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の業務である。

第十七条(刑事裁判権)

1 この条の規定に従うことを条件として、


(a)合衆国の軍当局は、合衆国の軍法に服するすべての者に対し、合衆国の法令により与えられたすべての刑事及び懲戒の裁判権を日本国において行使する権利を有する。

(b)日本国の当局は、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族に対し、日本国の領域内で犯す罪で日本国の法令によつて罰することができるものについて、裁判権を有する。

2(a)合衆国の軍当局は、合衆国の軍法に服する者に対し、合衆国の法令によつて罰することができる罪で日本国の法令によつては罰することができないもの(合衆国の安全に関する罪を含む。)について、専属的裁判権を行使する権利を有する。

(b)日本国の当局は、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族に対し、日本国の法令によつて罰することができる罪で合衆国の法令によつては罰することができないもの(日本国の安全に関する罪を含む。)について、専属的裁判権を行使する権利を有する。

(c)2及び3の規定の適用上、国の安全に関する罪は、次のものを含む。

(i)当該国に対する反逆


(ii)妨害行為(サボタージュ)謀報行為又は当該国の公務上若しくは国防上の秘密に関する法令の違反

3 裁判権を行使する権利が競合する場合には、次の規定が適用される。

(a)合衆国の軍当局は、次の罪については、合衆国軍隊の構成員又は軍属に対して裁判権を行使する第一次の権利を有する。

(i)もつぱら合衆国の財産若しくは安全のみに対する罪又はもつぱら合衆国軍隊の他の構成員若しく{原文に「は」なし}軍属若しくは合衆国軍隊の構成員若しくは軍属の家族の身体若しくは財産のみに対する罪

(ii)公務執行中の作為又は不作為から生ずる罪

(b)その他の罪について、日本国の当局が、裁判権を行使する第一次の権利を有する。

(c)第一次の権利を有する国は、裁判権を行使しないことに決定したときは、できる限りすみやかに他方の国の当局にその旨を通告しなければならない。第一次の権利を有する国の当局は、他方の国がその権利の放棄を特に重要であると認めた場合において、その他方の国の当局から要請があつたときは、その要請に好意的考慮を払わなければならない。


4 前諸項の規定は、合衆国の軍当局が日本国民又は日本国に通常居住する者に対し裁判権を行使する権利を有することを意味するものではない。ただし、それらの者が合衆国軍隊の構成員であるときは、この限りでない。

5(a)日本国の当局及び合衆国の軍当局は、日本国の領域内における合衆国軍隊の構成員若しくは軍属又はそれらの家族の逮捕及び前諸項の規定に従つて裁判権を行使すべき当局へのそれらの者の引渡しについて、相互に援助しなければならない。

(b)日本国の当局は、合衆国の軍当局に対し、合衆国軍隊の構成員若しくは軍属又はそれらの家族の逮捕についてすみやかに通告しなければならない。

(c)日本国が裁判権を行使すべき合衆国軍隊の構成員又は軍属たる被疑者の拘禁は、その者の身柄が合衆国の手中にあるときは、日本国により公訴が提起されるまでの間、合衆国が引き続き行なうものとする。

6(a)日本国の当局及び合衆国の軍当局は、犯罪についてのすべての必要な捜査の実施並びに証拠の収集及び提出(犯罪に関連する物件の押収及び相当な場合にはその引渡しを含む。)について、相互に援助しなければならない。ただし、それらの物件の引渡しは、引渡しを行なう当局が定める期間内に還付されることを条件として行なうことができる。


(b)日本国の当局及び合衆国の軍当局は、裁判権を行使する権利が競合するすべての事件の処理について、相互に通告しなければならない。

7(a)死刑の判決は、日本国の法制が同様の場合に死刑を規定していない場合には、合衆国の軍当局が日本国内で執行してはならない。

(b)日本国の当局は、合衆国の軍当局がこの条の規定に基づいて日本国の領域内で言い渡した自由刑の執行について合衆国の軍当局から援助の要請があつたときは、その要請に好意的考慮を払わなければならない。

8 被告人がこの条の規定に従つて日本国の当局又は合衆国の軍当局のいずれかにより裁判を受けた場合において、無罪の判決を受けたとき、又は有罪の判決を受けて服役しているとき、服役したとき、若しくは赦免されたときは、他方の国の当局は、日本国の領域内において同一の犯罪について重ねてその者を裁判してはならない。ただし、この項の規定は、合衆国の軍当局が合衆国軍隊の構成員を、その者が日本国の当局により裁判を受けた犯罪を構成した作為又は不作為から生ずる軍紀違反について、裁判することを妨げるものではない。

