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耽美の殿堂

2009-04-12 19:36:28 | マンガ
『孔雀風琴(第一部)』宮谷一彦(けいせい出版)
緻密な画風と詩的な作風から一部に熱烈な読者を持つが商業面では決して報われたとはいえず、雑誌に発表されたまま単行本化されずにいる作品も少なくないので「伝説の漫画家」とさえ呼ばれる宮谷一彦。この『孔雀風琴』=くじゃくおるがん、は1980年のビッグゴールドに110頁ほどが一挙掲載されたが、以降続きが描かれることはなかった。1983年にけいせい出版がA4判の装丁で単行本化。
舞台は第二次大戦中の、山間部の僻地にある奇妙な洋館。かつて領主の御典医として薬物・毒物をあつかってきた高麗(こま)一族のはぐれ者が住むという。幽閉された老婆・沙羅(さら)、その死を待つ相続人・葡萄夫(えびお)、そして2人を魅了する謎の美少年。葡萄夫には秘密があった。その秘密とは初恋の美少女・楼座頌美(ろうざしょうび)を殺害して遺骨を孔雀岩の風穴に散骨したことである。彼の夢はその風穴を利用して鳴るパイプオルガンを作り、美少年たちに弾かせるという。その目論みどおりの、地元に住む絶世の美少年を見つけたはいいが、沙羅もまた美少年の肉体に老いたる執着心をたぎらせる…。

  

心をわくわく躍らせるものが少なくなってきている。年齢のせいばかりではない。テレビもラジオも映画も演劇もろくでもない。多数派のお客に媚びるようなものばかりで冒険しない。多数派といっても、自民党みたいな比較多数、創価学会みたいなマルチ多数に過ぎないのに。
送り手に新陳代謝がなく、昔の名前でいつまでも出ています。コサキンの最後の2年ほど、あるいは志村けんさんの深夜にやってるコント番組の劣化のひどさ。昔はさあ、コサキンを毎週録音して、それをさらに面白いところを編集したカセットをいっぱい作ったんですよ。『志村けんのだいじょうぶだぁ』もビデオ録画して、面白いところをダビングして持ってます。「すごい芸者」とか「ひとみ婆さん」とか。今は、そこまでして保存しておきたい番組なんて皆無。保存どころか、見たり聞いたりすることさえいやになってきて、テレビもラジオもあんまし付けない。特にラジオは聞かなくなったね。
これから先「保存したい!」とまで思わせる番組が2度と現れるんでしょかね。昨年の姫盗人誌の読者コーナーが「あなたの持っている貴重な本は?」というテーマで投稿を募ったところ、下のような意見が。

「本ではありませんが自分がおもしろいと思ったエロマンガは全部切り取ってますよ。単行本が出る前に雑誌自体がなくなっちゃうことも多いのでうっかり捨てられませんね」─山梨県・ほえほえ

「コミック化されてない漫画が載っている本」─長野県・ふさおやじ

同感至極。うっかり捨てられないのだ。『孔雀風琴』などは一度でも単行本化されたので恵まれてるほうかも。もちろん買ったんですけどさ。オラその後その本を処分してしまったのよ。今持ってるのは最近ヤフオクで落札したもの。読み返してみると、あまりの希少な世界観で驚くほどすごい。オスカー・ワイルドとかニジンスキーが生きてたら見せたいよ。いくらA4判でかさばるといって、これを捨てるかなあ…。同じ年に出た、どことなく孔雀風琴の美少年と面立ちもかぶらないではないマーク・アーモンド氏の『Torment and Toreros(苦痛と闘牛士)』のLPレコードは中身のレコード盤を捨ててジャケットを保存してるというのに。中画像・右はその裏ジャケ。「処分する」と「保存する」についての過去の自分の判断が信じられない。
孔雀風琴なんて題材が美少年じゃないですか。女性が描くのと異なって、男性が描くそうした世界は、ただでさえホモホモとして差別されることもあるし、ましてホモ・ゲイのみなさんは中性的な美少年なんてほとんど興味ないので、作品として残るのはたいへん貴重。そうしたことオラはわかってたはずなのに、やっぱし国内のマンガを軽んじて、舶来の音楽を重んじる、西洋かぶれな面があったんでしょか。

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