真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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イスラエルのガザ猛攻撃の目的とアメリカ

2023年12月28日 | 国際・政治


 このところ、ガザの悲惨な実態と国内の自民党安倍派の裏金問題が毎日報道されています。
 イスラエル軍による病院や学校、難民キャンプの爆撃および掃討作戦は、ハマスのメンバーのみならず民間人をも対象にた戦争犯罪だと思います。にもかかわらず、国際社会の人道的停戦の声さえ無視して、イスラエルは作戦を続け、アメリカは、イスラエル支援をやめません。
 イスラエルのネタニヤフ首相は、先日、党首を務める与党リクードの会合で、”パレスチナ自治区ガザの住民を地区外へ自発的に移住するよう促す方針を示した”と言います。とんでもないことだと思いますが、それが、ネタニヤフ政権、あるいは、リクードの当初からの基本方針であることはすでに取り上げてきました。ガザに対する無差別爆撃や地上侵攻による攻撃は、パレスチナの地から、パレスチナ人を追い出すことが目的であるということです。 
 パレスチナ自治政府は「イスラエルの目的がパレスチナ人の存在を消し去ることだと明らかになった」と反発し、国際社会に対し「民族浄化」をやめるよう求める声明を出したとの報道もありました。パレスチナ自治政府は、イスラエルの意図を正しくとらえていると思います。
 パレスチナの地に移住したユダヤ人が、「パレスチナの地」を「イスラエルの地」に変え、パレスチナ人を追い出そうとしているのですから、とんでもないことだと思います。旧約聖書にカナンの地は神がイスラエルの民に与えると約束したとあるからと言って、何世代にもわたって住み続けてきたパレスチナ人をパレスチナの地から追い出すことが許されるわけはないと思います。

 また、見逃せないのは、イスラエルによるガザの無差別爆撃や地上侵攻による民間人殺害は、下記の「パレスチナ紛争地」横田隼人(集英社新書 0244D)の「第七章、イスラエルの論理」が示しているように、今回が初めてではないということです。イスラエルの右派政党リクードに結集する人たちは、一貫してパレスチナの地からパレスチナ人を追い出そうとしてきたのだと思います。共存する気がないということです。

 また、国際社会の声を無視して、イスラエル支援を続けるアメリカに関し、私が、気になっているのは、今盛んに報道されている裏金問題です。

 私は、戦後日本の歴史は、アメリカによって著しく歪められたと思っています。GHQによって民主化されたというのは表向きで、実は、日本はアメリカに都合の良い国にされてしまったと思うのです。
 アメリカは、戦争指導層の公職追放を解除し、復活させて政治的に利用したり、レッドパージで日本の真の民主化を阻止したり、また、戦後三大事件といわれる下山事件、三鷹事件、松川事件などの連続的な事件を画策して、日本を反共の防波堤する政策を進めたと思っています。
 さらには、日米地位協定の規定に基づき設けらた「日米合同委員会」という協議機関を通じて、日本の政治に深く関与し続けてきたと思っているのです。もちろん確定的な情報はありませんが、諸情報を考え合わせると、そう受け止めざるを得ないのです。

 だから私は、今問題になっている自由民主党安倍派の裏金問題についても、アメリカの関与を疑わざるを得ません。自由民主党安倍派の策謀が、アメリカに察知され、今回の裏金問題の発覚にいたったのではないかと疑っているのです。
 日本の政権を牛耳ってきた安倍派の主要メンバーを一気に要職から追い落とすような力が、東京地検特捜部にあるとは思えません。
 全ての検察庁の職員を指揮監督する権限を有しているのは、検事総長だということですが、その任免は内閣が行うのです。だから、東京地検特捜部に権限があったとしても、現実的に内閣を崩壊させかねない政権中枢の主要メンバーを要職から追い落とすことはできないだろうと思うのです。
 自由民主党は、自らの政策を都合よく進めるために、あらゆる組織の人事権を握ろうと努めてきたと思います。例えば、「任免協議」という規定を駆使することによって、官僚の人事をブラックボックス化し、官僚支配を強めたと言われています。また、本来関与すべきでない組織の人事にも関与してきたと思います。日銀やNHKや学術会議などの人事も、問題になりました。
 だから、普通に考えれば、東京地検特捜部に、将来の総理候補ともいわれるような自民党安倍派の主要メンバーを、一気に要職から追い落とす力がある筈はないと思うのです。
 そういう意味で一強の自由民主党を率いてきた安倍派を潰すことができるのは、アメリカをおいて他にないと私は思います。自由民主党安倍派の策謀が、アメリカの逆鱗に触れたのではないかと想像しています。中国やロシアなどとの秘かな交渉による裏切りの策謀によって・・・。

 アメリカの覇権が衰退傾向にあり、世界中でアメリカ離れが進んでいるとは言え、アメリカは今も、圧倒的な軍事力と経済力で、実質的に世界を支配しているのだと思います。各国に深く入り込んだアメリカの組織も、圧倒的な力を持っているのだろうと思います。時には、工作部隊や謀略部隊が動くこともあるのだろうと思います。だから、国際社会もイスラエルの戦争犯罪を止めることができないのだと想像します。アメリカに逆うことになるからです。
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                      第七章、イスラエルの論理

 難民キャンプ侵攻
 ヨルダン川西岸、パラタ難民キャンプ。主要都市ナブルスに隣接する西岸最大のパレスチナ難民キャンプを、イスラエルはイスラム過激派ハマスなどが潜伏する「テロの基地」と見ていた。2002年2月28日早朝、ヘリコプターの支援を受けた空挺部隊、機甲部隊、工兵部隊などがパラタ難民キャンへの侵攻を開始した。アラファト議長が過激派の摘発に動かないのに苛立つシャロン・イスラエル首相は、議長に代わって直接パレスチナ自治区での過激派摘発に本格的に乗り出したのである。
 他の難民キャンプもそうだが、わずか0.25平方キロほどの地域に2万人近くが暮らすバラタ難民キャンプには、入り組んだ狭い路地を挟んでコンクリート造りの粗末な建物が並ぶ。圧倒的な軍事力を持つイスラエル軍も、キャンプ内で身を潜めるパレスチナ武装勢力の銃撃にさらされる恐れが強い。このためイスラエル軍がとったのは、民家の壁を壊して侵入し、家々を伝いながら虱潰しに過激派の隠れ家や武器工房を摘発するという作戦だった。イスラエルはキャンプ内の住居を接収して拠点を設け、そこ足がかりとして民家への破壊・侵入を繰り返し、キャンプ全域を制圧した。

 イスラエル軍は約3日間の作戦でハマスが開発したロケット砲「カッサム2」の工場のほか、爆弾・武器の製造拠点及び貯蔵庫14ヵ所を押えた。イスラエルによると同時に侵攻したジェニン近郊の難民キャンプでの作戦と合わせ、約30人のパレスチナ人が死亡、イスラエル兵2人も死亡した。
 パラタ難民キャンプ制圧後、イスラエル軍は装甲兵員輸送車を連ねて、ジャーナリストをキャンプ内に設けた拠点まで案内した。キャンプの内部は、時々遠くで乾いた銃声が聞こえる以外、ひっそりと静まり返っていた。イスラエル軍に一方的に占領されたアパートの前には。十代近い装甲車がずらりと並ぶ。隣の民家では、それまで息をひそめていたパレスチナ人の家族が「敵」ではない外国人を含む記者団が来たと知って、玄関口に現れてそっと様子を窺っていた。外出禁止令のためか、町は完全なゴーストタウンと化していた。

 ナブルス市街とバラタ難民キャンプを見下ろすイスラエル軍陣地で、作戦を指揮した空挺部隊司令官アビブ・コハビ大佐は「バラタという名の虎は(おとなしい)猫になった」と作戦の成功を強調、「イスラエル軍は、あらゆるテロの源を叩くだろう」とパレスチナ側に警告した。
 しかし、多数の死者に加え200人以上の負傷者が出たとするパレスチナ側は、シャロン首相が20年前に責任を問われたレバノンでの難民キャンプ虐殺事件になぞらえて「新たな虐殺事件だ」と強く非難した。突然、家の壁を壊され。住居侵入を受けた住民らの間では、強い反発が広がった。しかし、これは次の大きな作戦の前触れにすぎなかった。

