ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん46…岡山・日生 『海味』の、五味の市の魚を使った刺身定食

2006年11月07日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 瀬戸内に面した、岡山・日生漁港の「五味の市」を訪れたのが朝の9時前。場内の店を巡りながら、底引き網漁でとれた漁獲をあれこれと眺めているうちに、そろそろお昼に近づいてきた。この後列車で瀬戸大橋を渡って四国へ、夜は松山に泊まる予定だから、買い物をして、地魚料理で昼ご飯を頂いて、と少々あわただしくなってきた。

 地元ならではの珍しい魚介に加え、シャコやアナゴ、ハモといった瀬戸内ならではの魚も見かけたので、お土産は鮮魚にしようか、と思ってしまう。しかし瀬戸内から松山、高知と続く漁港巡りはまだ始まったばかりで、自宅に帰るのは少々先になりそう。ここではとりあえず、酒の肴に加工品を求めることにして、いくつかの店を覗いてみることにした。ひとくちにみりん干しといっても、店によって使っている魚の種類、値段が幾分違うようで、アナゴのみりん干しをはじめアジ、ママカリ、さらにもっと小さな小魚のみりん干しの詰め合わせパックも。場内で売っているみりん干しは、市場の建物の裏手にある網棚で天日干ししされたもので、日生の主要漁獲であるアジやアナゴをはじめ魚種は様々。地元水揚げの素材に加えて、値段も手ごろなのがおみやげ向きか。

 いろいろな種類がある中、せっかくだから日生ご自慢のアナゴのみりん干しにしよう、と探していると、「小林商店」という店の店頭にアナゴのみりん干しの袋がずらり並ぶのを見つけた。「うちは2日間かけて、何度も返しながら日にあてているの。機械乾燥じゃなく天日干しだから、旨味がしっかりでているよ」との、お勧めの言葉に力が入る。さらにまとめ買いすると安くしてくれる、との言葉にもひかれ、ここで購入することに決定。たっぷり入ったのが1000円で3袋と、かなりの大サービスである。

 ついでにおばちゃんに、日生漁港で水揚げされた魚が食べられる店を教えてもらうと、勧められたのは駅からここまで来る途中に前を通った店の1軒だ。まだ朝で涼しかった行きと違い、すっかり日が昇り照りつける日差しが厳しい中、汗だくになって来た道を引き返すこと10分ほど。日生駅前港まで戻ったところに大きな旅館が建っていて、隣接した建物に『お食事処 海味』と書かれた木の看板があるのを見つけた。旅館「海幸」の経営者が、自宅を改装して始めた海鮮料理屋で、おばちゃんによると「五味の市で買った魚を使っている」という。

 まだ開店よりやや早かったようで、暖簾をくぐると店内のテーブルで店員や料理人達がお茶を飲んでいた様子。家族経営の店らしく、団欒のお邪魔をしてしまったようで恐縮だが、窓から海の見える座敷へと通されて、暑さから逃れてホッとする。まずはビールと肴にとりあえずシャコの酢の物、そして品書きを開いて料理を検討する。使っている食材はもちろん、日生港でその日の朝に水揚げされた魚介が中心で、刺身定食ほかその日仕入れた魚次第でおかずが決まる「気まぐれ定食」なんてのも面白そうだ。ハモやシャコの天ぷら、アナゴ丼もあるが、この暑さでは揚げ物はちときついか。

 焼きアナゴは朝食代わりに頂いたので、ここはさっぱりと刺身定食にすることにした。先に出されたビールとシャコで、五味の市散策のお疲れさま、とひと息。シャコは味が豊かな子持ちの春頃よりはさっぱりしているが、酢できりっと締まっていて身もほんのりと甘く、この暑さではかえって淡泊さがうれしい。小鉢に結構な量盛ってあるけれど、ビールをあおってはシャコをつまんで、と交互にどんどん箸が進んでいく。

 ビールとシャコのおかげで適度? に水分補給が進んだ頃に、刺身定食の盆が運ばれてきた。刺身は3点盛りで、水揚げ港がすぐ近いだけあってどれもイキがいいこと。季節柄と天然物のため脂ののりは程々で、イカはコリコリ、カンパチはサクサク、鯛はシコシコと、食感がそれぞれ独特。歯ごたえを楽しむ造りといった感じだ。

 ワタリガニの味噌汁でご飯を平らげて、お腹の方もようやく落ち着いた。窓の外には日生湾と、その向こうに大きく浮かぶ鹿久居島が、まるで手の届くような近くに見える。市場を歩いて底引き網でとれた魚を見物して、アナゴにシャコを味わって、と、窓から見える漁場の豊かな漁獲をすっかり満喫した気分。残ったビールをぐいっとやると、日生港を後に島へ渡っていく小さなフェリーが、湾内を横切っていくのが見えた。(2006年8月7日食記)