ラーメン屋には基本的に、女性客の姿は少ない。いないことはないのだが家族連れだったり、カップルだったりがほとんどで、女性だけのグループ客はほとんど見かけない。ましてや女性ひとり客など皆無である。評判の高いラーメンの店といえば、脂ぎったカウンターのみの店内に、厨房で鎮座する巨大な寸胴からもうもうと湯気が上がり、職人気質の気難しそうな主人がビシッと麺の湯切り、といった感じ。若い女性がひとり、ふらりと入るには少々勇気、というか度胸がいるだろう。とはいえ女性だってラーメン愛好家、食べ歩きマニアは存在するだろうし、最近独身女性の間で話題の「おひとり様ごはん」にも、麺の一品料理は向いている。いっそ女性にターゲットを絞ったラーメン屋があれば、結構話題沸騰となるのではないだろうか。
…などと思っていたら、すでにそういう店は存在しており、浅学の限りである。川崎でお昼を食べようと、11時過ぎに京急川崎駅前のアミューズメントビル「ダイス」の6階飲食店街を訪れた際、ためしにその『麺屋空海』で昼食をとってみることにした。フロアの奥寄りにある店を訪れて、まずはびっくり。木調と金属の質感を生かした、近代的な内装。広めのフロアには、デザイナーズ風のしゃれたテーブルセットが少なめに配置された、ゆとりを持った空間。照明を落とし気味の店内にぼんやり浮かぶ、「KOOKAI」のサイン。どう見てもラーメン屋には見えず、まるでダイニングバーかカフェのようである。
フロアの担当はすべて女性で、黒一色のユニフォームが清潔感があふれる。腰を低くしてオーダーを受けるなど、気さくなラーメン屋のおばちゃんとはまた違う、折り目正しい接客が気持ちいい。厨房は明るい雰囲気のオープンキッチンで、中には職人風の親父ではなく、こちらも長髪イケメンの兄さんが仕切っている。トングを使って麺をよそっている様子は、何だかパスタの店のようだ。さっそくオーダー、とメニューを開くと、一番人気である味玉そばを始め、鳥そば、わんたんそばと、あっさりとヘルシーなものが揃っている様子。「初めての方は味玉そばがおすすめ」とあるが、たっぷりのワンタンにひかれてわんたんそばを注文した。隣の席にはカップルが座っており、六本木や青山のカフェでデート、といっても不思議はないようなムードで、ジャズボーカルが流れる中、仲良く麺をすすっている。
渋谷区参宮橋で2002年にオープンしたこの店、現在は首都圏を中心に12店ほどの店舗を構えている。店の雰囲気からして最先端の話題の町に出店していると思いきや、ここ川崎ほか錦糸町、新宿歌舞伎町、北千住など、展開している町は割と庶民的。味の構造はラーメン屋にしてはかなり異色で、フランスの三ツ星レストランなどで修行暦のあるシェフが関わっている影響で、様々なフレンチの技法を取り入れているという。さらに塩はフランス・ゲランド産、醤油は山口の地醤油を使用、麺には内モンゴル地方の天然カンスイと、食材へのこだわりもかなりのもの。インテリアや店の雰囲気も合わせ、従来のラーメン屋の枠組みにとらわれないスタイルが、人気のもとになっているようだ。
運ばれてきたラーメンはやや小振りな丼で、さっそくスープからひと口。透明に澄んでおりあっさりしているが、様々な旨味が複雑に絡んでいる。スープの採り方はフレンチのダシ「フォン」のとり方に倣い、ゲンコツやトリガラをローストしてからダシをとっているそうで、立体的かつ繊細な味わいが後を引く。腰のある麺はやや細めで、ワンタンはたっぷりのエビが甘味がありプリプリの食感。角煮がドン、とのっていたり、背脂がごってり浮いているラーメンと比べて重量感には欠けるけれど、奥行きのある上品な味は型破りでなかなか鮮烈。ラーメンというより、洋風の「ヌードル」という呼び方のほうが似合うような気がする。