9 合衆国軍隊の構成員若しくは軍属又はそれらの家族は、日本国の裁判権に基づいて公訴を提起された場合には、いつでも、次の権利を有する

(a)遅滞なく迅速な裁判を受ける権利

(b)公判前に自己に対する具体的な訴因の通知を受ける権利

(c)自己に不利な証人と対決する権利


(d)証人が日本国の管轄内にあるときは、自己のために強制的手続により証人を求める権利

(e)自己の弁護のため自己の選択する弁護人をもつ権利又は日本国でその当時通常行なわれている条件に基づき費用を要しないで若しくは費用の補助を受けて弁護人をもつ権利

(f)必要と認めたときは、有能な通訳を用いる権利

(g)合衆国の政府の代表者と連絡する権利及び自己の裁判にその代表者を立ち会わせる権利

10(a)合衆国軍隊の正規に編成された部隊又は編成隊は、第二条の規定に基づき使用する施設及び区域において警察権を行なう権利を有する。合衆国軍隊の軍事警察は、それらの施設及び区域において、秩序及び安全の維持を確保するためすべての適当な措置を執ることができる。

(b)前記の施設及び区域の外部においては、前記の軍事警察は、必ず日本国の当局との取極に従うことを条件とし、かつ、日本国の当局と連絡して使用されるものとし、その使用は、合衆国軍隊の構成員の間の規律及び秩序の維持のため必要な範囲内に限るものとする。


11 相互協力及び安全保障条約第五条の規定が適用される敵対行為が生じた場合には、日本国政府及び合衆国政府のいずれの一方も、他方の政府に対し六十日前に予告を与えることによつて、この条のいずれの規定の適用も停止させる権利を有する。この権利が行使されたときは、日本国政府は、適用を停止される規定に代わるべき適当な規定を合意する目的をもつて直ちに協議しなければならない。

12 この条の規定は、この協定の効力発生前に犯したいかなる罪にも適用しない。それらの事件に対しては、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定第十七条の当該時に存在した規定を適用する。

第十八条(民事請求権)

1 各当事国は、自国が所有し、かつ、自国の陸上、海上又は航空の防衛隊が使用する財産に対する損害については、次の場合には、他方の当事国に対するすべての請求権を放棄する。

(a)損害が他方の当事国の防衛隊の構成員又は被用者によりその者の公務の執行中に生じた場合

(b)損害が他方の当事国が所有する車両、船舶又は航空機でその防空機でその防衛隊が使用するものの使用から生じた場合。ただし、損害を与えた車両、船舶若しくは航空機が公用のため使用されていたとき、又は損害が公用のためされている財産に生じたときに限る。


 海難救助についての一方の当事国の他方の当事国に対する請求権は、放棄する。ただし、救助された船舶又は積荷が、一方の当事国が所有し、かつ、その防術隊{術はママ}が公用のため使用しているものであつた場合に限る。

2(a)いずれか一方の当事国が所有するその他の財産で日本国内にあるものに対して1に掲げるようにして損害が生じた場合には、両政府が別段の合意をしない限り、(b)の規定に従つて選定される一人の仲裁人が、他方の当事国の責任の問題を決定し、及び損害の額を査定する。仲裁人は、また、同一の事件から生ずる反対の請求を裁定する。

(b)(a)に掲げる仲裁人は、両政府間の合意によつて、司法関係の上級の地位を現に有し、又は有したことがある日本国民の中から選定する。

(c)仲裁人が行なつた裁定は、両当事国に対して拘束力を有する最終的のものとする。

(d)仲裁人が裁定した賠償の額は、5(e)(i)、(ii)及び(iii)の規定に従つて分担される。

(e)仲裁人の報酬は、両政府間の合意によつて定め、両政府が、仲裁人の任務の遂行に伴う必要な費用とともに、均等の割合で支払う。

(f)もつとも、各当事国は、いかなる場合においても千四百合衆国ドル又は五十万四千円までの額については、その請求権を放棄する。これらの通貨の間の為替相場に著しい変動があつた場合には、両政府は、前記の額の適当な調整について合意するものとする。


3 1及び2の規定の適用上、船舶について「当事国が所有する」というときは、その当事国が裸用船した船舶、裸の条件で徴発した船舶又は拿捕した船舶を含む。ただし、損失の危険又は責任が当該当事国以外の者によつて負担される範囲については、この限りでない。

4 各当事国は、自国の防衛隊の構成員がその公務の執行に従事している間に放つた負傷又は死亡については、他方の当事国に対するすべての請求権を放棄する。

5 公務執行中の合衆国軍隊の構成員若しくは被用者の作為若しくは不作為又は合衆国軍隊が法律上責任を有するその他の作為、不作為若しくは事故で、日本国において日本国政府以外の第三者に損害を与えたものから生ずる請求権(契約による請求権及び6又は7の規定の適用を受ける請求権を除く。)は、日本国が次の規定に従つて処理する。

(a)請求は、日本国の自衛隊の行動から生ずる請求権に関する日本国の法令に従つて、提起し、審査し、かつ、解決し、又は裁判する。

(b)日本国は、前記のいかなる請求をも解決することができるものとし、合意され、又は裁判により決定された額の支払を日本円で行なう。


(c)前記の支払(合意による解決に従つてされたものであると日本国の権限のある裁判所による裁判に従つてされたものであるとを問わない。)又は支払を認めない旨の日本国の権限のある裁判所による確定した裁判は、両当事国に対し拘束力を有する最終的のものとする。

