「ディケイド」の勢いで読んでみた。
■小説「555(ファイズ)」
[引用]
「ファイズはもういない。それを認めるのは、とてもおそろしいことだけれど」
――――――――菊池啓太郎」
[引用終]


555(ファイズ)
お馴染み「仮面ライダー555」の劇場版「パラダイス・ロスト」のノベライズ。
基本的に映画の内容ですが、サイガを削る等々でコンパクトになっています。
でもその分、心理描写にページを割いてる。
映画では見せ場や尺の関係もあってか、「何故、木場さんがオーガを選んだのか」は割と淡泊に流してます。
まぁ丸顔に裏切られたと思い込んだとか、最低限の演出はあるものの、あんなあからさまな罠に普通はかからんだろーと誰もが思う。
その辺を補完してくれています。
木場勇治さんは一度他界されています。
その後、元気に蘇り、馬フェノクとして第二の生を謳歌しているわけですが、「俺は化け物じゃないか」と悩んでおられます。
まぁ馬だし。贔屓目に見ても動く死体ですし。人間じゃない。
しかし「生きて」いることは変わらない。人格だって元のまま。
オルフェノクだからといって邪悪なわけでもなく、「人間ではない」というだけのこと。
だからヒトとの共存を夢見て、それに理解を示す丸顔のお姉さんを慕い、理想の実現のために戦っておられます。
で、そんな馬に慕われる丸顔のお姉さん。
彼女は馬にも人間にも等しく接し、みんなの希望として崇められています。
ほとんど聖母扱い。顔は丸いですけれど。
特に木場さんにとっては、生きる最後の希望と言ってもいい。
「自分は化けものかもしれない」と思い悩み、自殺すら行っていた彼にとって、「オルフェとか馬とか関係ない!」と言ってくれる人はまさに救済です。
彼女がいるから生きていける。人を信じられる。自分を信じられる。顔は丸いですけれど。
その彼女が格別の信頼をよせるのが、本編主人公にして人類最後の希望・たっくん。
しばらく行方不明の生死不明でしたが、どうにか無事に戻ってきました。
その際に、ちょっとしたいざこざが。
[引用]
「考えてもみろ。ベルトを作ったのは、もともとスマートブレイン社なんだぞ。オルフェノクを庇護してここまで増やした張本人だ。巧、おまえはまさか…」
水原のその声に、若者たちは顔を見合わせた。
おびえたように巧を遠巻きにし始める。と……。
「やめてよ!」
真理が叫んだ。
水原が振り向くと、真理は本気で怒っていた。
きまずそうに口を閉じたが、もう遅い。
「なに言ってるの!巧がオルフェノクだなんて。そんなはずないでしょ!」
啓太郎も怒っている。
「そうだよ。俺たちはタッくんとは長い付き合いなんだ。タッくんのことはよく知ってるよ」
[引用終]
我らのたっくんにオルフェ嫌疑をかけられて、お怒りになる丸顔の図。
この時点ではたっくんがオルフェであることは判明しておらず、ここだけ切り出せば彼女の怒りは至極もっともです。
そう。「至極もっともだ」と思ったのならば。それが「本音」を表している。
[引用]
<巧……わたし、嘘つきかもしれない>
勇治は砂利を踏みしめて歩いていた。
聞くな、と本能が告げた。でも、耳をふさいでも流れ込んできてしまう真理の声を、どうしろというのか。
真理は泣いていた。しゃくりあげる声が続いた。
<木場さんに……わたし、嘘をついたのかもしれない……>
会話の相手は巧らしいが、そちらの声は聞こえない。巧がどう受け答えしているのかはわからなかった。
<さっき、人間とかオルフェノクとか関係ないって言ったとき、心の中をザラザラしたいやなものが埋め尽くしたんだ
(中略)
水原くんが巧のことをオルフェノクかもしれないなんて言い出したでしょう?あのとき、わたしも啓太郎もすごく怒ったよね。
(中略)
「そんなはずないでしょ」って。わたしあのとき、すごくいやだったの。巧がオルフェノクかもって言われたことが。オルフェノクがいやだったの。ひどいよね、わたし……。だから、わたし……>
真理は泣いている。
巧はなんと答えているんだろう。
想像もできない。悪いほうに悪いほうに決めつけてしまいそうで、考えるのもこわい。
<わたし、嘘つきかもしれない……。木場さん、ごめん……。ごめん、ね……>
――勇治は立ち止まった。
その顔は能面のように無表情だった。
たったいま、一つだけ残されていた希望を失ったのだ。
[引用終]
