漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

古井由吉『杳子・妻隠』

2020年03月07日 | 読書録

古井由吉『杳子・妻隠』(新潮文庫)読了。
『杳子』は、強迫神経症めいた病を持つ杳子という大学生の少女と青年の物語。『妻隠』は不意に襲われた熱病によって仕事を休んでアパートで数日間伏せる男の物語。どちらの作品も、理解し得ない世界を見つめる主人公の、どこへも行き着かない思考の流れを追うような小説だった。
ぼくは一部の作家を除いてあまり日本文学を好んで読む方ではなく、特に「内向の世代」と呼ばれる作家についてはほとんど読んだことがない。したがって、古井さんの名前はもちろん知ってはいたが、読むのは多分、これが初めて。
感想としては、十代から二十代にかけての間に読んでいたら、もしかしたら強い印象を残した作品だったかもしれないというものだった。とても上手い作家だとは思ったけれど、この年になってしまうと、もうこうした作品に描かれている感情は過ぎ去ってしまったものだという感がどうしても強くなってしまう。『杳子』は、精神の病を書いているだけになおさら。見守るような気持ちになってしまう。だから、芥川賞をとった『杳子』より、『妻隠』の不穏な感じの方が、やや面白く読めた。
この本は、日本文学が好きな妻の本棚から借りた。読後、感想を言うと、多分初期のそれより後期の『野川』とかの方がぼくにはいいんじゃないかと返された。ただ、その本はうちにはない。そう云うことなら、機会があったら読んでみたいと思う。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