さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
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拳闘見聞の日々。

威圧する力、崩れぬ心身で「難敵」を仕留める 井上尚弥、タパレスを10回KO

2023-12-27 05:08:29 | 井上尚弥



ということで昨日は何とか、Leminoのライブ配信、メインに間に合いました。
じっくり見ることが出来たので、感嘆に感想です。



井上尚弥は初回から右をボディに送り、ワンツー、右を上に、強めに叩く。
マーロン・タパレスは低い構えから右リードを突き上げ、左右ともにオーバーハンド、かと思えばアッパー気味のパンチを飛ばす技がある。
左ストレート、浅いながらヒットしたが、同じパンチを外されて、井上が右アッパーによるお迎え。
徐々に威嚇され、威圧された感あり。 
 
2回、タパレス出るが、井上の左足につまずく格好でスリップ。同時に井上のジャブも入っていた。
タパレス攻めようとするが、井上はコンタクトの度に右ボディを打つ。タパレスの弱点、ボディを抜かりなく攻めている。
これがあるから、タパレスの攻めがもうひとつ物足りないものになっている、と見える。

3回、タパレスは引き気味の構えになっていく。井上、右から上下に攻め、タパレス一発だけ右返すが、威力が無い。
タパレス左ボディ出すが、井上がコーナーに下がって誘っても手が出ない。逆に引いた守りに冴えが出て、井上の軽いコンビを外す。
井上、攻めるフェイント入れてタパレスを誘い、小さい左のチェックフック。タパレス察知して躱すが、脅かされている。


4回、タパレス圧されている意識あり、攻め返そうという感じ。懸命にやっている。井上のワンツー出るが、右フック返し。
右フックのダブルがあり、さらに出て互いの右が交錯する。タパレスの方がコンパクトな軌道で振れていて、当たっていたら、という場面。

しかし好事魔多し、か。井上、タパレスが少し良いと見えた直後、ロープに下がって引き寄せにかかった、ように見えた。
直後、タパレス左ボディ。しかし井上が打ちたかった左右ボディを叩く。右アッパーから、ワンツー、左ボディに繋げる。
タパレスさらに出るが、ボディブローの応酬で井上が打ち勝つ。この展開こそ、タパレスが避けたいものだったはず。
この攻防は、私には井上が意図して作ったものに見えました。

タパレス劣勢、井上は相手を見て、徐々に強打を狙いだす。
タパレスが右フックを打つ直前、小さい左フックでタパレスの右顔面をヒット。止まったタパレスに左右で追撃、ロープ際でタパレス、両手をついてダウン。
タパレス立ち、ここはゴングに救われる。

これで次、終わるかなと期待したところですが、スローで見るとダウン直前の追撃が、もうひとつ、強くヒットしていない。
ここで叩き込めていれば、とあとから思ったところ。


5回、井上は仕留めにかかり、強打を打ち込むが、タパレスは引くかと思いきや果敢に打ち返す。
井上、ここは少し面食らった?右アッパーとフックを組み合わせたコンビを受ける場面も。
タパレス、元々センスと強打を兼ね備えたサウスポーで売っていた。勝負を賭けて打ち合う腹か。

しかしこの展開では、やはり井上にかなわない。右フックヒットも、ワンツー端緒にアッパーまで打たれ、渾身の右フックも外されてカウンターの的になる。
そうかと思えばジャブからストレートでガードを射貫かれ、外からは左右ボディ。

この回3分、井上のKOを期待して見る目には、あの井上が倒しきれない、タパレスの奮戦光る、となったでしょう。
しかしタパレス側から見れば、井上の乱戦における強さと、その渦中でも様々な「狙い」をもって攻めてくる揺るぎなさに、改めて脅威を感じた、となったことでしょう。


6回、井上はまた少し下がって攻めさせ、それでも足りないか、コーナーを背負う。そこからワンツー決めて、左右コンビ。
タパレス右外され、井上が掬うような右ヒット。ラスト、また右アッパー二発。タパレス、ミスしてアウトサイドからパンチを通される形。よろしくない。
7回、タパレス攻める、というか井上が攻めさせてあげている、という「絵」。井上、ロープ際から左右ヒット。タパレス、気付けば完全に後ろ足荷重のバランスに。
8回も井上、ワンツー決める。身体寄せてショートの応酬では、互いに敏捷に外し合う場面が。この後タパレス、軽いが左などヒット。
しかし意図を持って打っているのは、やはり井上。タパレスがやっているのは、強いられた対応、に過ぎない。



