暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

無関心

2010-12-02 | 
彼女による庇護のもと
ネズミはすくすくと育った
そのつぶらな瞳は
どうにも彼女を苛立たせた

だから、と尋ねられれば
きっと彼女は黙るはずだ

丸々と太り
ふしあわせの何たるかも知らず
ちいさな檻で生きてきたネズミを
ただ、見なくなってしまった

在りし日から変わり果て
痩せこけたネズミは
それでも生きていた
檻の隅で横たわっていても
その瞳が濁りかけていても

どうして、と尋ねられても
彼女に答えることはできないはずだ

ネズミは考えただろうか
どうしてひとり置いていかれたのか
どうして食べ物がもらえないのか
たとい考えたところで
彼女がそれを知るはずもない

ある日彼女はふいに
その生き物のことを思い出した
奇跡的にもそれはまだ
わずかにも脈を打っており
かすかな意識のかなたで
彼女の気配にまぶたを開けた
腐りかけた餌をちらつかせる
果たして彼女の姿は
ネズミにどう映っていたのか
ネズミは彼女の目の前で息絶えた
ごくささやかな吐息を吐いて
食べ物の目の前で息絶えた

それから、と尋ねられたとき
彼女はようやく答えるはずだ
「捨てたわ」

つぶらな瞳を気に入ったはずなのに
ちいさな動物を飼いたかったはずなのに
手に乗せて遊びたかったはずなのに
しかし彼女は忘れている、そのすべてを
そうしてまた檻にネズミが入るはずだ

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