真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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米台湾関係と日米合同委員会

2023年01月23日 | 国際・政治

  台湾の対中国大陸政策を担う「大陸委員会」の昨年10月の世論調査では、中台関係の現状維持を望む人が、86.3%にのぼるといいます。
 そんななか蔡英文総統の後を受けて、頼清徳副総統(63歳)が、台湾与党新党首に就くことが決まったとの報道がありました。
 でも、彼が、中国と距離を置く人であり、行政院長時代に「台湾独立の仕事人」と称したことがあるという事実が、私はとても気になります。
 蔡英文総統の支持率が約15%まで落ち込んだというのに、その原因を頼清徳新党首がきちんと踏まえているのか疑問に思うのです。

  2020年7月、アメリカのトランプ大統領は、テキサス州ヒューストンの中国総領事館に対し、経済スパイ活動に関わったとして突然閉鎖を命じましたが、この頃から米中関係は急速に悪化していったように思います。そして、アメリカは台湾の軍事力強化に乗り出したように思います。

 日本経済新聞は、2020年10月 ”米、台湾にまた武器売却 総額2500億円 中国は猛反発 米中衝突”と題して、つぎのような記事を掲載しました。

【台北=中村裕】米政府は26日、台湾への対艦ミサイルシステムなど総額23億7000万ドル(約2500億円)の武器売却を承認し、議会に通知した。21日には空対地ミサイル(AGM)など総額18億ドル(約1900億円)強の武器売却を承認したばかり。米国から台湾への武器売却が加速している。
 台湾は米国からの武器購入を増やし、軍事力の強化を急いでいる(7月、台中市)=ロイター
 今回売却を決めたのは、「ハープーン」と呼ばれる米ボーイング製の対艦ミサイル最大400発のほか、ハープーンを搭載した沿岸防衛システム100基など。
 21日にはボーイング製の空対地ミサイル「SLAM-ER」135発や、米ロッキード・マーチン製のロケット砲システム「HIMARS」など3種類の兵器システムの売却を承認したばかりだ。

 オバマ政権時代は中国への配慮を優先し、台湾への武器売却を控えた。オバマ政権2期目の2013年からの4年間で承認したのはわずか1回にとどまる。一方、トランプ氏が大統領に就任してから武器売却が増えた。約4年間の在任中に台湾への武器売却を承認したのは今回で9回目だ。
 総額は約174億ドル(約1兆8000億円)にのぼる。台湾の年間の国防予算の約3500億台湾ドル(約1兆2800億円)を大きく上回る規模だ。米中対立が過熱した19年から動きが速まった。米国が台湾に武器売却を承認した9回のうち、7回は19年以降に決めた案件となる。
 19年7月には「M1A2エイブラムス戦車」108両や、地対空ミサイルなど総額22億ドル(約2300億円)の売却を承認した。さらに同年8月には、F16の新型66機を総額2472億台湾ドル(約8900億円)で売却することを決め、大型案件を矢継ぎ早に承認している。

台湾の総統府は27日、「米政府が先週、台湾に3種類の武器売却を決めたのに続き、再び重要な防衛システムを提供することを決めたことに深く感謝する」とのコメントを発表した。
 台湾国防部のシンクタンクである国防安全研究院の蘇紫雲所長は、米国が今回決めた武器売却の意義について「台湾から先制攻撃はしないが、台湾沿岸から250キロメートルをミサイルで射程圏に入れた。対岸の中国・福建省も十分、台湾の陸地から攻撃できる射程内に入った」と指摘した。 
 そのうえで「中国軍はまだ台湾を十分に攻撃する能力は持たない。だが、軍事能力を引き上げており、台湾軍も5~10年前倒しで準備を進める必要がある」と語った。
 米台の急接近で、中国はいら立ちを募らせ、対抗措置に出ている。中国は26日、台湾に売却予定の武器を製造する米ロッキード・マーチンやボーイングの関連会社、レイセオン・テクノロジーズなど軍事関連企業に制裁を科すと発表した。
 軍事的な圧力も強めている。中国軍機は9月に、中国大陸と台湾を隔てる台湾海峡の「中間線」を越え、台湾側への侵入を繰り返した。さらに台湾南西部の防空識別圏にも10月に入ってから、計17日間(27日時点)にわたって侵入し、威嚇行為を繰り返している。
 中国外務省の汪文斌副報道局長は27日の記者会見で「米国は中国の内政に干渉し、中国の主権と安全に重大な損害を与えている。(台湾への武器輸出に)断固反対する」とコメントした。

