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旧作探訪#55 『ペーパー・ムーン』

2009-04-05 21:31:45 | 映画(レンタルその他)
Paper Moon@レンタル, ピーター・ボグダノヴィッチ監督(1973年アメリカ)
ライアンとテータムのオニール父娘が共演し、デビュー作となるテータムは父親を食うような快演で1974年(1973年度)のアカデミー賞・助演女優賞を最年少で獲得。映画も大ヒットとなった。
1935年、大恐慌下にあるアメリカ中西部。未亡人をだまして聖書を売り付けて小金を稼ぐ詐欺師のモーゼ(ライアン・オニール)が、亡くなった恋人の葬儀で彼女の遺児アディ(テータム・オニール)と出会う。彼はいやいやながらアディを親戚の家まで送り届けることになったが、アディは大人顔負けに頭の回転が速く、モーゼの詐欺を手伝ったりしながら旅を続けることになり、いつしか2人の間に本物の父娘のような雰囲気が生まれてゆく。
しかし、モーゼの前にダンサーだという若い女トリクシー(マデリーン・カーン)が現れる。すっかりトリクシーに惚れ込んでしまったモーゼを見て、アディはこのままでは自分が見捨てられると不安になり、思い切った行動で2人の仲を裂くことに成功する。
やがてモーゼは酒の密売人を見つけ、取引を持ちかけると商談は成立。モーゼは事前に密売人の酒をごっそりと盗み出し、それをまた密売人に売りつけて大儲けしたのだった。しかし、密売人の兄が保安官で、猛スピードのパトカーで彼を追ってくる…。



「まいたん朝メシ何食いてぇ!?」 「甘いパン甘いパン。」
『闇金ウシジマくん』に出てくるたくさんの迫真な言葉たちの中でも、ギャル汚くん編において“エンコーまいたん”なる16才の女が言う「甘いパン甘いパン」はひときわ印象に残る。最近のわけわからない若い女たちの体は甘いパンでできてるのでしょか。
彼女の相棒、ネッシーこと根岸裕太。まいたん16才を買春するのはいわゆる「淫行条例」に触れるので、根岸から恐喝されることになる。あらかじめ仕組まれた美人局。それもまた犯罪である。根岸よりさらに強く恐ろしい者が現れて彼を恐喝したとしても、根岸は警察に駆け込めない。その末路=意識不明の重体…。
この映画の中間部、トリクシーという気のいい白人娘が出てくる場面で、テータム演じるアディは、トリクシーに安い金で使われる黒人女中とも共謀して、まるで美人局に近いようなことをやってのける。モーゼは、亡くなったアディの母と交渉のあった3人の男のうちの1人で、アディの実の父である可能性もわずかながらある。アディによればモーゼは「アゴの線が似てる」とのことだが、より似てるのは詐欺師としての演技力とかクソ度胸のほうかも。2人が組むことでモーゼの聖書売り商売はわりと順調に進むのだが、終盤における酒の密売人をだます仕事は相手が悪かった。禁酒法の余波が残る中西部の町で、保安官と組んでいる(映画では密売人と保安官が一人二役)のだ。最後に金を奪われてたたきのめされるモーゼであったが、よかったよ、それだけで済んで。そんなやつを相手にしたら命を取られるのが普通じゃないでしょかね。悪事はなかなか引き合わない。
ところがアディは、旅の目的地である伯母の家には望みのピアノもあったりして、安逸な暮らしが保証されてるのにもかかわらず、文無しの詐欺師モーゼと2人で旅暮らしを続けていくことを選ぶ。安逸な暮らしより、ヒリヒリした浮き草稼業を選ぶ、いかにもハリウッド映画的な情愛ファンタジーともいえよう。
またそうした現実ばなれしたファンタジーにとどまるようでいながら、一歩超える印象を残すのはテータム・オニールのあまりに登場人物になりきった存在感。ライアン・オニールは別に娘を女優として売り出すつもりは当時なかった模様であるものの、「大人顔負けの、しかもあんましかわいくない女ガキ」というぴったりの雰囲気をボグダノヴィッチ監督に見込まれて出演したんだとか。
そしたらアカデミー賞の今も破られない最年少記録。映画もヒット。彼女がそのままハリウッド女優の道を進んだことは言うまでもない。人が憧れるような美貌ではないのに。オラ中高生くらいのとき買ったロードショー誌とかには、ティーンの人気女優として『がんばれ!ベアーズ』とかに主演するテータムの姿をよく見かけた。年はオラとか杉田かおる、薬師丸ひろ子などより学年1コ上。まあ同年代。しかし当時から、女優としてのセクシーさとか華やかな魅力には欠けてた。作品としても『ペーパー・ムーン』を超えるものは一作としてない。子役として成功しちゃうと、その後の脱皮がむずかしいとはよく言われるよな…。
テニスのジョン・マッケンローと結婚して3児を成すも、麻薬におぼれて離婚。親権はマッケンローが持ったとか。近年は脇役で米TVドラマに出演してるみたいだけど、昨年も麻薬で逮捕されたことが報じられた。映画の最後で、伯母のもとで安穏と暮らすよりモーゼとの浮き草稼業を選んだ、まさにそれを地で行くような人生。『ペーパー・ムーン』の撮影時9才、アカデミー受賞時10才、残りの人生のほうがぜんぜん長いのに生涯ベストを記録しちゃって。
浮き草稼業のリスクを引き受けるテータム・オニールと比べ、関根勤の娘さんが芸能界入りしたのはどうにもマルチ商法的に気持ち悪くて、コサキンでずっと尊敬してきたのにTVで見かけると気がふさぐ。アメリカに留学して、どこやらの大学を首席で卒業したとも聞く才媛である。その能力とか親譲りの気質を芸能界とかじゃなくて、腐り切った外務省とか、あるいは生き馬の目を抜く総合商社とかで開花させてほしいと思ったのはオラだけではあるまい。

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