漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

宇宙ヴァンパイア―

2017年12月20日 | 読書録

「宇宙ヴァンパイア―」 コリン・ウィルソン著 中村保男訳
村上柴田翻訳堂/新潮文庫 新潮社刊

 を読む。

 吸血鬼ものの小説を読もうと思い、すぐ手近にあった、積読になっていた本書を手にとりましたが、これがなかなかのB級作品でした。
 小説の存在自体は、それこそこの作品が映画化されて、文庫で書店にたくさん並んでいた頃から知っていました。だけど読もうと思ったことは、一度もありませんでした。理由は単純で、なんだかすごく下らなさそうだったから。もちろん映画も観ていません。それがなぜ今手元にあるかと言えば、「村上柴田翻訳堂」というレーベルのもとに再刊されたから、ちょっと気になって。あの村上春樹と柴田元幸が推薦するのだから、もしかしたら隠れた名作かもしれないと思うじゃないですか。
 残念でした。
 もしかしたらややとっつきの悪い印象のあるコリン・ウィルソンのドリーミーな部分が垣間見れて、少しばかり微笑ましいかもしれませんが、名作ではありません。そうはっきり断言できるほど、普通にB級の作品です。「B級の皮を被った名作」とかではなく。くだらなさという外見の裏側に潜む抗いがたい魅力という「何か」も、ぼくには感じられませんでした。過度な期待はしないほうがいいと思います(一応言っておくと、解説対談で村上さんはこの作品を「決して名作ではない」と念を推していたし、柴田さんに至っては、今回初めて読んだということでした)。ただ、対談の最後の部分には同意します。こういう、決して名作ではないけれども、ひとつの思いに貫かれて一生懸命に書かれたB級の小説が存在するというのは、確かに愛おしいものです。たまたまこれはぼくの趣味に合わなかったけれど、そうした、明らかにB級で、だけど偏愛する作品というのは、ぼくにも沢山あります。そうしたものがないと、本当につまらない世の中だと思います。
 ストーリー自体は、とても単純です。
 時は近未来。地球の近くでとてつもなく巨大な宇宙船が発見される。船を発見したカールセン船長は内部の調査を行ったが、そこに仮死状態となった人々を発見し、そのうちの三人を地球に連れて帰る。ところが、その三人の宇宙人たちは肉体を離れて地球人の中に寄生し、他人の生命エネルギーを吸って生きる、いわば宇宙ヴァンパイアーとも言えるような存在だった。カールセンは医師のファラダらとともに、誰の肉体に入り込んでいるのかわからないヴァンパイア―たちを追い詰めようとする。やがてヴァンパイア―のひとりは英国の大統領の中に潜んでいることが分かり、カールセンたちはもう少しというところまでヴァンパイア―たちを追い詰めるが、すんでのところで逆転されそうになる。しかしそこに、宇宙警察とも呼ぶべき存在が現れる。その存在はもともとヴァンパイア―たちと同じところの出身だったのだが、ある事件によってヴァンパイア―たちが道を踏み外したことを知り、長い間捕獲のために地球に潜伏していたのである。その存在によってもともとの神性を回復したヴァンパイア―たちは、自ら犯してきた罪に耐え切れず、自己消滅する。
 ……と言った感じ。こうした単純なストーリーの中に、コリン・ウィルソンらしいスピリチュアルなオカルト哲学がちょこちょこと挟み込まれています。ただし、かなりライトな感じで。
 ちょっとだけ面白いのは、この作品が「クトゥルー神話」がなぜ生まれたかという、その真相のひとつともとれる物語であるということ。最初に注目を集めた著書「アウトサイダー」でラヴクラフトを随分と持ち上げていて、それ以降もクトゥルー神話に影響を受けた作品をいくつか書いているコリン・ウィルソンだから、まあ当然の成り行きなのかもしれません。ただし、これはクトゥルー神話に含めるには、ちょっと設定に踏み込み過ぎでしょうね。
 

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