今では顔の丸いお姉さんも、オルフェノクよりも性質の悪いファンガイアの女王になられてるわけですが、そんなことはさて置いて。
「巧はオルフェノクじゃない!」、こう思ってしまった時点で、オルフェへの正直な気持ちを吐露してしまってる。
これ映画もでしたけれど、構成が上手いし残酷ですよ。視聴者をも罠にかけてるもの。構図を理解したお子様は、結構悩んだんじゃないかと思うのだけど、どうなのだろう。
かくして絶望した木場さんは、帝王のベルトを求めてスマブレ社へ。
[引用]
「<帝王のベルト>か……」
勇治は一人でスマートブレイン社に向かおうとした。オルフェノクの王になどなりたくはなかったが、だからといってどうしたらいいかもわからなかった。
「ベルトが……あるのが悪いんだ。あれさえなければ、俺は王になんてならなくていいし、それに、もしかしたら……」
水原の言葉を反芻する。
あの男はともかく、巧と真理は、スマートブレイン社から<帝王のベルト>を奪って人間の手に渡せば、勇治のことを、信頼できる人間の仲間だと再び信じてくれるかもしれない。
確証はなかった。
だがその仮定にすがりつきたかった。
[引用終]
そしてその希望も打ち砕かれ、めでたくオーガに就任。
やってきたファイズと殴り合いを始めます。
その途中で、たっくんの正体がやっぱりオルフェと判明。
[引用]
勇治が殴り合っていた手を一瞬止め、目を見開いた。
震え声で、
「信じられない……。おまえが、俺と同じ……オルフェノクだったなんて」
巧も拳を握りしめて構えながら、困ったように、
「そうらしいな……。俺も驚いている。気付かなかった」
そう呟くと、勇治の鳩尾に強いパンチを放った。
(中略)
そこに、檻の中から真理の叫ぶ声が聞こえてきた。
「巧っ!巧っ!」
「……なんだよ。うるせぇな」
「わたしさっ、巧が人間でも、ファイズでも、オルフェノクでも、関係ないからさっ!」
「はぁ?」
「ずっとあんたを信じてついてきたんだもん。あんたはすごいやつだったもん。これからだっていっしょだよ。わたしは巧についていく。あんたが人間でも、オルフェノクでも、関係ない。だから……」
勇治の顔が歪んだ。
巧があきれたように、
「……なんでおまえが泣くんだよ」
「聞きたかったんだ、それを。あぁ、力抜けた。死ぬわ。じゃあな」
勇治がニッコリ笑う。
そして……、
どさっと崩れ落ちた。
[引用終]
「オルフェであっても関係ない。巧は巧だから」。
映画では、それを聞いた時のたっくんの笑顔が印象的でしたが、この時点で木場さんも救われてたんだろうな。
その後のバトルで突然にオーガが弱体化したのも納得。
「555」の特徴的なところは「悪の親玉」がいないことで、設定からして「敵を倒して大団円」がありえない。
人類の進化型オルフェノクは、スマートブレイン社がなくなっても現れ続ける。
かつて私たちの祖先は、自分たちホモ・サピエンス以外のホモ属を絶滅させています。歴史を見る限り、凄まじく悲しくて孤独な結末しか見えやしない。
隣人は果たして人間なのか。そして人間でなければいけないのか。人間であれば信じ合えるのか。
小説中で貫かれている孤独への恐怖には、心が冷えます。
そんな小さな星の物語。期待していた以上に、面白かったです。どうせなら「異形の花々」も読むか。
【蛇足】
上の感想記事からも想像つくかもしれませんが、肝心のたっくんの出番はたいしてありません。
ほとんど木場さんや周囲の人にフォーカスが当たっています。
主人公なのに。それがたっくん。(なお小説では『タッ』くんと表記されています。カタカナだったのか。でも平仮名の方が『らしい』のでそう書き続けよう)
あと冒頭で引用した啓太郎の台詞は、小説の最初のページに章見出しとして掲載されています。
これを読んで、私も友人も爆笑した。
だって、たっくんなんだもん。いや笑うところじゃないし、その後しんみりしたのだけど、でもだって、たっくんなんだもん。
■小説「555(ファイズ)」
[引用]
「ファイズはもういない。それを認めるのは、とてもおそろしいことだけれど」
――――――――菊池啓太郎」
[引用終]

555(ファイズ)
お馴染み「仮面ライダー555」の劇場版「パラダイス・ロスト」のノベライズ。
基本的に映画の内容ですが、サイガを削る等々でコンパクトになっています。
でもその分、心理描写にページを割いてる。
映画では見せ場や尺の関係もあってか、「何故、木場さんがオーガを選んだのか」は割と淡泊に流してます。