 守りの壁作戦
 イスラエル中部ネタニアのホテルで30人が死亡するテロが起きたのを受け、シャロン首相は1982年のレバノン侵攻以来の大規模作戦を敢行する。2002年3月29日未明にかけ、戦車など装甲車輛約百両が、パレスチナ自治政府議長府あるヨルダン川西岸のラマラに向けて突然進軍を始めた。
 アラファト議長は、この前年の12月から、イスラエル軍によってラマラからの移動を禁じられていた。世界各地を飛び回ってパレスチナ側の主張をPRして回るアラファトの動きを封じると同時に、テロや銃撃を抑え込むよう圧力をかけるのが狙いだった。
 アラファトはラマラとガザの二カ所に議長府を持つ。ガザには議長府と私邸を構える。ラマラにある議長府は、元々刑務所として使うために英国委任統治下の1930年代に建てられ、イギリス当局の事務所として使われてきた建物である。67年にイスラエルがヨルダン川西岸を占領した後は、イスラエルの軍政に反対するパレスチナ人を収容する刑務所としても利用されていた因縁の施設。しかし94年にチェニスからパレスチナ自治区戻ったアラファトは、もっぱらガザで執務する一方官邸と公邸を兼ねるラマラの議長府も「別宅」として利用してきた。アラファトがこの二ヶ月前に記者のインタビューに応じたのも、このラマラの議長府執務室だった。
 議長府に到着したイスラエル部隊は、議長護衛隊「フォース17」メンバーらの銃撃を受けながら、戦車による砲撃を加えて敷地内に入り込み、装甲仕様の軍用ブルドーザーで外壁を破壊した。最終的にアラファトを側近らと共に議長府本館にある執務室などの数室に閉じ込めてしまった。
 作戦に先立って半ば徹夜で開いたイスラエル閣議は、「アラファトはイスラエルに対するテロ連合を築いた敵だ」と決議した。イスラエルが「ホマット・マゲン(守りの壁、または盾)作戦」と名付けた大作戦の始まりだった。
 アラファトは、「パレスチナ人は決して降伏しない。我々は殉教者になるだろう」と反発。指導力低下が顕著だったアラファトは、イスラエルの思惑とは逆に抵抗する指導者としてのイメージを高め、民衆の支持を回復した。30日にはアラファト幽閉に反発するパレスチナ勢力による自爆テロが、テルアビブのレストランで発生、32人が巻き込まれて負傷した。31日にハイファで起きた自爆テロでは15人が犠牲となり、40人以上が負傷した。 
 一方、イスラエル軍は議長府に続いて、ラマラ全域やカルキリア、ナブルス、ジェニン、ベツレヘムなど西岸主要都市のほとんどを次々に制圧。過去に例がない大規模な「テロ掃討作戦」に乗り出した。

 ジェニン虐殺疑惑
 西岸の各都市に侵攻したイスラエル軍は電気や水の供給を止めて完全に閉鎖した上、外出禁止令を出して、拡声器で「違反した者は撃つ」と警告した。さらにジェニンなどを「軍事閉鎖地区」に指定し、ジャーナリストや援助関係者を締め出した。
 過激派一掃作戦に乗り出したイスラエル軍は、活動家がいると思われる民家を事前警告しただけで、軍用ブルドーザーで潰すといった荒っぽい作戦を展開する。約1万4千人が住むジェニン難民キャンプではパレスチナ人が抵抗したため激しい戦闘が起き、双方に多くの死者を出した。パレスチナ人数百人が死亡したと伝えられ、イスラエル軍が虐殺者したのではないかとの疑惑も持ち上がった。結局、ジェニンでの虐殺疑惑はおおむね否定されたものの、作戦はパレスチナ人のイスラエルに対する憎悪を一層かき立てる結果になった。
 常々イスラエル寄りと批判される米国だが、ジェニンの現場を訪れたバーンズ国務次官補は、瓦礫の山と化した街を目の当たりにして、「ここで起きたことが数千のパレスチナ市民に多大な苦痛を与えたことは明らかだ」と、思わず本音を漏らした。
 
 7日間に及んだジェニン難民キャンプでの戦闘では、イスラエル軍にも大きな犠牲が出た。兵士23人が死亡、うち15人は予備役兵だった。男性で三年、女性で約二年の兵役があり、必要に応じて招集をかける国民皆兵制のイスラエルでは、予備役兵とはつまり、一般市民であることを意味する。この「守りの壁作戦」のために2万人の予備役が追加招集され、その多くが最前線に投入された。
 ベツレヘムでは、イエス・キリストが生まれたとされる場所に立つ「聖誕教会」に武装パレスチナ人ら200人以上が立てこもり、欧州への国外追放で決着するまで、イスラエル軍との間で約40日間に及ぶ睨み合いが続いた。戦闘で死亡したパレスチナ人の遺体が搬出されずに放置されて悪臭を放つなど、教会内部は悲惨な状態となり、イスラエルは再び国際的な批判を浴びた。
 約一か月間の「守りの壁作戦」で、イスラエルは武装パレスチナ人約240人を殺害し、テロに関与した疑いがあるなどとして、パレスチナ人約1800人を逮捕した。最初の10日間だけで、自動小銃約2000挺、ベビー・マシンガン26挺、ロケット弾49発と発射装置五基などを押収した。

 イスラエル軍幹部はもう逮捕するテロリストはいないと豪語しイスラム原理主義組織ハマスやイスラム聖戦といった過激派に大きな打撃を与えたと作戦の成果を強調した。治安筋は作戦で活動家の80%が殺害されるか逮捕された地域もあったと指定していた。しかし、これだけ大きな作戦を展開しながら、実際にはテロを抑える効果は限定的なものに留まった。
 5月7日、早くもテルアビブ郊外のリションレツィオンで自爆テロが起き、15人が巻き込まれて死亡する事件が発生する。それ月の19日には中部のネタニアでイスラエル人3人が死亡する自爆テロが、27日にはテルアビブ郊外のペタハティクバで、幼児を含むイスラエル人2人が死亡する自爆テロが起きた。その後も自爆テロは続き、「守りの壁作戦」は、むしろパレスチナ側の反発を煽る結果に終わった。
 一方イスラエル軍によって監禁状態に置かれたアラファトは、米国の仲介で5月2日までに解放された。側近らとともに一ヶ月以上の監禁生活に耐えたアラファトは、「インティファーダの象徴」として低下した影響力を一時的に回復した。作戦は成功だったとのイスラエルの主張とは裏腹に、「守りの壁作戦」は実際収拾にはほとんど貢献しなかった。
 圧倒的な力を誇示するイスラエルのやり方は、アラブ諸国による軍事的侵略を防ぐ事には貢献したかもしれないが。パレスチナ人に対するイスラエルの過剰な報復は「憎しみの連鎖」に一段と拍車をかけ、結果的により、多くのイスラエル人が命を落としているだけだった。

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アルカイダとハマスとイスラエルとアメリカ

2023年12月20日 | 国際・政治

 下記は、「ジハード主義 アルカイダからイスラム国へ」保坂修司(岩波現代全書)から「第3章 アルカイダの登場」の<4 「人間の盾論」>を抜萃しました。
 下記を読むと、ジハード主義を実践する活動家は、ムスリムの一部過激な人たちで、ムスリムがみな同じ考えなのではないことがわかります。
 また、1994年2月、サウジアラビア各紙が、ビンラーデン・グループの総帥でオサーマの兄であるバクルビンラーデン一族が、オサーマの行動を非難し、一族から追放することを決定したとの報道をしたということも、すでに取り上げました。
 それは、強硬な主張をするイスラエルの政党リクードの政治家が、イスラエルのユダヤ人のなかの一部過激な人たちであることと同じであることを示していると思います。
 戦争は、過激な主張をする人たちが権力を手にするから起こるのだということです。

 日本を含む西側諸国では、ムスリムは、次々にテロリストを世に送り出す恐ろしい集団であるかのようにとらえられているように思います。私たち日本人のムスリムやアラブ人に対する理解が不足しているからではないかと思います。
 今まで、人類の文化・文明を牽引してきたのは、欧米だったために、日本を含む西側諸国では、欧米の思想で世界を理解し、問題に対処してきたといえるように思います。だから、ムスリムに関する情報は極めて少ない上に、アメリカが、武力で問題を処理する傾向が強く、敵視する集団や国家の情報を遮断してしまうため、一般市民は、戦争当事国の実態およびハマスやアルカイダの指導者の立場や考えが充分理解できていないように思います。

 さらに言えば、イスラーム教の経典である『コーラン』(アル=クルアーン)の基本的な理解や、ムスリムの思想家の考え方などの理解も不足しているため、話し合いによる問題解決の見通しが立てられない面もあるのだろうと思います。
 でも、世界では、4人に1人がムスリムであるといわれています。イスラーム教の国や組織と共存する道を歩まなければ、国際社会の平和の実現は難しいと思います。イスラエルやアメリカのように、いつまでもムスリム排除ハマス殲滅を掲げていては、人類は破滅に向かうしかないと思います。

