先日(3月31日)朝日新聞は、”記者解説「民主主義が後退する世界 明日への一石~大変革期を考える」”と題するヨーロッパ総局長・杉山正氏の文章を掲載しました。そのなかで杉山氏は、アメリカを中心とするNATO諸国のリビア軍事介入から3年後、再びリビアを訪れ、下記のように”国家は破綻していた”と書いていました。「アラブの春」が「アラブの冬だった」という現地の男性の声も取り上げているのです。だから私は、”ほら見ろ”と言いたくなるのです。
2022年2月24日、ロシア軍がウクライナに侵攻する直前に、プーチン大統領は国民に向けて演説をしましたが、そのなかで、プーチン大統領は、リビアについても触れています。
でも、ウクライナ戦争の解説に出てきた防衛研究所の研究者や、ロシアの専門家といわれるような人たちが、この重要なプーチン大統領の演説内容について解説するのを、私は聴いたことがありません。
プーチン大統領は演説の中で、アメリカやNATO諸国の武力行使について、下記のように語っています。
”例を挙げるのに遠くさかのぼる必要はない。
まず、国連安保理の承認なしに、ベオグラードに対する流血の軍事作戦を行い、ヨーロッパの中心で戦闘機やミサイルを使った。
数週間にわたり、民間の都市や生活インフラを、絶え間なく爆撃した。
この事実を思い起こさなければならない。
というのも、西側には、あの出来事を思い出したがらない者たちがいるからだ。
私たちがこのことに言及すると、彼らは国際法の規範について指摘するのではなく、そのような必要性があると思われる状況だったのだと指摘したがる。
その後、イラク、リビア、シリアの番が回ってきた。
リビアに対して軍事力を不法に使い、リビア問題に関する国連安保理のあらゆる決定を曲解した結果、国家は完全に崩壊し、国際テロリズムの巨大な温床が生まれ、国は人道的大惨事にみまわれ、いまだに止まらない長年にわたる内戦の沼にはまっていった。
リビアだけでなく、この地域全体の数十万人、数百万人もの人々が陥った悲劇は、北アフリカや中東からヨーロッパへ難民の大規模流出を引き起こした。
シリアにもまた、同じような運命が用意されていた。
シリア政府の同意と国連安保理の承認が無いまま、この国で西側の連合が行った軍事活動は、侵略、介入にほかならない。
ただ、中でも特別なのは、もちろん、これもまた何の法的根拠もなく行われたイラク侵攻だ。
その口実とされたのは、イラクに大量破壊兵器が存在するという信頼性の高い情報をアメリカが持っているとされていることだった。
それを公の場で証明するために、アメリカの国務長官が、全世界を前にして、白い粉が入った試験管を振って見せ、これこそがイラクで開発されている化学兵器だと断言した。
後になって、それはすべて、デマであり、はったりであることが判明した。
イラクに化学兵器など存在しなかったのだ。”
信じがたい驚くべきことだが、事実は事実だ。
国家の最上層で、国連の壇上からも、うそをついたのだ。
その結果、大きな犠牲、破壊がもたらされ、テロリズムが一気に広がった。
世界の多くの地域で、西側が自分の秩序を打ち立てようとやってきたところでは、ほとんどどこでも、結果として、流血の癒えない傷と、国際テロリズムと過激主義の温床が残されたという印象がある。
私が話したことはすべて、最もひどい例のいくつかであり、国際法を軽視した例はこのかぎりではない。
・・・
そんな中、ドンバスの情勢がある。
2014年にウクライナでクーデターを起こした勢力が権力を乗っ取り、お飾りの選挙手続きによってそれを(訳注:権力を)維持し、紛争の平和的解決を完全に拒否したのを、私たちは目にした。
8年間、終わりの見えない長い8年もの間、私たちは、事態が平和的・政治的手段によって解決されるよう、あらゆる手を尽くしてきた。
すべては徒労に帰した。
先の演説でもすでに述べたように、現地で起きていることを同情の念なくして見ることはできない。”
・・・
”大祖国戦争の際、ヒトラーの片棒を担いだウクライナ民族主義一味の虐殺者たちが、無防備な人々を殺したのと同じように。
彼らは公然と、ロシアの他の数々の領土も狙っていると言っている。
