梶さんへのインタビュー記事。
「宇多田ヒカルはなぜ今の若者からも支持を集めるのか?時代に合わせた顧客コミュニケーションの手法に迫る」
https://markezine.jp/article/detail/45790
つくづくこの人が宇多田ヒカルのA&Rでよかったなと再々…々確認する実に良い記事。ポイントを押さえた名言が続々と出てくる。そこは是非皆さん自ら読んで確認してみて。
そこはそれでいいのだけど、ちょっと小さな問題が。タイトルとそれに沿ったまとめ方が不味い。もし学生が梶さんにインタビューしてこの記事をレポートとして書いてきたら可や良ならまだしも優はやれんなぁ。
曰く、「時代に合わせた顧客コミュニケーション」なんだそうな。梶さんの手法は。そしてまとめ方は「本日のお話を通して、梶さんは時代に合わせてチャネルをうまく使い分けてプロモーションを行っていると感じました。」とある。別に間違いではない。間違いではないが、今回の梶さんの話した内容の要点を捉えてるとは思えない。梶さんの手法は結果的に時代に合ったものになっているかもしれないが、彼が合わせてにいってるの時代ではなく、現実にそこに居る顧客そのものなのだ。
インタビューを読めばわかるが、別に彼は時代の流れを先読みしたりしてるわけではない。現在の状況とその環境の中にいる現実の顧客のニーズをしっかりと掴みにいっているに過ぎない。ドラマ『First Love』やエヴァで新規顧客層が来た、では彼らには何を提供しようか、というロジックで『SCIENCE FICTION』の制作に辿り着いている。サブスクで過去の楽曲がたくさん聴かれるようになった。ではここで宇多田ヒカルの昔の曲を聴いてもらう時にどうすればよいか、でトラベの再録に繋がっていく。話の順序は常にそうなのだ。現在の環境と顧客の状態や事情を読み取って、そこに宇多田ヒカルの曲を嵌め込んでいく。極めて、極めて基本に忠実なプロモーションを実直に、四半世紀にわたって続けてきただけなのである梶望という人は。だから凄い。
そういう梶さんが昔語っていたのが、「顧客をどこまで具体的に想定できるか」という話。その時は「下北沢在住の女の子」だったかな? どんなファッションでどんなメイクで、普段どこでバイトしてて友達はどんな風で、何を着てて何を食べてて何を読んでるか、それらを組み合わせながら「じゃあそんな彼女が聴きたくなる曲ってどんなのか? 今担当してるアーティストを聴いてもらう為にはどうすればいいか?」を考えていくのだという。結局は人なのである。これが彼の基本的な方法論だ。若い頃にラジオ局やCDショップを全国行脚したというのは今回のインタビューでも語っていたけど、実際に北海道から九州沖縄まで半年かけて歩き回ったらのだそうで、そんな徹底した現場主義の彼だから、行く先々で時代の風を感じることもあるだろう。だがしかし、合わせていくのは人なのだ。時代なんていうなんかでっかくて手に負えなくてあやふやな何かではない。これだけ彼の話を聞いておいてそこがわからないって、まぁ我田引水したかったのかなぁ。やれやれ。
ふむ、こういうことを書いた以上、既に読みながらムズムズしてる人も居ると思うけど、ヒカルのタワーレコードポスターの一言は引用しておかないとね。
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――――今をどのような時代であると思いますか?
時代と関係のないところで生きてきたのでわかりません。
https://tower.jp/nomusicnolife/2018/12
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こんなこと言っちゃうアーティストを25年もサポートしてきてるのに、「時代に合わせる」みたいなことをメインにプロモーションとかしないですよ。そんなのはどこまでも副次的なこと。宇多田ヒカルという人がそこに居て、彼女の書いて歌った歌がそこにあって、それを聴いてくれる人、聴かせたら反応してくれる人、これから聴いてくれるかもしれない人たちがいる。彼らが今どんな心情や状況なのかを見極めた上で売り込んでいく。それを毎回丁寧にやっていれば、それはいつのまにか時代に合った手法になってくよ。でもその逆じゃない。悪意はなかったんだろうけど、なのでタイトルはよくなかったな。でもインタビュー自体は素晴らしかったのでぐっちょぶです!!
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