 イスラエル軍のガザ爆撃を見ていると 戦争中の非戦闘員に対する姿勢が、アルカイダと同じだと思います。イラク戦争でのアメリカ軍の非戦闘員に対する姿勢もアルカイダと同じだったと思います。
 同書には、アルカイダは、
米国人はユダヤ人と同様、戦争の民であり、彼らがパレスチナでしていることを、われわれが彼らにすることは許される。つまり、彼らがパレスチナの地を占領し、ムスリムを殺しているのであるから、われわれが彼らを攻撃し、殺害するのは当然のことというのである。
 と書かれています。
 また、アルカイダは、
第一に、不信仰者がムスリムの女性・子ども・老人を標的にするなら、それに応じて、不信仰者がやったのと同様なかたちで女性や子どもを殺害することは許される。
 などと、イスラエルやアメリカによる非戦闘員の殺害を受けて、アルカイダにも非戦闘員の殺害が許容される条件をいくつかあげています。
 でも、キリスト教にもユダヤ教にも、イスラーム教にも、そんな報復のための人殺しを正当化する教えはないと思います。
 だから、日常的に理解を深め合う努力をし、一部の過激な政治家や活動家や軍人の暴走にブレーキをかけることができれば、共存できると思います。一部の過激な人たちに引きずられて、お互いに挑発し合い、戦争に至ることがないようにすべきだということです。


 以前にも取り上げましたが、ハマスは、インティファーダが始まった1987年12月、ムスリム同胞団の闘争組織として設立されました。そして、その最初の声明の中で、自ら下記のように説明しています。
一、ハマスはムスリム同胞団の闘争部隊である。
二、シオニストの敵に対して、暴力にはいっそうの暴力で対抗することを示威する。
三、イスラムこそがパレスチナ問題の実際的な解決策である。
四、空虚な平和的解決や国際会議を追い求めて、エネルギーと時間を無駄にすることを拒絶する。
五、敵との闘争は、パレスチナ人民の目標達成までの、信仰・存在・声明(生命?)の闘争である。
六、当面のいくつかの目標──被拘置者の釈放、彼らに対する虐殺の停止、入植の拒絶、国外追放または移動禁止の政策の拒絶 占領と市民に対する暴虐の拒絶、悪徳と堕落を(イスラエルが)広めることを拒絶。不当な重税の拒絶」(小杉泰「現在パレスチナにおけるイスラム運動」『現代の中東』NO17、アジア経済研究所)

 また、翌年1988年8月に出された「ハマス憲章」には、ハマスの目標を「虚偽を失墜させ、真理を優越せしめ、郷土を回復し、モスクの上からイスラム国家の樹立を宣言する呼びかけをなさしめ、人びとと物事のすべてを正しい位置に戻すこと」(九条)とし、さらに「パレスチナの地の一部でも放棄することは、宗教の放棄の一部である。またハマスの愛国主義はその信仰の一部をなす」(13条)として、ハマスが現在のイスラエルを含むパレスチナ全土の解放をめざすことを明言している(前掲)のです。
 
 ハマスは過激だと思いますが、無目的に人殺しをする単なるテロ集団ではないことがわかります。だから、話し合いは十分可能だと思います。イスラエルによるガザ爆撃ハマス殲滅の方針は明らか間違いであり、一部の過激な政治家や軍人の暴走の結果だと思うのです。
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                   第3章 アルカイダの登場

 4 「人間の盾論」
 アルカイダのようなジハード主義組織、そしてジハード主義そのものにとっても、自分たちの大義のためとはいえ、無関係の、無辜の人びとを巻き添えで殺すというのは、重大な意味をもつ。イスラームのためといいながら、場合によってはムスリムを無差別に殺すことになるので、組織としてのイメージを悪化させるだけでなく、イデオロギーそのものに対する信頼性も失わせてしまう。(イスラームそのもののイメージを大きく毀損するのはいうまでもない)。
 そもそもの大前提として、イスラームでは、あるいはどんな宗教でもそうであろうが、無実の人間を殺すことは許されない。クルアーン第17章33節には「正当な理由なくして人を殺してはならぬ」とあり、また第五章32節には「人を殺したとか、あるいは地上で何か悪事をなしたとかいう理由もないのに他人を殺害する者は全人類を一度に殺したのと同等に見なされ、反対に誰か他人の生命を一つでも救った者は、あたかも全人類を一度に救ったのと同等に見なされる」とある。また、予言者ムハンマドの言行録であるハディースには「神の使徒(預言者、ムハンマドのこと)の行ったある遠征で一人の女が殺されて見つかったとき、彼は女や子供たちを殺すことを禁じた」(ブハーリーのハディース集)とある。これらにもとづき、イスラームの主流派では、イスラームがたとえ異教徒であれ、無実の人間を殺すことは許されず、戦場にあっても、非戦闘員の女性や子供を殺すことが禁じられると解釈されている。
  9・11事件に関していうと、アルカイダは2002年4月に事件を、そして大量殺人を正当化する文章を公開している。それによると、まず、米国人はユダヤ人と同様、戦争の民であり、彼らがパレスチナでしていることを、われわれが彼らにすることは許される。つまり、彼らがパレスチナの地を占領し、ムスリムを殺しているのであるから、われわれが彼らを攻撃し、殺害するのは当然のことというのである。9・11事件で多くの無関係の女性や子たちが殺されたと非難されているが、この禁忌は絶対的なものではなく、特定の条件では許される。
 第一に、不信仰者がムスリムの女性・子ども・老人を標的にするなら、それに応じて、不信仰者がやったのと同様なかたちで女性や子どもを殺害することは許される。これは、「目には目を歯には歯を」式の、いわゆる同害報復のロジックである。第二に、戦闘員と保護されるべき女性や子どもを区別できない場合、彼ら、彼女たちの殺害は許される。第三に、不信仰者のなかにいる保護されるべきものたちが行為や言葉や心で戦闘を支援した場合、彼らは殺すことは許される。四番目は、敵を弱体化させるため、敵の拠点を焼き払うときに、犠牲者のなかに保護されるべきものがいたとしても許される。さらに、敵がいわゆる「人間の盾」として女性や子どもを使った場合も、盾となった彼らを殺害されることは許される。なお、これらの原理原則は、敵方にいるムスリムにもあてはめることができる。したがって、9・11事件で世界貿易センタービル内にいたムスリムが死んだとしても、それはやむをえないことなのである。
 こうしたロジックには、たとえば、米国に税金を払っているものは誰であれ(米国人ではなくとも)、その税金がイスラエル支援に用いられ、結果的にパレスチナ人を殺すことになるので、殺されるのはやむをえないといったものも含まれる。これらは、外部からみれば単なるこじつけにすぎないのだが、問題はこの程度の杜撰なロジックでも納得してしまう層がいる(さらに問題なのは、こうしたロジックすら、必要とせず、テロに走る絶望的な層さえも存在する)ことだ。アルカイダの二つのファトワーは、中東歴史学の泰斗、バーナード・ルイスが的確に指摘したように、一部のムスリムたちにとっての「殺しのライセンス」となってしまったのである。
 さて、これらのロジックの中で9・11事件後、とりわけ大きな意味をもつようになるのが「人間の盾」論だ。この議論については、アルカイダのイデオローグたちがさまざまなかたちで言及しているが、とりわけアブヤフヤー・リービーの書いた『現在ジハードにおけるタタッルス』が重要である。
 この「タタッルス」が「人間の盾」に相当する。現在の軍事用語でいう「巻き添え被害(コラテラルダメージ)」を指すが、本来の古典的なイスラーム法学では、なるべく被害を最小化すべく、攻撃する側にさまざまな制限がつけられている。しかし、彼はこの書の中で、さまざまなスンナ派イスラーム学者たちの議論を現代の戦闘には適用できないと批判し、事実上、攻撃側に付された制限をすべて撤廃してしまう。それゆえ、彼の議論では、ジハードを戦うもの(ムジャーヒド)は、攻撃対象が、異教徒であろうがムスリムであろうが、ジハードの名目であれば、殺すことが許されることになる。人間の命ですらこうなのだから、当然、ムスリムの所有する建物、文化財、富も攻撃対象となり、これは必然的に大量破壊兵器の使用を容認する議論にもつながっていくだろう。
 これでは、アルカイダによって殺害されたムスリムたちは死に損であるが、リービーによれば、ジハードの巻き添えで殺されたものは、戦死したムジャーヒドと同じであり、したがって殉教者となって、天国にいけるのだという。