全体的な状況の流れや、入ってくる情報の分析の結果が示しているのは、ロシアとこうした勢力との衝突が不可避だということだ
それはもう時間の問題だ。彼らは準備を整え、タイミングをうかがっている。今やさらに、核兵器保有までも求めている。そんなことは絶対に許さない。”
2022年9月30日には、下記のように呼びかけています。
” 欧米のエリートは、国家主権や国際法を否定しているだけではない。彼らの覇権は、明らかに全体主義的、専制的、アパルトヘイト的な性質を持っている。
彼らは大胆にも、世界を自分たちの属国、いわゆる文明国と、今日の西洋の人種差別主義者の意図にしたがって、野蛮人や未開人のリストに加わるべきその他の人々とに区分している。
「ならず者国家」「権威主義政権」といった誤ったレッテルはすでに貼られており、国や国家全体に烙印を押しているのであり、これは何も新しいことではない。西洋のエリートは、植民地主義者のままである。彼らは差別をし、人々を「第一階層」と「第二階層」に分けている。”
こうした声に耳を傾け、きちんと話し合って、平和の維持につなげるべきであると思います。
杉山氏のリビアに関する文章には、下記のようにようにあります。一部抜粋です。
”・・・
"私は戦争や紛争の現場に何十回と足を運んできた。多くが自由や民主主義を求める戦いだった。 アフリカ特派員として海外取材を始めた2011年は、中東の権威主義国家が民主化のうねり「アラブの春」の中にあった。
リビアはSNSを活用した市民デモをきっかけに、カダフィ政権を打倒する内戦になった。当時のリビアは高揚感に包まれていた。優勢な反体制派の民兵たちはカメラを向けると笑顔を見せていた。
オバマ政権下の米国と北大西洋条約機構(NATO)同盟国は、デモ参加者の命を救う「人道的介入」を掲げてリビアに軍事介入。戦いの勝敗を決定付けた。最高指導者だったカダフィ氏は死亡し、欧米は政権崩壊を歓迎した。
3年後の14年、再びリビアを訪ねると国家は破綻していた。「石をなげたら国自体が壊れるとは思わなかった」「アラブの冬だった」。デモに参加していた男性の言葉が印象的だった。
反体制派が軍閥化して群雄割拠し、イスラム過激派も伸長していた。市民を守る治安部隊はほとんど機能していなかった。人々の視線が、現場で取材する自分に集まっているのが分かった。誘拐が現実的な恐怖だったのを強烈に記憶している。
カダフィ政権時代の日本の旅行ガイドには。「治安のよさは世界で誇れるほど」と書いてあった。個人の自由を犠牲にした治安は民主化の過程で消え去った。オバマ氏は政権崩壊後の計画がなかったことを在任中の「最悪の失敗」だったと振り返った。
「民主化って何だ。欧米に都合のいいようにすることを言うんだろう」。リビアの隣国ニジェールでこんな主張も聞いた。欧米が力をもとに価値観を押しつけることへの反感は、非西欧世界で確実に蓄積して行った。
民主主義の土壌のないところに介入しても、リベラルを根付かせることはできなかった。多くの国が「民主主義体制への移行中の混乱」などとされ、忘れられてきた。自由や民主主義を求める戦いの結末は、皮肉にも権威主義の拡大につながった。
アフリカ東部エリトリアの政府高官に聞いたことがある。報道の自由度ランキングで最下位の常連国だ。自由と民主主義をなぜ認めないのかという問いに「認めたいが国が割れる。ここはドイツではない。民主主義は贅沢なものだ」。詭弁めいた説明だが、リベラルを考察するときにこの言葉が頭をかすめる。 …
・・・”
杉山氏は、政治家や軍人の主張を真に受け、アメリカがくり返してきたいろいろな国での武力行使とその後の実態をきちんと見てこなかったのではないかと思います。ほとんどの国が、リビアと同じような状態になっていると思うのです。アメリカが武力行使をした結果、民主化され、発展してきた国があるでしょうか。
だから私は、アメリカは、相手国の民主化などには関心はなく、反米的な国が力をもったり、社会主義国や共産主義国が拡大することを阻止する狙いで、武力行使をしてきたと思っているのです。
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