真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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日米地位協定 沖縄返還交渉 財政・経済取決 NO1

2012年11月29日 | 国際・政治
 最近、日本の戦後史を考える上で注目を集めている本がある。「戦後史の正体 1945ー2012」孫崎亨(創元社)である。同書は「日本の戦後史を動かす原動力は、米国に対するふたつの外交路線です」という文章から始まる。そしてそれが、米国に対する「追随」路線と「自主」路線であるとして、米国からの圧力や裏工作と絡めて、ふたつの路線対立による日本の戦後政治の裏面を、びっくりするような資料も 交えて明らかにしている。

 安保条約に関しては、戦前外務省アメリカ局長で、1946年には外務次官であった寺崎太郎の言葉「周知のように、日本が置かれているサンフランシスコ体制は、時間的には平和条約(講和条約)ー安保条約ー行政協定の順でできた。だが、それがもつ真の意義は、まさにその逆で、行政協定のための安保条約、安保条約のための平和条約でしかなかったことは、今日までに明らかになっている」、を引いて、旧安保条約に米軍の日本駐留の在り方について何も書かれていないことを問題とし、「条約」が国会での審議や批准を必要とするのに対し、政府間の「協定」ではそれが必要ないため、都合の悪い取り決めは、全部「行政協定」(新安保条約で地位協定)のほうに入れたのだと指摘している。そして、その行政協定(地位協定)も、密約や非公開の合意事項によって運用されているのである。下記のような事実は、そうしたことを裏付けるものだと思う。

 1972年4月、毎日新聞の西山太吉記者と蓮見喜久子外務省事務官が国家公務員法違反で逮捕された。「外務省機密漏洩事件」である。沖縄返還をめぐる日米交渉のなかで、本来米国が支払うべき「補償費」400万ドル、すなわち、講和前の人身事故と土地の復元補償のなかで未処理となっていた分について、米国が支払うことを規定していたにもかかわらず、日本がそれを秘密裡に肩代わりするという「密約」の存在が指摘されたのである。でも、当時その密約は、2人のプライベートな男女関係による、機密文書の漏洩問題に封じ込められ、ほとんど追及されず、明らかにされることはなかった。その後「密約」の存在を裏付ける文書が、相次いで発見されている。

 沖縄返還をめぐる日米交渉のなかで、秘密裏に進められた「財政・経済取決」の内容には、西山記者によって暴露された400万ドルの支払い肩代わりの他にも、いろいろ問題がある。その内容は、実に驚くべきものである。琉球大学の我部政明教授は、1994年以降飛躍的に進んだアメリカの情報公開によって手にすることができた数多くの米政府の沖縄関連公文書や沖縄の公文書館に保存されている公文書などをもとに、その内容を「沖縄返還とは何だったのかー日米戦後交渉史の中で」(日本放送協会)にまとめている。

 下記は、その中からいくつかの項目を抜粋したものである。交渉のなかで問題となった、「移管される資産の評価額」ひとつをとっても、日米であまりに大きな違いがあり、「財政・経済取決」の内容が、公表でるものではなかった理由が察せられる。
 たとえば、電力公社の日本側評価額は4,060万ドルであったが、米側評価額は2億7,000万ドルなのである。日本側が「ばかげている」と受け止めたことが、記されている。琉球電力公社より10倍の発電量、14倍の売り上げのある九州電力の市場価格の5割増しの評価だったというのである。日米の差は、総額でも5倍近いものであった。

 また、資産移管の金額問題だけではなく、経費の肩代わりや通貨交換後のドルの連邦準備銀行への無利子の預金その他、納得し難い問題が含まれている。そしてそれらが、日本の国民にはほとんど知られることなく、文字通り「米戦略文書の手順通り」に進むのである。そして、財政・経済取決では、アメリカ側が総計6億9,200万ドルの要求をし、それに近い6億4,500万ドルの利益を得たというのである。そうした日米関係は、何とかならないものなのか、と思う。
註:文中のジューリックは米財務長官特別補佐官 柏木は大蔵省財務官
---------------------------------
             第5章 佐藤・ニクソン共同声明

米戦略文書の手順通りに進んだ日米交渉
 密約の存在とは別に、7月3日に米政府内で承認された戦略文書において予定したように、日米交渉は進んだといえるだろう。その最大の理由は、日本側の交渉戦略に求められる。返還時点に核兵器を撤去することのみを基本目標としてきたことにある。その結果、財政・経済取決や基地の自由使用保証の点で米側の要求をそのまま認めてしまうことになった。米側が返還交渉における基本目標とした軍事権、つまり基地の自由使用を日本側は交渉の当初から認めていたのである。交渉にあたる日本側において、核兵器について何らかの了解を米側からとりつけるのは困難だと自ら思い込む心理的な状態が充満していた。交渉目標への柔軟な対応を自ら放棄してしまったため、米側が核撤去の意思をもっているという情報に接しても、日本の交渉者たちは無視してしまったのである。こうした「思い込み」による硬直した状況認識は、核抜きを実現するために、どのような財政的・政治的コストも払うことに全く疑問を抱かずに自らを納得させてしまったのである。


               第6章 もう一つの密約

外務省機密漏洩事件
(略)

400万ドルの補償金の存在
(略) 

三つ目の山場
 沖縄の施政権返還については、これまで核兵器の「持ち込み」、「貯蔵」にのみ関心が集まってきたように思う。「核抜き」以外に、沖縄返還交渉はいくつかの分野・作業グループから構成されている。
 第2章でのべたように、共同声明の案を作成する作業グループ、財政・経済問題を担当する作業グループ、防衛の引継ぎを担当する作業グループ、そして、施政権返還そのものを扱う作業グループ、以上の4つである。