(d)日本国が支払をした各請求は、その明細並びに(e)(i)及び(ii)の規定による分担案とともに、合衆国の当局に通知しなければならない。二箇月以内に回答がなかつたときは、その分担案は、受諾されたものとみなす。

(e)(a)から(d)まで及び2の規定に従い請求を満たすために要した費用は、両当事国が次のとおり分担する。

(i)合衆国のみが責任を有する場合には、裁定され、合意され、又は裁判により決定された額は、その二十五パーセントを日本国がその七十五パーセントを合衆国が分担する。


(ii)日本国及び合衆国が損害について責任を有する場合には、裁定され、合意され、又は裁判により決定された額は、両当事国が均等に分担する。損害が日本国又は合衆国の防衛隊によつて生じ、かつ、その損害をこれらの防衛隊のいずれか一方又は双方の責任として特定することができない場合には、裁定され、合意され、又は裁判により決定された額は、日本国及び合衆国が均等に分担する。

(iii)比率に基づく分担案が受諾された各事件について日本国が六箇月の期間内に支払つた額の明細書は、支払要請書とともに、六箇月ごとに合衆国の当局に送付する。その支払は、できる限りすみやかに日本円で行なわなければならない。

(f)合衆国軍隊の構成員又は被用者(日本の国籍のみを有する被用者を除く。)は、その公務の執行から生ずる事項については、日本国においてその者に対して与えられた判決の執行手続に服さない。

(g)この頃の規定は、(e)の規定が2に定める請求権に適用される範囲を除くほか、船舶の航行若しくは運用又は貨物の船積み、運送若しくは陸揚げから生じ、又はそれらに関連して生ずる請求権には適用しない
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非核三原則と日米「密約」 NO1 

2012年10月23日 | 国際・政治
 日本の「非核三原則」、すなわち、「核兵器を作らず、持たず、持ち込ませず」の中の「持ち込ませず」に関する日本政府による嘘が、アメリカの公文書・「ライシャワー駐日大使の国務長官宛電文」「議会用説明資料集」(コングレショナル・ブリーフィング・ブック)によって明らかになった。当初から疑問視されていたようであるが、悲しむべきことである。そしてそれが、アメリカの情報公開による資料の発見によって明らかにされたことに加えて、一部資料の非公開扱いは、日本政府の働きかけの結果であるというから驚かざるを得ない。戦時中の日本人は大本営発表を信じるしかなかった。でも、根本的には戦後も変わらないのではないか、とさえ思う。

 そうしたアメリカとの密約外交は、なぜ戦後も続いたのか。
 サンフランシスコ講和条約締結後も、米軍が沖縄を中心に日本に駐留し続ける理由は何なのか。ポツダム宣言には"The occupying forces of the Allies shall be withdrawn from Japanas soon as these objectives have been accomplished and there has been established,in accordance with the freely expressed will of the Japanese people, apeacefully inclined and responsible government." とあり日本国国民が自由に表明した意志による平和的傾向の責任ある政府を樹立したら、占領は解かれ、占領軍は撤退する約束だったはずである。

 また日本に駐留する米軍が、基地だけではなく、演習場や射撃場、中継飛行場を提供され、外国軍隊であるにもかかわらず、日本の陸路、空路、海路を自由に移動することができるのはなぜなのか。米軍が負担すべき費用の肩代わりや思いやり予算が続くのは何故なのか。加えて、問題のオスプレーの導入やその飛行ルートに関して日本側が決定できないような状況は、事実上軍事的占領状態の継続ではないのか。さらに、米兵犯罪裁判権をめぐる問題や下記のような密約が存在する理由は何なのか。戦後日本の安全保障の問題や日米関係については考えさせられることが多い。下記は、「ゼロからわかる 核密約」石井修(柏書房)からの抜粋である。
----------------------------------             第1の密約 ─── 核兵器の寄港・通過
密約とは何を指すのか

 岡田外相の命令を遂行する外務省の調査チームが取り組むことになった「密約」は、次の4件です。これ以外の密約については追って触れたいと思います。
(1) 60年安保のときの「核持ち込み」に関するもの
(2) 朝鮮半島有事(戦争などの緊急事態)の際、在日アメリカ軍は「国連軍」とし
   て日本の基地から出動するので、「事前協議」の対象としない。
(3) 1972年(昭和47)に、沖縄が日本に「核抜き、本土並み」で返還されたあと    の、沖縄への核兵器の再持ち込み。
(4) 沖縄返還には莫大な費用がかかったが、アメリカ側の支払うべきコストを一
    部、日本が肩代わりした

 ・・・
アメリカの懸念

 …池田勇人首相は国会答弁で、「核弾頭を持った船は、日本に寄港はしてもらわないということを常に言っております」と発言。この発言がアメリカ側の理解と違うと感じたのが、ワシントンのアレクシス・ジョンソン国務副次官でした。
 彼は問題を、政府上層部に提起します。ジョン・F・ケネディ大統領は、さっそく国務省、国防省、軍部などの担当者を集めて対策会議を開きました。その結果、ライシャワー駐日大使は日本の外務大臣と話し合うよう命令を受け、大平外相との極秘会談となったのです



