ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん42…町田 『タイ屋台料理パッタイ』の、タイ風チャーハンと焼きビーフン

2006年05月13日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 このところの「町で見つけたオモシロごはん」は、娘とお散歩のネタばかりが続いている。いっそ「娘とお散歩・ランチ&おやつ」とカテゴリーを新設しようか、と思うほど。登場人物である当の娘はまだ幼稚園、ブログなどもちろん読めないが、大きくなったときにパパとの思い出としてバックナンバーを読んでくれれば… と、何とも親バカで恐縮しきり(苦笑)。

 そんな訳でゴールデンウィークの中日、娘と二人ぶらり散歩した街は町田。家内の仕事の合間に、小1時間ほど娘を預かるといったシチュエーションである。大学時代に小田急線で通学していたため、町田にはたまに途中下車したことがある。イメージとしては着るものを安く、大量に買える町。金もなければファッションに無頓着だった当時、ジーンズメイトやマルカワといった店で買いだめしていたことを思い出す。トレンドとは無縁の、庶民的で雑然とした町という印象だったが、10数年ぶりに行ってみると東急ハンズや109の周辺に、カフェ風の店や無国籍料理、和風ダイニングなど、いい感じの店も結構見かける。めったに行かない町で、あまり食べることがないものを選ぼう、と、この日のランチは思い切って、タイ料理である。

 店頭のカラフルな写真入りメニューにひかれて選んだのは、『タイ屋台料理パッタイ』という店。JR町田駅からすぐのところにあり、ビルの薄暗い階段を登って扉を開くと、店内はいきなりオリエンタルなテイスト。壁には水上マーケットやリクシャなどタイの風景画が描かれ、店内には猫の人形など雑貨があふれ、娘はいつもと違ったムードの店に興味津々といった感じだ。店頭にはグリーンカレーペーストやチリペーストといった調味料や雑貨、さらにタイ式ボクシングのムエタイのTシャツも売っている。

 ここはタイの家庭料理をベースに、あまりアレンジせず現地の味わいで出しているのが特徴で、店名のとおり本場・タイの屋台で修業した料理人による豊富なメニューが揃っている。辛さは控えめ、好みに合わせてくれる上に野菜やハーブを多様するため、ヘルシー志向なのが人気を呼んでいるという。だから店内はほとんどが女性客で、中には買い物帰りらしい雰囲気の家族連れの姿も。休日の家族での外食にタイ料理、というのも何だか面白いが、考えてみれば自分たちも同じようなものか。

 デザートつきの週替わりのランチを期待していたのだが、あいにく休日はやっておらず、写真がたくさん載った品書きを見ながら何にするか検討する。原色の彩が鮮やかな、いかにもエスニックなメニューがズラリと並んでいて、辛い料理は唐辛子マークが付いています、と店の人。子どもと一緒なので辛くないもの、そしてお昼だから麺かご飯もので手軽に済ますことにして、娘にはエビ入りタイ風チャーハンの「カオパットクン」、自分はタイ風焼きビーフンの「パッタイ」を注文した。五月晴れで暑い中を歩いてきたため、アルミのコップに入ったお冷やがありがたい。

 「どうぞ、どちらもお子さんと取り分けて食べられますよ」と、料理を運んできた店の人によると、コショウを抜いてくれたとのことでなかなか親切だ。自分の焼きビーフンはニラやモヤシがたっぷり、麺は名古屋のきしめんの厚さと幅をそれぞれ3分の1ぐらいにしたような細い薄い平麺で、さっそく頂くとケチャップのような味付けで甘酸っぱい味がする。やわやわの麺にシャッキリ野菜が対照的な食感で、辛さはないがニラのツンとした香りが何ともエスニック。プリプリの生エビに加え、干しエビも使っているからエビの香ばしさがグッと引き立っている。もちろんまったく辛くないので、娘にすこしおすそ分け。エビをいっぱいもらって、うれしそうである。