 共同声明作成の作業グループは、戦略文書が共同声明作成のタイム・テーブルを明示していたので、ガイドラインを作る必要をもたなかったが、個々の交渉過程において関係省庁の了解を得る場として機能した。この作業グループは69年11月21日に共同声明発表を迎えて、その任務を終えた。これら4つのなかで最も積極的な活動をしていたのが、明確なガイドラインを設定して財務省と日本の大蔵省の間の交渉を支える財政・経済問題を担当する作業グループであった。防衛担当作業グループは交渉ガイドラインを設定したものの、佐藤・ニクソン前に対日交渉には入らなかった。民政作業は、共同声明の発表後の翌年1月から本格的作業に入った。


 共同声明後の米政府の沖縄返還交渉体制は、東京大使館を軸にワシントンでの省庁間グループ、沖縄の高等弁務官、米軍沖縄返還交渉チーム、(USMILRONT)、在日米軍(USFJ)との密接な関係で構成され、返還協定作成へ向けて4つの主要分野での作業を進めた。まず、沖縄の米軍基地の使用をめぐって最大限の軍事的柔軟性を確保するため、沖縄への地位協定適用について、つぎに、沖縄防衛責任の日本への移管について、そして、施政権の返還について、最後に、財政・経済取決のほかに米企業の保護について、であった。

 このように沖縄返還に向けての交渉のなかで、財政・経済取決は一貫して重要な課題でありつづけたことを物語る。この章の目的は、沖縄返還にともなう財政・経済取決の合意形成過程について検討することにある。財政・経済取決は、返還そのものを左右する分野であった。ベトナム戦争中からジョンソン政権は、国際収支が悪化する米国経済を立て直すために、米国の提供する安全保障秩序のなかで経済的に豊かになる日本に対し、後にバーデン・シェアリングとして知られることになる相応の負担を要求していた。佐藤政権の要望に応えて当時米国の保有の下にあった沖縄を返還するのだから、米政府に財政負担を一切かけることなく、返還にともなう財政負担を日本側が負うべきだとする声は、米政府内で根拠のある主張として浸透していた。

米資産の基本的データの欠如
(略)

日米の評価額の差
 東京での日米交渉の3日めに柏木が日本側の提案をおこなった。まず、一括払い方式は受け入れがたく、個別の評価額を積み上げる方式をとるべきである。つぎに、通貨交換後のドルは日本が受け取るが、国際収支への悪影響を避けるようにする。そして、移管される資産の評価額は、返還時の価格変動を考慮に入れて、1969年6月30日現在の帳簿価格とし、また米国の投資総額に見合うような金額とすること。さらに沖縄内での基地移転費用は、双方が合意すればという条件つきで、地位協定下と同様に、日本政府の負担とする。最後に、何がどのように移転されるのかが不明な現時点では、沖縄外への基地移転費用について検討しない。


 日本側は、移管される資産の評価額をつぎのように下していた。カッコ内は米側評価。電力公社4,060万(2億7,000万)ドル、水道公社740万(5,000万)ドル、琉球開発金融公社2,630(5,600万)ドル、万琉球銀行310万(2,200万)ドル、行政ビル100万(300万)ドル、道路700万(3,900万)ドル、石油・油脂施設(P0L)や航空航路補助施設など合計9,000万(4億5,000万)ドル。総額で5倍近い日米の差が出た。たとえば、電力を2億7,000万ドルとする米側の評価を「ばかげている」と日本側は全面的に非難した。この金額は、当時、沖縄の総生産の4割に相当し、琉球電力公社より10倍の発電量、14倍の売り上げのある九州電力の市場価格の5割増しの評価だと手厳しい指摘があった。
 これに対しジューリックは、米国内で要求される政治的考慮への配慮を全く欠いており「失望せざるをえない」と日本側の評価額を攻撃した。また、総額1億ドル程度と見積もられた米国の資産は10億を超えるとして、日本側の評価こそが「ばかげている」とやり返した。日米双方のこうした応酬は、決して最終的提示ではなかった。すぐ翌日非公式会談では、日本側の妥協案が明らかにされるのである。


大きく譲歩した柏木提案
 沖縄返還にともなう財政・経済取決において、個別積算方式(日本側の要求)か一括公式(米側の要求)かをめぐる日米対立は、日本側の妥協によって大きく進展しようとしていた。
 正式交渉としてではなく個人的な接触として同年10月24日の朝、柏木とジューリックとが会った際に、柏木が米側の要求を満たす日本側の新たな提案を明らかにした。それは、日本の主張する積算方式を放棄して、総額で2億5,000万ドルの支払い提案であった。内訳は民政用資産1億2,500万ドル、軍用資産を1億2,500万ドル。そして、ドル交換については、別途に定めることにしていた。つまり、日本側は、積算方式をあきらめる代わりに支払い総額を引き下げる戦術へと転じたのである。
 ジューリックは総額では不充分だとしつつも、日本側の妥協を歓迎した。そして、財政・経済取決の3つの原則を強調した。まず、民政用資産について琉球住民の権利だとする原則は受け入れられないこと。次に、軍事資産の残存価値を評価額に盛り込むこと。さらに、通貨交換は公正に処理され、それにともなって日本が何らかの利益を得ないとする、などであった。
 柏木は、福田赳夫蔵相にパッケージとして取決めると報告した。そのパッケージには、まず、水道公社、琉球開発金融公社、電力公社、道路などの買い取り費用として、1億2,500万ドルの直接支払い分。つぎに米政府所有の有価証券買い取りのかたちにし、さらに「色sweetner)」をけて1億ドル。また、社会保障費として2,500万ドル。さらに、基地の移転費(沖縄内外を問わず)として2億ドル。これらの合計4億5000万ドルのほかに、通貨交換後のドルの連邦準備銀行預金として1億ドルなどを含む提案であった。これらとは別途に、琉球銀行関連の民政用資産と石油・油脂背施設(POL)の売却益として、1000万から2000万の幅を見積もっていた。
 そして、柏木は、さらに翌25日ジューリックとの非公式会談を重ねて、その後にワシントンで継続する交渉での実質的内容を詰めようと提案した。


