取り急ぎ、メインの感想から行きます。
私の席からはよく分からなかった、円筒形のカバーから登場する入場演出で盛り上がる中、登場した井上尚弥、その顔をモニタで見ると、ちょっと表情曇りがち、と見える。
少なくとも東京ドームのときの高揚感は見えない。気になるところ。何か負傷でも抱えていなければいいが、と。
試合が始まり、会場のスタンド席から見下ろしていると、TJドヘニーの肩の位置、背中の大きさが印象的でした。
はっきり、一回り大きく見えました。
しかし初回から、井上がプレスをかけて、ドヘニー左打つも、逆に弾かれる。井上右返し、ドヘニーじりじり後退。
両者手数は少なく、探り合いで終わった感じの初回でしたが、この時点で「ドヘニーはこんな闘い方をしたくてリングに上がったわけではないだろう」と思いました。
体格やパワーが十全に発揮出来るうちに、多少の押し引きはあっても、強打を振りかざし、井上を少しでも怯ませたいと考えていたはずでは、と。
しかしいざ、差し向かいで構えると、攻撃は右ストレートリード上下(強弱の調整あり)を基調にし、防御面では足で外さずに、正対して圧してくる井上相手に、攻めの体勢を取れず、思うように動けない。
その現実が、早速ドヘニーを追い詰めているように見えました。
2回、ドヘニー早くも怖じ気づいた?突然、何も無いのに自分から「本気のクリンチ」に出て、場内がどよめく。
井上、強いワンツー、ツーはボディへ。しかし井上、この辺から少しプレスを緩める。
あまりにきつく圧してしまうと、全然出て来なくなる。それはそれで困るので、ドヘニーに、前に出る余地を与えようという感じ。
井上尚弥ならばこその仕業。ドヘニー、少し打ってくる。
3回、これが長じて、井上がガード締めて止まり加減で、ドヘニーのパンチを受け止める場面もあり。ヒットはほとんどないが。
井上、ロープ背負わせて、左足を内外へと踏み換えてワンツー。余裕ある。
4回、井上、ドヘニーを圧すが、ロープ際から反撃を「許す」。それを敢えて待っている感も?
左を打ってくるドヘニーに、左フックカウンター狙う。ヒットはせず。
ドヘニー、浅いがヒットを取り、この回はドヘニー。
試合後見たスコアシートでは、3、4回がドヘニーに行っていました。4回はともかく、3回もか、と思いましたが、それもアリですかね。
5回、井上は自らロープ際に立つ。しばらく受ける構え。ドヘニーしかし強い攻めがなく、また下がり始める。
ならと井上、打っていく。ワンツー外されるが、後続のパンチをボディへ叩く。
上へのパンチは、元々ボディワーク、上体の振りと「逃がし」が巧いドヘニーが好きには当てさせてくれないが、ボディへのヒットは増えていく。
対するドヘニー、下がりながらの方が手は出る。逆ワンツーなどヒットも。
6回も断続的に井上がボディから攻め上げる。ボディを腕でカバー、上は頭振って外すドヘニーだが、どちらの防御も打ち崩されていく。
ガードを下げて顔を出し、上へのパンチを誘うドヘニーだが、井上は無視してボディを打ち込む。ドヘニーの右ボディにも右ショートでお迎え。
間が空いたら強い右リードが伸びてくる。ボディから巧いフェイント入れて連打しても、ほぼ井上のガードに引っかかる。
攻められてフロンドヘッドロックで逃れようとして頭を抜かれ、ロングの右を打たれる。
やることなすこと、ほぼ全てに厳しい対応をされ、ドヘニー手詰まり。
ラスト、井上が上下の連打。倒しに行っている。ボディが左右とも入ったように見える。
これはフィニッシュ間近か、ドヘニーそろそろ厳しい、まあ保った方か、いや、早々からイモ引いてたんやからこのくらいか...などと思っていた7回早々、試合が終わりました。
井上が数発ボディを打ち込んだところ、ドヘニーが右の腰、少し後ろ側を抑えて苦悶。膝をつく。