 食べ進めていると、「味は子どもに合わせているので、刺激が足りなければどうぞ」と、さっきの店の人が今度は薬味をひと揃え運んできてくれた。唐辛子酢とタイ醤油、粉唐辛子の3種で、タイ料理ならではの辛さを演出するにはこれらが不可欠だ。ひと通り使ってみると、それぞれ辛さのタイプが異なるのが面白い。粉唐辛子はマイルドだが後で劇的な辛みがビシッ、タイ醤油はコクのあるしょっぱさ、唐辛子酢は鋭い辛みとしっとりした酸味が広がってくる。これでようやくタイ料理らしくなってきたな、と食べ進めるにつれ、次第に額から汗が流れてきた。

 娘が食べているチャーハンは、たっぷりのエビに卵とタマネギと具はシンプルで、ひと口頂くと薄味でしっとり。これなら子供でも好んで食べられる、やさしい味わいだ。大人用の一人前なので食べきれないだろうと思い、少し分けてもらおうとしたら「ひとりで食べる!」と怒られてしまった。トマトやキュウリなどサラダと一緒に、ほとんど食べきったのには驚き。いつもは頼んだものを食べきれないのを見越して、こちらも軽めの焼きビーフンにしておいたのだが、焼きビーフンも結構あげたため、自分が少々満腹に足りないぐらい。よほどこの店流のタイ料理が気に入ったようである。

 デザートにはタイ風焼きプリンなどもあり、店で頂いてもいいけれど、娘のご所望はおそらく、アイス。さっき通りで、行列のできている生乳ソフトクリームのショップを見かけたのを思い出し、そちらへ行ってみようか。エスニックでランチの後はスイーツでひと息と、今日も娘とお散歩のメニューは盛りだくさん。結婚前、家内とのデートではこんなにがんばっていたっけかな? (2006年5月3日食記)

旅で出会ったローカルごはん50…富士宮 『すぎ本』の、富士宮焼きそばとお好み焼きハーフのセット

2006年05月11日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 ラーメンの食べ歩きだと、2軒もはしごすればもうとても食べられないが、お腹と相談したらもう1軒ぐらいいけそう。富士宮の焼きそばは量が手頃なため、食べ歩きには向いているようだ。浅間大社の門前にある「ここずらよ」を後に、さらに店を探して歩く前に、宮町商店街の一角にある「お宮横丁」にもちょっと寄ってみた。地元の名物を扱う飲食・物販店が集まる、ちょっとしたフードコートになっており、入口にある店には数人の行列ができている。ここはやきそばで町おこしを目的とした「富士宮やきそば学会」のアンテナショップで、焼きそばのテイクアウトができるほか、持ち帰り用焼きそば、ミニタオル、ミニ幟、ストラップ、さらに焼きそば音頭のCDなど、様々な焼きそばグッズが揃っているのが面白い。ほか和風カフェ、ジェラート、富士の湧水で仕込んだだんごの店などが並び、お客は中央の大屋根の下に並ぶ縁台に腰掛け、買ってきたものを食べながらくつろいでいる。焼きそばを食べている人の中には、さっきのはとバスのバッジをつけた人も。アンテナショップの前の焼きそば神社に参拝?し、中央に湧き出す富士の雪解け湧水でのどを再び潤す。

 3食目の焼きそばはここで頂いてもいいかな、とアンテナショップに向かおうとして、奥にもう1軒、焼きそばを売る店を見つけた。店頭に掲げられた看板には「創業昭和23年老舗の味、富士宮焼きそば専門店」とあり、どうやら地元の老舗の出店のようだ。本店の案内図も載っていて、商店街を西富士宮駅方向にちょっと歩いたところらしい。駅前の喫茶店、神社門前の物産店と食べ歩いたので、締めくくりは本格的な焼きそば専門店であるこの『すぎ本』に行ってみることにしよう。商店街から路地へと入り、店へと近づくと、次第にコテの音がカチャカチャ、人の気配がガヤガヤ、時折「お待たせしました!」と響くおばさんの声。まだ店に入っていないのに、活気が店の外まであふれている。

