↑遂にこのタイトルで日記を書く日が来たか!
…というほど大袈裟な内容でもないのだけどね。『Electricity』の編曲面の話です。
『Electricity』は、俗に四つ打ちと呼ばれる『traveling』や『Goodbye Happiness』や『BADモード』のような4拍子をベースにして16ビートをまぶした宇多田ヒカル王道のリズムで楽曲が進行する。だがサビに入ると木管楽器群(サックスやフルート)がこれでもかと三連符を連ねてくれるのが大きな特徴だ。16ビートが四つ刻む間に三つ刻むので、ビートとメロディの拍が合う回数は普段の4分の1に減る。この二つの重ね合わせによって楽曲には独特の浮遊感が生まれる、という話は前にした。
(挿話的に付け加えておくと、異なるリズムを重ねた時に浮遊感が生じるのは、スネアドラムやバスドラムといった低音の効いたリズムキープと同時に奏で“ない”音が低音部の確りした支えを失って「寄る辺無く」「足元が無いかのように」響くからだ。拍に合わない音符が地に足をつけることができなくて文字通り“浮いちゃう”わけです、ハイ。)
これと逆の事を、ヒカルは昔の曲でしている。…そうか、もう「昔の曲」と言えるのか『誓い』は! だって6年も経ってるんだもんなぁ。
『誓い』という曲は基本的には8分の6拍子に基づいた楽曲で、これは手拍子を打つなら三拍子になるリズムだ(二拍子の場合もあるけどね)。「いち・に・さん、いち・に・さん」だね。んで、中間部でやや唐突に
『たまにこ・らえられ・なくなる・なみだに』
という風に、4×4=16の音符で構成されたパートを挟んで来るのが独特だった。
これ、『Electricty』と真逆の事をしてるのよ。『Electricity』では4つ打つ間に3つの音符のメロディを奏でることで浮遊感或いは“少し不思議”感を醸し出していたのだが、『誓い』では逆に3つ打つ間に4つの音符のメロディを奏でることで、それまでの跳ね回るようなリズムから、まるで沈み込むかのようなリズム感に移行している。或いは、前のめりな情緒主体だった楽想の中に落ち着いて冷静で一歩引いた視点を取り入れた、という言い方も出来るかな。
まとめるとこう。
・16ビートに3連符を載せて浮遊感を出した『Electricity』
・3拍子のビートに16分音符を連ねて沈み込む感触を出した『誓い』
いわば、同じ効果の裏と表だ。異なるリズムとメロディを組み合わせる事で、上に浮いたり下に沈んだりする感じをリスナーに与える事に各々成功している。
もしこのエントリを読む前から「『Electricity』って、ちょっと『誓い』に近い雰囲気があるな?」と思っていた人が居るならかなり鋭い。あたしゃ今回理屈から切り込めたけど、これをフィーリングで気づくならなかなかに熱心な宇多田リスナーだと言えそうだ。ぐっちょぶでありますよ!
…うむ、よし! 「昔の曲」という形容が違和感なくなるくらいになって、やっと「『誓い』に近い」話が出来たぞ! よかった!(何がだよ(笑)) 次は「『残り香』の残り香のする曲」がリリースされる日を待とうかな…(それはそのまんまやん)。
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