最初、キドニーブローを訴えているのかと思ったら違ったようで、レフェリーがすぐに試合を止めました。
試合としては、井上がファイターの防御(足で外さず、腕で防ぐ)と、右ストレートリードの対サウスポーボクシングで立ち、ドヘニーが強打に賭けるという闘い方をする余地が、試合全般を通じてほぼ皆無だった。そういう展開の試合だった、と見えました。
ある意味では、完封というのは違っても、「封殺」ではあった、と。
エンディングの唐突さ、派手なKOでなかったことなどが先に語られがちな試合でしょうが、その点では、これまでの色んな試合と比べても、井上尚弥に対して感じた「さすが」度数は、相変わらず高いままです。
ただ、今回の試合から、今後の話に飛べば、フェザー級転向への適応、対応への展望は、ちょっと見えてこなかったですね。
今回は、井上が相手の弱腰を見て、色々と圧し引きをするレベルの試合でした。
フェザー級で間を詰めた攻防が重なるような試合になった場合、という想定は不可能だった、と言えるでしょう。そこは残念に思いました。
一見して小さく見えた、というのは、ドヘニーがスーパーバンタムのボクサーとしてはやはり規格外というか、異常な部分がある、という他ありませんしね。
あと気になったのは、右リード基調の展開はわかりますが、左のパンチが少なかった。ボディ攻撃の際には出ましたが。上への強打は狙っていなかったような印象もあり。
これが重篤な負傷などでなければいいが、と気になりました。もう次12月、みたいな話をボブ・アラムがしていましたが、内部事情を承知していない独走だとしたら、心配です。
TJドヘニーは、身体の大きさでは「大敵」でしたが、それ以外については、ここ数戦続いたチャンピオン・クラスの相手と比べて、やはり色々不足あり、でしたね。
傍目が勝手なことを、と言われるかもしれませんが、序盤の内に一発勝負をかけないと、井上に見られ、探られ、打たれたあとで、強打の威力が目減りしてから勝負したって、良いようにやられるだけだ、と見ていました。まあ、大方の意見も同じだと思います。
しかし、彼の選択は一端引いて、勝負先送り、というものでした。それは彼我の差だから仕方ない、のでしょうが...。
マーロン・タパレスのような、鋭い抵抗もなく、最後まで自分の狙いを持って闘った粘り強さとは、比べるレベルになかった。残念でした。
まあ、全部引っくるめて言うと「こういう試合もありますよ」となるのですが、やはりスーパースターの宿命というのは厳しいものだ、とも言えるでしょう。
実質、ボディブローによるTKOだと見れば良いし、ドヘニーの負け様が、思っていたのとは違った、ということだけで。
それでも本人、語っていないこともあるでしょうが、色々と問われるし、言わねばならぬことも逆にある。大変だなあと。
昔の中南米のスーパーチャンプあたりなら、相手を腰抜けだ、魂が無いだ、しまいには性差別的な表現まで使って誹って詰って、それでおしまいだったことでしょうが...。
井上の今後については少し触れたとおり、リング上でボブ・アラム大放談?があるなど、色々と賑々しく語られていますね。
年内、12月24日に国内でサム・グッドマンとやり、来年はベガスで大興行だ、東京ドームで中谷潤人だ、エスコンフィールドでもやるとか。
もう、鬼が笑うどころの騒ぎじゃないですが(笑)、どこまでホンマやら、という気もしますが、そういう話が持ち上がり得るだけのスーパースター、それが井上尚弥だということでしょう。
さすがに有明アリーナ平日とか、クリスマスイブとかいうのは、遠足観戦の身には厳しいものがありますが(今回も強行軍でした)、その勇姿から目を離すことは出来ませんね。
※写真追加しました。提供は「ミラーレス機とタブレットと」管理人さんです。いつもありがとうございます。