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『嫌われ松子の一生』

2006-06-02 21:37:52 | 映画(映画館)

渋谷・シネクイントにて、中島哲也監督。
東京へ出てミュージシャンになる夢も見失いかけていた18歳の笙(瑛太)の前に、突然父(香川照之)が、存在すら知らなかった伯母・松子(中谷美紀)の遺骨を持って現れる。
松子は中学教師をクビになったうえ男運が悪く風俗嬢にまで身を持ち崩し、ついには殺人まで犯して家族の縁を切られていたのだという。
笙はゴミに埋もれた松子の古いアパートを掃除するうちに、松子の遺品や松子の死を知って訪ねてきた古い知人から、松子の風変わりな激しい人生を知らされることになる…

★★★★★だ!
いや単なる傑作というにとどまらず、下妻物語も超え、人生に大きな足跡を残すような映画ですね。
中村うさぎに桐野夏生に佐野眞一に見せたい!
ジャン・ピエール・ジュネにラース・フォン・トリアーにミシェル・ゴンドリーに見せたい!
ジミー・ペイジ&ロバート・プラントに見せたい!
ブッシュにビン・ラディンにズミ首相に、世界中の人々に見てもらいたい…そんな、生きていることを許してくれて、前へ歩いてゆく力を与えてくれるような作品。
体重別なら軽量級だとしても、この監督が世界チャンピオンであることは間違いない。
北野武、黒沢清、三池崇史、そうした最近の邦画の中で目立つ才能と比べても、突出したスーパー天才である。
昭和を時代背景として、ファンタジーと呼べるほど細部をこってりと作り込んだ邦画といえば、すぐに浮かぶのが『ALWAYS・三丁目の夕日』という大ヒット作で、見ていないのに悪口を書くのは、しかもこんな素敵な作品を見た後ではためらわれるのだが言わせてもらうと、教師をクビになって家を出た松子が同棲する相手の男(宮藤官九郎)は作家志望で、酒を呑んでは松子に暴力をふるい、ついには松子の目の前で電車に飛び込み自殺する。
ALWAYSの主人公も作家志望だがうわべは優しげな吉岡秀隆。
ところが、クドカン自身自分にそうした一面があることを認めてもいる大したハマり役なのだが、現実の上ではクドカンはよきパパで、内田有紀に暴力をふるって離婚されてしまったのは吉岡秀隆のほう。
ここに、人間の深奥・暗部を真摯に見つめない、臭いものにはフタをして体裁を取繕う、そして閉ざされた国内の市場だけで金儲けしようという日本映画の病巣が端的に表れていないだろうか?
そして、松子と厳格な父親(柄本明)、松子と病弱な妹(市川実日子)、松子と松子を窮地におとしいれる教え子(伊勢谷友介)など繰り返し描かれるのが、過剰な思いがすれ違うエピソード。
ここに人間と人間がコミュニケーションする、心が通い合うことがいかに困難かという主題が隠れているように思う。
出演もしている荒川良々いわく「事件!事件!これ見て、マジ、ビビらないヤツは、これもんの、これもんで、これもんよ!」
ビビるとゆーか、これを見ても胸にこみ上げてくるものがない人、ちょいとヤバイかも。
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