T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

[ 「ささやく河」を読み終えてー1/5ー ] 5/22・金曜(晴)

2015-05-21 16:03:23 | 読書

「概要」

 藤澤周平著のハードボイルド「彫師伊之助捕物覚え」シリーズ第三作品で最終作品。

 文庫本裏表紙より

 元は凄腕の岡っ引、今は版木彫り職人の伊之助。

 定町廻り同心石塚宗平の口説きに負けて、

     何者かに刺殺された島帰りの男の過去を探るために。

 綿密な捜査を進め、25年前の三人組押し込み強盗事件に辿り着いた時、

     彼の前に現れたあまりにも意外な犯人と哀切極まりないその動機。

 江戸を流れる河に下町の人々の息づかいを鮮やかに映し出す長編時代ミステリー。

「登場人物」

 伊之助     主人公。彫藤の彫師。福助店に住む独身。

           通称「清住町の岡っ引」といわれた元岡っ引

 おまさ      料理屋のおかみ。伊之助に体を許している結婚相手。

 長六       元盗人。島帰り。元錺職人で、伊勢安での彦三郎と奉公仲間。

 伊豆屋彦三郎 元盗人。小間物問屋の主人。伊勢安での長六奉公仲間。

 鳥蔵      元盗人。賭場の貸元。本当の名前は与四郎。

 多三郎    石塚同心から手札をもらっている岡っ引。

                   通称「常磐町の岡っ引」。

 金蔵、庄助  多三郎の手下。

 石塚宗平   定町廻り同心

 藤蔵      版木彫り彫藤の親方。

 峰吉      彫藤の職人。

 圭太      彫藤の職人。博奕好き。伊之助に助けられる。

 幸右衛門   深川西町番屋の大家。作兵衛店の家主。昔の名は幸七。

          強盗に河に投げられ殺された幼児の父親。

 おはま     三笠屋の女中。

 おきみ     三笠屋の女中。

 勘助      長六の遠縁にあたり、一時、作兵衛店で長六と同居。

 六兵衛     作兵衛店の元大家。長六をよく知る年寄。

 おたか     長六の母親。

 豊太      伊勢安の元職人。

 おしま     押し込み強盗の顔を見た元駿河屋の女中。

          桶職人の女房。

 富之助    賭場の代貸。その賭場の貸元は鳥蔵。

「あらすじ」

 一見単純そうな捕物帳で、そっとヒント(気づいたところに赤字・赤線を引いてみた)を何気なく挿入して話は進んでいき、物語の後半から、徐々に話が回転し始め、物語の始まりのほうで想定されていた流れとは別の方向に進んでいく。そして最後にならないと、真相も全体像も見えてこない。

 文章の中から、作品と章のタイトルとなったところに太字・黒線を付けてみました。

 また、推理の過程を明らかにするため、伊之助たちの捜査行動の部分に黒線を付けてみました。

◇闇の匕首

 伊豆屋の店を、数日間、夕方からの長い時間、斜め向かいの角から見つめていた年寄がいた。

 伊豆屋彦三郎は、番頭から知らされて、その年寄を連れて一件の料理茶屋に連れ込んだ。

 随分と手が震えて身体も弱っているようだが、島には何年いたのかと、彦三郎が聞くと、白髪の年寄の男は18年だと答えた。

 彦三郎は、少なくとも2年程は俺の店の在りどころに気付かまいと思ったのにと、気味悪くもあった。

 六さん、俺は島帰りを祝って一杯やろうというわけじゃないよ、わかっているな。俺たちは、それじゃ、達者でなと言って別れたのだ。その時から他人になる約束だった。そうだなと、彦三郎が言うと声は低かった。

 彦三郎は客扱いに慣れた商人の顔だが、こそこそと囁くような喋り方をする。その低すぎる話し方が何かありそうな印象を与えて損をしている。

 白髪の男が、5両ほど金を都合してくれないかと言うと、彦三郎は、その台詞が脅しだと言いながら、この手は二度と利かないとよ、これっきりだと30両渡した。

 別れた後、白髪の男は、暫く行って立ち止まり、笑わせるんじゃねぇや、次は、鳥蔵からせしめてやる、罰は当たるまいと喚いた。(自分一人、島送りになったから)

 その時、後ろから黒い人影が抱きついて、右手に持った夜目にも光る匕首が白髪男の肩口に埋まった。白髪の男は、俺は死ぬところだと思ったとき、自分の中にその夜と同じ暗黒を見た。

 その頃、彫師・伊之助は、おまさの店によって晩飯を済ませ、おまさに、あんたも物好きねと言われながらも、あの男の握り飯を頼むと言う。

 7日ほど前、伊之助は、暗がりの帰り道で、男を踏んづけるところだった。助け起こすと、白髪の年寄で胃の痛みとめまいを訴えて歩けなかった。

 伊之助は家が近かったので泊めてやったが、その年寄は、痛みが治まっても出て行かずに、何もせずの居候を決め込んでいた。昔、伊之助が十手をにぎっていたころに、いやになるほど嗅ぎ慣れた犯罪者の匂いが、年寄からしていた。同じ裏店の女房から、伊之助が留守の間は出歩いている(伊豆屋彦三郎を探すため?)のだと聞いていた。

 おまさからは、何とかしなくちゃ、何時まで経っても此処に泊れないじゃないかと言われ、伊之助は、おまさと他人でなくなってから3年になるのに、夫婦の形を決めてやらないことに自分を責めていた。そんなことを思いながら、自分の家に近づいた時、道に野次馬が群がっていた。

 岡っ引の多三郎の手下・金蔵が、あんたとこにいるあのへんな爺さんが殺されたのだと教えてくれた。そして、多三郎から、懐に一分銀で30両持っていたんだと言われ、年寄にそんな様子が無かった伊之助は驚いた。今晩、誰かに貰ったのだろうと言う多三郎に、伊之助が、この死人はちょっと酒が匂いますと言う。

 素性を突き止めてきた、手下の庄助の話では、長六と言って、おまえさんとこに転がり込む前は、先日まで深川西町の作兵衛店に居たらしい、そして、島帰りだと言われ、伊之助は目を瞠った。

 多三郎は、早速、何処で誰と飲んでいたのか、両国近辺をしらみ潰しに当たってみるかと言っているところに、定町廻りの同心の石塚宗平が汗を拭きながら姿を現した。

                                    (次章に続く)

 

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