T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

1183話 [ 「五月闇」を読み終えて 2/2 ] 4/21・木曜(雨)

2016-04-20 13:45:50 | 読書

「作品の文章抜粋して纏めたあらすじ」

    ※ 青色の染色部分は、私が作品のポインと思ったところ。

    ※ 黄色の彩色部分は、私が感動したことを補足したもの。

1章

 以前、老盗が盗賊改方に捕えられたとき、一役買ったおよねは、いまも、上野山下の俗に提灯店という岡場所・「みよし屋」で客をとっている。

 伊三次は、長谷川平蔵から、およねを女房にしたらと言われるほど、およねと懇ろになっていて、暇になっていたので、昼間からおよねをたずねていた。

 およねが、(今度、伊三さんが来たら、忘れずに話そう)と思っていたことがあったと、やっと思い出して話してくれた。

「この間、私の客になった男で、その男も伊佐さんといって、30代後半で、左乳の下に、こんな長い傷痕があるのさ、それで、どうしたんですかって聞いたら、盗っ人に押し込まれて斬りつけられ、命を落とすところだった」

 そのとき、伊三次の眼の色が急に変わった。

「まさか、おまえ。その男におれの名を言ったりはしなかったろうな?」

 およねは、伊三次の正体をわきまえている。

「どんな客にも喋りませんよ。伊三さん、私にできることなら、何でもやるよ」

 そして、伊三次の顔色が変わったのを見て、

「近いうちに、必ずまた来るよ」

 と続けた。 その客がそう言ったそうな。

2章

 伊三次には、「狗(いぬ)」と呼ばれ、蔑まれている密偵の陰りがいささかもなく、日頃は、盗賊改方の人々の緊張をほぐし、笑いを誘って、同心たちを励ますのである。 その伊三次が、かって、平蔵の前では見せたこともない陰影の表情で目を伏せている。

 その日の夜、伊三次は、平蔵に、三日前の夜に、およねの客になった男が、「強矢の伊佐蔵」という兇賊に間違いないと報告した。

 平蔵は、その短い伊三次の報告の様子の中から、得体の知れない苦悩と悲しみが隠そうとして隠しきれずに漂っているのを、たちまち看てとった。

 いつもなら、洗いざらい平蔵に打ち明ける伊三次が、平蔵の問いに、言葉少なに、「へい……」と答える。

「急ぎばたらきの賊か?」

「血なまぐさいまねを、まるで自分の洟をかむようにしてのける奴なのだな?」

伊佐蔵と知り合ったのは、十年前のことか?」

「その頃のそ奴は、畜生ばたらきも急ぎばたらきもしておらなかったと申すのか?」

 この後も、尋ねられたことだけを何やら胸苦しげに手短に、「へ……」とか、「それは、あの……」と答え、あとは口をつぐんでしまう。

「伊三次。話を聞いたからには、捨てても置かれまい」

「みよし屋のおよねのところへ伊佐蔵が、またしても姿をあらわすのを待つ。これがまず、順当の仕方であろうな」

「おまえが張り込んでくれるか、どうじゃ?」

「この2両は張り込み賃だ。張り込みはお前がせずともよい。万事おまえに任すということだ」

〔平蔵の部下管理、悩んでいる手下に対する気配りに教えられることが多い〕

「よし、行け、しっかり頼むぞ」

―中略―

 伊三次は、それから後のことは、あまり覚えていない。

 気がつくと、門番小屋の横の自分の部屋に座り込み、手のうえの小判2枚を呆然と見つめていた。

(こいつは、長谷川さまへ、言うのじゃなかった。言わなけりゃあ、言わねえでもすんだものを……だが、言ってしまった。言わずにいられなかった)

 噂に聞くと、伊佐蔵の盗(つと)めぶりは相当に残虐なものらしい。 10年前の伊佐蔵とは、明らかに変貌している。

(あいつが、そんなに変わったのは、この、おれのせいかもしれねえ。いや、おれのせいなんだ。決まっている……)

 万一にも、どこかで伊佐蔵に出会ったとしても、自分がお上の密偵として、

(伊佐蔵を差そうとは、……思いもよらねえことだった……)のである。

―中略―

 伊佐蔵を傷つけた、その足で、姿を晦まして1年ほど経った頃に、伊三次は、大阪で、ひとり働きの盗賊の津川の弁吉とばったり会った。

「つい、ひと月ほど前に、京の四条河原を歩いていて、強矢の伊佐蔵どんと出会ったよ。おまえさん、伊佐蔵どんの左の胸のところを脇差で斬ったのだとな。今度、どこぞで見つけたら、なぶり殺しにしてくれると言っていたぜ」

