■小説 スマイルプリキュア!
小説 スマイルプリキュア! / 小林雄次
昔々あるところに星空みゆきという女の子がおりました。
彼女は仲良しのお友達4人と共にプリキュアとなり、未来を黒く塗りつぶそうとするバッドエンド王国と戦いました。
激しい戦いの末、ついには悪の帝王・ピエーロを倒し、世界には平和が訪れましたとさ。めでたしめでたし。
そして、それから10年。
第1章 星空みゆき
第2章 日野あかね
第3章 黄瀬やよい
第4章 緑川なお
第5章 青木れいか
最終章 最高のスマイル
かつてプリキュアであったことも、共に戦った仲間のことも忘れた5人の娘さんたちの、絶望の物語。
現実はメルヘンとは違う。都合の良い奇跡は起きず、楽しい時間はいずれ終わる。
夏休みは必ず終わりがくるし、敵を撃退してもピエーロ時計の針は進む。
それでも。目に見えない、あるかもわからぬ何かでも。信じて進めば、それは確かに実在するはず。
学業成就のお守りは、ただの布と紙だ。でもそれに込められた想いを信じ、それがあることで平常心で試験に望めれば、ガチガチに緊張しているより良い結果になるはず。良い結果になったのなら、確かにそれには不思議な力がるのです。
奇跡や神が実在するから信じるのではない。信じるから、奇跡や神は存在するんだ。
絵本の力。
友情や恋。
空想上のヒーロー。
家族や後輩。
道。
星空さんたちはそれらを信じ、信じたから力になり、己自身で存在を証明した。
だけど現実とメルヘンは違う。
信じたそれらも、いずれ終わりがやってくる。
せっかく笑顔をもたらした絵本も、訪れる別れは止められない。日野さんが思い描いていた甘い恋の行方は、相手の描いていたものと違った。
「自分で自分の言葉が響かなくなった」と「ミラクルピース」の連載を自ら終了する黄瀬さんや、自分がいるせいで家族や後輩の成長を阻害していたと気づく緑川さん。
以前の自分を救った「道」の解釈が、かえって教え子を追い込んでしまう…。
アニメ本編の個人回のその後の話。感動したあの総決算が、悪夢の未来の始まりだった。
かつてプリキュアだったことを忘れてしまった星空さんたち。
「いずれ破滅が訪れても、楽しかった思い出を胸に抱き、笑顔で立ち向かおう。だから私たちはスマイルプリキュアだ」。
その「楽しかった思い出」が欠落したまま、彼女たちはそれぞれの絶望に立ち向かう。
ネタを明かしてしまうのなら、この「10年後の未来」は蘇ったジョーカーが作った仮初の世界。中3になった星空さんたちが記憶を操作され閉じ込められているだけ(中3なのでその視点では「9年後の未来」。ちょっとややこしい)。
とはいえ描かれている「絶望」は本編からの延長線。確かにいずれ直面する、リアルな課題です。
実際ジョーカーも語る。「これは私が作った嘘の世界ではない」と。
「友の名を忘れる」等はさすがに作為があるにせよ、全くの架空世界ではなく、未来予知に近いように見えます。
「嘘の世界」ではないから、あからさまに絶望的な悲惨な未来ではない。でもだからこそ回避不能の恐怖があります。仮に起きることが事前に分かっていても、本質的には防ぐことが出来ない。防げばよいというものでもない。
それでも星空さんたちは各々この世界を突破します。きっかけとなったのは、やはり昔の友との思い出だった。
直接的にはプリキュアの能力とは全く関係なく、「思い出」そのものも直接の解法にはならず、あくまで「きっかけ」。それが何とも「スマイルプリキュア」らしいです。
破滅は避けられない。解決策もない。だけど思い出を胸に、笑顔で立ち向かう。
作られた未来世界の絶望を乗り越え、脱出した星空さんらは、再度ジョーカーと向かい合う。
