ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん69…那須高原 『休暇村那須』の、高原野菜をふんだんに使った料理の数々

2006年11月27日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 我が家ではここ数年、毎年夏か秋に恒例の家族旅行で那須高原に出かけている。今年は行き先が修禅寺となり、高原での避暑ではなく温泉リゾートにじっくりと滞在。野外バーベキューや温泉プールなど、いつもの高原レジャーとはまた違う旅を存分に楽しんだ。それが11月になって那須でに取材会が催されることになり、今年も那須高原へと訪れるチャンス到来。家族は置いて自分ひとりだけ、というので罰が当たったのか、天気はあいにく2日とも雨予想である。少々紅葉には遅いけれど、忙しかった夏の終わりから秋口のお疲れ様、も兼ねて、高原の温泉でのんびりするのもいいかもしれない。

 家族旅行の最は那須温泉街のやや下手にある那須御用邸… ではなく(笑)、そこに隣接するリゾートホテルが定宿なのだが、この日は那須温泉街を抜けてさらに登り、那須高原道路に入ってやや行ったところにある、休暇村那須にお世話になることになった。早めに到着して、会議をこなし地元の観光関連役所の方々のPRを聞いたりして、仕事はとりあえず終了。温泉で慌しくひとっ風呂浴びてから、引き続き地元との懇親会も兼ねた夕食となった。この日は「霜月御献立」と題した休暇村オリジナル料理で、珍味や小鉢に始まり水菓子まで何と15品に及ぶ豪華版だ。地元の役場の方の挨拶と乾杯を済ませたら、小鉢や前菜でまずは一献。名残茄子のゴマ豆腐鞍掛け、むかごの真じょ、柿の白和えなど、場所柄山の幸や野菜を使った料理が豊富で、序盤からビールが進んでいく。

 同席する役場や観光関連の業者の方と意見を交わしつつ、ひとしきりビールが進んだところで、卓の中ほどに配置された小鍋に火がつけられた。鍋といってもつゆは醤油でも味噌でもなく、真っ白なつゆ。何と、豆乳だ。栃木産の野菜を豆乳に浸して頂く、休暇村オリジナルの豆乳鍋です、と火をつけてくれたお姉さんから説明が入る。栃木産の野菜とは、どんなものなのか聞くと、「水菜にマイタケにエノキ、カブ、それに那須特産のネギ『白美人』です」。すぐに豆乳が煮立ってきたので、おすすめの野菜からどんどんと豆乳の中へと浸し、煮えたところでゴマダレにつけて口へ運ぶ。見た目からして少々甘めかな、と思ったら、これが野菜との相性が抜群。水菜はシャッキリ、キノコ類は香りが引き立ち、甘みがうまみをうまく包み込んでいる。意外に合うのがカブで、トロリと柔らかく煮えた上に豆乳の甘さが加わり、ホクホクとうれしい味だ。ハマグリやカニ、タコ、ホタテなど魚介はさっとくぐらした程度がちょうどいいよう。貝類はクラムチャウダーのようで、ちょっと洋風でもあるか。具を食べ終わり鍋が煮立つと、表面に薄い膜が張ってきた。豆乳の膜、つまり湯葉だ。できたてゴマダレに浸して頂くと、引き上げ湯葉のようでうれしいおまけである。

 豆乳鍋のほかにも、栃木和牛のたたきに焼酎と、栃木の味覚が卓の上には目白押しだ。栃木の牛肉といえば、スーパーなどで「那須牛」の銘柄を見かけるが、那須牛とは大田原にある5軒ほどの畜産家が肥育した牛のことを指す。それ以外の県内産和牛は「栃木和牛」と呼ばれており、那須産の和牛が那須牛と呼ばれないのも、何だか変な話だ。その「栃木和牛」のたたきはやや淡い味で、脂分も控えめであっさりした食感。これで那賀川町・白相酒造の麦焼酎「夢草子」をグイッとやると、後味がすっきりと心地良い。栃木産の焼酎とは初めて飲んだけれど、麦焼酎でビシッとした辛味が鮮烈、そのくせ後からほのかな甘みが漂ってくるのが実に独特である。

