もう10年以上も前から専門誌で名前を見、WOWOWでも試合を見たアルゼンチン人が
開始早々キャンバスに倒れたのを見た後、さらなる驚異を見ることになりました。
おそらく額かテンプルか、打ち方次第で怪我の元である「硬いトコ」に井上尚弥の右拳が
二度に渡って打ち込まれ、平衡感覚を失ったオマール・ナルバエスが、全キャリア通じ初ダウン。
追撃を受けて二度目。
驚異と書いたのはその後です。
キャリア8戦、21歳の若者は、39歳、世界戦28勝の王者に対し、追撃を焦らず、
当然慎重になりすぎるでもない。これまで通りに押して、引いて、散らして揺さぶって、
「いつもやっている通り」に相手を打ち崩してしまいました。
右リードを内外から打ち分けて攻め上げ、懸命に打ち返してくる左から、サイドへの移動で遠ざかる。
そうして引き寄せておいて、その移動を止めようとして放たれたアッパー気味の右を外し、
左フックのカウンター。ナルバエス、ダウン3度目。
WOWOWでも滅多に見られないような、ワールドクラスのスーパーショットを、
この騒然たる状況の中で、当然のように決めてしまう。
井上の凄さにもはや感嘆の声も出ず、開いた口が塞がらない状態のこちらが、
呆然とリングを眺める中、上→下と散らしたコンビ、最後はボディショットで4度目。
あのオマール・ナルバエスが完全に戦意を失い、大歓声の中、試合が終わりました。
井上尚弥については、よく言われたのが「スパーでは試合の倍強い」「115ポンドに上げれば、
その実力が全て出る。今は半分くらいしか力が出ていない」ということでした。
当の陣営、そして日頃取材している報道陣から、その手の言葉がよく出てきたものです。
はっきり言って、いかにもありがちな「喧伝」であろう、と思っていたのが正直なところです。
減量前の時期、ジムでやっているスパーでは強い、試合より良い...そんな話は
これまでけっこうな数、聞いたものですが、実際楽なウェイトで組まれた試合で、
そんな強さが実際に発揮された例が、そんなに頻繁にあるとも思えず。
まして今回、一階級飛ばしの115ポンドで、試合前にもリングアナが語ったとおり、
「世界戦だけで井上の全キャリアの4倍」を闘ってきた強豪が相手です。
このクラスのコンテンダーとしては未知数の存在でしかなかったはずの井上は、
その圧倒的な強さを存分に見せつけ、またしても驚異的な勝利を手にしました。
ライトフライでの戴冠時にも、その衝撃的な強さに驚愕したものですが、
同じ年の終わりに、それに倍する衝撃的な勝利を見ました。
あの時も、言葉に尽くせぬ衝撃をどう表現していいのかと困った記憶がありますが、
もうこうなってくると、お手上げですね。
気の利いたことを書こうなんて気も失せてしまいます。
デビュー8戦目、21歳の若いボクサーが、115ポンド級最強の王者を叩き伏せて、
一気に「統一戦不要」「議論の余地無き」王座に就いた。
文字通りの「世界の頂点」に立った。
近年の日本人ボクサーの誰もが成し得なかった、本当の快挙です。
伝説の終焉と、新たな伝説の誕生を見た。新たな歴史の、時代の始まりを見た。
結局はそういうことでいいのでしょう。
またしても、心地よい衝撃、語り尽くせぬ感動を、井上尚弥から貰いました。
会場に足を運んで見た甲斐のある、見に来てなかったら絶対に後悔していた試合でした。
で、今はただ、早くおうち帰って、録画した中継番組の映像を見たい、という心境にあります。
帰りに大阪でチケット買えたら、府立行ってリゴンドー見るかな、という気持ちでもあったんですが、
井上見られたんやし別にええか、とも...(^^)