両国で受け入れ可能な取引(略)

総計6億9,200万ドルの財政・経済取決要求
 11月4日、ワシントンでの検討結果が国務・財務・国防の各省の合同メッセージとして東京の米大使館へ送られてきた。それによると、一括払いの考え方は、共同コミュニケに財政・経済取決を織り込む際に都合がよく、しかも米政府の予算上の節約を得る上でも大切だと強調されていた。そこで、日本側に対し、つぎのような対案を出すよう指示している。民政用・共同使用資産として1億8,500万ドル、社会保障費(沖縄の米軍基地で働く軍雇用員に支払われる)として3,000万ドル、返還にともなう基地の移転(沖縄内及び沖縄外)及び他のコストとして2億ドル、そして通貨交換として1億1,200万ドルなど、合計5億2,700万ドルの財政・経済取決を主張せよという。この金額以外に、米政府は琉球銀行の株式及び石油・油脂施設の売却益として1,500万ドルを得ると述べる。さらに、地位協定にもとづいて軍用地料(第24条第2項)及び労務管理費(第12条第4項)について日本政府が負担するので、5年間の節約分合計が1億5,000万ドルとなり、総額6億9,200万ドルに達する財政・経済取決要求であった。

 ・・・以下略

米人企業に対する特別措置(略)

共同声明前に合意していた秘密覚書
 交渉のもう一つのチャンネルは、11月6日から8日にかけてジューリックと柏木の間で進められていた。そこでは、基地移転費などに2億ドル通貨交換後の預金を含む総額6億9,200万ドルの米側要求を叩き台として交渉が進行した。その結果、総額6億8,500万ドルの取決案が成立した。
 その内訳は、民政用・共同使用資産買い取りに1億75,00万ドル、沖縄の基地従業員の社会保障費等に3,000万ドル、基地移転費及びその他の費用に2億ドル、そして通貨交換後の預金に1億1,200万ドル、となった(利益節約分を含む)。合計で5億1,700万ドルとなった。さらに、米民政府所有の琉球銀行の株式と石油・油脂施設売却益に加えて、返還の結果、その後5年間に得るであろう米政府の予算節約分を合計して、1億6,800万ドルが加えられた。
 また、日米間で、この合意を確認する手続き作業も併せて話し合われ、11月12日に福田が口頭で了解覚書を読み上げ、佐藤ニクソン会談の数週間後に、書面にて柏木が確認することとされた。


 手元に、1969年12月2日付けの文書がある。それは、米政府内で返還作業の過程で作成された文書の参照として折り込まれたようだ。3ページの文書はそれぞれのページの上段と左端の2箇所ずつ、手書きのAJJとYKのイニシャルが記されている。これらは、アンソニー・J・ジューリックとユウスケ・カシワギのイニシャルと判断してよい。

 沖縄返還を政権の課題とする佐藤にとって、佐藤ニクソン共同声明以前に財政・経済取決に合意したことを秘密にしたのは「沖縄を買い戻した」という印象を日本国内でもたれないためには、柏木・ジューリック覚書の公表を避けねばならなかった。事実、12月2日に柏木とジューリックがこの覚書に署名している。この覚書の存在は、これまでの沖縄返還交渉の研究でほとんど言及されたことのなかった新しい事実である。
 全部で6つの項目、3ページの文書だ。第1項が、民政・共同使用資産の買い取りを扱っている。2ページにわたり、売却対象として移管される資産のリスト、売却方法が記されている。


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日米地位協定 鳥島射爆場 5・15メモの記述

2012年11月13日 | 国際・政治
 「日米行政協定の政治史ー日米地位協定研究序説」明田川融(法政大学出版局)で取り上げている5・15メモの「鳥島射爆場」に関する部分を抜粋した。鳥島射爆場は、沖縄県が”劣化ウラン弾の使用が許可されているのではないか”という疑念を表明したところである。

  この「鳥島射爆場」のメモには、下記のとおり、用途の項目に「2,000ポンドを超えない、一切の航空機用の通常型爆弾を使用する空対地射爆撃」とある。確かに劣化ウラン弾は核爆発を伴わない2,000ポンド以下の兵器かも知れない。しかし、その環境にもたらす影響を考えると、「通常型爆弾」として扱うことには、疑問がある。劣化ウラン弾は、低レベルであるとはいえ、放射性物質である重金属の粉塵や微粒子を環境に拡散させ、環境を汚染する兵器であるといわれている。人体に影響を及ぼす心配がある。

 また、劣化ウラン弾は、国連の人権小委員会が、「大量破壊兵器」である核兵器や化学兵器、生物兵器と同様に、「無差別的な殺傷効果のある兵器」として、その生産や拡散を制限するよう求めた兵器の一つでもある。

 劣化ウラン弾射撃事件発覚当時、米側は、”装填する弾丸を決定する海軍兵站センターが作成する弾丸カタログの誤りによる発射である” と説明したという。しかし、沖縄県は、”劣化ウラン弾の使用が許可されているのではないか”との疑念を表明したのである。同書には、”この事件については、その報告が遅延したことも看過できない。米国政府が在日大使館を通じて外務省に事件の報告を行い、外務省がそれを公表したのは「誤射」から1年が経過した時点であったが、それも事件がマスメディアによって先に報じられたためであった。”とある。

