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2008-01-22 20:59:28 | 読書

『ペルセポリス・I~イランの少女マルジ・II~マルジ、故郷に帰る』マルジャン・サトラピ(訳:園田恵子、バジリコ)
子どもの頃、革命がありました…戦争がありました…人がたくさん死にました…
(I)イスラーム革命、イラン・イラク戦争…激動の時代を斬新なタッチで描き、このほど著者自らの手によりアニメ映画化もされた真実の回想記。
ひとり国を離れ、恋もした…クスリもやった…そして失望した…
(II)戦火を逃れた異国での学生生活とそこで味わう孤独…傷心の帰国…結婚やがて離婚。ペルシャとヨーロッパに引き裂かれて魂の空虚に悩むマルジが再びヨーロッパに向けて旅立つところで本編は終わる。
「現代における最高に斬新で、最高に独創的なメモワールのひとつと言える。人類の尊厳を最大限尊重したいという切なる願いを、マルジは声を上げてわれわれに呼びかけているのです」ロサンジェルス・タイムズ
「きらきら光る、飛び抜けた才能によるコミック回想録…無邪気な声で伝えられる…圧政的な政権がいかにして普通の生活をゆがませるかが、白と黒のコントラストの描画によってドラマチックに描き出される」ヴォーグ

ペルセポリスI イランの少女マルジ
マルジャン・サトラピ,園田 恵子
バジリコ

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秋田県の「なまはげ」が酒に酔って女風呂に乱入した騒動について、みのもんたは朝の番組で「襲われた女性もけっこう喜んでいる」などと発言。さすがに『ドラえもん』でのび太がしずちゃんの入浴をたびたび覗いても笑いごとで済まされる男権国家にっぽんならでわでんのー。
しずちゃんにとってのび太が気持ち悪い男だとしたら、それは「性暴力」にほかならないという視点が完全に脱け落ちている。
みのもんたとか細木・江原とかがのさばるのって、物質文明がいくら発達したとしても日本人の精神性そのものは卑弥呼が亀の甲羅で占いしてたときからほとんど変わってないことの証左なんじゃなくて?
六占星術??細木数子なんかによぉー天体の運行とかわかるわけねぇーじゃんっっ高度な物理学だぜっっ
…まあしかし、『ドラえもん』などが海外でどのように受け入れられてるのか、ってことからその国と日本との文化的親和度がある程度つかめるような。ちなみに『ドラえもん』欧米ではまったく不人気。
イランの少女マルジ(1969年生まれ)も作品の中で『おしん』を見る場面が出てくる。ほかに怪しげな売人からアイアン・メイデンのカセットテープを買う場面も。
同じ時代に生きて、同じような文化に親しんできたイランの少女は、しかしぬるま湯のような日本からは想像もつかない暴力的な圧政や戦争の生き証人でもある。
ソ連へ亡命していた経験を持つアヌーシュ叔父さんはパーレビ王政が倒れていっとき釈放されマルジにいろいろなことを語るが、革命政権によって再び逮捕されロシアのスパイとして処刑されてしまう。獄中で一度だけ面会を許されたマルジとの別れの場面が上画像である。
イスラム革命の後は、悪事をたくらんで背後でうごめく欧米諸国に対してもの申せる数少ない国の一つになったイランではあるが、男は口ヒゲあごヒゲをたくわえ女はマグナエと呼ばれる頭部をすっぽり覆うベールをかぶることを強制され、言論も厳しく規制され政治犯は投獄されて転向か処刑か選ぶことを迫られた。
なかんずく女性の人権は男性に比べ著しく制限されたため、常に自分自身に対して公明正大であれ、と説きつつ女のたしなみも大切にする素敵なおばあちゃんと過ごしてきたマルジには我慢ならない出来事の連続。
…まあ結局、自由経済においては誰の子種を選び、そして産むか産まないか、という主導権は女性に握られており、男にとってそれは非常に都合が悪いことなので宗教などなんやかんやと理由をつけて女を「出産し、子育てし、家事労働する道具」にとどめておこうとする。
妊娠中絶や場合によっては避妊ですら不道徳なこととするキリスト教原理主義と、イスラム教原理主義は類縁関係~そのほかもろもろのインチキ宗教のみなさまがたもな。
インチキ宗教の一種である村上なにがしという小説家に引っかかるなどして近年の創作活動はもうひとつパッとしない萩尾望都さんではあるが、一昨年のジュンク堂の催しで本書を採りあげていたのはさすがであった。
全盛期だった70年代の代表作『11人いる!』の魅力的なキャラクター、フロルの出身の星では男女の人口比率が1対5で、平均して男1人に4.5人の女がつき1人の女が5.5人の子どもを持つという一夫多妻制度が採られている。イスラム教が一夫多妻であることを思い出さずにはいられないが、地球は男と女がだいたい同じ数生まれてくるからね…
下画像、帰国したマルジは同志たちとささやかな抵抗を試みて、男も女もくつろいだ雰囲気のパーティーを開くが、そこへ踏み込んできた革命防衛隊から逃れようとした一人の友人が転落死。
ナチ占領下のフランスを舞台にした短編「エッグ・スタンド」で同様の場面を描いたことのある萩尾望都さんは本書を発見して読み進めてそこに差し掛かったとき心の震える思いがしたのではなかろうか。

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