明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
新年早々、相も変わらず続けてみる。
【はぐたんへのささやかな贈り物】
パラレルワールド説では「はぐたんが未来からやってきたので分岐した」かのような説明がなされているように見えます。
A:2018年はぐたんが来なかった世界
B:2018年はぐたんが来た世界
(「HUGっと!プリキュア」1話より)
ですがパラレルワールドの観点では不足があるように思う。
例として、短編SF 「時間飛行士へのささやかな贈物」(フィリップ・K・ディック)を挙げてみる。
(あらすじ引用)
アメリカで行なわれた国家的なタイム・トラベル実験で、タイム・トリップ中に爆発事故が起きた。ひとつの空間に同時に複数の物体は存在できないという原則を破ってしまったらしい。時間飛行士たちの運命は…。
(引用終わり)
1週間後の未来に降り立った時間飛行士が見たのは、1週間前への帰還に失敗した自分達の葬式だった。失敗の原因は明白。何かをタイムマシンに持ち込んだせいで、過去に戻ると同時に事故が発生、死亡したらしい。
原因は明白なので避けるのは容易です。わざわざその「何か」を持ち込まなければいい。
ですが現にそれは起きている。では彼らは避けるべきなのか、意図的に事故を起こすべきなのか。
仮にパラレルワールドが生まれるとして、この例では「これから事故を起こす」「事故を防ぐ」に分かれます。分岐の原因は過去ではなく、未来での行動です。
私たちは何となく「過去が変わったので分岐する」(はぐたんがやって来たので分岐する)ように思ってしまいますが、発端は未来。「未来での行動」(はぐたんが過去に向かった)により「未来」が分岐します。
つまり世界はAとBの2つではなく、3つでは。
A:
2018年はぐたんが来なかった
2043年はぐたんがタイムトラベルした世界
B:
2018年はぐたんが来た世界
C:
2018年はぐたんが来なかった
2043年はぐたんがタイムトラベルしなかった世界
ではこれで全部だろうか。
「未来に戻る」という行為でも世界の分岐は起きえるので、実際にはこうではなかろうか。
A:
2018年はぐたんが来なかった
2043年はぐたんがタイムトラベルした世界
B:
2018年はぐたんが来た
2019年ルールーらが未来に戻った世界
C:
2018年はぐたんが来なかった
2043年はぐたんがタイムトラベルしなかった世界
D:
2018年はぐたんが来た
2019年ルールーらが未来に戻らなかった世界
これを念頭に置くと、厄介な問題が見つかります。
【増殖するルールー】
世界Bのルールーらが未来に帰還する際に、正しく世界Aに戻れるんだろうか。うっかり世界Cに行ってしまうと厄介です。
(スティーヴン・バクスター「タイム・シップ」(ウェルズの「タイムマシン」の続編)では、これがテーマになっています)
解決策としては「世界Aと世界Bはトンネル的なものでつながっている」とかでしょうか。劇中でも「時間がたつと帰れなくなる(つながりが切れる?)」と説明されていますから齟齬はない。
ですがこの時、世界Dの存在が厄介です。
世界Dのルールーらは何らかの理由で一旦は未来への帰還を取りやめています。
ところがその翌日、心変わりして帰還することにしたらどうなるだろうか。
「世界Aとトンネル的なもので繋がっている」のだとしたら、世界Dのルールーらも世界Aにタイムトラベルしてしまいます。そして世界Bの自分たちと顔を合わせる不可解な事態に発展する。
それだけではない。世界Dのルールーらが帰還を決めたなら、再度分岐が発生します。
D:
2018年はぐたんが来た
2019年ルールーらが未来に戻らなかった
その翌日、やっぱり戻ることにした世界
E:
2018年はぐたんが来た
2019年ルールーらが未来に戻らなかった
その翌日も戻らないままの世界
もちろん世界Eのルールーが、その翌日に心変わりして未来への帰還(世界Aへの帰還)を試みる可能性もある。
その場合、世界Aには世界B・D・Eの3人のルールーが出現します。更に世界Fが新たに生まれ、その世界のルールーも世界Aへの帰還を試みる。以下、エンドレス。
また、それ以前の問題として、世界の分岐を誘発するのはタイムトラベルだけなんでしょうか。
未来は変わるのであれば、ありとあらゆる行動や現象により、世界は凄まじい勢いで分岐していきます。
(より正確にいうなら過去・現在・未来は同時に存在し、無数の夥しいパラレルワールドが同時に存在する)
それならば世界Aに帰還するルールーの数はとんでもないことになります。世界中がルールーによって埋め尽くされる…。再会したえみるの心境やいかに。
ただ、ルールーらはこんな現象を予期しているとは思えません。それならば「起きない」のでしょう。
これはある意味フェルミのパラドックスに近い。無数に世界があるのなら、どうして異世界の自分と出会わないのか。
現実世界であれば説明は簡単です。「平行世界とは、いかなる情報のやり取りもできない世界のこと」だから。よって「異世界に行く」ことが定義からいってできない。
