カブトガニをどうするか。食べるか逃がすか(宿舎から海岸まで歩いて5分)、迷ったあげく、食べることにした。料理の仕方がわからないが、とりあえず大きな鍋にお湯を沸かし、入れてみた。
カブトガニは熱いのかカラダを曲げたり伸ばしたりしている。鍋からハミ出た尾がアンテナのようにピンと伸び、しきりに動いている。一向に死ぬ気配がない。可哀想になって鍋から引き上げようかとも思ったが、最初の決定に従った。海老や蟹のように直ぐに死んでくれたら罪悪感が少なくて済むのに。私は鍋の横で逃げ出すわけにもいかず、苦しい時間を過ごした。
カブトガニの味は、美味とは言い難く、大味である。それでもダシの出た汁は、蟹のそれに似ていた。
あれから23年間、私はカブトガニと暮らしている。誰よりも長く一緒に暮らしている。
写真は夕陽を受けたカブトガニ、夕陽よりも紅い。