ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん43…金沢文庫・称名寺 『金沢庵』の、参道で頂くアナゴ天ぷらと牛スジ煮込み

2006年05月16日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 ゴールデンウィークも中盤に差し掛かると、遊びの資金が次第にさびしくなってくる。天気もいいし、娘と近くの八景島へでも行ってみるか、と思ったが、アトラクションに乗ったり飲み食いをしたりして、果たして手持ちの予算で足りるだろうか。交通費を節約すべく、バスのプリペイドカードがあるのでそれで金沢文庫駅へ、そこからは八景島がある海の方へ向かって歩いてみるか。途中に拝観料無料の称名寺があるから、そこで休憩しながらのんびり行くことにしよう。

 鎌倉時代に北条実時が開いた称名寺は、大きな苑池を中心とした広々した浄土庭園が見ものだ。池には深紅の反り橋が架かり、その向こうには金堂が建っている。池の周りを散歩しつつ周囲を眺めると、目に入るのは緑の木々ばかりで伽藍のほかは人工の建造物を見かけない。住宅街の中にあることを忘れさせてくれる、のどかな風景だ。ぐるりと庭園を一周したら、入口の赤門から続く石畳の参道へ。沿道には売店や飲食店が数軒並び、ちょっとした門前町の風情だ。雑貨の店、ラーメンの「赤門ラーメン」、カフェなど、意外に店の種類は豊富。赤門のすぐ脇には「ふみくら茶屋」という立派な料理屋があり、近隣の柴漁港で揚がる東京湾のシャコやアナゴを使った懐石を出している。

 八景島まで行くと、きっとおやつやランチは高くつくと思い、これらの店のどこかで娘にはおやつ、そして例によって自分は遅めの昼ご飯を頂くことにした。ふみくら茶屋のアナゴ丼にもひかれたが少々お高いので、「おでん」「甘酒」の幟に誘われて『金沢庵』という茶店でひと息入れることに。天気がいいので店頭のテーブル席に腰を下ろすと、中から品書きを片手に出てきたおばちゃんがニコニコと愛想が良い。「どうぞ、今日は暑いでしょ」と娘に麦茶を出してくれた。

 品書きにはそばやうどんなど軽食に加え、天ぷらがいくつか並んでおり、おばちゃんによると柴漁港で揚がった地物をタネにしているとのこと。アナゴの天ぷらと牛スジ煮込み、そして麦茶もいいが渇いたのどにはやっぱり麦酒。そして娘はあんみつやみつ豆などが並ぶ甘味の中から、やっぱりアイスを選んだ。すぐによく冷えたスーパードライの缶に、柴漬けの小鉢が添えて出されたのがありがたい。娘はアイスを待ちながら店のまわりを飛び回り、タンポポの綿毛飛ばしに夢中の様子。先に缶ビールをぐっとやっていると、五月晴れの陽気とそよぐ風が気持ちいい。

 それにしても、昼間から牛スジの煮込みでビールをあおるなんで、連休ならではのお楽しみだろう。じっくり煮込んでいるので肉はホロリ、ゼラチンの部分はトロトロによく煮えている。薄味に仕上がっているため、よくかんでいるとスジの部分の旨味がしっかりと楽しめる。居酒屋のとは違った茶屋風の味、沿道の桜が咲く4月の初め頃ならば、花見気分が盛り上がる一品だろう。そして登場したアナゴは何と、丸1本長いのが角皿にドン、とのってなかなかの迫力だ。かなり淡白な白身で、揚げたてだから熱々ホクホク、これはビールが進む。アイスを食べ終えていた娘にひと口あげると気に入ったようで、こちらが食べるペースよりも早くおかわりを連発。気がつけば自分は最初のひと口と最後のしっぽだけ食べ、あとはほとんどとられてしまった。まあいいか、と牛スジと柴漬けでビールをグッ。牛スジが少々冷めてきたので、七味をたっぷりと振りかけてみる。

 先にごちそうさまの娘は、参道にたむろしている猫と遊びに行ってしまった。自分はアナゴ天の皿に残った天かすをつまみつつ、残りのビールを飲み干す。五月晴れのおかげで緑鮮やかな称名寺で、昼間からほろ酔い。金はないけど、何だか天下泰平な気分のゴールデンウィーク中日である。(2006年5月5日食記)