ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん79…横浜 『横浜金沢七福神めぐり』の、お接待の七草がゆ

2007年02月20日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 「春の七草」を7種全部、すらすらと挙げられるだろうか。せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、これぞ七草、が正解。ではそれぞれ、一体どんな草花かご存知だろうか。ちなみにごぎょうとは「ははこぐさ」という、田んぼのあぜに生えている草で、ほとけのざはシソ科の「おにたびらこ」。せりやなずな、すずなとすずしろは言うに及ばす… か? 正月が過ぎて1月7日に頂く「七草がゆ」は、これらを炊き込んだお粥で、時期になるとスーパーなどで七草全種をパックで売っているのを目にする。昔は野や田んぼで摘み草で収穫してきたのだろうが、近頃は摘み草はおろか、七草がゆを食べること自体、少なくなってしまった。1月7日といえば仕事始めを過ぎているし、すっかり通常の生活のリズムになってしまっているため、そんな風習があったことをつい、忘れてしまいがちだ。

 今年の暦は、仕事始めの後がすぐに週末、さらに成人の日も加えた3連休となり、なかなか正月ムードが抜けきらない。3連休の中日の日曜には、自宅近くの七福神めぐりのスタンプラリーが催されることになり、家族みんなで出かけることとなった。「横浜金沢七福神」めぐりは、金沢区に点在する7つの寺社を巡り、参拝してスタンプをもらうという趣向で、我が家の毎年年始恒例行事のひとつにもなっている。自宅最寄の富岡八幡宮をスタートに、布袋尊の長昌寺、福禄寿の正法院、弁財天の瀬戸神社へ。寺社は京急線で3駅ほどの広範囲に点在しているため、歩きではなくクルマを利用、おかげで楽々、順調にスイスイと進む。大黒天の龍華寺や毘沙門天の伝心寺あたりは、古くからの漁師町風情が今も残るエリアで、漁師にとっての鎮守様や菩提寺といった感じか。巡るにつれてどんどん海のほうへと向かっていくのが、ここの七福神めぐりならでは、といった感じである。

 最後に残った「宝蔵院」は、東京湾に面した柴漁港に近い、昔ながらの漁師町に位置する寺である。シーサイドラインに沿った、海の公園沿いの通りから、行き違いもやっとなぐらいの細い路地を何とか登り、やや高台にある寺へと到着。小ぢんまりした境内からは海のほうが一望でき、かつての海岸線と、その先の埋め立てられたエリアがなんとなく分かる。さらに遠くにそびえる、横浜八景島シーパラダイスの展望塔。かつて安藤広重が浮世絵に描いたという「金沢八景」の景勝のひとつ、「乙艫の帰帆」と称される海岸風景を頭の中で想像して、目の前に広がる風景と比較してみる。

 ここで寿老人のスタンプを押してもらって、七福神めぐりは無事終了。駆け足で寺社をまわったため、ちょっと一休みしていきたいところだ。すると境内の一角で、大きな鍋で何やら炊いているのを見かけ、足を運んでみると「七草粥」との貼紙が。七福神めぐりの参拝者向けのお接待らしく、境内で立ったまま頂いたり、本堂の階段に腰掛けて食べている人の姿も見られる。お昼もまだだったので家族全員分の4つお願いすると、大きな鍋から椀に盛りながら「本堂のほうへ運ぶから、どうぞあがってお待ちください」とのこと。本堂の中に食事と休憩用の席が設けられていて、お茶とお茶菓子まで用意されている。お言葉に甘えて皆で腰を下ろし、七草粥とお菓子で遅いお昼兼喫茶タイムとした。

 そもそも七草粥は、正月にご馳走やお酒をたくさん頂いて疲れ気味の胃腸を休めるための料理とか、正月料理から日常の食生活に戻る区切りの料理とか、目的は諸説唱えられている。1月7日の朝に無病息災を祈願して頂くのが慣わしとされているが、実際にはこの頃に春の七草はまだすべてがそろっておらず、家庭にある野菜を7種ほど適当に刻んで入れるのが一般的なのだとか。確かに七草のなかでも、すずな(カブ)とすずしろ(大根)、あとセリ以外は、家庭ではちょっと手に入りづらいのだろう。ちなみに七草を正しくすべて入れると、かなり青臭い粥になってしまうらしい。この日頂いた粥も、すずな、すずしろにせりに加え、餅を加えてあるのが面白い。ひと口頂くとほとんど味がついておらず、素材の味そのまま、究極のあっさり味だ。確かに草の香りが鮮烈だけれど瑞々しくもあり、草の生命の息吹きを感じる味である。すすっては、卓上にあった塩を適度に振り、を繰り返し、さらりとあっという間に頂いてしまった。

 この日は空がすっきりと晴れ渡っており、足元からビシビシと凍みるような冷え込み。加えてこの正月は、少々過食、過飲気味だったから、こうしたあっさりと温かい食事は実に身にしみる。例年だと忘れがちな1月7日の七草がゆも、暦のおかげ、そしてスタンプラリーのおかげで、今年はありがたく味わうことができた。この後はゴール地点である横浜八景島シーパラダイスへ、スタンプの台紙をもって行くと、記念品が頂ける。そういえば八景島ではちょうど、秋田の物産フェアをやっている真っ最中だ。七草がゆで胃腸の調子も上がってきたことだし、地酒の試飲にテイクアウトのキリタンポ、横手やきそばと、七福神めぐりの精進落としを楽しむとしようか。(2007年1月7日食記)