まぁ丸顔に裏切られたと思い込んだとか、最低限の演出はあるものの、あんなあからさまな罠に普通はかからんだろーと誰もが思う。
その辺を補完してくれています。
木場勇治さんは一度他界されています。
その後、元気に蘇り、馬フェノクとして第二の生を謳歌しているわけですが、「俺は化け物じゃないか」と悩んでおられます。
まぁ馬だし。贔屓目に見ても動く死体ですし。人間じゃない。
しかし「生きて」いることは変わらない。人格だって元のまま。
オルフェノクだからといって邪悪なわけでもなく、「人間ではない」というだけのこと。
だからヒトとの共存を夢見て、それに理解を示す丸顔のお姉さんを慕い、理想の実現のために戦っておられます。
で、そんな馬に慕われる丸顔のお姉さん。
彼女は馬にも人間にも等しく接し、みんなの希望として崇められています。
ほとんど聖母扱い。顔は丸いですけれど。
特に木場さんにとっては、生きる最後の希望と言ってもいい。
「自分は化けものかもしれない」と思い悩み、自殺すら行っていた彼にとって、「オルフェとか馬とか関係ない!」と言ってくれる人はまさに救済です。
彼女がいるから生きていける。人を信じられる。自分を信じられる。顔は丸いですけれど。
その彼女が格別の信頼をよせるのが、本編主人公にして人類最後の希望・たっくん。
しばらく行方不明の生死不明でしたが、どうにか無事に戻ってきました。
その際に、ちょっとしたいざこざが。
[引用]
「考えてもみろ。ベルトを作ったのは、もともとスマートブレイン社なんだぞ。オルフェノクを庇護してここまで増やした張本人だ。巧、おまえはまさか…」
水原のその声に、若者たちは顔を見合わせた。
おびえたように巧を遠巻きにし始める。と……。
「やめてよ!」
真理が叫んだ。
水原が振り向くと、真理は本気で怒っていた。
きまずそうに口を閉じたが、もう遅い。
「なに言ってるの!巧がオルフェノクだなんて。そんなはずないでしょ!」
啓太郎も怒っている。
「そうだよ。俺たちはタッくんとは長い付き合いなんだ。タッくんのことはよく知ってるよ」
[引用終]
我らのたっくんにオルフェ嫌疑をかけられて、お怒りになる丸顔の図。
この時点ではたっくんがオルフェであることは判明しておらず、ここだけ切り出せば彼女の怒りは至極もっともです。
そう。「至極もっともだ」と思ったのならば。それが「本音」を表している。
[引用]
<巧……わたし、嘘つきかもしれない>
勇治は砂利を踏みしめて歩いていた。
聞くな、と本能が告げた。でも、耳をふさいでも流れ込んできてしまう真理の声を、どうしろというのか。
真理は泣いていた。しゃくりあげる声が続いた。
<木場さんに……わたし、嘘をついたのかもしれない……>
会話の相手は巧らしいが、そちらの声は聞こえない。巧がどう受け答えしているのかはわからなかった。
<さっき、人間とかオルフェノクとか関係ないって言ったとき、心の中をザラザラしたいやなものが埋め尽くしたんだ
(中略)
水原くんが巧のことをオルフェノクかもしれないなんて言い出したでしょう?あのとき、わたしも啓太郎もすごく怒ったよね。
(中略)
「そんなはずないでしょ」って。わたしあのとき、すごくいやだったの。巧がオルフェノクかもって言われたことが。オルフェノクがいやだったの。ひどいよね、わたし……。だから、わたし……>
真理は泣いている。
巧はなんと答えているんだろう。
想像もできない。悪いほうに悪いほうに決めつけてしまいそうで、考えるのもこわい。
<わたし、嘘つきかもしれない……。木場さん、ごめん……。ごめん、ね……>
――勇治は立ち止まった。
その顔は能面のように無表情だった。
たったいま、一つだけ残されていた希望を失ったのだ。
[引用終]
今では顔の丸いお姉さんも、オルフェノクよりも性質の悪いファンガイアの女王になられてるわけですが、そんなことはさて置いて。
「巧はオルフェノクじゃない!」、こう思ってしまった時点で、オルフェへの正直な気持ちを吐露してしまってる。
これ映画もでしたけれど、構成が上手いし残酷ですよ。視聴者をも罠にかけてるもの。構図を理解したお子様は、結構悩んだんじゃないかと思うのだけど、どうなのだろう。
かくして絶望した木場さんは、帝王のベルトを求めてスマブレ社へ。
[引用]
「<帝王のベルト>か……」
