漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

ハイリンヒ・フォン・クライスト『チリの地震』

2020年01月18日 | 読書録

ハイリンヒ・フォン・クライスト『チリの地震』(種村季弘訳/河出文庫)読了。

 解説で「古典主義とドイツ・ロマン派の間にあって、そのどちらにも属さなかった孤高の詩人・劇作家」と紹介されている。確かに印象としては、ウェットさがほとんどない、突き放した硬質な文体で書かれたゴシックといった感じも受けたし、その結果、物語がほとんど神話性さえ帯びて迫ってくるようにも感じられた。

 表題作の『チリの地震』は、舞台がチリだからというだけではないと思われるほど、まるでラテンアメリカの文学を読んでいるようだった。主人公たちのダイナミックな運命に呼応するかのように、時を同じくして起きた地震がリズムを作り、壮絶なカタストロフへと雪崩れ込む。

 『聖ドミンゴ島の結婚』は奴隷の黒人たちの反乱を描いたクレオール文学。非常に冷徹な筆致で、運命的な悲劇を描いている。

 『ロカルノの女乞食』は、様々なアンソロジーに収録されている小品。ゴシックの一挿話としての怪談のよう。

 『拾い子』はまたどこまでも救いのない物語で、よくもまあこんな嫌な物語を淡々と書くものだという気分にさせられる。『嵐が丘』などもちょっと思い出した。

 『聖ツェツィーリエあるいは音楽の魔力』は、ひとつのキリスト教の奇跡譚。ここまでの惨憺たる物語群の後ではややほっとするが、単純に「神様ぱねぇな」とも思った。

 『決闘』はまさにゴシックそのものといった感じの愛と身分と財産の争いを描いた短編だが、見事な物語の展開に加えて公平さもあり、古典的なゴシックの短編としてはかなり佳品なのではないかと思う。

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