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Nina Simone Playlist

2016-07-24 19:48:02 | 音楽
毎度手前味噌で恐縮ながら、私の選んだ「最優先の1000曲」に、ニーナ・シモンは「Mississippi Goddam (Live)」「I Wish I Knew How It Would Feel to Be Free」「Ain't Got No; I Got Life」の3曲が選ばれている。これは女性アーティストとしてはアリサ・フランクリン、ジョニ・ミッチェルの4曲に次ぎ、プリテンダーズと並ぶ。

またこの3曲のほかにも、彼女の「To Be Young, Gifted and Black」をレゲエのボブ・アンディ&マルシア・グリフィスがカバーしたバージョンも選んだのだが、彼女が他と異なるのは、最初に1000曲選んだ2007年の時点では1曲も入っておらず、さまざまな選曲・名盤リストで見聞を広める度に従来の曲と入れ替わる形で追加されてきた、古い曲ながら私の中では新鮮で驚きをもたらす存在だったということだ。

「私には愛がない。お金もない。何もない/しかし私には肉体がある。痛みもある。人生がある」と力強く歌うAin't Got No; I Got Lifeをはじめ、彼女の代表曲はポップで、時代を越えて訴えかける魅力があるが、しかしニーナ・シモンの曲は同じ時代、誰でも知っているようなヒット曲にはならなかった。「ソウルの女王」と謳われたアリサ・フランクリンとは、同じメッセージ性を帯びた黒人女性シンガーながら売れ方も名声もかけ離れている。それはひとえにニーナが「ジャズ」シンガーと捉えられてきたためなのか、かねがね私は疑問に思っていた。




映像配信サービスNetflixが、米国を中心に良質のドキュメンタリー作品を揃えていると聞き、加入して最初の1本『ニーナ・シモン ~魂の歌』(原題What Happend, Miss Simone?)を見、この疑問が氷解するとともに、私がいかに彼女の人生を知らず、音楽という果実のみむさぼる「奢った消費者」であったか痛感させられることに。

そもそも彼女は「黒人初の女性ピアニスト」を目指すも、差別の強い時代にあって挫折を余儀なくされた、クラシックを出自とするアーティストだったのだ。生活のため繁華街のバーで歌うようになり、シンガーとしても注目を浴びる。共演相手として、転調やフーガといったクラシックで培った彼女の高踏的なアプローチに応えられるのは、ジャズのミュージシャンだけであった。

デビュー作からスタンダード曲I Loves You, Porgyがヒット。警察官の夫アンドリューはマネージャーに専念することとなり、一女にも恵まれた。が、彼女のプライドは、単なるジャズシンガーで満足するものではなく、全米で勢いを増していた黒人の公民権運動にのめり込み、「Goddam」という異例の強い言葉で米国の狂気を歌うMississippi Goddamを皮切りに、政治色の強い曲をいくつも発表。

レコードにライブに政治活動に60年代の彼女は活躍。アンドリューは有能なマネージャーだったが家庭では暴力をふるい、政治色がテレビなどで敬遠されたこともあって、70年代、彼女の仕事は減り、怒りと抑うつで精神状態も不調に。アンドリューと離婚、リベリアへ移住し自由を満喫するも、蓄えが底をつき、スイス、やがてフランスに移って再び歌うことに。しかし満足な結果は得られなかった。生活は貧窮、躁鬱=双極性障害の症状も表れる。

1987年、シャネルのCMで初期のMy Baby Just Cares for Meが使用され、ヨーロッパを中心にヒット。向精神薬により回復の途上にあった彼女は、これを最後のチャンスと奮起。薬の副作用が心配されたがピアノの腕前は健在で、南仏に定住してライブ活動を展開、ようやく才能にふさわしい待遇を得るも2003年、乳がんで世を去る。70歳であった—





iTunes Playlist "Nina Simone Playlist" 82 minutes
1) Little Girl Blue (1958 - Jazz as Played in an Exclusive Side Street Club)
2) My Baby Just Cares for Me (1958 - Jazz as Played in an Exclusive Side Street Club)
3) I Loves You, Porgy (1958 - Jazz as Played in an Exclusive Side Street Club)



4) I Got It Bad (and That Ain't Good) (1962 - Anthology: The Colpix Years)



5) Mississippi Goddam (Live) (1964 - The Best of Nina Simone)
アラバマ州の黒人教会爆破事件で4人の若い女性が亡くなったことをきっかけに書かれた代表曲。後年ニーナの政治主張は先鋭化し、武装革命により黒人独立州を作るべきとも発言



6) Don't Let Me Be Misunderstood (1964 - Don't Let Me Be Misunderstood)



7) I Put a Spell On You (1965 - Nina Simone in Concert / I Put a Spell On You)
8) Feeling Good (1965 - Nina Simone in Concert / I Put a Spell On You)



9) Strange Fruit (1965 - Pastel Blues)
10) Sinnerman (1965 - Pastel Blues)
ニグロ・スピリチュアルやスコットランド民謡にも起源があるとされる伝承曲。彼女のバージョンは10分を超え、後にサンプリングされたりデビッド・リンチの映画で使われるなど代表曲の一つに



11) Four Women (1966 - Wild Is the Wind)
12) Wild Is the Wind (1966 - Wild Is the Wind)



13) I Hold No Grudge (1967 - High Priestess of Soul)



14) I Want a Little Sugar in My Bowl (1967 - Nina Simone Sings the Blues)



15) I Wish I Knew How It Would Feel to Be Free (1967 - Silk & Soul)



16) Ain't Got No; I Got Life (1968 - The Very Best of Nina Simone)
キング牧師暗殺の直後に録音された。英2位などヨーロッパでヒット



17) Everyone's Gone to the Moon (1969 - Mina Simone and Piano!)



18) To Be Young, Gifted and Black (1969 - Say It Loud! A Celebration of Black Music in America - Disc 4)



19) Baltimore (1978 - Baltimore)



20) Fodder in Her Wings (1982 - Fodder in Her Wings)
Pitchforkが選ぶ1980年代の200曲で178位。この頃は荒れた生活を送っていた筈だがスピリチュアルな境地を聞かせる。彼女は気分屋で理想が高く、黒人女性の現実に苛立ち、クラシックから公民権運動の道へ進むも才能にふさわしい名誉を得られなかった。アルバム単位では出来にムラがあり、名曲は多いが名盤がなく、ロック・ビジネス拡大の波にも乗れなかった。ニーナ・シモンの才能は、60年代にあってはユニークであり過ぎ、彼女をポピュラーな存在にすることはなかったが、その死後も存在感は不滅である—


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