勇治は一人でスマートブレイン社に向かおうとした。オルフェノクの王になどなりたくはなかったが、だからといってどうしたらいいかもわからなかった。
「ベルトが……あるのが悪いんだ。あれさえなければ、俺は王になんてならなくていいし、それに、もしかしたら……」
水原の言葉を反芻する。
あの男はともかく、巧と真理は、スマートブレイン社から<帝王のベルト>を奪って人間の手に渡せば、勇治のことを、信頼できる人間の仲間だと再び信じてくれるかもしれない。
確証はなかった。
だがその仮定にすがりつきたかった。
[引用終]
そしてその希望も打ち砕かれ、めでたくオーガに就任。
やってきたファイズと殴り合いを始めます。
その途中で、たっくんの正体がやっぱりオルフェと判明。
[引用]
勇治が殴り合っていた手を一瞬止め、目を見開いた。
震え声で、
「信じられない……。おまえが、俺と同じ……オルフェノクだったなんて」
巧も拳を握りしめて構えながら、困ったように、
「そうらしいな……。俺も驚いている。気付かなかった」
そう呟くと、勇治の鳩尾に強いパンチを放った。
(中略)
そこに、檻の中から真理の叫ぶ声が聞こえてきた。
「巧っ!巧っ!」
「……なんだよ。うるせぇな」
「わたしさっ、巧が人間でも、ファイズでも、オルフェノクでも、関係ないからさっ!」
「はぁ?」
「ずっとあんたを信じてついてきたんだもん。あんたはすごいやつだったもん。これからだっていっしょだよ。わたしは巧についていく。あんたが人間でも、オルフェノクでも、関係ない。だから……」
勇治の顔が歪んだ。
巧があきれたように、
「……なんでおまえが泣くんだよ」
「聞きたかったんだ、それを。あぁ、力抜けた。死ぬわ。じゃあな」
勇治がニッコリ笑う。
そして……、
どさっと崩れ落ちた。
[引用終]
「オルフェであっても関係ない。巧は巧だから」。
映画では、それを聞いた時のたっくんの笑顔が印象的でしたが、この時点で木場さんも救われてたんだろうな。
その後のバトルで突然にオーガが弱体化したのも納得。
「555」の特徴的なところは「悪の親玉」がいないことで、設定からして「敵を倒して大団円」がありえない。
人類の進化型オルフェノクは、スマートブレイン社がなくなっても現れ続ける。
かつて私たちの祖先は、自分たちホモ・サピエンス以外のホモ属を絶滅させています。歴史を見る限り、凄まじく悲しくて孤独な結末しか見えやしない。
隣人は果たして人間なのか。そして人間でなければいけないのか。人間であれば信じ合えるのか。
小説中で貫かれている孤独への恐怖には、心が冷えます。
そんな小さな星の物語。期待していた以上に、面白かったです。どうせなら「異形の花々」も読むか。
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【蛇足】
上の感想記事からも想像つくかもしれませんが、肝心のたっくんの出番はたいしてありません。
ほとんど木場さんや周囲の人にフォーカスが当たっています。
主人公なのに。それがたっくん。(なお小説では『タッ』くんと表記されています。カタカナだったのか。でも平仮名の方が『らしい』のでそう書き続けよう)
あと冒頭で引用した啓太郎の台詞は、小説の最初のページに章見出しとして掲載されています。
これを読んで、私も友人も爆笑した。
だって、たっくんなんだもん。いや笑うところじゃないし、その後しんみりしたのだけど、でもだって、たっくんなんだもん。
アメブロでブログをやっているThe shoと言います
このブログの特撮感想楽しみにしています
もちろん、メインコンテンツであるプリキュア感想も楽しみにしています
以前このブログに別名でコメントしていたのですが当時はきらレボしか話がわからず、さらにそのきらレボも飽きてきた頃だったのでROMってましたが今はピッチもプリキュアもどんとこいです!
よろしければ私のブログにもコメントしてください
URL:http://ameblo.jp/toku-and-anime/
ではまた
(≧Д≦)ゞBye!!
P.S.長文になってすいません・・・;^^
こんばんは。
弊ブログも微力ながら「ぴっち」や「プリキュア」の普及に役立てたかと思うととても嬉しいです。
基本的に特撮畑の人間ではないので、若干的外れな感想を書いてしまっていますが、そちらも細々と続けて行ってみます。
ブログのご紹介ありがとうございます。
機会を見て書き込みさせていただきます。