 環境破壊や人的被害の心配、また、事件発覚前後の米国政府の対応を考えると、日米地位協定にある「相互協力」の内容が疑われる問題の一つではないかと思う。  
---------------------------------
④鳥島射爆場
                 施設分科委員会
                                    1972年5月15日
メモ番号:973
メモの宛先:合同委員会
件名:鳥島射爆場
 1、参照文書:日本国とアメリカ合衆国の間の相互協力及び安全保障条約第6
   条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する
   協定 
 2、参照文書の第2条第1項(a)の諸規定に従い、合衆国政府が以下に記され、
   同封の諸文書に示される、施設および区域の使用を許与されることを合意す
   る。
 a、施設名:鳥島射爆場
 b、施設番号:FAC 6077
 c、所在地:沖縄県島尻郡仲里村字宇江城
 d、主な使用目的:空対地射爆撃場
 e、区域の範囲:大略は同封の1から3に示すとおり。
  (1) 陸上区域:同封の3に示すとおり、約39,100平米
  (2) 合衆国所有以外の建物:なし
  (3) 水域:
     区域1:同封の2に示すとおり北緯26度35分30秒、東経126度50分06         秒を中心とし、鳥島に接する半径3海里の円弧内の水面域。
  (4) 空域:北緯26度36分、東経126度50分を中心とする半径5海里の、高度
         15,000フィートにいたる円
 f、使用期間:無制限
 e、備考:
  (1) 使用条件:
   (a) 使用時間:上記の2のeに記す水域および空域は、06:00時から24:00
      時まで常時。
   (b) 用途:2,000ポンドを超えない、一切の航空機用の通常型爆弾を使用す
      る空対地射爆撃。夜間は、照明弾の投下、航空機用訓練弾の投射、お
      よび写真用フラッシュ・カートリッジの投下のために使用される。爆発物
      処理が行われる。
   (c) 通告の方法:合衆国当局は、当該射爆場を使用する予定がない時は、
      当該日の3日前までに防衛施設庁へ通告する。
  (2) その他:上記2のeに記された水域は、使用期間中、合衆国軍隊による排
     他的使用のために制限される。漁業(特に餌釣漁において)を許可するた
     め、現地での調整を行うことができる。
(筆者註 以下、承認勧告、受理、付託、承認の項、および日米双方の議長、代表者の署名は省略する。なお、同封の3文書として、1967年8月15日付基地配置図、空軍図面、1972年8月15日付基地配置図・空軍図面、1972年8月24日付鳥島水域、1971年8月24日付「鳥島射爆場」と題する位置および境界地図)


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日米地位協定と嘉手納空軍基地5・15メモの記述

2012年11月11日 | 国際・政治
 5・15メモに関して「日米行政協定の政治史ー日米地位協定研究序説」明田川融(法政大学出版局)で3番目に取り上げているのが嘉手納空軍基地の記述である。”このメモの特徴は、使用条件にほとんど具体的な記述がないことである”と著者は指摘している。重要な項目であるのに、なぜなのか。

 その理由を考える上で、大事な事実を琉球大学の我部政明教授が明らかにしている。我部教授によると、1969年1月に大統領となったニクソンのもと、国家安全保障会議において、対日政策について検討が重ねられ、「国家安全保障研究メモランダム」(MSSM-5)としてまとめられたという。
 それは、日米関係全般、安全保障条約及び基地、沖縄返還、日本の防衛努力、日米経済関係、アジアにおける日本の役割の6部から構成されており、本文50ページ、附属文書11件にまとめられているという。それらを詳細に調べた我部教授は、沖縄返還に関するアメリカの考え方や情勢分析、対日戦略などについて、”興味深い点”として下記の5つを指摘している。

 まず、沖縄が西太平洋における重要な位置にあること、したがって、そこに訓練、兵站、出撃準備などのための基地を置くことは大事なことであるのはもちろん、その沖縄の基地に核兵器を貯蔵し、そこから直接出撃できるようにすることが、戦略上きわめて有効であるとアメリカが考えていたことである。
 第2に、沖縄の施政権を返還しても基地を保有できると考えていたこと。
 第3に、親米の佐藤政権の沖縄返還要求に応えることができなければ、佐藤栄作首相は政権を維持できず、日米関係が深刻な事態に陥り、1970年に期限の切れる日米安保条約の延長ができなくなる恐れがあると考えていたこと。
 第4に沖縄返還によって、米国の国際イメージが改善されると考えていたこと。
 そして最後に、沖縄返還による”自衛隊の活動範囲の拡大”は、アジアの安全保障における日本の役割を増大させることになる、とアメリカは判断していたことである。

