漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

メアリ・シェリー『最後のひとり』

2020年01月03日 | 読書録

メアリ・シェリー『最後のひとり』(森道子ほか訳/英宝社刊)読了。

 何とも救いのない、終末の物語。色々と欠点はあるだろうが、それでもこの時代にこれだけの長さの、ひたすら暗い人類の未来の物語を描き切ったというのはやはり特筆ものだろうと思う。タイトルでネタバレしてるから言うけど、見事に誰も生き残らなかったからね。
 前半はゴシック・ロマンス風で、そういうことなのかなと思っていると、いきなり飛行船らしきものが出てきたりで、不意をつかれる。やがて読み進めているうちに、なんとこの物語ははるか未来の物語として設定されていることが判明する。やがて物語は急転直下、疫病に冒されてなすすべもない人類の物語へと滑りこんでゆく。
 やや構成上で分かりにくいところがあるのは欠点かもしれない。冒頭の序の部分とそのあとの本文の時間的な関係などは最たるもので、これはおそらく、本文の方を予言的なものとして読むべきなのだろうかと思うのだが、あるいは別の読み方を許容する可能性も含んでいる。つまり、冒頭の部分は、一度滅んだあとに再び復活した人類の歴史という時間軸にあるという可能性である。
 SF史ではさほど大きく扱われることもない本ではあるけれど、しかし読んだ感想としては、ここにすでに、SFの破滅テーマの雛形が完全に完成されているように思った。ややロマン的な彩りに染められているという点まで含めて。
 解説によると、当時にはクーザン・ド・グランヴィル『最後の人』(1805)に代表される「この世の終わり」「最後に一人生き残る人間」のテーマが人気を博したことがあったということで、この小説もその流れの中に位置するようだ。ただし、これだけのボリュームは珍しかったのではないか。
 そのブームの中で、バイロン卿も『闇』と題する詩が最も人口に膾炙されたしく、印象としては、メアリはこの詩から多くのイマジネーションを得ているように感じた。『フランケンシュタイン』と同じく、メアリの名前は、良くも悪くもバイロンと夫のパーシーの名前抜きでは語れないのかもしれない。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