 ガラリと戸を開けて中へ入ると、座敷もカウンターもほぼ埋まっている。ほとんどが地元のなじみ客で賑わっている様子で、店の人とのやりとりが、和気藹々とした雰囲気だ。座敷の客は大きな鉄板つきのテーブルで、焼きそばやお好み焼きを人数分まとめて焼いては取り分けている。カウンターの隅に席が空いたので腰掛け、店の人を呼び止めようとしたが「ちょっと待ってね!」と注文をさばくのに忙しそう。厨房でも調理担当の男性が鉄板の前でフル回転、おばさんと姉さんがサポートしている。店長の鈴木きよみさんを中心に家族経営の店らしく、昼時の混雑をみんな一丸となって、てんてこまいでこなしている。

 忙しそうなおばちゃんをようやくつかまえて、焼きそばを頼んでみたら、「みんな富士宮に焼きそばを食べにくるけど、お好み焼きもおいしいよ。うちのもぜひどうぞ」。富士宮やきそばマップにも、焼きそばの店の多くはお好み焼きも食べられる、とあり、この店の品書きにも「昭和20年より50年以上同じ製法で、広島風でも大阪風でもない富士宮風」と勧めている。

 とはいえ焼きそばも外せないし、両方はお腹に入らなそうだな、とあきらめかかったところ、品書きに「お好み焼きと焼きそばのハーフもできます」。それほどまでにお勧めならば、がんばって両方食べてみようか。具は1種ずつ別料金になっていて、焼きそばもお好み焼きも肉、イカ、エビ、シイタケ入りの「五目」にしてもらう。食べ歩きの最後だから、と中ジョッキも頼み、突き出しのおでんと先に運ばれてきたお好み焼きをつまみながらグイッ。生地がスポンジのようにふわふわで、干したサクラエビが香ばしい。

 ジョッキが半分ほど空き、ハーフのお好み焼きの半分ほど平らげたところで、おばちゃんが焼きそばを運んできた。ここの焼きそばやや細麺、つまり一般のソース焼きそばと同じぐらいの太さ。五目にしたため具が豊かで、豚肉が入るとこれは焼きそば、といった感じになる。味の秘訣は店の売りであるブレンドソースで、ピリッと効いた辛さがまた、ソース焼きそば風。老舗の焼きそばが、いちばん一般的な焼きそばに近いスタイルなのも、何だか面白い。

 それにしても、ハーフといってもお好み焼き、焼きそばともに、普通に1人前はあるサイズで、焼きそばを2軒はしごしたあとではさすがに全部は食べられない。お好み焼きの半分をテイクアウトにしてもらい、腹ごなしにさらに小1時間商店街をぶらぶらして、富士宮駅で焼きそばの町を後にした。乗り込んだ甲府行きの特急は、峠へ向けて高度を稼ぐために、市街を迂回したり蛇行したりしながらゆっくりと進んでいく。すると車窓の右手に、ゆったり大きく浮かんだ富士山! さっきからの程良い揺れのおかげでお腹に余裕ができたので、富士山を眺めながら残りのお好み焼きを頂くとしよう。(2006年5月1日食記)

旅で出会ったローカルごはん49…富士宮 『ここずらよ』の、だし粉とイカが決め手の富士宮焼きそば

2006年05月10日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 富士宮はそもそも、富士山への登山客や市街にある富士山本宮浅間大社の参拝客、さらに身延線沿線から町へやってくる買い物客らで賑わったという。富士宮の焼きそばは、そうした人たち相手に商売していたお好み焼き屋や駄菓子屋で出し始めたという。当時はまだ冷蔵庫が普及しておらず、日持ちを良くするため水分を少なくして麺をつくっていたため、この個性的な麺が富士宮に広まり、定着していったようだ。おかげで一般的に普及している柔らかい焼きそばは、富士宮ではほとんど普及していないのだとか。

 そんな富士宮固有の食文化に注目して、富士宮には「富士宮焼きそば学会」という組織が存在する。学会といっても研究機関ではなく、いわば焼きそばによる町おこしの事務局といったところ。マイロード本町商店街の沿道や路地に見かける、「う宮(ウミヤー)!富士宮やきそば」と書かれたオレンジ色の幟が学会加盟店の目印で、市街から富士山の裾野までその数150軒近い。焼きそば専門店をはじめ、さっきの「トトロ」のような喫茶店や食堂、中華料理屋、居酒屋など扱っている店は様々で、それだけ地元に深く浸透している証しかも知れない。ホームページによると「調理方法12の特徴」と題し、麺や肉かすのほか、キャベツは富士宮の高原キャベツ、水は富士山の湧水、熱くて大きい鉄板で強い火力で仕上げるなど、定義がいくつも挙げられている。こうした基本形に加えて、店によってソースや具、薬味を工夫して、独自の味をつくりだしているようである。