 沖縄返還後も、何ら拘束されることなく基地に核兵器を貯蔵し、基地を自由に使用することが合衆国政府の求めるところであったことを踏まえれば、嘉手納空軍基地のメモに、使用条件の記述がほとんどないことは、当然のこととして理解できる。
 そして、沖縄返還は、安全保障条約、日米地位協定、5・15メモ、日米地位協定合意議事録、密約などを巧に組み合わせることによって、ほぼアメリカの思惑通り進んだということのようである。 
---------------------------------
③嘉手納空軍基地
                  施設分科委員会
                                    1972年5月15日
メモ番号:879
メモの宛先:合同委員会
件名:嘉手納空軍基地
1、参照文書:日本国とアメリカ合衆国の間の相互協力及び安全保障条約第6条
  に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定
2、参照文書の第2条第1項(a)の諸規定に従い、合衆国政府が、以下に記され、
  同封の諸文書に示される施設および区域の使用を許与されることを合意する。
 a、施設名:嘉手納空軍基地
 b、施設番号:FAC 6037
 c、所在地:沖縄県ゴザ市(筆者註 現沖縄市)、中頭郡北谷村、嘉手納村、美里
   村
 d、主たる使用目的:空軍基地
 e、区域の範囲:大略は同封の1から5に示すとおり。
  (1) 陸上区域:同封の5に示すとおり、約20,497,000平米
  (2) 合衆国所有以外の建物:なし
  (3) 水域:
     区域1:同封の2に示すとおり、北緯26度20分51.2秒、東経127度44分
     43.7秒と、北緯26度20分33.5秒、東経127度44分49.7秒の間の、陸
     地から50米の距離に接する水面域。
     区域2:同封の2に示すとおり、北緯26度20分51.2秒、東経127度44分
     43.7秒と、北緯26度20分49.2秒、東経127度44分36.5秒の間、北緯
     26度20分03秒、東経127度44分40秒と、北緯26度20分02.4秒、東
     経127度44分52.3秒で珊瑚礁の外縁沿いの陸地に接する水面域。
  (4) イーズメント:日本国政府は、公道1号および16号線を横断するユーティ
     リティー・システムのためイーズメント(水道および 電気のため3メートル
     の幅と、下水および排水のための6メートルの幅)を提供する。(筆者註 
     以下、メモ番号871の「イーズメント」の項の第2および第3ならびに第4
     文章に同じ)
 f、使用期間:無制限
 e、備考:
  (1) 使用条件:
   (a) 使用時間:上記の2のeに記す水域および2は常時
   (b) 用途:
    1、上記2のeに記す水域1は、陸上施設の保安のため使用される。
    2、上記2のeに記す水域2は、クリアランス・ゾーンおよび小型船舶停泊港
      の用に供するため使用される。
  (2) その他:
   (a) 以下の使用が、参照文書第2条第4項の諸規定によって許可される。
    1、略(筆者註 水道・下水施設のため、前出メモ番号870のgの2の(a)と同
      様の土地の共同の使用が沖縄電力・沖縄県に許与されること、当該地
      の確定と表示、前記ユーティリティー・システムの運用に関する検査、保
      守等を目的とする人員の出入に対する合衆国政府の保証、の3点を主
      旨とする規定)
    2、略(筆者註 免除対象とならない人員および貨物の検査を目的として、
      入国管理、税関、検疫施設のために日本政府が所定の建物を共同使用
      することに対する許可に関する規定)
   (b) 略(筆者註 合衆国政府が、沖縄電力に対し、この施設内にある同社の
      施設運用に関する検査、保守、修理作業のための出入りを保障する規       定)
   (c) 略(筆者註 前出メモ番号870のgの2の(a)と同様、合衆国政府が日米
      地位協定第18条に定める義務を負わない場合に関する規定)
   (d) 日本国政府は、上記2のeに記されている水域内において、嘉手納空軍
      基地を使用する航港機(航空機?)に危険を与えるか、または当該小型
      船舶停泊港への出入りを妨げる建設もしくはその他の諸活動を許可しな
      い。合衆国政府は、これらの水域内において漁業または海産物の採集
      を制限しない。
(筆者註 以下、承認勧告、受理、付託、承認の項、および日米双方の議長、代表者の署名は省略する。なお同封の5文書として、1967年12月31日付空軍図面、基地配置図、1972年4月4日付嘉手納空軍基地水域、1972年4月12日付嘉手納空軍基地、同上、1971年8月27日付「嘉手納空軍基地」と題する位置および境界地図。



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日米地位協定とキャンプ・ハンセン5・15メモの記述

2012年11月10日 | 国際・政治
 辺野古に続いて、ここでは「日米行政協定の政治史ー日米地位協定研究序説」明田川融(法政大学出版局)からキャンプ・ハンセンの部分を抜粋した。
 著者がここで指摘しているのは、県道104号線を封鎖して行われる危険な実弾砲撃演習の問題であり、地元住民が日本の公道を使用する場合も、米軍の演習を妨げないことを条件として許されるという問題である。同様に県民の漁業や漁船の航行も、水域内では合衆国軍隊の権利が優先される。そして、それは米軍が沖縄返還以前に使用していた「施設および区域」を、引き続き使用するということなのである。
 こうした基地の外へ被害や環境破壊をもたらす規定が、キャンプ・ハンセンの他にも、北部演習場、キャンプ・シュワブ、キャンプ・ハーディ、金武ブルー・ビーチ訓練場などにもあるという。長く、この5・15メモが伏せら、公開されなかった理由が察せられる。また、日米地位協定や5・15メモで、「基地」という用語が全く使われず、常に「施設および区域」というような独特な言葉が使われる理由もそこにあるのだと思う。提供しているのは「基地」だけではないということである。
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②キャンプ・ハンセン
                 施設委員会
                                   1972年5月15日
メモ番号 871
メモの宛先:合同委員会
件名:キャンプ・ハンセン

1、参照文書:日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6
  条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協
  定