ライシャワー駐日大使の国務長官宛電文(英文略)
 左にワシントンの国立公文書館で入手した文書を掲げます。長く機密扱いにされていたものです。東京のライシャワー大使からワシントンの国務長官に充てた電文で、発信は(1963年)4月4日(2335号)。時差のため国務省はこれを同じ日の4月4日午前8時7分に受信しています。全文は5ページありますが、重要な個所をいくつか掲げておきましょう。 


 本使は4月4日、人目を避けるべく大使館公邸で朝食を共にしながら、大平外相と会談しました。そして、関連電文にある要点を彼に提示しました。具体的な米国艦船搭載の核兵器の立ち寄りの問題には触れませんでした(し、説明も求めませんでした)。極秘の討論記録(1960年1月6日付)の米国側の現在の線に完全に沿った形での解釈で、彼とは完全な相互理解に達しました。(米国側の解釈や実際の記録が存在していたこと自体、大平にとっては明らかに初耳でした)。

 大平は私の説明を泰然と受け止めました。そして現在の米軍の軍事行動や、公的発言でのこれまでの米国側の慣行を変更するよう説得しようとする意志を、いささかも示しませんでした。また、この問題に関して日本政府高官の言葉遣いはより慎重なものになることについても、自信ありげでした。ようするに、日本政府内で情報漏れや抵抗の危険は無論ありますが、本日の会談は望みうる限りの成功に終わりました。これは1960年以来、日米両国の相互信頼がいかに深まったかを示す、際立った証拠となりました。

 大平の反応は素晴らしいものでした。彼(およびおそらく池田〔首相〕も)は米国側が使用する「イントロデュース」の意味を理解していなかったと認めました。しかしこの問題が明らかになったことで、彼は少しも狼狽した様子はみせませんでした。艦船に核兵器が搭載されているかどうかについて、われわれは肯定も否定もしない、と同時に条約を守っていると主張するというわれわれの方針に、彼は十分に納得しているようでした。突然日本語で「訂正」されたり、〔米国側の〕方針に大幅な変更を加えるよう発言されることは、ただ問題に不必要な注目を集めさせることになるだけだという点で、彼は私に同意しました。しかしながら、これからは、彼や他の日本政府高官は、われわれ〔米国〕が条約を遵守するとの保証に全幅の信頼を寄せるよう主張する立場をとり続けるであろうと同意しました。彼ら〔日本政府〕は引き続き「持ち込む」という言葉を「イントロデュース」の意味で使うでしょうが、今後は「イントロデュース」と言うときに、それがわれわれ〔米国側の〕意味していることとして捉えるでしょう。

 この問題の今後に関して、大平は1月6日の極秘討議記録の本分を読み、池田とこの問題について話し合うつもりだ、と述べました。しかし〔そのことで〕問題が生じるとは思わないと言いました。そしてこの件でさらに話し合いの必要が生じれば、本使に連絡をとると約束してくれました。より長期的なこととして、最近の国会でのいくつかの答弁と〔秘密合意と〕の間の明らかな齟齬について、いくつか説明を迫られる可能性はあるものの、日本人が徐々に核防衛が必要であるとの認識を持ちつつあり、おそらくこの問題全体が、3年かそこらで無意味なものになるのではないか、と大平は述べました。

 すでにお気づきのことと思いますが、この文書のなかに重要なキーワードが出てきます。それは「CLASSIFIED RECORD OF DISCUSSION」(極秘の討議記録)です。先に触れた1981年(昭和56)の「ライシャワー発言」の根拠は、この「討議記録」1960年1月6日付)だったというわけです。
 ・・・

 極秘合意の内容

 ・・・
 ここで「”この文書”とは一体何なんだ」と疑問が湧くことでしょう。
 新安保の調印は1960年1月ですが、それより半年前、条約内容について日米の担当者が詰めの交渉を行っていたころの1959年6月20日、東京で藤山外相とダグラス・マッカーサー(二世)大使(この大使は連合国最高司令官だったダグラス・マッカーサー将軍の甥にあたります)との間で秘密の合意がなされていたのです。
 

 この本体は発見されていませんが、その存在を示すものがアメリカで公開されたため、明るみに出たわけです。くどいようですが、具体的には「アメリカの核搭載の艦船や航空機が日本国内の港や基地に立ち寄る(寄港や通過)には、事前協議の必要がない」というものでした。つまり旧安保の50年代と変わらず、新安保のもとでも自由に寄港・通過を認めると約束したわけです。これがあったからこそ、アメリカは新安保に付属する「事前協議制に関する公文」にも承諾したのではないでしょうか。
 ことわるまでもなく、日本本土(当時の沖縄を除きます)への核兵器の「寄港」や「立ち寄り」ではなく、「持ち込み」は、アメリカとしても事前協議の対象という解釈です。