 商店街を抜けて神田橋を渡ると、赤い大鳥居が見えてきた。富士宮随一の見どころである富士山本宮浅間大社は、ご神体が富士山というスケールの大きな社だ。真紅の本殿を参拝して、境内に湧く湧玉池へ。富士山の雪解け水が毎分360リットル湧き出す湧水池で、池端にある水屋神社には、ずらりと並んだ竹の樋から湧水がこんこんと湧き出でている。ひしゃくでひと口飲んでみると、くせのない柔らかい味。「富士宮は富士山の湧水に恵まれていて、水がいいから焼きそばの麺もうまい」との、トトロのおばちゃんの話をまた思い出す。

 焼きそばを食べて、汗ばむような陽気の中を歩いた後は、おいしい湧水がありがたい。ゴクゴク飲んでのどを潤したら、大鳥居のたもとにあった『ここずらよ』で、富士宮焼きそば2軒目のはしごといきたい。駐車場の一角に小ぢんまりと立つ店で、右半分は売店、左半分が食事コーナーになっている。売店にはお茶、朝霧高原のソーセージといった富士周辺の特産品がズラリ、富士宮焼きそばの持ち帰り用セットもあり、そばのほかソース、さらに肉かすと紅ショウガつきなのが親切というか、本場の味に忠実というか。帰りに買っていくかな、と気にしながら食事コーナーのほうを覗くと、大きな鉄板を据えたテーブルのそばに、おばちゃんがふたり座っている。お昼時にはちょっと早いため客はなく、手持ち無沙汰な様子だ。

 店へ入るとこの鉄板の席へと通されて、さっそく焼きそばを注文するとおばちゃんがキャベツ、そのそばで別に肉かすを炒め始めた。キャベツに火が通ったら上に麺をのせて、さらに熱を加えていく。「ここの麺は固めだから、キャベツの水分で麺を蒸すように炒めるんだよ」。目の前で作っているのを眺めつつ、おばちゃんの説明を受けるから分かりやすい。ちなみに富士宮焼きそばの麺は市街の3つのメーカーでつくっており、ここのは富士宮駅の東寄りの「マルモ食品」製とのこと。麺にしっかり熱が通ったところで、脂がじっくり出た肉かすとイカを加え、ソースをかけて麺をほぐしながら混ぜ合わせていく。この間、わずか数分。手早く焼き上げるのもうまさの秘訣のようで、作られていく様子を見ていると、いっそう食欲が湧いてくる。

 皿に盛ったらいよいよでき上がりで、仕上げに何やら粉をパッパッ、と振って目の前に出された。この店の焼きそばはイカ入りなのが特徴で、肉かすといっしょに炒めているので味にしっかりコクが出てうまい。さらに旨味を加えているのが、仕上げに振った粉。花カツオをグッと凝縮したような風味で、おばちゃんに聞くと「これはだし粉」とのこと。正体はイワシの削り節の粉末に青海苔をブレンドしたもので、カツオブシよりも風味が強く香り高いのが特徴だ。そのため腰の強い麺との相性もよく、これまた富士宮焼きそばには欠かせない必須アイテムのひとつだ。魚介のダシだけにイカの旨味ともよくマッチして、ちょっと海鮮焼きそば風の味わいか。

 支払いの際に、「お客さんもはとバスで来たの?」とおばちゃんに聞かれ、駐車場に目をやると黄色いバスが止まっている。はとバスのコース名を見ると、「富士宮焼きそばと久能山いちごがり」となっていた。富士宮焼きそばは最近首都圏でも注目を浴び、足を運んで食べに来る観光客も増えているとか。ご当地ラーメンにあやかり、最近はカレーや餃子など、町おこしに使われる料理は多様化しているけれど、焼きそばは値段も安く量も手ごろ。食べ歩きをするのに、お腹にとっても財布にとっても結構ありがたいかも。(2006年5月1日食記)