 読み過ごすことのできない記事ですが、台湾に対するアメリカの武器売却は、その後、ますます激しさを増しているように思います。

 アメリカは、2022年9月2日、台湾に対し11億ドル(約1500億円)相当の武器を売却すると発表し、さらに、10/20(木) には、”米、台湾と武器開発検討”との報道もありました。

 また、バイデン政権は、2022/12/7、台湾に585億円相当の武器売却し、7度目であると伝えられています。
 当然中国は、激しく反発しています。
 だから、より一層、頼清徳氏の台湾与党新党首就任が気になるのです。
 アメリカは、頼清徳氏と手を結んで、中国の孤立化・弱体化のきっかけを掴もうとしているのではないかと想像してしまいます。

 下記は、「対米従属の構造」古関彰一(みずず書房)から、「日米合同委員会」に関する部分を抜萃しましたが、アメリカが、日本の主権を蔑ろにしていることを踏まえると、台湾に対する働き掛けが、アメリカの覇権や利益のためであって、決して台湾の人たちのためではないだろうということが考えられるからです。
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                     第一章 指揮権密約

   第九節 日米合同委員会の誕生

 合同委員会の設置
 日米行政協定は、先の「共同措置」の後に、「合同委員会」を設置し、その任務を次のように定めている。
 第26条第1項 この協定の実施に関して相互の協議を必要とするすべての事項に関する日本国と合衆国との間の協議機関として、合同委員会を設置する。合同委員会は、特に、合衆国が安全保障条約第一条に掲げる目的の遂行に当って使用するため必要とされる日本国内の施設又は区域を決定する協議機関として、任務を行う。

 同条文は、「施設又は区域」という慣れない言葉を規定している。外国軍が長期に駐留するということは、軍人自身はもとより自身の家族を同伴し、それに伴う施設や労働者が必要になる。具体的には、単身並びに家族用の住宅、子どもの学校やそこで教える教員、家族が通う教会や牧師、スーパーマーケット、ゴルフ場等々である。つまり、外国軍が駐留し、生活するためには、軍事基地用地や軍人ばかりでなく、家族、軍属(米国籍の労働者)が必要であり、そのために施設は、軍事にかかわる滑走路やターミナル、格納庫、演習場ばかりでなく、民生にかかわる多様な「施設又は区域」が必要になる。
 つまり外国軍が駐留するということは、自国軍の駐留と違って、膨大な施設及び区域と経費、そればかりか軍人・軍属・家族の「安全」、さらに米軍の場合は「特権」を必要とした。その為の機関として設置されたのが「日米合同委員会」である。合同委員会は行政協定から地位協定に至る50年間に、なんと1600回以上開かれているという(吉田敏浩『「日米合同委員会」の研究』創元社、2016年、29頁)。

 合同委員会の構成
 合同委員会の日本側代表は外務省北米局長、米国側代表は在日米軍司令部副司令官が担当する。そのもとに「補助機関として各種分科委員会や各種部会などが下部組織として置かれて」おり、「2016年10月の時点で分科委員会が16、特別分科委員会が4、委員会が1、小委員会が1,特別専門委員会
1、部会が10、特別作業部会が1、特別作業班が1」という(吉田、前掲書)22頁)。17ある分科委員会などのうち、1992年当時、いくつかあった委員会名と代表名を挙げるとつぎのごとくである。左記の「代表」の上は日本側、下は米国側である。