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アルカイダの「対米ジハード宣言」とイスラエル

2023年12月16日 | 国際・政治

 下記は、「ジハード主義 アルカイダからイスラム国へ」保坂修司(岩波現代全書)から、「第3章 アルカイダの登場」の「3 米国人皆殺し宣言」を抜萃しましたが、前回のオサーマ・ビンラーデンの「対米ジハード宣言」に対し、今回の「対米ジハード宣言」は、保坂氏によれば、アルカイダという組織の宣言といえるものだということです。
 
でも、9・11に関する報道で、私は、こうした「対米ジハード宣言 」を知ることはありませんでした。
 「対米ジハード宣言」
に書かれている内容を世界中の人が知れば、いかにしてテロのない世界をつくることができるかを考えるきっかけがつかめると思うのですが、それは、アメリカの世界戦略が通用しなくなるということにつながるので、報道されることがなかったのだろう、と私は思います。戦う相手の指導者は、殺害に値する「極悪人」でなければならず、自ら立場の正当性を、論理的に語るような人物であってはならないのだと思います。

 
ロシアのいわゆる「特別軍事作戦」開始前のプーチン大統領の演説をはじめ、ウクライナ戦争にかかわるロシア側の主張が西側諸国ではほとんど報道されなかったのも、同じ理由によるのだろうと思います。
 今回のイスラエル・パレスチナ戦争でも、話し合いのきっかけになるようなハマスの考えや実態はほとんど報道されることがありません。だから西側諸国では、ハマスは人殺しを何とも思わない、得体のしれない武装組織で、話し合いの対象にはならないと思われているのではないかと思います。
 でも、実際は、アメリカが話し合って民主的に問題を解決する気がないということだと思います。アメリカは仲間の国や組織を支援し、敵対する国や組織を潰すという世界戦略でずっとやってきているのです。だから、今回も、圧倒的な軍事力と経済力を背景に、武力で自らに都合良く決着させようとしているのだと思います。

 今年は
、「水晶の夜(クリスタル・ナハト)」として知られれる兇悪な「反ユダヤ主義暴動」 から85年ということで、ドイツ各地で追悼式典が開かれたということです。
 イスラエルとハマスの戦争により、ドイツでは反ユダヤ主義の増加が懸念されており、ベルリンのシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)での式典に参加した
ショルツ首相「あらゆる形の反ユダヤ主義と戦う」と述べ、「ユダヤ人は何世紀にもわたって疎外されてきた。(ホロコーストで)文明が侵害された後、(戦後の)民主的なドイツにおいてでさえ繰り返されてきている」と指摘して、取り締まりを強めていく姿勢を示したといいます。さらに、ショルツ首相はハマスがイスラエルを攻撃して以降、国内での反ユダヤ主義の動きに「憤慨し、深く恥じている」と述べたとも伝えられています。
 確かに、ナチス・ドイツのホロコーストに至ったユダヤ人差別には、さまざまな虚偽によって、ユダヤ人の存在そのものが、一般市民には危険であるかのように装う悪質な偏見がつきまとっていたのだろうと思います。そして、現在の
「反ユダヤ主義」の考え方にも、その影響は受け継がれているのではないかと思います

 しかし、イスラエル軍の戦争犯罪がくり返されている今、それを強調することは、戦争犯罪に手を貸すことになると思います。確かに、ホロコーストに至ったユダヤ人差別は悪質だったのだろうと思いますが、だからといって、ユダヤ人のイスラエル建国以降のパレスチナにおける所業が許されるものではないと思います。それは、法や道義・道徳の問題であり、反ユダヤ主義の問題ではないと思います。

 イスラエルの
ネタニヤフ首相は、13日、国際社会の停戦を求める声に対し、「国際的な圧力に直面しても、我々を止めるものはない」と述べ、ガザでの子どもを含む民間人の犠牲者が1万8千人を超えてもなお、「ハマス殲滅」の目標は揺るがないとの姿勢をあらためて鮮明にしたといいます。
 ホロコーストに苦しんだユダヤ人だから、それが許されるということはないと思います。


 
イスラエル軍のガザ攻撃をめぐっては、国連総会で、即時の人道的停戦を求める決議が153カ国の賛成で採択されたことが伝えられました。そういう流れがあるからでしょうが、イスラエルを支持してきたアメリカのバイデン大統領も、「無差別の爆撃によって世界からの支持を失い始めている」と、形ばかりの警告を発せざるを得なかったようです。アメリカは、イスラエルのハマス殲滅作戦を支持する姿勢や、アラブの国々の弱体化の戦略を変えたわけではないと思います。本気で止める気がないことは、イスラエル支援を続けていることや、制裁の話や戦争犯罪を犯しているイスラエルの関係者に対する逮捕状の話もまったく出てこないことでわかります。

 
先日、アラブの報道機関が、下記のように伝えていました。 
”Deadly Israeli air strikes target UN school, homes in southern Gaza”
 
ガザの南部では、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の学校住宅さえイスラエル軍の攻撃対象となって、破壊されているというのです。否定しようのない戦争犯罪です。

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                       第3章 アルカイダの登場

   3 米国人皆殺し宣言
 その後、オサーマの対米ジハードのロジックはさらにエスカレートする。それまでサウジアラビア駐留米軍が標的だったのが、サウジアラビアにいる米国人は軍人のみならず、民間人も標的になると主張しはじめ、究極的には1998年2月、世界中どこであれ、米国人であれば。皆殺しであるとの裁定を公開した。前の対米ジハード宣言がオサーマの名義で書かれたのに対し、この文書は「対ユダヤ人・十字軍ジハードのための世界戦線」の名義で出されており、オサーマのみならず、ジハード団のザワーヒリーら複数の武装組織のリーダーが署名している点も指摘をしておかなければならない。アルカイダのテロの論理は、ここに完成形をみたと言ってもいいだろう。以下はその抄訳である。

 さて、アッラーがアラビア半島を平らにし、そこに砂漠を造り、海で囲んで以来、これまで(この地が)この十字軍のような厄災に見舞われることはなかった。(この十字軍は)蝗(イナゴ)のようにこの地に広がり、その富を収奪し、その作物を破壊している。これらはみな、食事の一片をめぐって争うように、諸民族が、ムスリムたちを攻撃しているとき(に起こっていること)だ。悲劇が。深刻化し、支援者が減っていくなか、われわれは、現在起きていることの実態について知らなければならず、また、問題解決の方途について合意しなければならない。まず、議論の余地のない三つの点について記しておく。

(一)年以上にわたって米国がイスラームの地を占領している。そのなかで最も聖なるものはアラビア半島である。(米国は)その富を略奪し、その為政者に指図し、その人びとを辱め、その隣人たちを恐怖させ、その(アラビア)半島における、その基地を周辺のイスラームの民と戦う尖兵へと変えていることである。米国は、半島を足場にイラク国民に対し継続的な攻撃を加えている。たとえ、すべての為政者たちがその目的で領土が利用されることに反対したとしても、彼らは無力であり、(米国の占領について)これ以上の明白な証拠はない。

 (二)十字軍・シオニスト連合によってイラク国民に甚大な被害がおよび、百万を越える膨大な数(のイラク国民)が殺されている。それにもかかわらず、米国はふたたびこの恐ろしい虐殺を行おうとしている。あたかも彼ら(イラク国民)が悲惨な戦争後の長期にわたる(国連経済)制裁や離散、破壊にまだまだ満足してないかのようである。まこと彼らは今日、この民に残されたものを破壊し、そのムスリムの隣人たちを辱めようとしている。

 (三)これらの戦いの背後にある米国の目的が宗教的、経済的(なもの)であるならば、同様に(その目的は)ユダヤ人の小国に資することにあり、(イスラエルによる)エルサレムの占領およびかの地のムスリムの殺害から注意をそらすことでもある。

 このもっとも明確な証拠は、彼らが最強のアラブの隣国であるイラクを必死になって破壊し、イラク、サウジアラビア。エジプト、スーダンのような域内諸国を張子の小国に分断しようとしていることである。彼ら(アラブ諸国)の分裂、および弱体化によってイスラエルの生存と野蛮な十字軍の半島占領の継続が保証されるのだ。
 これらの犯罪や悲劇は、すべて米国人によるものであり、アッラー、その使徒、そしてムスリムたちに対する明白な宣戦布告である。そしてイスラーム法学者たちはイスラームのあらゆる時代を通じて、敵がムスリムの国を破壊したならば、ジハードが個人的義務となる点で完全に一致している。われわれは、これにもとづき、またアッラーの命に従い、以下の裁定を全ムスリムに対し下す。
 米国人および彼らの同盟者を、民間人であれ軍人であれ、殺害するという裁定は、それが可能な、あらゆる国のムスリム全員の個人的義務である。そのことは、アクサー・モスクとハラーム・モスクを彼らの掌中から解放し、その軍が尾羽うち枯らしてすべてのイスラームの地から駆逐され、いかなるムスリムにとっても脅威にならないようにするまで(継続する)。