 そのとき、伊三次は怯えた。そして、その夜のうちに大阪を発足し、江戸へ逃げたのである。

3章

 伊三次は、平蔵から金2両を預かった日に、思いあぐねて、密偵の大滝の五郎蔵のとこへ行って、どうしても私が張り込むことは、いけねえのでと頼むと、深く問いかけることもせず、承諾してくれた。

 翌朝、平蔵にそのことを報告した。

4章

 それから、10日が過ぎた。

 伊佐蔵と思われる男は、まだ、およねのところへ現れぬ。

 五郎蔵は、みよし屋の帳場に詰めっきりであった。

 いざというときの連絡所に、みよし屋の近くの御家人・石塚才一郎の屋敷をお願いした。 盗賊改方の同心・沢田小平太と旧知の間柄であった。

 いまの伊三次は、落ち着かぬことおびただしいものがあった。

(ぜひとも、様子を聞きてえ)

 と思い立って役宅を出た。 その足で、一気にはみよし屋に行けず、広小路の蕎麦屋・福山に寄った。

 飲んでも酔えない。

(おれはまあ、なんてえ、だらしのない奴なんだ)

 福山を出て、傘を広げたときの伊三次は、もう、みよし屋へ向かう気力も失っていた。

 よろめくが如くに、足を運ぶ伊三次の後ろへ、番傘をさした町人風の男が、音もなく迫ってきて、「おい、伊三次……」と低く声をかけた。

 振り向いた伊三次は、自分の胃の腑が体の中から捥ぎ取られたような衝撃を受けた。

「この強矢の伊佐蔵の面を見忘れたわけでもねえだろう。てめえが、ぼんやりと酒を呑んでいた蕎麦屋の隅のほうに、おれがいたことを知らなかったのか」

「……」

 次の瞬間、目を瞠った伊三次の躰へ、男の手の匕首が電光のように吸い込まれた。

 ぐいと、深く抉(えぐ)っておいて、男は、そのひと抉りで十分だと思ったのだろう、ぐるりと身を返し、あっという間に消え去った。

5章

 伊三次が必死に、このことを盗賊改方のお役宅へお知らせくださいましと言ったので、伊三次は、辻番たちによって、石川日向守屋敷の足軽屋敷へ運び込まれた。

 そして、すぐに平蔵と与力・佐嶋忠介、それに、飯島順道という外科医の名医が駆けつけた。

6~7章

 伊三次の枕元に座った平蔵は、伊三次に、「おお、伊三次。おれだ、わかるか。とにかく眠っておれ」と言う。

 しかし、伊三次が、「申し上げたいことがあります。いま申し上げねえと、いつなんどき、息が絶えてしまうか知れたものではございません」と言う。

 手短に話すがよいと平蔵が言うと、伊三次は、

「10年前のことでございますが、私は強矢の伊佐蔵の女房おうのと密通いたしまして……伊佐蔵に気づかれたので、思い切って、伊佐蔵を殺すつもりになりました。夜の道で待ち受け、斬りつけて胸のあたりに相当の傷を負わせましたが……伊佐蔵が激しく立ち向かってくるので、おうのを連れて、名古屋まで逃げました」と言う。

「その女は、いま、どうしている?」

「見かけとは大違いの、とんでもねえ女でしたので、半年ほど経って私がこの手で殺してしめえました」

伊三次。(よく言ってくれた)それでさっぱりしたろう。長谷川平蔵、確かに聞き届けた。おまえは、わしの子分だということを忘れるなよ(昔はともかく、いま、おまえは悪人を捕える盗賊改方なのだ)」

 言い置いて、平蔵は部屋から出た。 後ろに、伊三次の嗚咽が聞こえた。

8章

 みよし屋の前に、「およねいるかえ?」と伊佐蔵があらわれた。

 そのとき、あるじの卯兵衛が店先にいて、伊佐蔵の人相書を見ていたので、表情が変わった。 それに気づいた伊佐蔵は危険を直感して逃げ出した。

 卯兵衛の叫び声で、五郎蔵が後を追った。

 前方から見廻り中の平蔵が来ていて、平蔵の拳の一撃で捕縛することができた。

―中略―

 平蔵の妻の久栄が、「伊三次は癒(なお)る見込みがないのでございましょうか?」と平蔵に訊ねる。

「伊三次は、もはや亡き者と思え」

 先刻、石川屋敷の飯島医師から知らせが届いていたのだ。

 平蔵は、久栄に答えたが、その場にいずらく、立ち上がり障子を開けた。外は、雨気を含んだ五月闇が重苦しく庭に垂れ込めていた。

                                                      

                             

 

 

 

 

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