 ここでもうひとつ、新たな疑問が生まれます。「なぜ”討議記録”の形をとったのか」という疑問です。「なぜ、”協定”とか”覚書”といった公式の外交文書の形をたらなかったのか」と言い換えてもいいでしょう。
 あくまでも推測になりますが、これは新安保の交渉責任者である藤山外相が岸首相の意向を受けて、密約が露見した場合に備え、出来る限り非公式文書の体裁をとるように工夫した結果だったのではないでしょうか。後世に少しでも言い逃れの余地を残すために、公式な扱いはしたくなかったのです。
 しかしこの討議記録には、イニシャル(頭文字)だけであるものの、藤山とマッカーサーが署名しています。そうであれば、やはり”公式な約束”と考えざるをえません。


 ・・・

ブリーフィング・ブックの存在

 さて次に、「本体が未公開なのに、なぜその内容が判明したのか」という疑問が湧くと思います。
 それは、アメリカで情報公開の請求により「議会用説明資料集」(コングレショナル・ブリーフィング・ブック)というものが公開され、その中に「討議記録」が記載されていたからです。


 ・・・
 
 いま私の手許にも「ブリーフィング・ブック」の部厚いコピーがあります。しかし、肝心の個所(2ヶ所)が非公開扱い(1999年12月13日付)となっており、内容を確認することは出来ません。
 実はこの文書は、1999年(平成11)秋にいったん公開されているのです。先に言及したアメリカのNGO、「ナショナル・セキュリティー・アーカイブ」の研究員が、11月に国立公文書館で発見しています。またこのころ、日本共産党も同一文書を入手しています。これを朝日新聞社の安保取材班が入手し、2000年8月30日付の紙面で大々的に報じました。見出しには「日米安保条約の全容解明」「核寄港は事前協議せず」となっています。
 それではなぜ、私の手元の文書(ブリーフィング・ブック)では非公開になっているのでしょうか。その理由は、同じ1999年12月13日付)で、密約部分が「安全保障上の理由」により機密扱いに指定されたからです。
 しかもこれは、日本政府からアメリカ政府へなされた要請の結果であることも判明しています。アメリカ側への申し入れは、外交ルートを通じて行われたと言われています


----------------------------------
              第2の密約 ── 朝鮮半島有事

 先ほど述べた「ブリーフィング・ブック」には「朝鮮覚書」という別の極秘文書も収録されています。新安保が発効したあと最初に開かれる日米安保協議委員会で、朝鮮半島有事の際には日本のアメリカ軍基地から「事前協議」なしで出動できる、と藤山外相がアメリカ側委員に約束することが決められていました。これが「朝鮮覚書」という、”密約”です。


 第1回会合は1960年(昭和35)9月に東京で開かれました。すでに岸内閣から池田内閣に移り、外相も小坂善太郎に替わっていましたが、藤山前外相の文言はそのまま議事録にのこされることとなったのです。なお、先ほど挙げた2009年(平成21)12月11日の「読売新聞」のスクープ記事は、この「議事録」が発見されたとも伝えています。
 ここで説明すを要することがあります。いわゆる「在日米軍」と呼ばれる軍隊は、「国連軍」との二重の役割を果たしている場合があるということです。
 アメリカ軍は二足の草鞋を履いているといえるでしょう。

 ・・・
 その場合、アメリカ軍は在日米軍ではなく「国連軍」に変わるのですから、「日米安保条約には拘束されない」という論法になるのでしょう。

 
 http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が、書名や抜粋部分です。「・・・」は段落全体の省略を「……」は、文の一部省略を示します。 

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沖縄返還と日米密約-外務省機密漏洩事件 NO3

2012年10月23日 | 国際・政治
 「ゼロからわかる 核密約」石井修(柏書房)で、第4の密約として取り上げられているは、1972年に毎日新聞の西山太吉記者が、外務省女性事務官とともに国家公務員法違反で逮捕された「外務省機密文書漏洩事件」に関わるものである。この時は2人の男女関係に基づく機密漏洩の問題に焦点が当てられ、密約の問題が追及されることは、ほとんどなかったようである。本来きちんと取り上げられるべき国家の密約の問題にフタがされ、伏せられるべき個人的な男女関係と機密漏洩の問題ばかりが追及されたのである。そして、西山記者は記者生命を断れた。このことも問題であると思うが、その後の展開には、常識では理解できないものがある。

 2000年に、この密約を裏づける米公文書が発見された。にもかかわらず、時の河野外相が「歴代外相が『密約は存在しない』と繰り返し、国会などで明言してきた。政府の立場は歴代外相の述べてきたことにつ尽きる」と記者会見で述べたのである。だとすれば、米公文書は偽造されたということなる。あり得ないことである。

 また、当時この密約交渉の責任者であった吉野文六・元外務省アメリカ局長は、後に、この件に関わる裁判(2009年東京地方裁判所)で「歴史を歪曲しようとすると、国民のためにマイナスになることが大きい」という心境になり、この密約にサインしたことを認める証言をしたという。そして、当初嘘をついたことを認め、「河野さんから口裏を合わせるように頼まれたのです」とも明かしているのである(「ふた
つの嘘 沖縄密約」諸永祐司・講談社
より)。密約を示す外務省機密文書、その密約を裏付ける米公文書、当時の密約交渉責任者の証言などを突き付けられてもなお、参院予算委員会で麻生太郎外相は「歴代大臣が説明しているとおりでありまして、沖縄返還協定がすべてであって、それ以外のいわゆる密約はございません」と答弁する。吉野文六・元外務省アメリカ局長の証言は偽証であるということになる。なぜこのようなことがまかり通るのか、と思う。密約と偽証が、政府の場合は許される、とでもいうのであろうか。 
---------------------------------
           第4の密約 ── コストの肩代わり