Leminoの実況解説は、井上の強烈なKOシーンという「絵」が欲しいのか、盛んに井上が攻めあぐね、タパレスが健闘しているという話を重ねていました。
だが、おそらく生涯ベストの出来で来たタパレスを、4回の攻防を経て、勝ち筋のない展開に押し込めてしまっている井上尚弥の闘いぶりは、それで充分驚異的なレベルにあることを、もう少し語ってくれたらな、というのが、率直な感想でした。

序盤はいくつか攻め口も見せていたタパレスですが、井上がボディブローをまず見せ、その後様々な展開でも常に上を行き、ダウンも奪って、ポイントもほぼ全て抑えている。
その上で無理に押し込まず、相手に攻めさせておいて、その都度攻防ともに一段上の技と力を示し、タパレスの心身を追い込んでいる。
確かにこのまま判定となれば、一件地味な試合に見えるが、今日はけっして絶好調というわけでもない?井上尚弥の技量は、やはりスーパーチャンプのレベルにあるなと、そんな風に思いつつ見ていました。


9回、タパレスがヒットを取るも、井上が一瞬、右ストレートをスナップ効かせて打つと、タパレスのガードを通せる場面もあり。
少し疲れの見える井上だが、ちょっと不格好ながらしっかり狙った右カウンターもあり。
10回、どう見ても判定では勝てないタパレス、攻めてくる。しかし肝心の「手立て」がなく、確信のないまま出ている感じ。
井上も中盤以降、一打の切れ味はちょっと...という印象で、これは判定かな、という感じだったのですが、ワンツーを二度打ち、二度目がタパレスの顔面にクリーンヒット。
見た印象以上に効いたのか、ここまで心身ともに蓄積したダメージ、疲弊の影響か、タパレス膝から崩れてダウン。そのまま立てず、KOとなりました。



結果がKOだったから、一般的な評としては良かった、と収まるだろうが、井上への大きな期待の裏返しとして、厳しい見方もあり得るだろうなあ、というのが、見終えての印象でした。
しかし上記したとおり、マーロン・タパレス、元々は天才的センスを持つ強打者として知られ、なおかつ様々な駆け引きや狙いを持ち、その上で実にやりにくいスタイルでもある、小柄で巧い強打のサウスポーという、どの面から見ても「難敵」である相手に、その行く手を逐一阻み、抑え込んだだけでも充分、合格点の試合です。
それを最後は、劇的とは行かずとも倒して始末を付けるのですから、これはやはりスーパーチャンプの仕事だな、と。基本的にはそう思います。
例えばロベルト・デュランやアレクシス・アルゲリョの数多の勝利の中にも、これに類する試合はいくつかあったなあ、などと、ぼんやり思ったりもしました。



もちろん、試合から時間が経って、本人や周辺から、この試合にまつわる見方、目に見えない事実が語られたりすることがあるかもしれません。

見たところ、タパレスの右足の位置や角度の変化(引く足と攻める足の切り換えが、トリックになっていて、逆をやる場面などが散見されました)が気になったものか、思うように内外へ踏み込めなかったような感じもありましたし、サウスポー相手に身体の面を合わせに行ったがかなわず、逆に際どく狙われていたりもしました。
試合全般を通じて、今までのサウスポー戦では見られなかった難しさのようなものがちょっと見えた。それはバンタムまでのように、強打一発で相手を痛めつけられなかったから、に尽きるでしょう。
マーロン・タパレスの巧さ、懸命さはもちろんありましたが、同時にいよいよ僅かずつだが「階級の壁」が見えたというべきか。或いは井上尚弥自身のコンディション、その他にも要因はあるのか。


来年以降もスーパーバンタムに留まる、という方針が語られていますが、相手選びどうこうというのは置いといて、井上尚弥にも当然のこと、新たな闘いに向けての課題があるわけです。
本人が随分前から語っていたという「30代になって階級を上げて、今までの感覚で倒せなくなったときに、如何に闘うべきか」というテーマが、いよいよ現実的になってくるのかもしれません。
今回の試合がその範囲内にあるものだったかというと、若干疑問ではあるのですが...いずれにせよ、前人未踏の野を征く井上尚弥なればこそ、その先に容易な闘いなどあり得ず、圧勝や快勝に終わった試合とて、その内実はけっして「楽勝」ではない、と改めて思った、そんな試合でありました。





コメント (6)
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