漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

『平成怪奇小説傑作集2』

2020年02月02日 | 読書録

『平成怪奇小説傑作集2』(東雅夫編/創元推理文庫)読了。

小川洋子『匂いの収集』はよく出来た短編。阿刀田高の小説を村上春樹風に書いた感じ、というか。

飯田茂美『一文物語集』はすごい。一冊だと濃厚過ぎるかもだが、アンソロジーにこうしてそっと入ってると、ピリリと効いていて、忘れがたくなりそう。

鈴木光司『空に浮かぶ棺』はヒット作『リング』シリーズのスピンオフ短編。これ一作でどれだけ面白いのか、ちょっとよくわからないところもあるけれど、平成のホラーを語る上で『リング』は欠かせないので、一種のマイルストーン的な意味もありそう。

牧野修『グノーシス心中』は、美少年+耽美+スプラッターというか。とても牧野修さんらしい作品。東京グランギニョルとか丸尾末広とか、ああいう流れのものが好きな人には多分たまらないと思う一篇。

津原泰水『水牛群』は連作長編『蘆屋家の崩壊』より。これは昔読んだことがあるので、さらりと読んだ。連作長編という言い方はおかしいかな。細かいところは忘れてしまったけど、バディものとしてかなり面白かった記憶があったが、今回もとても楽しく読めた。このシリーズはあと二冊ほど出ているようだが、そちらは未読。

福澤徹三『厠牡丹』は、牡丹の花に導かれて開かれる暗い記憶の物語の中で、客体と主体が転換する語りに時間や空間が溶けてしまう小説だった。

川上弘美『海馬』。これはずっと昔読んだことがあるが、例によって忘れてた。一種の人魚譚。なぜタイトルが海馬というのか、一瞬脳の海馬との関連も考えたが、よくわからず、単に海馬がトドやジュゴンやタツノオトシゴといった生物を指すせいなのかもしれない。此岸と彼岸が融け合うような川上さんの小説は昔からかなり好き。

岩井志麻子『乞食柱』は、土着的な蛇への信仰と性をからめた物語。ほとんど自分では動くこともできない巫女となった女性の視点から描かれていて、息詰まるような気配が満ちていた。

恩田陸『蛇と虹』は、ちょっと「胎児の夢」のような感じだった。

朱川湊人『トカビの夜』。トカビとは朝鮮で幽霊を指すらしい。ぼくも関西なので、良くも悪くも、この小説の中の空気感はとてもよくわかって、怖いというより少し懐かしかった。物語自体も、ジェントルなゴースト・ストーリー。それにしても、パルナスのCMソングなんてもう…。

浅田次郎『お狐様の話』は狐憑きの少女の話。手慣れた感じの短編らしい短編。破綻のないのが破綻と言いたいくらい。

森見登美彦『水神』は琵琶湖近くを舞台にした、これも一種の人魚もの。美しい文章でしっかり紡がれつつも、破綻のさらに先に向かう。これはすごく好きで、今のところやや特殊な飯田茂美さんを除けば、ベスト。ぼくは怪奇幻想のうちあまり怪奇の方には重心を置いてなくて、小説としての美しさや得体の知れなさの方に嗜好があるので、こういう幻想小説は理想的なもののひとつ。

光原百合『帰去来の井戸』。尾道あたりが舞台かと思ったが、やはりそうみたい。ひとつ前の『水神』にもちょっと通じるところがある内容を扱っているが、こちらはもっとジェントルで分かり易いゴースト・ストーリー。

綾辻行人『六山の夜』。「五山送り火」を題材とした短編(ぼくには「大文字焼き」という呼び方の方が馴染みがあるが)。しかし、どうやらこの短編の中で行われているの送り火はこの世界のものではないようで、そのズレの部分が奇妙な不安を募らせてゆくが、ぼくにはこの作品の上手い解釈ができない。どうやら連作の一篇らしいので、一冊を読めばもう少しわかるかもしれない。綾辻さんは、欅坂46ファンということで勝手に親近感を持っているので、今度読んでみよう。
ここからの三作は『てのひら怪談』より採ったということで、見開き一ページの作品。でもちょっと感想は保留。

山白朝子『鳥とファフロッキーズ現象について』
これはちょっと面白いなと思った。ストーリーそのものは別に目新しいものではないのだけれど(むしろベタなくらいだけど)、そこに異形の「鳥」が当たり前のように介在することで、不思議な味わいになっている。こういった感覚は、どちらかといえば少数に支持されるマンガによくあるものだろうが、なるほど怪談の世界も日常と異形のものがシームレスに同居するようになってきているのかとふと思った。

というわけで、個人的なこの本のベストは
『一文物語集』
『水神』
『鳥とファフロッキーズ現象について』
でした。

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