全体のロジックはきわめてシンプルであり、1996年のジハード宣言から首尾一貫している。異教徒の米国、すなわち十字軍がイスラームの聖地であるサウジアラビアを軍事占領している。米国を攻撃して、彼らを聖地だけでなく、イスラームの地全体から駆逐することはすべてのムスリムに課された個人的義務である、ということだ。
 対米ジハード宣言そして、1998年の米国人皆殺し宣言と米国人を標的とするロジックはエスカレートし、実際現実世界においてもそれはテロというかたちで反映されることとなった。とくに皆殺し宣言発出から約半年後の1998年に8月、ケニアの首都ナイロビとタンザニアの首都ダルエスサラームにある米国大使館がほぼ同時に攻撃を受けた。両事件を合わせると死者は200人、負傷者は4000人を超えた。文字どおり、世界中どこでああれ、(ケニアとタンザニア)、米国人は皆殺しというアルカイダの最も根本的な理念を実現した事件であった。だが、しかし、実際には死傷者の大半は米国人ではなく、ケニア人であり、タンザニア人であった。

 アルカイダは何か大きな事件を起こす場合、基本的にはファトワーというかたちで宗教的なお墨つきを事前に獲得している場合が多い。1992年のアデンでのテロがそうだったし、アルカイダにとって、オサーマの1996年のジハード宣言、1998年の米国人皆殺し宣言はいずれも攻撃を宗教的(正しくはアルカイダ的)に正当化するファトワーとみなされていたのである。ただ、忘れてならないのは、これらの「ファトワー」では米国人を殺すことは正当化されても、無関係の人たちが巻き添えになって、殺されることまで正当化されていないということだ。9.11事件においても、24人の日本人を含め、多数の非米国人、さらにはムスリムさえも殺されていたのである。かれらはこれをどのように正当化できるのだろうか。

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ハマスとオサーマ・ビンラーデンの「対米ジハード宣言」

2023年12月12日 | 国際・政治

エレクトロニック・インティファーダ(THE ELECTRONIC INTIFADA)]というサイトに、今日、下記のようにありました。

BIDEN'S WHITE SUPREMACY GIVES ISRAEL CARTE BLANCHE TO COMMIT GENOCIDE
Current US Middle East policy, like Donald Trump’s, is a denial of the very existence of the Palestinian people.

 白人至上主義のバイデン政権は、イスラエルにジェノサイドを犯すことを白紙委任している。現在のアメリカの中東政策は、トランプのときと同じように、パレスチナ人の存在そのものの否定である。
 私は、これが、イスラエルの猛烈な攻撃を受ける、パレスチナ人の正直な気持ちだろうと思います。

 また、朝日新聞は(12月9日付夕刊)、国連安保理のガザ即時停戦決議案の採択について、アメリカが拒否権を行使したため、否決されたことを伝えました。グテーレス国連事務総長は、”8日午後、パレスチナ自治区ガザ地区での戦いが「占領下のヨルダン川西岸地区やレバノン、シリア、イラク、イエメン」といった周辺地域に波及していると言及し、ガザの状況が「国際平和と安全の維持を深刻に脅かす」”と述べ、停戦決議を求めたようですが、イスラエルを支持するアメリカが、また、拒否権を行使したということです(理事国15カ国のうち13カ国が賛同、英国が棄権)。
 今回の、この安保理停戦決議案は、単なる戦争の停止ではなく、子どもや女性を中心とする民間人が、イスラエルの攻撃で毎日多数亡なっていること、また、あらゆる人道支援システムが機能しなくなって、現実的にシステムが崩壊状態であること、さらに、戦いが周辺地域に広がっていることなどを踏まえた、人道目的の停戦決議案です。
 でも、イスラエルやアメリカは、それを受けつけないということです。パレスチナの民間人の人命や人権より、「ハマス殲滅」が優先されており、弁解の余地のない戦争犯罪だと思います。
 だから、上記の「エレクトロニック・インティファーダ(THE ELECTRONIC INTIFADA)」の指摘は、でたらめなものでは決してないと思います。

 国連事務総長の主張は、”イスラム組織ハマスの擁護につながり、それこそが世界平和への脅威だ”と、イスラエルは反発し、アメリカは「ただ単に今日だけ戦争を止めるのではなく、戦争を永続的に終わらせることを目標にすべき」だとして、国連安全保障理事会に提出された即時停戦を求める決議案に拒否権を行使したということですが、ガザのパレスチナ民間人の悲惨な現状を無視し、ハマス殲滅を最優先する、人命軽視、人権無視の主張だと思います。また、「戦争を永続的に終わらせる」ために戦争するなどとというのは、相手を叩き潰すことで戦争を終わらせようということで、国際法や道義・道徳を尊重して戦争を終わらせる気がないことを表明しているようなものだと思います。

 ふり返れば、ヨーロッパキリスト教社会で、ユダヤ人の迫害が続き、ロシアにおけるポグロムやナチス・ドイツのホロコーストなどもあって、19世紀末にユダヤ人のパレスチナ移住が盛んになりました。でも、そこはパレスチナ人が何世代にもわたって生活してきたパレスチナの地でした。
 だから、移住してきたユダヤ人が、70万人にものぼるというパレスチナ人(パレスチナに住むアラブ系住民)を居住地から追い出したことが、パレスチナ問題の始まりであったことが無視されてはならないと思います。
 また、エルサレムは、ユダヤ教のみならず、イスラム教やキリスト教の聖地でもあると思います。東エルサレムは国際法上は、パレスチナにあるのであって、イスラエルによる実効支配に問題があるのです。イスラエルは1967年の第3次中東戦争で、それまでヨルダンが統治していた東エルサレムを占領し、エルサレム全体を自国の首都だと主張しているのですが、国連はそれを認めてはいないのです。それは、世界各国の大使館がテルアビブ にあることでもわかると思います。
 でも、イスラエルはそれを無視して、エルサレムを首都と宣言し、トランプ米大統領もエルサレムをイスラエルの首都として一方的に承認したのです。
 パレスチナが東エルサレムを自らの首都と宣言していることを無視することは許されないと思います。

 現在のイスラエル・パレスチナ戦争は、ユダヤ人が、パレスチナ人の住む「パレスチナの地」に移住して、そこを「イスラエルの地」に変え、パレスチナ人を追い出しにかかっている戦争であることは、法や道義・道徳を無視した強引な「ハマス殲滅作戦」で明らかだろうと思います。
 だからエジプトが、イスラエルはパレスチナ人をエジプトに追い出そうとしているとの警告を発したのだと思います。

 先日イスラエルは、「ハマスの性暴力」を世界に訴えたようですが、毎日、子どもを中心とする民間人の犠牲者を増やし、国際社会のガザ支援システムを崩壊させるようなイスラエルの一方的爆撃に対する非難の声が高まってきた今になって、「ハマスの性暴力」を持ち出すことは、不自然だと思います。自らの「ハマスの殲滅作戦」を正当化するためのプロパガンダだろう、と私は思います。
 ハマスも「プロパガンダだ」と主張しており、客観的な証拠に基づく第三者の証言が示されなければ、信じることはできません。朝日新聞も、「ハマスの性暴力」をめぐる被害の全容があきらかになっていないこと、生存する当事者の証言がほとんどないことを伝えています。また、BBCによると、イスラエル当局は「現場からの法医学的証拠が足りない」と認めているといいます。
 戦争のたびにくり返されてきたアメリカお得意のプロパガンダと同じイスラエルのプロパガンダだ、と私は思うのです。

 オサーマ・ビンラーデンの「対米ジハード宣言」を読むと、こうしたイスラエルやアメリカの、パレスチナ人をはじめとするアラブ人に対する差別的・非人間的対応が、ハマスやアルカイダの「ジハード主義」を生んだことがわかるのではないかと思います。
 特に、イスラームの聖地、マッカとマディーナのあるサウジアラビアに、異教徒であるアメリカの軍隊が駐留したことが、オサーマ・ビンラーデンを過激にし、9・11につながったということは、踏まえておくべきことだと思います。
 下記は、「ジハード主義 アルカイダからイスラム国へ」保坂修司(岩波現代全書)から、「2 オサーマの対米ジハード宣言」を抜萃しました。
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                     第3章 アルカイダの登場