 外務省機密文書漏洩事件
 外務省調査チームの調査対象となる第4番目の「密約」は、沖縄返還に伴って生じる厖大な経費のうち、本来アメリカ側が支払うべき分まで日本政府が日本人の税金で支払ったという”肩代わり”に関するものです。
 沖縄返還協定は、1971年(昭和46)6月に東京とワシントンで同時調印されました。翌年5月に発効し、沖縄は日本へ復帰を果たしたのです。これは四半世紀に及んだ異民族支配の終わりを意味します。
 しかし復帰に先立つ1972年4月、野党議員が「肩代わり疑惑」を国会で追及していた矢先、この疑惑は意外な形で表面化することとなりました。国家公務員法違反のかどで、毎日新聞の西山太吉記者(外務省担当)と外務省の女性事務官とが逮捕されたのです。いわゆる「外務省機密文書漏洩事件」です。
 記者は漏洩をそそのかした罪、事務官は機密文書を漏洩した罪でした。法廷で弁護側は”知る権利”を全面に押し出しましたが、国側は問題を”男女関係”に矮小化して対抗し、けっきょく2人とも有罪判決を受けました。
 この時点で問題は、アメリカ側が本来負担すべき400万ドルの補償金を、日本側が国民に隠して負担したというものでした。しかし、2000年(平成12)ごろにアメリカ側で関連文書が公開され、それにもとづく新聞報道、さらに琉球大学の我部政明教授による広汎かつ詳細な史料の調査・分析などにより、全容がよりくっきりと姿を現したのです。

 肩代わり疑惑の内容
 交渉はまず、1969年アメリカで、福田赳夫蔵相(のちの首相で福田康夫元首相の父)とデヴィド・ケネディ財務長官(この人物はあのケネディ大統領とは無関係です)がマスコミを避ける形で会談を始めました。
 次に柏木雄介大蔵財務官とアンソニー・ジューリック財務長官特別補佐官との間の実務レベルに移りました。ここで日本側が支払う金額は、内訳をはっきりさせない”一括払い”と決まりました。これは「沖縄を金で買った」という日本国内での批判を予想して、イニシャルの署名をした”秘密覚書”の形をとっています。
 交渉のすえ、日本は返還協定の発効から向こう5年間で、総額3億2千万ドルを支払うことになりました。日本政府はそのうちの7千万ドルを、核兵器撤去費として発表しています。アメリカ側が負担するはずだった400万ドルも、この撤去費の項目にすべり込ませてしまったのです。
 この「400万ドル」と言う数字は、西山記者がスクープしたものです。交渉の最初の段階では、アメリカ側から6億5千万ドルも吹っかけられていました。そこから考えれば、3億2千万ドルはおよそ半額です。善し悪しは別として、日本側もずいぶん粘ったのだろうと思います。


吉野文六氏の証言
 2009年(平成21)3月に、東京地方裁判所で裁判が起こされました。いわば前の裁判の復活戦です。25名の原告のなかには西山氏や、外務省機密問題を本にした作家澤地久枝氏らがいます。この裁判では、当時外務省アメリカ局長(アメリカ局はこのあと北米局になります)として交渉にかかわった吉野文六氏が証言することになりました。91歳の高齢を押して、証言台に立つ決意をしたのです。
 吉野氏は、アメリカ軍が使用した用地を元の田畑に戻す「現状回復補償費」(アメリカ側が負担すべき分)を日本が肩代わりする沖縄返還密約を担当し、西山記者の裁判のときはその立場上やむをえずウソの証言をした人物です。
 彼は1940年外務省に入り、ナチス支配下のドイツに勤務した経験などから、いまでは「歴史を歪曲しようとすると、国民のためにマイナスなることが大きい」との心境になり、アメリカの公文書管理制度を見習って、25年か30年の公開ルールを採用することもあわせて訴えました。
 当時、アメリカはベトナム戦争などのため財政的に疲弊していたのに対し、日本は、アメリカに大量の輸出をしてドルを稼いでいるというイメージが広がっていました。アメリカ議会は沖縄返還協定を批准する権限を持っていたので、”オカネ”の問題で日本が渋い態度をとれば、議会は批准を控えるという脅しをかけることが出来たのです。アメリカ議会の対日感情は、決して良くありませんでした。日本側にはこうした弱みもあり、気前よくカネを使ったというわけです。


 吉野氏によれば「核抜き本土並み」の実現が大きな課題だったのをいいことに、核兵器の撤去予算を「うんと大きくしてやろう」と、大蔵省の柏木財務官との間で相談し、7千万ドルの数字にふくれあがったといいます。つまり、「どんぶり勘定」だったわけです。実際には「核兵器はアメリカ軍が港に行って船を乗せるだけ。7千万ドルもかかるわけはない」ということです。