では実際に行き来しているハグプリ世界ではどうなんでしょうか。
打開策としては「世界Aは最初のルールーらが帰還した時点で分岐する」とかかしら。
A1:
2018年はぐたんが来なかった
2043年はぐたんがタイムトラベルした
2044年ルールーらが帰還した世界
A2:
2018年はぐたんが来なかった
2043年はぐたんがタイムトラベルした
2044年ルールーらが帰還しなかった世界
世界Dのルールーが戻るのは世界A2であれば、ルールーが増殖するような混乱は起きません。が、世界Dはどうして世界A2とつながってるんだろうか。
世界Bのルールーが世界Aに戻った時点で、「世界B-Aのコピーとして、世界D-A2が生まれた」のだろうか。
分からなくはないのですが、仮にそうだとすると、世界Bのルールーはどうあっても根本的には未来を救えません。自分が未来に戻ったことにより、「戻らなかった世界」が生み出されてしまうので。
まぁそれでも、やる意味があるといえばある。少なくとも「自分たちが戻った世界」が一つは生まれるのですから、それはそれでよいとも。(蛇足ながら「ドラゴンボール」のトランクスはこの価値観に基づいてタイムトラベルしている)
【孤独なえみる】
ただそれでも問題は残ります。えみるです。
この理屈に則ると、仮に「未来で問題を解決したルールーが戻ってきた」あるいは「何らかの方法で未来に行く手段をえみるが手に入れた」としても、その行き来により新たに世界が分岐してしまい「再会できた世界」と「再会できなかった世界」が生まれてしまいます。どう足掻いても孤独なえみるとルールーが残ってしまう。
それならまだ良いかもしれない。先ほど「世界BとAはトンネルのようなものでつながっている」としましたが、このつながりが切れてしまった後に、タイムトラベルを試みるとどうなるのだろう。
えみるが未来に向かう方法はある。高速で動けばいい。でもその方法で未来に行けるのは世界Bの未来なので、世界Aに戻ったルールーはいません。
ルールーが過去を目指したとしよう。そこにいるのは世界X「2018年はぐたんが来なかった世界」のえみるです。世界Bとのつながりは切れているので、行けるのは世界Aの過去(そして分岐する)。ルールーの知るえみるではありません。
仮に彼女たちがこれに気づかずに、決死の覚悟でタイムトラベルを試みてしまったら、起きた結果に愕然とするに違いない。辛い…。
こうなってくると、ルールーらのやっているのはタイムトラベルではなく、ただの異世界航行です。パルミエやトランプ王国と同種の「異世界」と認識した方がいい。
実際、劇中で野乃さんらは「タイムトラベル」という単語は使っていなかった(少なくとも頻繁には)ように思うので、あれは「ミライ」という名の異世界だと考えた方がいいのかもしれない。
そしてそれならば、なんでわざわざ「未来」と呼んだのかが疑問です。視聴者の私たちには「その方がイメージしやすい」利点はありますが、劇中人物にとっては無駄な混乱を招くだけ。ジョージの不可解な行動(彼は分岐世界と認識しているようには見えない)に象徴されるように、根幹に関わる部分に齟齬をもたらします。
結局のところ、次から次に問題が出てくるのは、パラレルワールドを前提にしているからに思えます。
シンプルに「単一世界」を前提にした方が、すっきりするんじゃなかろうか。
参考:
●HUGっと!プリキュア 愛崎えみる研究室問題考察(一覧)
新年早々、相も変わらず続けてみる。
【はぐたんへのささやかな贈り物】
パラレルワールド説では「はぐたんが未来からやってきたので分岐した」かのような説明がなされているように見えます。
A:2018年はぐたんが来なかった世界
B:2018年はぐたんが来た世界
(「HUGっと!プリキュア」1話より)
ですがパラレルワールドの観点では不足があるように思う。
例として、短編SF 「時間飛行士へのささやかな贈物」(フィリップ・K・ディック)を挙げてみる。
(あらすじ引用)
アメリカで行なわれた国家的なタイム・トラベル実験で、タイム・トリップ中に爆発事故が起きた。ひとつの空間に同時に複数の物体は存在できないという原則を破ってしまったらしい。時間飛行士たちの運命は…。
(引用終わり)
1週間後の未来に降り立った時間飛行士が見たのは、1週間前への帰還に失敗した自分達の葬式だった。失敗の原因は明白。何かをタイムマシンに持ち込んだせいで、過去に戻ると同時に事故が発生、死亡したらしい。
原因は明白なので避けるのは容易です。わざわざその「何か」を持ち込まなければいい。
ですが現にそれは起きている。では彼らは避けるべきなのか、意図的に事故を起こすべきなのか。
仮にパラレルワールドが生まれるとして、この例では「これから事故を起こす」「事故を防ぐ」に分かれます。分岐の原因は過去ではなく、未来での行動です。
私たちは何となく「過去が変わったので分岐する」(はぐたんがやって来たので分岐する)ように思ってしまいますが、発端は未来。「未来での行動」(はぐたんが過去に向かった)により「未来」が分岐します。
