早朝から四国屈指の水揚げを誇る、愛媛県の八幡浜漁港を歩き回ったおかげで、瀬戸内や宇和海、高知沖の太平洋まで、様々な魚を目にすることができた。無事に散策を終え、次の目的地は四万十川に面した中村だ。八幡浜駅へと引き返す途中、車窓にちらりと見えた店がちょっと気になる。駅前のバス停に到着して、時刻表を見ると次の特急まであと15分ほど時間があるよう。急ぎ足で引き返せば、さっき見かけた「蒲鉾」の店で買い物をする時間ぐらいはありそうだ。
蒲鉾は宇和海で水揚げされる雑魚を材料にした、宇和島をはじめとする南予地方の名物である。八幡浜漁港でも蒲鉾の材料となるエソ類が豊富に水揚げされ、漁種別水揚げ量のベスト5に入るほど。この鮮度抜群の白身は弾力がよく粘りも強いため、蒲鉾の原料にはもってこいなのだ。旅先のため、八幡浜漁港に隣接する直売所「どーや市場」では鮮魚は買えなかったけれど、練り製品なら列車の旅のおやつにいいかも知れない。漁港の周辺をはじめ、駅まで戻るバスの車窓から見かけたいくつかの蒲鉾店の中から、駅からちょっと引き返したところにある『谷本蒲鉾店』を訪れてみる。
小ぢんまりした店内には、看板商品である「びり鯛蒲鉾」やちくわ、天ぷらなどをはじめ、様々な種類の練り製品がずらりと並んでいて壮観だ。いずれも八幡浜漁港に水揚げされたエソ、グチ、ホタルジャコ(ハランボ)といった小魚、いわゆる「雑魚」を素材としたものばかり。さらに冷凍物は使わず生魚のすり身、塩も天然塩を使うなど、素材にこだわった練り製品は、土産や贈答用など地元の人の評価も高いという。そんな中、この地方ならではの練り製品が「じゃこ天」。前述の小魚ほかヒメジ、ヒイラギなど様々な小魚を骨、皮ごとすり身にして、大豆油、菜種油といった植物油であげた揚げ蒲鉾のことだ。赤身のヒメジをベースにした普通のじゃこ天をはじめ、ハランボを使ったハランボじゃこ天、さらにイワシやグチなど色々な雑魚を使った昔造りじゃこ天など、使っている魚により味も見た目の色も微妙に違うのが面白い。
あれこれ物色してから選びたいけれど、列車の時間が迫っていることもあり、結局オーソドックスなハランボじゃこ天2枚に加え、エソを使った手作りちくわを購入。急ぎ足で駅へと戻り、宇和島行きの特急列車へと飛び乗った。市場散策お疲れ様、と、車内販売でビールを買ってじゃこ天を肴に頂くつもりが、早朝から精力的に歩き回ったおかげで、列車に揺られているうちについウトウト。気が付くと宇和島駅の手前で、あわてて下車して乗り換えた中村方面へと向かう列車は、何とオープンカーのトロッコ列車だ。清流・四万十川の展望が楽しめる「四万十トロッコ号」で、宇和島を後にした列車はしばらく田園の中をコトコトとのどかに走っていく。
途中の江川崎あたりまで行くと、車窓に四万十川の眺めが楽しめるのだが、吹き抜ける風に適度な揺れと、トロッコ列車の旅は空腹を誘ってくれる。小腹がすいたので川の風景が待ちきれず、田園風景を眺めつつじゃこ天の袋を開けてひと口。すり身の天ぷらなのにシャリシャリした食感なのは、皮や骨も一緒にたたいてあげているからだろうか。市販の蒲鉾に比べて、魚の味がしっかり凝縮しているのはさすがで、混ぜ物なしのストレートな魚の旨味、雑魚ならではの味の深みが、魚好きにはたまらない味わいだ。あいにくビールを買いそびれてしまったけれど、これだけ食べても充分満足、何とも贅沢なトロッコ列車の旅のおやつである。