 2 オサーマの対米ジハード宣言
 オサマ・ビンラーデンはアフガニスタンを離れてから、南イエメン解放のためのジハードに従事していたが、南イエメンにあった社会主義政権は事実上自壊し、1990年に北イエメンと統合した。したって、南イエメンを無神論から解放する戦いは不発に終わる。しかし、オサーマらがスーダンを拠点にジハードを継続していたのは前述のとおりである。このころ、彼らはスーダンでさまざまなプロジェクトを受注し、かつての戦士たちをビジネスに活用していたとされる。
 しかし、1994年2月、サウジアラビア各紙はビンラーデン・グループの総帥でオサーマの兄であるバクルの「バクル会長及びビンラーデン一族は会長の弟オサーマのこれまでの行動を遺憾として非難するとともに同入を許すべからざる人物として一族から追放することを決定した」というメッセージを掲載した。
 当時の報道によれば、オサーマはスーダンに滞在しながら、アラブ・アルガンたちを指揮し、スーダンやそれぞれの母国でジハード活動に従事させていたという。1992年12月にはイエメンのアデンでホテル爆破事件が発生した。この事件で犠牲になったのはオーストラリア人だったが、実際にはソマリア救援のための「希望回復作戦」に参加するべく、アデンに滞在していた米兵が標的だったといわれている。これは、オサーマ、あるいはアルカイダが関与した対米テロとしてもっとも古い事件である。こうした活動のため、オサーマらはスーダンにもいられなくなり、1996年にはスーダンから、ふたたびアフガニスタンへ移動している。そしてそのアフガニスタンに移った直後に有名な「聖地を占領する米軍に対するジハード宣言を出したのである。
 既述のとおり、対ソ連ジハードに従事していたオサーマ・ビンラーデンらアルカイダのメンバーにとって、米軍のサウジアラビア駐留は絶好の機会となった。多くのサウジ人にとって、米軍の サウジ駐留は、米国の軍隊がサウジアラビアにやってきたという、単なる事実以上の意味をもっている。米軍は、彼らからみれば、異教徒のキリスト教徒であり、それに対しサウジアラビアはイスラームの地である。重要なのは、サウジアラビアにはマッカとマディーナというイスラームの二大聖地があるということだ。オサーマらのロジックでは、イスラームの聖地はマッカとラディーナに限定されるということはない。マッカ、ラディーナの聖性は、サウジアラビア全土、アラビア半島全域にまで拡大するのである。サウジアラビア国王は二聖モスクの守護者という称号を有しているが、これは、国王がマッカのハラーム・モスクとマディーナの預言者モスクの守護者であることを示している。したがって、米軍のサウジ駐留は、異教徒たるキリスト教徒の軍隊によるイスラームの聖地占領という構図に変換されてしまう。
 ジハード
「ジハード宣言」冒頭でオサーマは、彼なりのイスラーム世界の現状認識を示す。彼によれば、現在のイスラーム世界は「シオニスト・十字軍連合」からの攻撃迫害を受け、塗炭の苦しみを味わっている。なかでも最悪の攻撃は米軍による二聖モスクの地(マッカとマディーナ)の占領である。オサーマは、これが預言者ムハンマド没後、ムスリムが蒙った最大の攻撃であると断言する。彼によれば、これこそが、今日のイスラーム世界を覆う暗闇の原因であり、全てのムスリムはこの諸悪の根源を除去するために立ち上がらねばならないのだ。したがって、聖地を占領する米軍は十字軍にほかならず、彼らに対する攻撃は、ムスリムにとっては、ジハードに他ならないのである。この辺りの論理展開にオサーマはイブン・タイミーヤを利用しているが、米軍=十字軍、サウジアラビア=聖地の脳内変換が、先に紹介した。サファル・ハワーリーの議論の影響を受けているのは明らかだろう。
 また、オサーマやのちのジハード主義者たちが好んで引用する「アラビア半島から異教徒を一掃せよ」という預言者ムハンマドの「遺言」も大きな影響を与えている。これはムハンマドが死の床で述べたとされる言葉であるが、実際にはこれをもって、異教徒をアラビア半島から駆逐することはできないという説も強い。というのも、預言者がここで言及した「アラビア半島」とは、現在の地理的な概念としてのアラビア半島とは異なり、実際にはマッカ、マディーナ、ヤマーマ、そしてイエメンを指していたという意見が一般的だからだ。当時、米軍が駐留していたのは、サウジアラビア東部州が中心であり、古典的地理概念としてのアラビア半島から外れているため、彼らは預言者の遺言の対象外だとの見方も強い。といっても、この説は、必ずしも広く受け入れられているわけではなく、宗教エスタブリッシュメントを含め、多くがアラビア半島を現在の地理的概念と同じ枠で考えており、したがって、アラビア半島に異教徒、特に異郷徒の軍隊が駐留すること自体、容認できないということになる。
 もちろん、この宣戦布告で中心的なテーマになっているのはアラビア半島である。しかし、アラビア半島以外の地名も言及されている点は忘れてはならない。たとえば、文書で名指しされているのは、パレスチナ、レバノン、タジキスタン、ビルマ(ミャンマー)、カシミール、アッサム、フィリピン、バッターニー、オガデン、ソマリア、エリトリア、チェチェン、ボスニア・ヘルツェゴビナなどである。
 いわずもがなだが、パレスチナはイスラエルによって占領されており。レバノンもイスラエルから攻撃を受けている。ミャンマーは仏教国として有名だが、ロヒンギャ族というムスリム住民が多数住んでおり、仏教徒中心の政府から激しく弾圧されている。フィリピンはキリスト教徒が多数派だが、
ミンダナオ島やスールー島になどに多くのムスリムが居住し、古くから独立運動を行っている。バッターニーはタイ南部の県で、人口の大半をムスリムが占め、タイらの独立を目指す運動がつづいている。オガデンとエリトリアは、キリスト教国エチオピアの中のムスリム人口が多い地域で、後者は1993年、独立を達成している。ムスリムのチェチェンはロシアからの独立を目指し、ボスニアでは旧ユーゴスラビアの解体後、ボスニア人(ムスリム)とセルビア人(キリスト教徒)の間の衝突が深刻化していた。アルカイダは、このように名前を挙げることによって、自分たちがそれぞれの地域でムスリムを支援し、異教徒との戦いにおける先導役であることを示そうとしていたのである。
 米軍のサウジ駐留は、当初こそ非常事態ということで、サウジ宗教エスタブリッシュメントたちの許可を取り付けることができた。けれども、湾岸戦争でイラクが敗北し、クウェートが解放され、経済制裁によってイラクが弱体化したにもかかわらず、米軍はその後もサウジアラビアに留まっていた。 サウジアラビアでは1995年に首都リアードの国家警備隊施設が爆破され、翌年には東部州ホバルでやはり爆弾テロ事件が発生した。後者は明らかにサウジ駐留米軍を標的にしたものであり、前者も米軍関係者が関与している施設といわれていた。両事件とも、アルカイダが関わっていた証拠はないが、前者の犯人は、オサーマやあとで紹介するアブームハンマド・マクディシーの影響を受けて受けたと自白している。いずれにせよ、1990年代。オサーマ率いるアルカイダが、ソ連に代わって、明確にサウジアラビア駐留米軍を攻撃対象の中心にすえたことに疑問の余地はない。

 

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二重基準の対外政策をくり返す欧米

2023年12月06日 | 国際・政治

 このところ、毎日、イスラエルの爆撃によるガザの悲惨な様子が、いろいろなメディアで伝えられています。

 大勢の子どもや女性を殺害するという戦争犯罪をくり返しているにもかかわらず、イスラエルに対する制裁やあらゆる組織からのユダヤ人の追放、関係者に対する逮捕状の話は皆無です。
 ウクライナ戦争における国際社会のロシアに対する対応とのあまりの違いに驚きます。即時停戦を求める声も、イスラエルの背後にイスラエルを支援するアメリカがあるからか、大きくなりません。

 それは、パレスチナ問題に対する欧米の関わりの矛盾、いわゆる”西欧の二重基準”の結果だろうと思います。
 イスラエルの建国以降、アラブやイスラム諸国で「西欧の二重基準(double standard)」という言葉が使われるようになったということを、以前に取り上げましたが、イギリスの「二枚舌外交」が、パレスチナ問題をつくりだしたと言えるからでした。