2、参照文書の第2条第1項(a)の諸規定に従い、合衆国が、以下に記され、同封
  の諸文書に示される施設および区域の使用を許与されることを合意する。
a、施設名:キャンプ・ハンセン
b、施設番号:FAC 6011
c、所在地:沖縄県名護市、国頭郡金武村、宜野座村、恩納村
d、主たる使用目的:住宅、管理、および訓練
e、区域の範囲:大略は同封の四に示すとおり。
 (1) 陸上区域:同封の四に示すとおり、約1,998,000平米
 (2) 合衆国所有以外の建物:なし
 (3) 水域:同封の二に示すとおり、北緯26度29分59秒 東経127度59分38
    秒の真方位90度と北緯26度29分44秒、東経127度59分43秒の真方位
    90度の間の、陸地から500米の距離に接する水面域から成るキャンプ・ハ
    ンセン訓練区域のLVT出入り地点
 (4) 空域:
  (a) キャンプ・ハンセン上空の、高度2,000フィートまでの全空域
  (b) Rー177(イーズリー射撃場):北緯26度27分 東経127度54分から始
     まり、北緯26度30分、東経127度58分を経て、北緯26度31分、東経1
     27度59分を経て、北緯26度32分、東経127度59分を経て、北緯26度
     29分、東経127度52分を経て、始点にいたる。高度3,000フィートまで。
 (5)イーズメント
  (a) 日本国政府は、公道104号線および、108号線を横断するユーティリティ
     ・システムのためイーズメント(水道および電気のための3メートルの幅と
     下水および排水のための6メートルの幅)を提供する。かかるイーズメント
     は、合衆国軍隊がこれらのユーティリティ・システムの使用、修理、保守、
     交換または検査を行うのに供するものである。合衆国軍隊が、公道の境
     界内にあるユーティリティ・システムを修理、保守、交換する時は、日本国
     政府との調製がはかられる。イーズメントの正確な位置は、詳細な調査の
     完了後に確定され、このメモランダムを実施するための現地の不動産に
     関する合意に組み入れられる。
  (b) 略
f、使用期間:無制限
g、備考                                                          
 (1)使用条件:
  (a) 合衆国政府は、必要であれば、返還後できるだけ速やかに合同委員会が
     使用条件を検討し明確にするとの了解を以て、返還以前の期間に使用し
     ていたと同じく本施設および区域を引き続き使用する。1952年12月17
     日の第32回合同委員会で承認された「陸上訓練演習場への立ち入り、責
     任、警戒通告」に関する合同委員会合意が適用される。
  (b) 本施設・区域内では実弾射撃が認められる。合衆国軍隊により使用される
     兵器は、水陸両用師団に標準的に編成される兵器の一般的分類に入るも
     のである。ヘリコプターおよび固定翼航空機による、空対地の着弾区域実
     弾射撃が認められる。爆発物処理が許される。爆破訓練は指定された射
     撃場で行われる。
  (c) 使用時間:
 1、上記2のeの(3)に記す水域は、必要により毎日
   2、上記2のeの(4)に記す空域およびR-177(イーズリー射撃場)は常時
  (d) 用途:
   1、上記2のeの(3)に記す水域は、水陸両用訓練のために使用される。実弾
     射撃は行わない。信号目的のためおよび合衆国軍隊の移動の統制のた
     めに、信号弾を使用することができる。この訓練のために、水陸両用部隊
     が通常装備する一切の兵器の空包射撃が認められる。 水中爆破は認め
     られない。
   2、上記2のeの(4)の(a)に記す空域は、有視界飛行による航空機の運用を支
     援するために使用される。
   3、上記2のeの(4)の(b)に記す空域は、空対地訓練のために使用される。
  (e) 通告の方法:現地の合衆国当局は、上記2のeの(3)に記された水域の使
     用に関して、現地の防衛施設局と通告の方法を調整する。
 (2)その他:
  (a)参照文書の第2条第4項(a)の諸規定に基づき、以下の使用が許可される。
   沖縄電力株式会社および沖縄県(水道設備)は、かかる公益事業体(筆者註
   沖縄電力および沖縄県)が所有し、管理し、または規制し、本施設および区域
   内に在るユーティリティ・システムの下部または上部の土地共同使用が許与
   される。上記の土地の正確な位置は、現地調査によって確定され、このメモ
   の修正によって追加される図面上に表示される。合衆国政府は、要請された
   時はいつでも、これらのシステムの運用に関わる検査、保守、修理およびそ
   の他の諸活動を目的とするユーティリティ保守人員の出入りを保証する。
  (b)合衆国政府は、要請されたときはいつでも、沖縄電力株式会社に対して、同
   封3に示されているとおり、本施設および区域の一部ではないがそれらの内
   にある施設の運用に関する検査、保守、修理およびその他の作業を目的とす
   るユーティリティ保守人員の出入りを保証する。
  (c)略(筆者註 上記2のgの(2)の(a)および(b)で許与した使用に関し、メモ番
   号870と同様、米国政府が日米地位協定第18条の義務を負わない旨の規
   定)
  (d) 上記2のeの(3)に記す水域内において、合衆国政府は、合衆国軍隊が使用
   中に漁業および航行がそれを妨害しないとこを条件として、いかなる制限も課
   さない。
  (e)同封の4に指定された施設および区域内で、地元住民が出入り路および公
   道104号線を使用することは、かかる使用が合衆国軍隊の訓練の行動を妨
   げないことを条件として許される。
  (f)略(筆者註 返還に伴い日本政府に移管される沖縄県の水道設備がこのメ
   モの施設および区域から除外されること、同設備に対する沖縄県の出入を米
   国政府が保証すること、水道管の上部または下部の土地は引き続き日米地
   位協定の適用を受けること等に関する規定)