旅で出会ったローカルごはん48…富士宮 『キッチントトロ』の、海苔たっぷりの本場富士宮焼きそば

2006年05月08日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 東海道本線の富士駅で身延線の列車に乗り換え、富士宮駅へはわずか20分ほど。時計を見るとまだ10時過ぎで、市街を散策するには少々早く着きすぎた。どこかでコーヒーでも飲もうか、と駅前通りを歩きながら、遠くをぐるりと見渡してみる。地名からして、駅を降りると目の目に大きくそびえる富士山を期待していたが、天気はゴールデンウィークの五月晴れというのに霞がかかっていてまったく見えない。

 広々した通りを歩いているとすぐ、レンガ造りの外観の喫茶店を発見。『キッチントトロ』との看板がかかっていて、やってますか、と声をかけると、「喫茶なら大丈夫、食事は焼きそばならできますよ」と、黒一色のしゃれた服のおばさんが愛想良く迎えてくれた。こぢんまりした店内には猫の人形など小物がいっぱいで、ケーキやクッキーほか、キッチンウェアなど雑貨も売っている。店名のトトロのぬいぐるみの横に腰掛け、品書きを見ると喫茶や軽食のメニューの中に、「焼きそば」の文字が。大盛りと普通盛りがあり、普通盛りは500円と安い。さっきのおばさんの言葉を思い出し、アイスコーヒーに焼きそばと、何とも不思議な組み合わせでモーニングにすることに。

 この店はスパゲティやピザ、ドリアほか日替わりのおまかせ弁当など、手作り料理の評判が高い軽食喫茶である。注文すると厨房からジャッジャッと音がして、先に焼きそばが運ばれてきた。ひとすすりして思わずびっくり、麺におそろしく腰があるのだ。太さは普通のソース焼きそばよりやや太いぐらいなのに、グイグイと押し返す弾力がある。具はキャベツたっぷりで、肉は見当たらないかわりにカリカリ香ばしい小片が入っており、ジットリと出た味わい深い旨味が実に後をひく。鉄板焼きのソース焼きそばでもなければ、中華の焼きそばとも違ったスタイルの、何とも個性的な焼きそばである。

 「お客さんは東京から? この町の焼きそばは変わってておいしいでしょ」おばさんによると、焼きそばは古くから富士宮の名物とのこと。その名もズバリ「富士宮やきそば」の大きな特徴が、このグッと歯ごたえのある麺である。小麦粉に水を加えて練ってこしらえた麺を、一般の焼きそばの製麺法ではもう一度ゆでるところを、富士宮の焼きそばは冷やしてから油で覆って仕上げる「蒸麺製法」をとっている。冷やすことで水分がとび、あの強烈な腰が出るというわけだ。それに味わいを加えているのが、例のカリカリの小片。「肉かす」と呼ばれているその正体は、ラードを絞った後の脂身で、これを炒めることでこってり濃厚な旨味が出るのだ。

 「うちでは油でコーティングした麺に、揚げた背脂を加えて炒めているの。それに「ワサビ印のソース」を使っているからさっぱりしてるでしょ」ワサビ印のソースとは、県内の大井川町に工場がある地元メーカー・鈴勝の、昔ながらのスタイルの洋食用ソース。見た目はやや白っぽく塩焼きそば風だが、しっかりと味がついているのはそのためか。さらに上には伊豆産ののりをたっぷり、薬味には好みで一味唐辛子をかけるのがここのオリジナルで、一味をかけるとピリ辛、スパイシーで食欲が出てくる。

 軽くひと皿食べ終えてコーヒーでひと息。するとおばさんは厨房から、富士宮やきそばマップを出してきて、「ぜひ食べ歩いてごらん。オレンジの幟が立っている店が目印だよ」と勧めてくれた。富士山麓の町歩きがてら、富士宮の名物の真髄に触れるべく、いざ、焼きそばはしご食いに出発といこう。(2006年5月1日食記)