 ふり返れば、イギリスは1915年フサイン=マクマホン協定(Hussein-McMahon agreement)で、対トルコ戦の協力(アラブ反乱)を条件に、オスマン帝国の支配下にあったアラブ地域の独立を約束し、アラブ人のパレスチナでの居住を認めたのです。 
 にもかかわらず、イギリス政府は、1917年、イギリスのユダヤ系貴族院議員であるロスチャイルド男爵(ウォルター・ロスチャイルド)に対して送った書簡、いわゆる「バルフォア宣言」で、イスラエル建国支持を表明しているのです。
 だから、イギリスの「二枚舌外交」が、パレスチナ問題をつくりだしたといわれるのです(サイクス・ピコ協定も含めて三枚舌外交ともいわれます)。
 パレスチナ人やアラブ諸国にしてみれば、ヨーロッパのユダヤ人に対するホロコーストの罪の償いを、自分達がさせられているとんでもない尻拭いだというわけです。そして、それをイギリスの「二枚舌外交」から始まった”西欧の二重基準”だといって怒っているのですが、ウクライナ戦争におけるロシアに対する制裁や、あらゆる組織からのロシア人の追放などという対応と、今回のイスラエルのガザ爆撃による民間人殺害という戦争犯罪に対する対応も、明らかに”西欧の二重基準”といえるものだと思います。

 そして、イスラエル建国以来、今回と同じようなイスラエルによるパレスチナイン人の殺害行為が、過去何度もくり返されてきたことを見逃してはならないと思います。
 下記の「イスラームに何がおきているのか」小杉泰編(平凡社)からの抜萃文にあるように、イスラエル軍が圧倒的に優位な立場で、多くのパレスチナ人を殺害し、パレスチナのハマスがそれに武力で抵抗をする構造は、”世界の構造的不正は何も是正されていないからである”ということを示しているのだと思います。

 関連して、国際情勢の変化も気になります。
 今年8月、BRICS首脳会議で、南アフリカ共和国のラマポーザ大統領が、アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6カ国がBRICSに新規加盟することを発表したばかりでしたが、南米の大国、アルゼンチンの大統領選挙の決選投票の結果、米ドルを自国通貨として導入する「ドル化」の政策を主張する親米・極右のハビエル・ミレイ下院議員が、中道左派与党連合のセルヒオ・マサ経済相(51)を破り、当選を確実にしたとの報道がありました。
 アルゼンチンは、中国との関係を深め、2024年1月1日からBRICSに正式加盟することが決定していたのに、今回の大統領選挙の結果、それを取り消す動きになっています。
 私は、選挙による政権交代とはいえ、世界中でアメリカ離れがすすみ、覇権と利益の維持が危うくなっているアメリカの関わりが気になります。
 メキシコの左派ロペスオブラドール大統領をはじめ、ボリビアやベネズエラ、コロンビアなどの大統領が、”ミレイ氏の勝利を嘆いた”と報道されています。やはり、その影響が大きいことを示しているのではないかと思います。

 ハビエル・ミレイ氏は、経済学者で、アルゼンチン国内や海外各地で講演を行い、50以上の学術論文を執筆しているということですが、その経歴や主張には、気になることがいろいろあります。
 ミレイ氏は、アルゼンチンの政治構造は「役に立たない、寄生的な人々で構成されている」いったり、「アルベルト・フェルナンデス政権は国民に課せられた税金によって資金を賄う犯罪組織である。絶対にフェルナンデス政権から金を奪還しなければならない」となどと、選挙活動で極端なことを言って人気を 集めたようです。
 また、8月に行われた大統領予備選挙では、銃規制撤廃臓器売買の自由販売を許可すると示唆したともいいます。さらに、2020年に承認されたアルゼンチン国内での中絶を容認する自主中絶法案を却下させるつもりだとも述べたといいます。だから、「アルゼンチンのトランプ」という異名をもつといいますが、ハビエル・ミレイ氏が大統領に就任して、親米的な諸政策を実施すれば、さまざまな問題やトラブルが発生し、反政府運動が出てくるのではないか、と私は思います。 
 世界の流れに逆行しているからです。

 そういう意味で、今、「イスラームに何がおきているのか」小杉泰編(平凡社)の、下記のような記述を読むことは、世界情勢の深層をとらえるために、意味深いと思います。
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               Ⅴ 「アメリカ同時多発事件」への視座

                    岐路に立つイスラーム世界

                <世界>はムスリム虐殺に沈黙するのか? 

 繰り返される歴史
 なぜこのようなパレスチナの大義を振りかざす歴史は繰り返されるのか? 湾岸戦争以来、世界の構造的不正は何も是正されていないからである。パレスチナ問題がその象徴である。そもそも自爆テロをパレスチナ解放の正当な手段として行使してきたのはパレスチナ人であった。そのパレスチナ人が最初に同時テロの犯人として槍玉に挙げられたのも、これまでの歴史から見れば偶然ではない。中東イスラーム世界に無知な日本の首相が公式に否定したところで、今回の事件の遠因にパレスチナ問題があったというのは、多くの識者の指摘するところである。
 悲劇の始まりは、2000年9月28日に勃発したアル・アクサー・インティファーダであり、そしてこのパレスチナ人蜂起の直接的原因を作り出したアリエル・シャロン首相の誕生であった。シャロンはイスラームの聖地の主権を主張して、事件の約一年前の9月28日にアル・アクサーモスクを訪問するという政治的な挑発を行ない、彼の思惑通りにパレスチナ人蜂起を起こして、和平交渉のわずかな望みの可能性の芽を摘み取ってしまった。シャロンというドブ板政治家は、1982年6月のレバノン戦争でイスラエル軍が西ベイルートを包囲したとき、当時のイスラエル国防大臣として、キリスト教徒民兵がパレスチナ難民キャンプに入るのを黙認し、サブラー・シャティラー難民キャンプの虐殺事件を引き起こした責任を負っている。そればかりではなく、その後もリクード党員としてパレスチナとの和平を阻止し続け、首相になってからもアラファートPLO議長を「テロリスト」と呼び続けるような人物であった。
 シャロンは首相雄に就任してから、パレスチナは事実上の戦争状態に突入した。シャロンはパレスチナ自治区に戦車を送り込み、彼がテロリストと断罪したパレスチナ人要人を容赦なく暗殺した。 
 シーア派イスラーム主義組織ヒズブッラーの影響がレバノンからガザにも浸透していることや、かつての左翼「テロ組織」PFLPの指導者のテロへの関与を理由に、パレスチナ人指導者の乗った自動車や隠れていると名指しした建物に対して、イスラエル軍はヘリコプターから平然とミサイル打ち込んだ。それこそイスラエルという主権国家は、非国家主体であるパレスチナ自治政府やその住民に対して武力を一方的に行使する権利があるといわんばかりに、安全保障という名目としてはあまりに過剰な攻撃をパレスチナ人に対して行ってきた。だからこそ、イスラエルのやってることは「国家テロ」だと糾弾されるのである。

 もちろん、多発テロ事件をイスラエル/パレスチナの要因にのみ還元するのはいささか拙速すぎる。しかし、ビン・ラーディンらの脳裏からパレスチナの悲劇が離れないことだけは確かである。アメリカを新十字軍、そしてイスラエルをその同盟者として位置づけていることにもその一端は表われている。それは正当化のためだけの屁理屈ではない。事実、ヨーロッパ・キリスト教世界は。十字軍に続いて、東方問題を通じてイスラーム世界の宗派紛争を扇動し、20世紀に入ってからは欧米社会が抱えこんだ厄介なユダヤ人問題の解決のためにイスラエル建国を支援し、パレスチナ人が欧米社会の犠牲者のさらに犠牲になってしまったという説明は、中東イスラーム世界ではごく当たり前の認識として広く受容されている。
 さらに、イスラエルは世俗的なシオニスト国家として出発したが、イスラーム主義者の目からはイスラエルはユダヤ教国家として見られている点も無視できない。イスラーム主義者は、イスラエルのナショナルアイデンティティは宗教的概念に基礎を置いていると考え、イスラエルがその信仰のゆえに成功したのであれば、ムスリムも正しいイスラームに導かれて勝利するはずだという考え方をもっている。そこにユダヤ教徒とイスラームの急進的な宗教的政治思想をもつイデオローグの相似性を見ることができる。この相似性には「オリエンタリズムの罠」が隠されている。オクシデント(西洋)が作り出した「オリエント」の姿をオリエントの人々が自らのものとしてその「オリエント」を受容し、オリエンタリストによって理想化された「イスラーム」をオリエントの人々が体現しようとする、という屈折したメカニズムである。
 こうして今やエルサレムは、ユダヤ教とイスラームのそれぞれの宗教的なイデオロギーの中心的な位置を持つに至っている。イスラーム主義者にとって、「ワクフ」(所有権移転の禁じられた土地)としてのパレスチナに位置する聖地エルサレムは、中核的イデオロギーを構成し、1967年にイスラエルがエルサレム占領して以来、エルサレムは常にイスラーム主義者の「解放」のためのレトリックの中心となった。エルサレム解放のためには防衛ジハードが適用され、たとえジハードが自爆テロであっても、対イスラエル闘争において死亡したならば、その人間は殉教者として天国に行くことができる。エルサレムはイスラーム世界のムスリムによるジハードの象徴であり、異教徒に犯された聖地として動員されるのである。