3、参照文書の第2条第4項(b)の諸規定に従い、合衆国政府が以下に記す施設
  および区域の使用を認められることに合意する。参照文書の関連する諸条項
  は、特定の使用区域内においてのみ、かつ実際に使用される間のみ適用され
  る。
 a、合衆国軍隊は、訓練の目的で、本施設および区域の一部ではないがその境
  界内に在る貯水池へ出入りする権利を有する。これらの水源を使用して行わ
  れる訓練:
 (1) 浮き橋の建設および使用
 (2) 水質浄化部隊用訓練
 (3) 渡河技術訓練
 (4) 小型船舶操作訓練
 (5) サーフ・トレーニング
 (6) 水陸両用車輌を使用する人員の教化
 (7) ヘリコプターからの消火訓練
 (8) ヘリコプターによる空ー海救助訓練
 b、必要とされる期間:年間100日を越えないこと
 c、備考:
 (1) 使用条件:
  (a) 実弾または空砲射撃は、貯水池使用区域では行わない。信号弾は使用し
     ない。水中爆破は認められない。
  (b) 合衆国の現地当局は、計画的に貯水池区域を使用する前に原則として15
    日前に現地防衛施設局通告する。しかしながら、予想し難い場合は、計画
    的使用の7日前までに事前通告を行う。
  (c) 貯水池使用区域内では、合衆国軍隊は恒久的建築物の建設を行わない。
  (d) 使用期間中に貯水池使用区域内に、合衆国軍隊が建てたいかなる仮設
    建築物も、各々の使用期間が終了し次第合衆国軍隊によって撤去される。
  (e) 合衆国政府は、本施設および区域内の貯水池を汚染しないよう予防措置
    を執る。
  (f) 詳細事項の追加は、必要に応じ、合衆国の現地当局と日本国の現地当局
    との間で合意することができる。
 (2) その他:上記の第2条第4項(b)による使用は、日本国政府が貯水池の管理
    機関(沖縄県)との内部調査を終了した時に効力を生じる。日本国政府は、
    1972年6月30日までに上記の調査を完了する。
(筆者註 以下、承認通告、受理、付託、承認の項および日米双方の議長、代表者の署名は省略する。なお同封の4文書として、配置計画図および技術部図面、1972年3月24日付キャンプ・ハンセン訓練区域LVT出入点(全)水域、1972年4月26日キャンプ・ハンセン(除外財産)、1971年8月25日付「キャンプ・ハンセン」と題された位置および境界地図)

                                                              
 http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。 

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日米地位協定と辺野古弾薬庫5・15メモの記述

2012年11月04日 | 国際・政治
 「5・15メモ」は、通常われわれ日本人が、日常生活で使っているような意味での単なる「メモ」ではない。沖縄返還の過程で、日米地位協定をめぐって取り交わされた公文書であり、施設分科委員会の日米合同委員会で承認・署名されたものである。
 ここでは、その「5・15メモ」から核兵器貯蔵問題をかかえる「辺野古弾薬庫」の使用条件などを定めた部分を、「日米行政協定の政治史ー日米地位協定研究序説」明田川融(法政大学出版局)から抜粋した。
 問題はいくつかあるが、まず辺野古弾薬庫の使用に関して、詳細な取り決めをしているにもかかわらず、肝心の貯蔵物に関しては、何の記述もない。そのため、地元関係者は”核兵器があるからである”と疑っているという。核兵器に関しては、後に、沖縄返還交渉の際、佐藤栄作首相の密使として舞台裏で交渉に関わった若泉敬が、その著書「他策ナカリシヲ信ゼント欲ス」で、緊急時の沖縄への核兵器の貯蔵権および通過権は認めざるを得なかった事実を明らかにした。また、佐藤栄作首相がサインした秘密合意議事録も発見された。それには辺野古のみでなく、当時、沖縄に現存する核の貯蔵地、嘉手納、那覇、ナイキ・ハーキュリーズ基地も核持ち込み可能な状態で維持することが記されていた。非核三原則を掲げた佐藤栄作首相の「核抜き・本土並み」返還は、アメリカに受け入れてもらえず、表向きのこととなり、実際は密約によって事が進められた、ということであろう。
 また、著者の解説にもあるように、「この弾薬庫の使用や米国政府の活動から生ずることのある財産損害、傷害、さらには死亡に対して地位協定第18条の規定に基づく義務を負わないと明記している」ことも問題であり、沖縄県の地位協定改正要求案で指摘されている第18条に関わる部分である。さらに、使用期間が無制限という取り決めも、独立国家間の取り決めとしては、考えにくいものではないかと思う。
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2 地位協定の沖縄への適用 ── 公表された「5・15メモ」との関連で
 ・・・
 この「5・15メモ」は、狭義には沖縄施政権返還にあたって米軍に提供する施設・区域の使用目的、使用期間、使用条件などを定めた日米合同委員会施設分科委員会メモで、1972年5月15日未明(自午前0時○1分同1時○○分)に外務省で行われた日米合同委員会第251回会合で承認・署名され、同会合の議事録に同封されたので、その名がある。なお、同会合では上記メモの他にも沖縄に所在する在日米軍通信施設・区域における電波障害に関する合同委員会メモ、国際連合の軍隊による在沖縄合衆国施設・区域の使用に関する日本側提出メモ、国際連合の軍隊による在沖縄合衆国施設・区域の使用に関する米側提出メモ等、少なくても10件の取り極めが承認・署名もしくは提出されている。

 まずこのメモ全般を通じて気づくことは、メモを承認する合同委員会が沖縄返還当日の未明に開催され、しかも同委員会が50分という時間の間に100件近い取り極めを処理していることである。この措置は、沖縄の基地提供はそれらを含めて沖縄がいったん日本に返還された後でなされ、しかも返還後できるだけ速やかに─ほとんど間断なく─行われるよう意図されたためであろう。次いで「5・15メモ」においては大半の施設・区域の使用期間が「無制限」indefinite((外務省・防衛施設庁の作成した仮訳では「定めず」)とされていることである。これは文字通り、米軍による沖縄の施設・区域使用に制限がないと見るべきであろう。米軍はいつそれから撤退してもよく、またそれらをいつまで使用してもよいとうことが合意されたのである。そして、さきの佐藤・ニクソン共同コミュニケ第5項、ジョンソン国務次官によるその背景説明などからみて、「5・15メモ」の眼目は後者にあったと考えるのが妥当であろう。