 気象分科委員会(代表 気象庁長官、在日米海軍司令部気象課部員)
 刑事裁判管轄権分科委員会(代表、法務省刑事局総務課長、在日米軍司令部法務官)
 事故分科委員会(代表、防衛施設庁次長、在日米軍司令部第三部部長)
 施設特別委員会(代表、防衛施設庁長官、在日米軍司令部第四部部長)
 出入国分科委員会(代表、法務大臣官房審議官、在日米軍司令部第五部部長)
 環境分科委員会(代表、環境庁水質保全局企画課長、在日米軍司令部第四部副部長)
                            (吉田、前掲書、25頁)
 日本側は外務省を中心に各省庁の長官や部課長であるが、米国側は部長が多い。
 しかも米国側は全員が在日米軍所属であり、外交官(国務省)は一人としていないことに気づく。

 主権なき安保特別法
 対米従属の組織としての「日米合同委員会」とともに、安保条約・行政協定(地位協定)の法制度を擁護する一連の特別法がある。これもまた60年以上続く「年代物」であるが、そのいくつかを紹介してみたい。
  米軍基地のフェンスによく掲げられている基地内に入ることへの警告文は、この刑事特別法(日本本国とアメリカ合衆国との間の安全保障会議第三条に伴う刑事特別法)によっている。米軍基地内への侵入、米軍の機密の漏洩等に対し、日本の刑法の刑罰よりも特別に重く罰し、米軍、米軍基地を擁護することを目的としている。
 民事特別法(日本本国とアメリカ合衆国との間の安全保障会議第三条に伴う刑民事別法)は、米軍
の職務上の不法行為から生ずる損害の賠償責任を米軍が負うのでなく、日本政府が負うことを定めたもの。国家賠償法は、公務員が国民に損害を与えたときは、国または地方自治体が損害賠償を負うとしているが、この特別法により米軍の軍人などは日本の国家公務員なみに扱い、国が負うことにした。
 国有財産管理法(日本本国とアメリカ合衆国との間の安全保障会議第三条に伴う国有財産管理法)も、米軍が基地などを使用する際には国有地の特権的使用を定めている。国有財産法は、普通財産を「地方公共団体、水害予防組合及び土地改良区に無償で貸し付けることができる)(同法ニ十ニ条)と定めている。特別法は、この二十二条を根拠に「国は、協定を実施するための国有財産を合衆国の軍隊の用に供する必要があるときは無償で、その用に供する間、合衆国に対して当該財産の使用を許すことができる」としている。しかし、国有財産法ニ十二条が定める無償の対象としては、公園、ため池、墓地などであり、いわゆる公共の施設を前提としており、およそ軍事施設が「特別」と類推できるものではない。
 さらに、特別法は三条において「国は、当該(軍事施設)財産の返還にあたり合衆国に対し、その原状回復又はそれに代わる補償の請求を行わないものとする」と定め、米軍が基地返還に際して日本側が原状回復請求を行わないことを定めている。米軍基地には、滑走路、格納庫、貯蔵庫など堅牢堅固な施設があり、それをそのまま置去りにして、「飛ぶ鳥跡を濁す」規定である。
 土地等使用特別措置法(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基づく行政協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法)は、土地収用法の特別法であり、いまの沖縄で有効に実施され、土地所有者の怒りをかっている法律である。土地収用法とは、私有地を公共目的で国家権力が使用・収用するものである。したがって土地を有する個々人の私権を制限するものであり、一般には「強制収容」と言われるように、私権を守るためには限定的でなくてはならない。
 そこで、土地収用法は土地収用できる対象を「公共の利益となる事業」に限定し、たとえば「一般自動車道、堤防、貯水池、鉄道」といったごとく、全体で48を限定列挙している。(同法三条)。そこには「公共の利益」に該当しない軍事基地用地は含まれていない。したがって、自衛隊基地は収容できる対象にはなっていない。
 ところが土地等使用特別措置法は、米軍基地のみの私権の「強制使用」を可能にしている。これこそ、沖縄で大きな基地問題となっている法律である。これも、安保条約・地位協定(行政協)に基づく法律なのである。