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9.11とハマスの戦争とビン・ラーディン

2023年12月02日 | 国際・政治

 現在の世界は、圧倒的な軍事力と経済力を持つアメリカの支配下にあるといっても大きな誤りはないと思います。そのアメリカは、自国はもちろん、西側諸国や同盟国が敵対する国から攻撃を受け、戦争状態になった場合、相手国を話し合いのできない「極悪の国」とするために、いつも相手側の攻撃の実態や被害の詳細を問題にします。
 でも、攻撃に踏み切った相手側の主張はもちろん、過去に遡って、戦争状態に至った原因および経緯を問題にすることはほとんどありません。話し合いではなく、武力で決着させるアメリカが、相手側の立場や主張を考慮することは、ほとんどないのです。

 ウクライナ戦争では、2014年の政権転覆の実態や、その後のNATO諸国のロシアに対する挑発的な軍事訓練、また、親露派の人たちが多く住むドンバス地域に対する爆撃や、ノルドストリームに関わる制裁などを伏せて、ロシアの「特別軍事作戦」を、一方的で不当な「侵略」とする情報を、世界中にばら撒きました。話し合いなど眼中になかったので、プーチン大統領の演説や主張を取り上げ、その過ちを指摘するようなこともまったくなかったと思います。

 そして、今、ハマスのイスラエル襲撃についても同じような扱いをしていると思います。 
 下記は、「イスラームに何がおきているのか」小杉泰編(平凡社)からの抜萃ですが、ビン・ラーディンは、9・11後、アメリカのアフガニスタン空爆を予想して予め収録したと思われるアラビア語の声明を、アラビア語衛星放送局「アルジャジーラ(半島)」から放送したというのです。その声明の内容について、小杉泰教授は、
ビン・ラーディンは、アメリカの国家テロの先例として、再び広島・長崎への原爆投下に言及している。・・・アメリカの原爆投下が、日本との「戦争」状態の中であるがゆえに正当化されるのであれば、ビン・ラーディンが指令したと目される自爆テロ行為も、アメリカとイスラム世界は「戦争」状態にあるから正当性を持つという訳である。
 と書いています。ビン・ラーディンが、日本の広島・長崎への原爆投下に言及しているにもかかわらず、こうしたの声明の内容を知っている日本人は、あまりいないのではないかと思います。ビン・ラーディンの声明が、世界中の人々に知られるようになっては、アメリカが困るからだと思います。また、
アメリカが今、味わっていることは、われわれが数十年間にわたって味わってきたことに比べれば大したことではない。ウンマ(ムスリム共同体)は(オスマン帝国崩壊以来)80年以上にわたってこのような屈辱と不名誉を味わってきたのだ。息子達は殺され、血が流され、その聖域が攻撃されたが、誰も耳を貸さず、誰も注目しなかった。
  とか、
数百万の無実の子供たちが殺されている。何の罪も犯してない子供たちがイラクで殺されているが、われわれは支配者から非難の声もファトワーも聞いてない。このところイスラエルの戦車が大挙してパレスチナを襲っている。ジェニーン・ラーマッラー、ラファハ、ベイト・ジャラーなどのイスラームの地においてである。誰かが声をあげ、行動にでたということも聞かない

 とあります。

 だから、ビン・ラーディンの声明の内容やイスラエル建国以降の、パレスチナの人たちの思いを多少でも理解すれば、ネタニヤフ首相のように、ハマスをテロ組織と断じて、一方的にハマス殲滅を宣言することが許されることなのかどうか、わかるのではないかと思います。
 
 下記は、「イスラームに何がおきているのか」小杉泰編(平凡社)から「ビン・ラーディンのパレスチナ」を抜萃しました。
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                   ビン・ラーディンのパレスチナ

 ところで、ビン・ラーディンは、アメリカのアフガニスタン空爆を予想して。予め収録したと思われるアラビア語の声明を、今回「アラブのCNN」と呼ばれるようになったカタルのアラビア語衛星放送局「アルジャジーラ(半島)」から、10月7日に放送した。さらに翌々日にはビン・ラーディンの指揮下にあるといわれるアル・カーイダのスポークスマン、スレイマーン・アブー・ガイスが「航空機で急襲し、米国を破壊した若者たち」に関して「善い行いをした」と賛美する声明を出した。これを受けて、ブッシュ大統領は9日、アルカーイダの対米闘争声明を放送し続ける「アル・ジャジーラ」を公然と非難し、バウチャー米国務省報道官も「放映される煽動的な話やまったく虚偽の話などに懸念を表明する」と非難して中止を求めた。もちろん、アメリカはアル・カーイダテロ組織と断じているので、テロリストの言い分を撒き散らす報道機関「アル・ジャジーラ」への苛立ちを隠さない。しかし今回、「アル・ジャジーラ」のアフガニスタン報道がなければ、世界のアフガニスタン情報はもっと限られたものとなったであろう。むしろ問題は、情報によるアメリカ一極支配である。情報の隠蔽が事態そのものを歪曲化することは、今に始まったことではない。情報戦も同時に起こっていると考えるべきであろう。
 ビン・ラーディンは、アメリカの国家テロの先例として、再び広島・長崎への原爆投下に言及している。再び、というのは、1998年のファトワー(宗教裁定)「十字軍およびユダヤ教徒に対するジハード」においても、、また、「アル・ジャジーラ」対して送り付けたビデオ映像による声明の中でも繰り返し主張されているからである。アメリカの原爆投下が、日本との「戦争」状態の中であるがゆえに正当化されるのであれば、ビン・ラーディンが指令したと目される自爆テロ行為も、アメリカとイスラム世界は「戦争」状態にあるから正当性を持つという訳である。
 
 そもそも、ビン・ラーディンがその怒りの根源として最も強調するのが、ムスリム虐殺に対する世界の沈黙である。彼は叫ぶ。「アメリカの最も偉大なる建物が破壊されたのだ。アッラーに感謝を。北から南まで、西から東まで恐怖に覆われたアメリカがある。アッラーに感謝を。アメリカが今、味わっていることは、われわれが数十年間にわたって味わってきたことに比べれば大したことではない。ウンマ(ムスリム共同体)は(オスマン帝国崩壊以来)80年以上にわたってこのような屈辱と不名誉を味わってきたのだ。息子達は殺され、血が流され、その聖域が攻撃されたが、誰も耳を貸さず、誰も注目しなかった」。さらにビンラーディンは畳み掛けるように続ける。「数百万の無実の子供たちが殺されている。何の罪も犯してない子供たちがイラクで殺されているが、われわれは支配者から非難の声もファトワーも聞いてない。このところイスラエルの戦車が大挙してパレスチナを襲っている。ジェニーン・ラーマッラー、ラファハ、ベイト・ジャラーなどのイスラームの地においてである。誰かが声をあげ、行動にでたということも聞かない」(衛星放送「アル・ジャジーラ」でのビン・ラーディンの声明)
 ビン・ラーディンが執拗にパレスチナに拘っている事実にもう一度目を向けてみる必要があろう。実は彼の発想の中には、欧米vsイスラームの「文明の衝突」といったハンチントン流の考え方はそれほど強くない。彼のメッセージは、「反米」という極めて単純な言説構造しかもっていない。ウンマ(ムスリム共同体)からアメリカは出て行け、ということに尽きる。そしてアメリカを追い出すためには手段を選ばない、という激しい告白だけである。
 パレスチナなど具体的な地名がビン・ラーディンの声明には出てくる。ほとんどの日本のマスコミはこの地名を省略して紹介した。しかし、パレスチナの具体的な惨状を指摘する彼の言説手法は看過できない。このような言説手法自体に、ビン・ラーディンが世界のムスリムの間で人気を博する秘密が隠されているからである。そう、世界がパレスチナの悲惨な現実に目を向けておらず、そして誰もそれに反対する声を上げていないことに、彼は怒っているのだ。たとえパレスチナが方便であったとしても、である。湾岸戦争の時はサッダーム・フサインが同じ言説手法を戦略的に使った。今度はビン・ラーディンである

コメント (4)
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