しかしスマイルパクトは輝かない。バッドエンドの力により、完全に封じられています。
やはり現実とメルヘンは違う。奇跡なんて、起きはしない。
だけれど、星空さんは気が付いた。10年後の20代半ばの姿のまま気が付いた。
『この世界は、メルヘンだ』
「スマイルプリキュア」を、その後の「プリキュア」シリーズを苦しめ続けた呪縛への爽快きわまる素晴らしき逆転の一撃。
「現実はメルヘンとは違う」。大前提とされたそれが吹き飛ばされる。
『この世界は物語で、主人公は私たちだ』
だから奇跡は起こせる。素晴らしすぎる突破口です。嗚呼だから各章のタイトルは登場人物の名をとっていたのか。
古くは「はてしない物語」を連想するような、読者と登場人物がお互いを認識しあうかのような相互のメタ構造。そうだ、私たちもまた、この物語の登場人物だ。
『大人になった未来の私たちへ』から始まる、ラストシーンの星空さんからの語りかけは胸に刻み込みたい。
現実は厳しい。単純な悪意に限らず、不可避の不幸は幾つもある。かつて信じたものもいつかは終わってしまう。
『でもね、そんな時は思い出して』
『あなたたちはプリキュアになって世界を救ったんだよ』
星空さんたちが忘れてしまっていたように、私たちも忘れているだけなのかもしれない。
「スマイルプリキュア」の後日談として、これ以上はないほどの素晴らしい小説でした。
小説 スマイルプリキュア! / 小林雄次
【蛇足】
最終決戦での大人姿での変身にどぎまぎします。劇中でも「大人での変身」とかなり強調されており、姿もちょっと違うらしい。気になる。
あと、繰り返し繰り返し「れいかちゃんはモテモテだった」と言及されてるのが何か愉快。いや確かに、れいかさんは(他の美人枠プリキュアと比較しても)物凄くモテそうだと思いますが、それだけに何か生々しい。
小説 スマイルプリキュア! / 小林雄次
昔々あるところに星空みゆきという女の子がおりました。
彼女は仲良しのお友達4人と共にプリキュアとなり、未来を黒く塗りつぶそうとするバッドエンド王国と戦いました。
激しい戦いの末、ついには悪の帝王・ピエーロを倒し、世界には平和が訪れましたとさ。めでたしめでたし。
そして、それから10年。
第1章 星空みゆき
第2章 日野あかね
第3章 黄瀬やよい
第4章 緑川なお
第5章 青木れいか
最終章 最高のスマイル
かつてプリキュアであったことも、共に戦った仲間のことも忘れた5人の娘さんたちの、絶望の物語。
現実はメルヘンとは違う。都合の良い奇跡は起きず、楽しい時間はいずれ終わる。
夏休みは必ず終わりがくるし、敵を撃退してもピエーロ時計の針は進む。
それでも。目に見えない、あるかもわからぬ何かでも。信じて進めば、それは確かに実在するはず。
学業成就のお守りは、ただの布と紙だ。でもそれに込められた想いを信じ、それがあることで平常心で試験に望めれば、ガチガチに緊張しているより良い結果になるはず。良い結果になったのなら、確かにそれには不思議な力がるのです。
奇跡や神が実在するから信じるのではない。信じるから、奇跡や神は存在するんだ。
絵本の力。
友情や恋。
空想上のヒーロー。
家族や後輩。
道。
星空さんたちはそれらを信じ、信じたから力になり、己自身で存在を証明した。
だけど現実とメルヘンは違う。
信じたそれらも、いずれ終わりがやってくる。
せっかく笑顔をもたらした絵本も、訪れる別れは止められない。日野さんが思い描いていた甘い恋の行方は、相手の描いていたものと違った。
「自分で自分の言葉が響かなくなった」と「ミラクルピース」の連載を自ら終了する黄瀬さんや、自分がいるせいで家族や後輩の成長を阻害していたと気づく緑川さん。