そろそろ12時が近くなり、本格的なランチタイムになり次第にお客が増えてきた。驚くことに、その多くが女性。職場の仲間同士といったグループほか、女性一人客もけっこういる。まるで女性専用ラーメン屋の中に、男性が間違って混じってしまったようで、少々落ち着かなくなってきた。麺を平らげたところで、お腹のほうはまだ腹八分といった感じ。ランチタイムサービスのご飯は、いつもなら丼のスープの中に入れてラーメンライスにするところだが、この店の雰囲気ではちとやりづらいかも?(2006年4月19日食記)
…などと思っていたら、すでにそういう店は存在しており、浅学の限りである。川崎でお昼を食べようと、11時過ぎに京急川崎駅前のアミューズメントビル「ダイス」の6階飲食店街を訪れた際、ためしにその『麺屋空海』で昼食をとってみることにした。フロアの奥寄りにある店を訪れて、まずはびっくり。木調と金属の質感を生かした、近代的な内装。広めのフロアには、デザイナーズ風のしゃれたテーブルセットが少なめに配置された、ゆとりを持った空間。照明を落とし気味の店内にぼんやり浮かぶ、「KOOKAI」のサイン。どう見てもラーメン屋には見えず、まるでダイニングバーかカフェのようである。
フロアの担当はすべて女性で、黒一色のユニフォームが清潔感があふれる。腰を低くしてオーダーを受けるなど、気さくなラーメン屋のおばちゃんとはまた違う、折り目正しい接客が気持ちいい。厨房は明るい雰囲気のオープンキッチンで、中には職人風の親父ではなく、こちらも長髪イケメンの兄さんが仕切っている。トングを使って麺をよそっている様子は、何だかパスタの店のようだ。さっそくオーダー、とメニューを開くと、一番人気である味玉そばを始め、鳥そば、わんたんそばと、あっさりとヘルシーなものが揃っている様子。「初めての方は味玉そばがおすすめ」とあるが、たっぷりのワンタンにひかれてわんたんそばを注文した。隣の席にはカップルが座っており、六本木や青山のカフェでデート、といっても不思議はないようなムードで、ジャズボーカルが流れる中、仲良く麺をすすっている。
渋谷区参宮橋で2002年にオープンしたこの店、現在は首都圏を中心に12店ほどの店舗を構えている。店の雰囲気からして最先端の話題の町に出店していると思いきや、ここ川崎ほか錦糸町、新宿歌舞伎町、北千住など、展開している町は割と庶民的。味の構造はラーメン屋にしてはかなり異色で、フランスの三ツ星レストランなどで修行暦のあるシェフが関わっている影響で、様々なフレンチの技法を取り入れているという。さらに塩はフランス・ゲランド産、醤油は山口の地醤油を使用、麺には内モンゴル地方の天然カンスイと、食材へのこだわりもかなりのもの。インテリアや店の雰囲気も合わせ、従来のラーメン屋の枠組みにとらわれないスタイルが、人気のもとになっているようだ。
運ばれてきたラーメンはやや小振りな丼で、さっそくスープからひと口。透明に澄んでおりあっさりしているが、様々な旨味が複雑に絡んでいる。スープの採り方はフレンチのダシ「フォン」のとり方に倣い、ゲンコツやトリガラをローストしてからダシをとっているそうで、立体的かつ繊細な味わいが後を引く。腰のある麺はやや細めで、ワンタンはたっぷりのエビが甘味がありプリプリの食感。角煮がドン、とのっていたり、背脂がごってり浮いているラーメンと比べて重量感には欠けるけれど、奥行きのある上品な味は型破りでなかなか鮮烈。ラーメンというより、洋風の「ヌードル」という呼び方のほうが似合うような気がする。
そろそろ12時が近くなり、本格的なランチタイムになり次第にお客が増えてきた。驚くことに、その多くが女性。職場の仲間同士といったグループほか、女性一人客もけっこういる。まるで女性専用ラーメン屋の中に、男性が間違って混じってしまったようで、少々落ち着かなくなってきた。麺を平らげたところで、お腹のほうはまだ腹八分といった感じ。ランチタイムサービスのご飯は、いつもなら丼のスープの中に入れてラーメンライスにするところだが、この店の雰囲気ではちとやりづらいかも?(2006年4月19日食記)