 以下、具体的な施設・区域については、「5・15メモ」の内容を検証していきたいが、すべての事例について見ることは紙幅の都合から不可能である。そこで、、①若泉の言う秘密合意議事録でも言及されている辺野古弾薬庫、②県道104号線超え実弾砲撃の当該施設であるキャンプ・ハンセン演習場、③アジア・太平洋地域における米軍最大の空軍基地である嘉手納空軍基地、④「5・15メモ」公表のきっかけとなる劣化ウラン弾発射事件の舞台となった鳥島射爆撃場という4つの事例をここで取り上げることとしたい。

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①辺野古弾薬庫 
                 施設分科委員会
                                      1972年5月15日
メモ番号 870
メモの宛先:合同委員会
件名:辺野古弾薬庫
1、参照文書:日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6
  条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協
  定
2、参照文書の第2条第1項(a)の諸規定に従い、合衆国政府が、以下に記され、
  同封の諸文書に示される施設および区域の使用を許与されることを合意する。
 a、施設名:辺野古弾薬庫
 b、施設番号:FAC 6010
 c、所在地:沖縄県名護市字二見字辺野古
 d、主たる使用目的:弾薬庫
 e、区域の範囲:大略は同封の1、2、および3に示すとおり。
  (1) 陸上区域:同封の3に示すとおり
  (2) 合衆国所有以外の建物:なし
  (3) 水域:同封の2に示すとおり、北緯26度32分25・5秒 東経128度02分
     25・7秒と、北緯26度31分40秒、東経128度02分51秒の、陸地から5     0メートルの距離に接する水面域
 f、使用期間:無制限
 g、備考: 
(1) 使用要件:上記第2項の水域は、陸上施設の保安のため常時に使用される。
  (2) その他
   (a) 参照文書の第2条第4項(a)の諸規定に基づき、以下の使用が許可され
      る。:
      沖縄電力株式会社は、かかる公益事業体(筆者註 沖縄電力のこと)が
      所有し、管理し、または規制し、本施設および区域内にあるユーティリテ
      ィ・システムの下部または上部の土地の共同使用を許可される。上記の
      土地の正確な位置は、現地調査によって確定され、このメモの修正によ
      って追加される図面上に表示される。
 
    1、合衆国政府は、要請されたときはいつでも、これらシステムの運用に関
      わる検査、保守、修理およびその他の作業を目的とするユーティリティ
      保守人員の出入りを保証する。
    2、合衆国政府は、許与した使用の行使から生じることのある、もしくはそれ
      らの使用に付随することのある一切の財産損害、もしくは使用者の職員
      、代理人、使用人、被用者、ないしはそれらの招きにより、もしくはそれら
      のいずれか一の招きにより前記構内に在る他の者に生じる傷害、死亡に
      対し、地位協定第18条の諸規定による義務を何ら負わない。ただしかか
      る損害、傷害、死亡が在日合衆国軍隊構成員の側の故意の、または悪
      質な違反行為によって生じた場合は除く。前記の使用者は、許与された
      使用の行使に起因する人身もしくは財産に対する損害に対して十分の
      責任と義務を負い、従って合衆国政府は、責任を負わないものとする。

   (b) 上記2の、eに記された水域内において、日本国政府は、永続的投錨、破
      壊、建設、ならびにいかなる種類の永続的使用も許可しない。合衆国政
      府は、この水域内における漁業および海産物の採集を制限しない。

3、本件を承認するよう勧告する。
 同封された3文書:
 1、1971年6月30日付 技術部関係図面 15-09-120
 2、1972年3月27日付 辺野古弾薬庫(A10)水域図面
 3、1971年8月24日付 「辺野古弾薬庫」と題する位置および境界地図
  (合同委員会ファイルにのみ)
    1972年5月15日受領、合同委員会へ付託

Y.Shimada                   R.W.Belt
Y.SHIMADA                  R.W.BELT
日本国側議長                合衆国海軍大佐
                         合衆国側議長

    1972年5月15日、合同委員会により承認

Bunroku Yoshino               Richard M.Lee
BUNROKU YOSHINO            RICHARD M.LEE
日本側代表                  合衆国軍少将
                          合衆国側代表

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 若泉の言う秘密合意議事録で言及され、また以前から核兵器貯蔵疑惑がとりざたされてきた辺野古弾薬庫の使用条件などを定めたこのメモからは、2つのことが指摘されよう。第1点は、貯蔵物リストなどの貯蔵物に関する具体的な記述が、何ら、付されていないことである。これはやはり「秘密の合意議事録」で言及されて、鳥島で使用された劣化ウラン弾の貯蔵庫であった嘉手納弾薬庫についても同様である。このため地元では、核兵器があるからこそ貯蔵物に関する具体的な記述がないのであり、さらなる密約が存在するものという疑惑を生む結果となっている。

 第2点としては、地位協定第18条の認めている請求権と賠償の適用を受けない場合の規定が置かれていることである。同協定は公務中の米軍構成員または被用者の作為もしくは不作為による損害から生ずる請求権について、「合衆国のみが責任を有する場合」には、補償額の75%を米国が、25%を日本が分担すると規定し(第18条、5、(e)(1))、「日本国及び合衆国が損害について責任を有する場合」には、双方が均等に分担するとしている(同 (ii))。しかしながら、右のメモは、合衆国軍隊の構成員の故意または悪質な違反によって生ずるものである場合にはこの限りでないという但し書きはついているものの、この弾薬庫の使用や米国政府の活動から生ずることのある財産損害、傷害、さらには死亡に対して地位協定第18条の規定に基づく義務を負わないと明記している。そして、「5・15メモ」の米軍施設の多くについてこの規定が置かれているのである。


 
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。赤字は特に記憶したい部分です。「・・・」は段落全体の省略を「……」は、文の一部省略を示します。

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