町で見つけたオモシロごはん41…横浜・中華街 『龍門』の、値段お手ごろな飲茶コース

2006年05月07日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 日本各地にある中華街の中でも、随一の規模を誇るのが横浜中華街。週末ともなれば観光客が押し寄せ、歩くのに苦労するほどものすごい人混みとなる。立ち並ぶ料理屋ではどこでも、本場直伝の中華料理が食べられる、と言いたいところだが、料理の手間や食材の費用を削るような儲け主義の店や、中国人独特の気質もあるが応対も接客業にしてはぶっきらぼうなところも。中華街は飲食店街である以上に、横浜で有数の「観光地」。本格的な中華料理への期待ももっともだが、チャイナムードの町をぶらぶら歩いたり、オリエンタルな雑貨屋を覗いたり、を主目的にしたほうが、ある意味無難な気がする。

 自分もたまには中華街へ食事に行くことはあるが、店選びは行き当たりばったりの適当。うちから近いし、安めのコースで紹興酒を飲んで、という程度で楽しむことにしている。この日も夜になってから思い立って、家内と中華街へとクルマで食事に行くことにした。元町近くにクルマを停めて、南門シルクロードから関帝廟通り、そして市場通りと歩いて、思いついた店に入るのがお決まりの店探しコースだ。市場通りの上海料理店「四五六菜館」を候補に、その先の中華街大通りまで足を運ぶと、2000円を切る飲茶のコースがある小さな店を見つけた。「激辛メニュー」など、店頭にある一品料理もなかなかよさそう。相談の上、この福建料理の『龍門』を試してみることにしたのだが…。

 すでに23時近いのに連休のせいか、まるでテーブルをぎゅうぎゅうに押し込んだような狭い店内にはびっしりとお客が入っている。「ここへ」と通された席はトイレの前の二人席で、そこしか空いていないのでまあ仕方ない。自分がトイレが近い側になって席に着いたら、飲茶コースをふたり分と紹興酒のボトルを頼み、さっそく紹興酒で乾杯。奥では店の人が4人テーブルをひとりで占拠して、調味料の詰め替えをやっている。空いているのならあっちの席へ移りたいのだが、と、お姉さんを呼び止めて頼もうとしたところ、「あれは4人席!」と通りすがりに足もとめず一喝。

 飲茶のコースはチャーシューと蒸し鶏の前菜の後、フカヒレスープ、五目焼きそば、蒸籠入りの点心が4品に中華ちまき、デザートには杏仁豆腐といった流れで、値段からするとかなり充実した内容だ。狭いテーブルに、食べ進めるテンポとはまったく無関係にじゃんじゃん運ばれてくるので、こちらもじゃんじゃんとり分けて皿を空にして、と忙しい。飲茶コースだけに点心がなかなかで、シュウマイと蒸し餃子、小龍包を頂いて、合間に紹興酒をグッ。どれも肉汁がたっぷりなのがうれしい。調味料はほとんど隙間のない隣の席と共用で、醤油をとろうとして見つけた黒酢を焼きそばにかけてみる。長崎の皿うどん風で、柔らかな酸味が食欲をそそる。

 ほっこり蒸しあがった中華ちまきを平らげた後に、そういえば、と思い出して店頭の激辛メニューを頼もうとしたら、ラストオーダーは0時半だからまだ大丈夫なはずなのに、「もう飲み物以外は受け付けない」とのこと。杏仁豆腐と点心の桃まんで締めくくり、食後のお茶を頼んだところ運ばれてきたのが水だったので、近くのコンビニでジャスミン茶を買うことにして飲まずに店を後にする。

 中国には行ったことないけれど、現地の場末の店はこんな感じなのかな、と、ある意味本場風? の接客を思い返してつい苦笑。料理の味と値段はまずまずで、ただ期待の激辛メニューを頼めなかったため、お互いまだ少々食べ足りない。夜遅くなったのをいいことに、昼間なら行列の家系ラーメンの「杉田家」へ行ってみようか。こんな日は地元へ戻って、ハズレのないお気に入りの店で締めくくろう。(2006年5月5日食記)