VOAの移動費も負担
 ところで、アメリカのVOA(Voice of America)をご存じでしょうか。短波放送で、アメリカや世界のニュースのほか、ジャズ、ロックなどの音楽を世界中に流している放送網です。1948年(昭和23)に始められ、冷戦時代のアメリカの”文化攻勢”を象徴する存在として、とくに社会主義圏に向けてアメリカや資本主義社会の魅力をアピールしようとした国策の道具です。
 アメリカ軍統治下の沖縄にも中継局があり、中国、北朝鮮、ソ連極東に向けて電波を発信していました。お気づきのように、これは沖縄駐留のアメリカ軍とは別組織です。しかし不必要に中国を刺激したくないと考えていた日本政府は、沖縄返還のついでにVOAの中継局の撤去も求めたのです。
 アメリカ側は同意しましたが、日本はその国外移転費用の半分近く、1600万ドルも秘密裡に負担することになりました。そしてこの費用もまた、先に挙げた3億2千万ドルのなかにすべり込ませたのです。


 この密約には吉野氏がサインしたことを認めています。ここからもおわかりのように、この3億2千万ドルは項目をひとつひとつ積算してはじき出した数字ではありません。吉野氏は証言の場で、これを「つかみ金」と言い表しています。
 このVOAの移転費については韓国からもそれを証明する史料が出てきました。なぜなら、アメリカはVOA中継局を、沖縄から韓国に移転しようとしたからです。しかしこれはうまくいかず、結局フィリピンに落ち着きました。


沖縄返還に絡む多くの密約
 占領下の沖縄ではアメリカのドルが使用されていましたが、日本復帰とともに新たに日本円が通貨となりました。日本政府は沖縄県民から、ドルを買い取る(=交換する)ことになったのです。その総額は6000万ドルでした。
 このドルは、ニューヨークの連邦準備銀行に25年間、無利子で預金することになりました。これもまた国民には秘密裡であり、「密約」のひとつです。この利息分と運用益は体の良いアメリカへの”贈与”でしかありませんでした。


 このように沖縄返還には多くの密約が絡んでいるのです。しかしなぜ密約にしなければならなかったのか、また密約を回避した場合はどうなっていたのか、私たちはこれからもきちんと検証する必要があります。現在進行中の外務省機密漏洩をめぐる裁判の判決がどう下るのかにも関心が持たれます。「国民の知る権利」がどこまで重視されるかにかかってくるからです。
 
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。

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沖縄返還と日米密約(極秘文書) NO2

2012年10月22日 | 国際・政治

 日米間には、日本の国家主権に関わるような主従関係が「密約」の形で存在するようである。ここでは「ゼロからわかる 核密約」石井修(柏書房)から、「第3の密約 ── 沖縄への核再持ち込み」と題された部分の一部を抜粋した。沖縄返還と関わって取り交わされた密約である。「核兵器を作らず、持たず、持ち込ませず」という非核三原則を、国の方針として掲げた佐藤内閣が、裏ではアメリカの要求を受け入れて、それに反する密約を取り交していたのである。
 この密約の存在は、当時の佐藤栄作首相の密使として交渉に当たった若泉敬の回顧録「他策ナカリシヲ信ゼント欲ス」やアメリカ側の公文書、および、アメリカ側で交渉を担当したキッシンジャーの回顧録、佐藤首相の署名入り密約文書の発見、その他によって裏付けられている。
 しかしながら、日本の外務省は、正式な外交ルートを通さない密使による、いわゆる「裏チャンネル」で作成された文書は、公文書として認めない、という。両国家の最高指導者がフルネームで署名した文書であるにもかかわらず、私文書だというのである。また、佐藤首相が自宅に保存した密約文書を後継者に引き継いだ様子がないので、佐藤内閣かぎりでこの密約は失効した、ともいう。そんな勝手な解釈でその都度言い逃れをしながら、日本の外交が進められていいものか、と思う。アメリカ側はこの密約文書を国立公文書館に所蔵しており、情報公開制度に基づいて公開しているのである。密約の問題そのものと同時に、きちんとした情報公開制度について考えることも、これからの日本には重要な課題だと思う。
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           第3の密約 ── 沖縄への核再持ち込み

 キッシンジャーと若泉
 密命を帯びた若泉は、日米首脳会談を2ヶ月後にひかえた1969年(昭和44)の9月にワシントンへ飛びました。ニクソン大統領の大統領補佐官(安全保障問題担当)となったキッシンジャーと打ち合せをするためです。若泉は、繊維に関するものと核兵器に関する2枚の紙切れを渡されます。

 「繊維」とは、このとき停滞気味だった日本からの化学繊維と羊毛製品を輸入規制することについてのアメリカ向けの交渉のことですが、ここでは「核」のほうだけに触れておきましょう。