 日米異なる戦後認識からの出発
 密約にせざるを得なかった理由はさまざまにあったのである。アメリカから見れば、日本再軍備とは、なにも日本のためにするものではなく、冷戦を遂行するにあたり、米国を含む国際社会の必要性の産物であった。「大日本帝国軍の再興」など夢にも考えていなかった。
 しかも、日本の侵略を受けた太平洋諸国の要請で、米国の介入しない日本再軍備はありえなかったのである。再軍備をする以上は米国への従属こそ、米国ばかりなく、米国のアジア太平洋支配にとって必須の要件であった。
 これに反して、日本政府、あるいは支配層の再軍備や憲法改正は、「大日本帝国の再興」意識しかなかった。したがって、「指揮権」という軍隊の本質にかかわる問題は鋭く対立することとなり、結果として「密約」を生んだ。その根源には日米ともに「憲法」、すなわち「戦争の放棄」があったことに気づくのである。
 そうしたなかで、昭和天皇の選択はじつにユニークであり、支配層のなかで傑出して世界の動向に敏感であったとみることができる。大元帥から平和主義者へ、そして日米安保礼賛へと変遷を続けた。「沖縄メッセージ」にしろ、米国が好まなかったであろう沖縄訪問を見合わせたことなど、日本の政治支配層以上に一歩先を歩んで対米従属の先鞭をつけてきたといえよう。日本の政治支配層の憲法改正には、帝国軍の再生とともに帝国軍による「日本精神の再興」という「ロマン」があり、どこか情緒的で、それは70年前後の今日でも持続しているが、昭和天皇にはそれはなかった。実に「現実主義者」であった。
 もちろん、再軍備によってつくられた軍隊を、すべての政治支配層が「帝国軍の再興」と見ていたわけではない。戦前からの帝国陸軍の軍人で、陸上自衛隊で陸上幕僚長を務め、1962年に退官した杉田一次は、第二次大戦下の欧米先進国では「ある国の最高司令官のもとにほかの国の軍隊を入れて指揮」してきたことを紹介した後、日本の自衛隊の指揮権をつぎのように述べている。

 今のような戦史的な観察からいたしますと、日本が、やはり集団防衛というようなことを考えますと、日本の防衛もこの範疇から例外であるということはできないと思います。ところがここに独立国としての主権の問題、また日本の国民感情が加味されて、非常に困難な政治問題となることが予測せられるところであって、これには平素から、その準備研究をするとともに、そういうことを国民に認識させておく必要がある。(杉田一次「陸上自衛隊の現状と日本の防衛」日本国際問題研究所・鹿島研究所編『日本の安全保障』鹿島研究所出版会、1964年 464頁)

  軍隊的指揮権のあり方、それはまさに国のあり方そのものであり、その在り方がその後、どのような様相を示しているのか、これこそ日本の安全保障と憲法が抱える基本問題であるが、それは後論で論ずることにしたい。
 米国政府にとって指揮権は、対日政策の「画竜点睛」であった。日本の対外主権国家、なかでも米国との対立関係に立つ対外主権は認めず、それを保証する行政協定で行政的、法的規制を定め、その頂点に「統一指揮権」があったと見ることができる。
 一方、日本政府は、行政協定交渉において「ギブ・アアンド・ギブ」(米国に与えるばかり=先の西村熊雄の言葉)であったため、「統一指揮権」を認めてしまえば、米国への対外主権を持たない従属国家そのものになると考えたに違いない。
 結果的には、統一指揮権は「密約」となったが、その後の「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」を通じて「指揮・調整」となって、今日まで生き続けている。行政協定が安保条約の改正にともなって地位協定となっても、沖縄県などの強い改正要求にもかかわらず、一条どころか一言も変わることなく「不磨の大典」であり続けていることは、「従属国家」が戦後日本の「不磨の大典」である証左であろう。


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