T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

[ 「ささやく河」を読み終えてー5/5- ] 5/26・火曜(晴)

2015-05-26 11:22:04 | 読書

◇殺意

 幸右衛門は、自身番の雇人に今夜の当番を与八店の大家の重五郎に頼んできてくれと言って、その日の夕方、かかりつけの医者を訪ねた。薬を貰い外に出て二の橋の上でいつもの様に立ち留まった。

 月の光が河を照らしており、川波が月の光を浴びて戯れあうようにきらめき、岸を打つ波が人の囁きに似た物音を伝えてくるのを、幸右衛門は無表情に眺めてから橋を渡った。

 5年前、この橋の上で河の音を聞いた真っ暗な夜だったと、幸右衛門は、妻子の命を奪った男達に対する激しい殺意を抑えかねた夜のことをまだ克明に覚えていた。

 その年、幸右衛門は体の不調に苦しんでいて、身体も痩せていくので、医者に診てもらうと、腹部に腫物ができていて余命3年と言われた。その3日後の夜、薬を取りに出かけようとして居間の前を通ると、女房のおたみと息子の徳之助が、徳之助の祝言の話をしていて、おとっつあんが生きているうちと死んでしまってからじゃ、重味が違ってくるとか、おとっつあんが承知しないときは少し待てばいいじゃないかと、幸右衛門が全く知らされていない話をしていた。おたみに病の話をしていたのは失敗だったと思いながら、陽との死についてなんとも思っていない驚きに忌まわしい場所から逃げ出すように表に出た。二の橋を渡りながら囁きかけるような河音が聞こえ、虚しい物思いにとらわれた。

 おたみと新しい所帯を持ったのは、妻子をなくして1年半ほど経った頃だった。おたみのサバサバした明るい気性の女の所為もあり、過去を振り向くまいと心に誓った。それからは、せめて妻子を殺した人でなしの男たちの名前だけは知りたいものだと、時折相生町の岡っ引を訪ねたこともあったが、夫婦で商売に励み、20年経った。

 しかし、幸右衛門は、今、目の前に広がる闇のように黒い虚無の想いが胸の中にしっかりと根を下ろしたのを感じた。俺の一生は何だったのかと思った。懸命に働き店を持つ商人になった今の暮らしも、その前の憐れな親子との5年の暮らしも失敗だったのだ。俺の一生は殺された親子と一緒に息の根を止められたのだと思ったとき、幸右衛門は静かな怒りが胸に忍び込んできたのを感じた。

 そんなある日、幸右衛門はやりたいことといえば男達を死出の旅の道連れにしてやるぐらいしかないことに思い当たったのである。心が決まると精力的にすべての準備を整え、徳之助が20歳になるのを待って隠居して深川西町に移った。

 幸右衛門は隠居屋を出て、亀井町の路地を曲ってある裏店の中の一軒の家の前で戸を開けた。顔を出したのは畳職人の作次だった。作次が3人目が鳥蔵だってことは間違いないんですねと問うと、船宿の平作で彦三郎と話していることを聞いたと幸右衛門は答えた。

◇三人目の夜

 伊之助は、森下町北組の自身番に石塚から呼ばれ、石塚から、御赦免願いを細工して長六を島から呼び戻したのは和泉屋の隠居の幸右衛門で、三笠屋の胡散臭い客もその男だし、隠居は若い時分に押し込みの盗人に子供を殺されたと、動機は揃っているのになぜ引っ張らないと言われ、伊之助は、殺しの現場を三笠屋の女中は見てなく、幸右衛門が殺したところを誰も見てないので引っ張ることを渋ったと、思いを話した。

 石塚は、今夜は金蔵が隠居を見張っているなら、明日朝ここに連れて来いと言って外に出たところに、金蔵が来て、幸右衛門がいつの間にか自身番から姿を消していたと言って来た。

 伊之助も多三郎も、幸右衛門は鳥蔵が外に出たところを狙って襲ってくるだろうと言うことで見方が一致し、鳥蔵を重点的に見張ることにした。

 伊之助は、鳥蔵が路地から出てきたのを見つけて、庄助と後を追った。途中、賭場の近くの夜鷹蕎麦に数人の客が座り込んでいたので、庄助が確かめてみましょうかと言ったが、いいだろうと伊之助が言った。しかし、実際は幸右衛門と作次はそこに潜んで待ち伏せていたのだった。

 鳥蔵を追って伊之助は賭場に入って、鳥蔵を見張っていたら圭太を見つけた。その時、この後は金張りの勝負になると言って、賭場の男が圭太のような素人を外に出そうとして絡み合いになり、伊之助は圭太を助けるうちに鳥蔵を見失い、外で待っていた庄助一人が後をつけたが、作次に掴まってもみ合いになった。そこに伊之助が来て、庄助が指差す方向に鳥蔵を追った。

 しばらく走ると、人が二人斃れているのが見えた。鳥蔵が多量の血を流して死んでいた。手には匕首を握っていた。幸右衛門は微かに息があり、伊之助が作次は人を殺しているかと尋ねると首を振った。伊之助が、女房と子供の仇を討ったのだなと尋ねると、笑った顔をしてすぐ息を絶えた。

 それから3日目の夕方、石塚と伊之助は山城屋を訪ねた。伊之助が鳥蔵と言えば分るでしょう、あんたを脅しに来ていた、あの白髪の男が殺されましたと言うと、暫くして山城屋はすすり泣いた。長い間の恐怖から、今ゆっくりと解放されつつあるのが分かった。

 伊之助は山城屋に、蔵吉が刺殺されたあの晩のほんとの話をしてくれと言うと、鳥蔵のほんとの名前は与四郎といい、元奉公人でわけもなく店を辞めそのまま消息が絶えていて、与四郎が押し込み強盗の一人でいたことを蔵吉に見つけられ、今夜のことを外に漏らせば一家皆殺しにすると、その後執拗に脅かし続けられたのだと答えてくれた。

                                 (終)

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[ サラリーマン川柳から ] 5/26・火曜(晴)

2015-05-26 08:53:16 | 日記・エッセイ・コラム

 第一生命保険が25日発表した

    投票制による「第28回サラリーマン川柳コンクール」のベスト10

 4位に → 壁ドンを 妻にやったら 平手打ち

 9位に → ひどい妻 寝ている俺に ファブリーズ

 とあったが、「壁ドン」と「ファブリーズ」の言葉の意味が分からずに、

 自分の生活範囲の狭さに情けなくなった。

 急いでインターネットで調べてひと安心。

 ちなみに、10位に → 充電器 あったらいいな 人間用

 いま思いついた川柳1つ → アレアレと 時間を置いて コレコレよ

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