じゃこ天を食べ終え、ちくわもまるかじりした頃に、列車はようやく四万十川の河岸を走り出した。今日宿泊する中村は、この四万十川の河口の町。岡山・日生の瀬戸内の小魚に、四国屈指の規模である愛媛・八幡浜の魚介を味わい、次は四万十川の川魚たちが待っている。車窓に流れる清流を眺めながら、気持ちは早くも天然物のウナギにアユ、川エビやゴリへと飛んでいってしまっているようである。(2006年8月7日食記)
蒲鉾は宇和海で水揚げされる雑魚を材料にした、宇和島をはじめとする南予地方の名物である。八幡浜漁港でも蒲鉾の材料となるエソ類が豊富に水揚げされ、漁種別水揚げ量のベスト5に入るほど。この鮮度抜群の白身は弾力がよく粘りも強いため、蒲鉾の原料にはもってこいなのだ。旅先のため、八幡浜漁港に隣接する直売所「どーや市場」では鮮魚は買えなかったけれど、練り製品なら列車の旅のおやつにいいかも知れない。漁港の周辺をはじめ、駅まで戻るバスの車窓から見かけたいくつかの蒲鉾店の中から、駅からちょっと引き返したところにある『谷本蒲鉾店』を訪れてみる。
小ぢんまりした店内には、看板商品である「びり鯛蒲鉾」やちくわ、天ぷらなどをはじめ、様々な種類の練り製品がずらりと並んでいて壮観だ。いずれも八幡浜漁港に水揚げされたエソ、グチ、ホタルジャコ(ハランボ)といった小魚、いわゆる「雑魚」を素材としたものばかり。さらに冷凍物は使わず生魚のすり身、塩も天然塩を使うなど、素材にこだわった練り製品は、土産や贈答用など地元の人の評価も高いという。そんな中、この地方ならではの練り製品が「じゃこ天」。前述の小魚ほかヒメジ、ヒイラギなど様々な小魚を骨、皮ごとすり身にして、大豆油、菜種油といった植物油であげた揚げ蒲鉾のことだ。赤身のヒメジをベースにした普通のじゃこ天をはじめ、ハランボを使ったハランボじゃこ天、さらにイワシやグチなど色々な雑魚を使った昔造りじゃこ天など、使っている魚により味も見た目の色も微妙に違うのが面白い。
あれこれ物色してから選びたいけれど、列車の時間が迫っていることもあり、結局オーソドックスなハランボじゃこ天2枚に加え、エソを使った手作りちくわを購入。急ぎ足で駅へと戻り、宇和島行きの特急列車へと飛び乗った。市場散策お疲れ様、と、車内販売でビールを買ってじゃこ天を肴に頂くつもりが、早朝から精力的に歩き回ったおかげで、列車に揺られているうちについウトウト。気が付くと宇和島駅の手前で、あわてて下車して乗り換えた中村方面へと向かう列車は、何とオープンカーのトロッコ列車だ。清流・四万十川の展望が楽しめる「四万十トロッコ号」で、宇和島を後にした列車はしばらく田園の中をコトコトとのどかに走っていく。
途中の江川崎あたりまで行くと、車窓に四万十川の眺めが楽しめるのだが、吹き抜ける風に適度な揺れと、トロッコ列車の旅は空腹を誘ってくれる。小腹がすいたので川の風景が待ちきれず、田園風景を眺めつつじゃこ天の袋を開けてひと口。すり身の天ぷらなのにシャリシャリした食感なのは、皮や骨も一緒にたたいてあげているからだろうか。市販の蒲鉾に比べて、魚の味がしっかり凝縮しているのはさすがで、混ぜ物なしのストレートな魚の旨味、雑魚ならではの味の深みが、魚好きにはたまらない味わいだ。あいにくビールを買いそびれてしまったけれど、これだけ食べても充分満足、何とも贅沢なトロッコ列車の旅のおやつである。
じゃこ天を食べ終え、ちくわもまるかじりした頃に、列車はようやく四万十川の河岸を走り出した。今日宿泊する中村は、この四万十川の河口の町。岡山・日生の瀬戸内の小魚に、四国屈指の規模である愛媛・八幡浜の魚介を味わい、次は四万十川の川魚たちが待っている。車窓に流れる清流を眺めながら、気持ちは早くも天然物のウナギにアユ、川エビやゴリへと飛んでいってしまっているようである。(2006年8月7日食記)