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昭和疾風怒濤 #4 - さらばサムライ野球

2016-10-23 19:24:31 | メディア・芸能
翌日は群馬でプレーした。宿舎からバスで3時間のところだ。雨には降られなかったが、初めて酔っぱらいのアンパイアに出くわした。

一塁ベースで、明らかにセーフなのにアウトとコールされた俺は、頭にきてアンパイアに詰め寄った。顔と顔が近づいた途端に、アルコールの臭いがプーンときた。外は30度を越えているから、試合前に冷たいビールでも一杯ひっかけたのだろう。いや、3杯か4杯、あるいはもっと飲んだのかもしれない。

相当酔っているらしく、まぶたがトローンと半分落ちかけている。俺は奴の目を指さした。評論家やレポーターは、俺が「こいつは目がおかしいんだ」と言っていると勘違いしたらしい。俺は違うことを言いたかったのだが。

王(監督)は一応、抗議にやってきたが、あまり熱心ではなく、すぐに引き揚げた。ま、6-0で勝っているし、2位に4ゲーム差をつけて首位を独走しているのだから、こんな場面でムキになる必要はない。だいいち、暑くて口論する気にもならなかったのだろう。

その晩、気づいたことがある。王という人は金を払ったことがないのではないか。一緒にメシを食いにいっても、レストランの主人は彼に請求書を渡そうとしない。いつもそうだ。なんだってタダなのだ。球場にもいろいろな人間が、ミカンや酒やタバコを山のように差し入れにくる。どこへ行っても、みんなに知られているのだ。ガソリン代だって払うのを見たことがない。 —(W・クロマティ/R・ホワイティング共著 『さらばサムライ野球』 1991年・講談社、より)





純血主義でV9を達成した後、デーブ・ジョンソン(1975~76年)を皮切りに外国人助っ人を招くようになった読売ジャイアンツ。一年目は期待外れで「ジョン損」よばわり。鶴光師匠のギャグ「どうせあたしはクルーガーよ」(79年)、赤瀬川原平が無意味な構造物にたとえた「トマソン」(81~82年)など、飛び抜けた人気球団ゆえ失敗例は散々言われる一方、84~90年に在籍した外野手ウォーレン・クロマティこそ長く親しまれた筆頭と申せましょう。86年に.363でセ・リーグ打率2位(三冠・歴代最高打率のバースに次ぐ)、89年には長く4割を保ち、最終的に.378で首位打者と、中距離バッターとして活躍。ホームランを打って一塁を回ったところでの派手なガッツポーズ(↑画像)、外野スタンドに向かっての万歳三唱などがお馴染みとなりファンを沸かせた。頭部に死球を受け担架で運ばれた翌日の試合で代打満塁ホームラン、敬遠球を打ってサヨナラ安打など印象的な場面はあまた。

喜怒哀楽が豊かで、サービス精神旺盛。モントリオール・エクスポスからやって来て、日本の野球に驚き、戸惑いながらも見事に適応した彼は、現役時代から日本での経験を本に書こうと準備しており、引退後ただちに、『菊とバット』『和をもって日本となす』など野球を通じて日本文化を分析してきたロバート・ホワイティング氏の助力を得て出版。オーナー(正力亨)より威張っていて、優勝後、選手を前に40分もスピーチをぶつ、その中で全選手を称えるがクロマティには触れない務台(読売新聞)名誉会長、長時間の練習は無意味だという批判、監督・コーチや選手の言動や人望、王監督時代、中畑が王を陰で「ワン公」と呼んでいたなど、赤裸々な内容で出版当時バクロ本として受け取られたが、その後、野茂やイチローがメジャーで成功する一方、巨人軍をめぐるさまざまな悪弊が噴出、日本プロ野球が大いなる地殻変動を経たいまなお、この本が投げかける問いは新鮮で、再発見に満ちている。




↑80年代前半、巨人の主力選手。左上から時計回りで江川投手、中畑内野手、原内野手、篠塚内野手


先日、おぎやはぎのラジオを聞いていると、(ベッキーなどの)不倫についていつまでも言ってる奴はモテないから。俺も不倫が悪いことくらい分かってる。関係ない第三者がいつまでも言うなってこと、などと小木が語っており、正論ではあるが、割り切れないものを感じ、有吉に続いておぎやはぎのラジオも聞かなくなりそうな按配。

私の父は晩年、入浴時にラジオをビニール袋で密封して持ち込み、巨人のナイター中継を聞いていた。大洋ホエールズが三原マジックで日本一になったことは彼にとって若き日のレジェンドであり、98年10月、横浜ベイスターズがそれ以来の日本一になったのを見届けるように翌月首吊りで果てた。

私も亡父の影響で小5から巨人を応援し、クロマティの本に記述のある試合はほとんどテレビで見たが、近年スポーツ全般関心が薄れ、巨人のことは嫌い。憎む。死ねナベツネ。が前回の『虫たちの墓』が本棚の講談社文庫コーナーに収まり、ハミ出た『さらばサムライ野球』を処分ついでに読み始めたら止まらなくなった。めっぽう面白い。クロマティの感受性とホワイティング氏のジャーナリズムが噛み合い、どの人物も生き生きと描き出される。江川・原・中畑・山倉、愉快な面々。王監督の苦闘、西本や桑田投手など巨人の中で疎まれがちだった様子や、他チームの外国人選手の動向など興味深い記述が次々。

一人一人は光も影もある彼らは、「巨人軍は紳士たれ」という言葉で影を見せることを厳しく禁じられた。巨人の控え選手の方がパ・リーグの主力選手より知名度があったような、クライマックスシリーズでDeNAの方に声援が偏る今からは信じられない格差があった。そんな時代背景のもと、巨人の闇は封印され続け、積年の無理が祟って、近年の凋落・スキャンダル続出を招いたといえよう。ベッキーが、過度に明るく、ポジティブなキャラとして振る舞ってきた分、不倫騒動が長引いているのと似ている。芸能人は悪口を言われるのも芸のうち、知名度の証しである。各チームの人気が平準化し、テレビより球場という本来の姿にかえりつつある、今のプロ野球を愛し、贔屓チームを持つ方々をうらやましく思います—



さらばサムライ野球 (講談社文庫)
Warren Cromartie,Robert Whiting,松井 みどり
講談社
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