以前の自分を救った「道」の解釈が、かえって教え子を追い込んでしまう…。
アニメ本編の個人回のその後の話。感動したあの総決算が、悪夢の未来の始まりだった。
かつてプリキュアだったことを忘れてしまった星空さんたち。
「いずれ破滅が訪れても、楽しかった思い出を胸に抱き、笑顔で立ち向かおう。だから私たちはスマイルプリキュアだ」。
その「楽しかった思い出」が欠落したまま、彼女たちはそれぞれの絶望に立ち向かう。
ネタを明かしてしまうのなら、この「10年後の未来」は蘇ったジョーカーが作った仮初の世界。中3になった星空さんたちが記憶を操作され閉じ込められているだけ(中3なのでその視点では「9年後の未来」。ちょっとややこしい)。
とはいえ描かれている「絶望」は本編からの延長線。確かにいずれ直面する、リアルな課題です。
実際ジョーカーも語る。「これは私が作った嘘の世界ではない」と。
「友の名を忘れる」等はさすがに作為があるにせよ、全くの架空世界ではなく、未来予知に近いように見えます。
「嘘の世界」ではないから、あからさまに絶望的な悲惨な未来ではない。でもだからこそ回避不能の恐怖があります。仮に起きることが事前に分かっていても、本質的には防ぐことが出来ない。防げばよいというものでもない。
それでも星空さんたちは各々この世界を突破します。きっかけとなったのは、やはり昔の友との思い出だった。
直接的にはプリキュアの能力とは全く関係なく、「思い出」そのものも直接の解法にはならず、あくまで「きっかけ」。それが何とも「スマイルプリキュア」らしいです。
破滅は避けられない。解決策もない。だけど思い出を胸に、笑顔で立ち向かう。
作られた未来世界の絶望を乗り越え、脱出した星空さんらは、再度ジョーカーと向かい合う。
しかしスマイルパクトは輝かない。バッドエンドの力により、完全に封じられています。
やはり現実とメルヘンは違う。奇跡なんて、起きはしない。
だけれど、星空さんは気が付いた。10年後の20代半ばの姿のまま気が付いた。
『この世界は、メルヘンだ』
「スマイルプリキュア」を、その後の「プリキュア」シリーズを苦しめ続けた呪縛への爽快きわまる素晴らしき逆転の一撃。
「現実はメルヘンとは違う」。大前提とされたそれが吹き飛ばされる。
『この世界は物語で、主人公は私たちだ』
だから奇跡は起こせる。素晴らしすぎる突破口です。嗚呼だから各章のタイトルは登場人物の名をとっていたのか。
古くは「はてしない物語」を連想するような、読者と登場人物がお互いを認識しあうかのような相互のメタ構造。そうだ、私たちもまた、この物語の登場人物だ。
『大人になった未来の私たちへ』から始まる、ラストシーンの星空さんからの語りかけは胸に刻み込みたい。
現実は厳しい。単純な悪意に限らず、不可避の不幸は幾つもある。かつて信じたものもいつかは終わってしまう。
『でもね、そんな時は思い出して』
『あなたたちはプリキュアになって世界を救ったんだよ』
星空さんたちが忘れてしまっていたように、私たちも忘れているだけなのかもしれない。
「スマイルプリキュア」の後日談として、これ以上はないほどの素晴らしい小説でした。
小説 スマイルプリキュア! / 小林雄次
【蛇足】
最終決戦での大人姿での変身にどぎまぎします。劇中でも「大人での変身」とかなり強調されており、姿もちょっと違うらしい。気になる。
あと、繰り返し繰り返し「れいかちゃんはモテモテだった」と言及されてるのが何か愉快。いや確かに、れいかさんは(他の美人枠プリキュアと比較しても)物凄くモテそうだと思いますが、それだけに何か生々しい。