 那須高原ならではの食について、周囲とあれこれ話していると、隣席の方が色々詳しく説明してくれる。話によると那須では、地産地消をテーマとした「なすとらん倶楽部」という組織が結成され、食と観光の連携や地域活性化にとりくんでいるという。この方、なすとらん倶楽部の事務局をやっているそうで、道理で詳しいわけだ。組織が考案した那須ならではの料理も教えてくれ、その名も「な・すーぷ」。地元の飲食店や宿泊施設で、何か共通の料理を提供しようと、那須町の農産物を使ってひと工夫を加え、かつ安全であることを売りにした、那須でしか頂けない料理とのこと。現在は町内の約30ヵ所の飲食店や宿泊施設で頂けるそうで、今後も増やしていく方針という。高原に位置するため野菜がおいしい、まさに那須ならではの料理だろう。スープもいいけれど、野菜がおいしいのであればさらにシチューとかポトフ、ロールキャベツなんてので町おこしというのも、全国どこにもない那須オリジナルで楽しいかも、と話がどんどん盛り上がる。ほかにも「おいしい那須ごよみ」と題し、お勧めの素材をイラストで紹介したカレンダーもあるという。すごいのは、365日毎日違う食材が紹介されていることで、さっき豆乳鍋で頂いた白美人も載っているそう。追って送って頂く事になり、日々眺めるのが楽しそうな、お腹が空きそうな? 暦である。

 そして野菜料理を売りにしているのは、この休暇村那須もまた同じ。この日は宴席用に用意された料理以外にも、一般客用のバイキングコーナーの料理も頂けるということで、足を運ぶと確かに野菜の料理が品数豊富だ。いずれも地元農家の生産した野菜を使用しており、サラダやフルーツ、ジュース、漬物など、かなり充実した内容。それもそのはずで、この休暇村には何と「野菜ソムリエ」なる資格を持った職員がいるのだ。正しくは日本ベジタブル&フルーツマイスター協会認定の、ジュニアベジタブル&フルーツマイスターという肩書きで、食材のおいしい食べ方から由縁、性質まで、尋ねれば何でも教えてもらえる。那須の野菜はなぜおいしいのか聞いてみたところ、那須は寒暖の差が激しく野菜栽培に向いていて、葉物野菜や芋類はしっかり甘みがでるし、えぐさがなく自然な味わいに仕上がるのだという。確かに、コーナーでちょっとつまんだアスパラガスは筋がまったくなく柔らか、キャベツやレタスも渋さがなく素直に甘く、どれも爽やかな後味。それにしても、おいしい野菜を存分に頂けた上、様々な知識も身につくとは、さすが野菜の里・那須高原ならではである。

 その野菜コーナーの一角で目を引くのは、巨大なすり鉢に入ったとろろ汁だ。傍らには麦飯が入った炊飯器に、付け合せのワサビとムカゴの梅肉漬けの鉢が並び、酒と料理の締めくくりにどうぞ、と誘っているようである。一般にトロロに使う芋は、ヤマトイモやナガイモ、ツクネイモなどだが、ここで使っているのはれっきとした自然薯、正真正銘のとろろ汁なのだ。さすがに天然物は値が高い上、生育に10年かかる貴重な品なので、ここでは地元農家で栽培してもらった、1年物の芋を使っているのだという。自然薯は個体差が大きく、10本あれば10本とも粘りや風味が違い、なかなか決まったレシピ通りに味をまとめるのが難しい、と休暇村のレストラン担当の方が話す。ちなみに自然薯にも旬があり、保存に10度を保たないといけないのだがこれがなかなか難しく、これから冬の時期がもっともおいしいのだとか 。

 バイキングコーナーで話し込んでいるうちに、懇親会のほうは宴たけなわとなったようだ。あわてて締めくくりに、とろろ汁を頂くことに。茶碗に麦飯を軽めに、そしてとろろをたっぷり多めに、お茶漬けのようによそう。薬味にはネギとワサビにノリ、そしてムカゴの梅肉漬けをゴロゴロと載せて自席へと戻る。サラサラとかき込むと、芋の粘りは思ったよりゆるくさらりとした感じ。土の香りが強くドッシリと食べ応えがあり、これはパワーが充填されそうだ。ムカゴのほのかな酸味がいいアクセントになっていて、那須の豊穣な大地の恵みを満喫できた気分である。それにしても、15品の会席料理をすっかり平らげ、バイキングコーナーにも出張して、さらに地元の日本酒や焼酎もかなり頂いたのに、「2次会はこちらの会場で」の誘いに何の戸惑いもなく足が向いてしまう。自分の鯨飲暴食はとりあえず棚に上げ、那須の野菜の質のよさ、体へのよさをたたえて締めておこうか? (2006年11月19日食記)