 若泉は渡された2枚目の紙の内容を、日本に戻った佐藤に次のように報告します。『緊急の非常事態に際しては、「アメリカ側の」事前通告だけで核の再導入を認めることを保証してくれ、さもなければ沖縄は返せないというのが、いまや軍部だけでなく、ニクソン大統領自身の意思であり、かつ決定なのです』と。「向こうがどうしても書いたもので保証してくれ、と固執して譲らない場合は……合意事項に残し、首脳二人がイニシャルだけサインするというのはどうですか」と、若泉はたたみかけるように佐藤に進言したのです。

 英文略

 極秘----------------------------

 返還後の核作戦を支援するための沖縄の使用に関する最小限の必要事項

1、緊急事態に際し、事前通告をもって核兵器を再び持ち込むこと、および通過刺せる権利
2、現存する左記(下記)の核貯蔵地をいつでも使用できる状態に維持し、かつ緊急事態に際しては活用すること。
  嘉手納
  辺野古
  那覇空軍基地
  那覇空軍施設
  および
  現存する3つのナイキ・ハーキュリーズ基地。

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 ・・・
 首脳会談が目前に迫った11月の初め、若泉は再び渡米し、キッシンジャーと密約に入ります。電話連絡の際に盗聴されることも考慮して、まずは二人で暗号を決めます。キッシンジャーを「ドクター・ジョーンズ」、若泉を「ミスターヨシダ」、ニクソンと佐藤はそれぞれ「私の友人」や「あなたの友人」とすることになりました。

小部屋で交わされた密約
 さて、このとき若泉はキッシンジャーに密約の具体的な文案を示し、二人で推敲します。佐藤が「特別な取り決め、協定、条約などは一切いやだ」と言っていたこともあり、二人で練り上げた文章は「合意議事録」という名目になりました。しかしこれは、「特別の取り決め」そのものだったと思われます。 

 これに関する段取りが、若泉とキッシンジャーの間で決められます。大統領執務室での日米首脳会談の最中、その隣にある「小部屋」にニクソンが美術品を見せたいと言って佐藤を誘い、通訳も交えないで秘密文書に「イニシャル」(頭文字だけの署名)する、という筋書きでした。サインした文書はそれぞれ一通ずつ、公邸の金庫に保管されることも決まっていました。

 実際の首脳会談のときには、この筋書きとは多少違っていたようです。この小部屋にキッシンジャーがすでに待っていたこと。ニクソンがイニシャルでなくフルネームで署名したため、佐藤もそうせざるをえなかったことです。うがった見方をすれば、アメリカ側がこの「合意議事録」を少しでもより公式的なものにするためにわざとフルネームでサインした、と考えることも可能です。「ヨシダ」が「ジョーンズ」に国際電話を入れて確認したところ、「小部屋の件はうまくいった」という返事が返ってきたからです。

回顧録に記された密約の全容
 若泉はそれから20年余りへた1994年(平成6)600ページをこえる回顧録を発表し、自分は佐藤の密使であり沖縄の核密約をキッシンジャーとともに作成した。と名乗り出ます。

 ・・・
 英文略

 極秘----------------------------

署名入り密約文書の発見

 ・・・
 ところが、2009年(平成21)の暮れも近い12月23日、佐藤のフルネームでサインした文書が発見されたことが、主要新聞で一斉に大きく報道されたのです。佐藤の自宅の机の引き出しの奥深く埋もれたままになっていたのを、通産大臣を勤めたことのある次男・佐藤信二氏が発見したのです。

 1969年11月21日発表のニクソン米国大統領と佐藤日本国総理大臣との間の共同声明についての合意議事録(草案)

米国大統領
 われわれの共同声明に述べてあるように、沖縄の施政権が実際に日本国に返還されるときまでに、沖縄からすべての核兵器を撤去することが米国政府の意図である。そして、それ以後においては、この共同声明に述べてあるように、米日間の相互協力及び安全保障条約、並びにこれに関連する諸取り決めが、沖縄に適用されることになる。

 しかしながら、日本を含む極東諸国の防衛のために米国が負っている国際的義務を効果的に遂行するために、極めて重大な緊急事態が生じた際には、米国政府は、日本国政府と事前協議を行った上で、核兵器を沖縄に再び持ち込むこと、及び沖縄を通過する権利が認められることを必要とするであろう。さらに、米国政府は、沖縄に現存する核兵器の貯蔵地、すなわち、嘉手納、那覇、辺野古、並びにナイキ・ハーキュリーズ基地を、何時でも使用できる状態にしておき、極めて重大な緊急事態が生じた時には活用できることを必要とする。

日本国総理大臣
 日本国政府は、大統領が述べた前記の極めて重大な緊急事態が生じた際における米国政府の必要を理解して、かかる事前協議が行われた場合には、遅滞なくそれらの必要をみたすであろう。

 大統領と総理大臣は、この合意議事録を2通作成し、1通ずつ大統領官邸と総理大臣官邸にのみ保管し、かつ、米国大統領と日本国総理大臣との間でのみ最大の注意をもって、極秘裏に取り扱うべきものとする、ということに合意した。
                                    1969年11月21日
                                     ワシントンDCにて
                                       ニクソンの署名
                                         佐藤の署名
                                  


http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/
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