漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

《ミッドナイトランド》/ エンドレスサマー/ 23

2010年01月19日 | ミッドナイトランド
 少年の意識が戻ったのは、三日後のことだった。僕は仕事で家を空けていたから、病院から連絡を受けたのはカムリルだった。
 仕事が終わったあと、僕はカムリルとガラドの店で落ち合った。
 《眠りの樹》に入った時には、カムリルは既に店に来ていて、ガラドを相手に早くも飲み始めていた。店に入ってきた僕の姿を見て、カムリルはこちらに向けて手を振った。ガラドの「いらっしゃい」という言葉がそれに続いた。
 「遅かったんじゃない?」とカムリルは言った。
 「いや、そんなことはないと思うけど」僕は言った。「いつもと同じくらいだよ」
 「わたしが早すぎるのね」カムリルは大きな声を上げて笑った。「早く話をしたくって」
 「で、俺が最初の被害者というわけ」カウンターの向こうから、ガラドがことさらうんざりとしたような声で言った。「ずっとさっきから俺を捕まえて、その話ばっかりなんだ。もう充分にわかったって。ディール、お前から何とか言ってやってくれよ」
 「あら、お客に向かって随分酷い言い方。ねえ、ディール」カムリルは言った。
 僕は苦笑して見せた。「それで、どうだったの?」
 「それがとても不思議なのよ」カムリルは興奮した声で言った。「なんだか、とても偶然だとは思えなかったわ。まあ、まだ何がなんだかよく分からないみたいで、起き上がることもできないし、ほとんど口も利かないんだけど、ポツポツと、言葉の断片のようなものは口に出すの。で、彼、何て言ったと思う?」
 「そんなの、わかるわけないよ」
 「ちょっとは考えてよ。……まあ、いいわ。あのね、『太陽』って言ったのよ!『太陽が……太陽を……』って。すごいと思わない?」
 「本当にそう言ったの?」
 「本当よ!嘘ついても仕方ないでしょう?わたし、びっくりして思わず『えっ』って聞き返したわ。『今、太陽って言ったの?』って。すると彼はこっちを見て、もう一度はっきりと『太陽』って言ったの。ちょうど今わたしたちは『太陽』に取り組んでいる最中でしょう。偶然にしては出来すぎていると思わない?」
 「そうだね。驚くほどだよね。で、それから?」
 「それだけよ。残念ながら。随分と疲れるみたいで、その後はじっとわたしの顔をしばらくみていたわ。彼、随分と幼いみたいだけど、その目にはなんともいえない迫力があったわ。大きくて、淡い緑色をしているの。これまでずっと目を閉じていたから、気がつかなかった。あんな色の目は、見たことがないわ」
 「太陽か」僕は呟いた。「混濁した意識の中で呟いた言葉がそれというのが気になる。よほど意識の中心にあることなんだろうな。もしかして、太陽のことを調べているのかな?」
 「きっとそうよ。いったいどこから来たのかしら」
 「それほど遠くからではなさそうだね。言葉がわかるということだし。明日にでも一緒に病院に行こうか?僕も会って話を聞いてみたい」