つまり世界はAとBの2つではなく、3つでは。
A:
2018年はぐたんが来なかった
2043年はぐたんがタイムトラベルした世界
B:
2018年はぐたんが来た世界
C:
2018年はぐたんが来なかった
2043年はぐたんがタイムトラベルしなかった世界
ではこれで全部だろうか。
「未来に戻る」という行為でも世界の分岐は起きえるので、実際にはこうではなかろうか。
A:
2018年はぐたんが来なかった
2043年はぐたんがタイムトラベルした世界
B:
2018年はぐたんが来た
2019年ルールーらが未来に戻った世界
C:
2018年はぐたんが来なかった
2043年はぐたんがタイムトラベルしなかった世界
D:
2018年はぐたんが来た
2019年ルールーらが未来に戻らなかった世界
これを念頭に置くと、厄介な問題が見つかります。
【増殖するルールー】
世界Bのルールーらが未来に帰還する際に、正しく世界Aに戻れるんだろうか。うっかり世界Cに行ってしまうと厄介です。
(スティーヴン・バクスター「タイム・シップ」(ウェルズの「タイムマシン」の続編)では、これがテーマになっています)
解決策としては「世界Aと世界Bはトンネル的なものでつながっている」とかでしょうか。劇中でも「時間がたつと帰れなくなる(つながりが切れる?)」と説明されていますから齟齬はない。
ですがこの時、世界Dの存在が厄介です。
世界Dのルールーらは何らかの理由で一旦は未来への帰還を取りやめています。
ところがその翌日、心変わりして帰還することにしたらどうなるだろうか。
「世界Aとトンネル的なもので繋がっている」のだとしたら、世界Dのルールーらも世界Aにタイムトラベルしてしまいます。そして世界Bの自分たちと顔を合わせる不可解な事態に発展する。
それだけではない。世界Dのルールーらが帰還を決めたなら、再度分岐が発生します。
D:
2018年はぐたんが来た
2019年ルールーらが未来に戻らなかった
その翌日、やっぱり戻ることにした世界
E:
2018年はぐたんが来た
2019年ルールーらが未来に戻らなかった
その翌日も戻らないままの世界
もちろん世界Eのルールーが、その翌日に心変わりして未来への帰還(世界Aへの帰還)を試みる可能性もある。
その場合、世界Aには世界B・D・Eの3人のルールーが出現します。更に世界Fが新たに生まれ、その世界のルールーも世界Aへの帰還を試みる。以下、エンドレス。
また、それ以前の問題として、世界の分岐を誘発するのはタイムトラベルだけなんでしょうか。
未来は変わるのであれば、ありとあらゆる行動や現象により、世界は凄まじい勢いで分岐していきます。
(より正確にいうなら過去・現在・未来は同時に存在し、無数の夥しいパラレルワールドが同時に存在する)
それならば世界Aに帰還するルールーの数はとんでもないことになります。世界中がルールーによって埋め尽くされる…。再会したえみるの心境やいかに。
ただ、ルールーらはこんな現象を予期しているとは思えません。それならば「起きない」のでしょう。
これはある意味フェルミのパラドックスに近い。無数に世界があるのなら、どうして異世界の自分と出会わないのか。
現実世界であれば説明は簡単です。「平行世界とは、いかなる情報のやり取りもできない世界のこと」だから。よって「異世界に行く」ことが定義からいってできない。
では実際に行き来しているハグプリ世界ではどうなんでしょうか。
打開策としては「世界Aは最初のルールーらが帰還した時点で分岐する」とかかしら。
A1:
2018年はぐたんが来なかった
2043年はぐたんがタイムトラベルした
2044年ルールーらが帰還した世界
A2:
2018年はぐたんが来なかった
2043年はぐたんがタイムトラベルした
2044年ルールーらが帰還しなかった世界
世界Dのルールーが戻るのは世界A2であれば、ルールーが増殖するような混乱は起きません。が、世界Dはどうして世界A2とつながってるんだろうか。
世界Bのルールーが世界Aに戻った時点で、「世界B-Aのコピーとして、世界D-A2が生まれた」のだろうか。
分からなくはないのですが、仮にそうだとすると、世界Bのルールーはどうあっても根本的には未来を救えません。自分が未来に戻ったことにより、「戻らなかった世界」が生み出されてしまうので。
まぁそれでも、やる意味があるといえばある。少なくとも「自分たちが戻った世界」が一つは生まれるのですから、それはそれでよいとも。(蛇足ながら「ドラゴンボール」のトランクスはこの価値観に基づいてタイムトラベルしている)
【孤独なえみる】
ただそれでも問題は残ります。えみるです。
この理屈に則ると、仮に「未来で問題を解決したルールーが戻ってきた」あるいは「何らかの方法で未来に行く手段をえみるが手に入れた」としても、その行き来により新たに世界が分岐してしまい「再会できた世界」と「再会できなかった世界」が生まれてしまいます。どう足掻いても孤独なえみるとルールーが残ってしまう。
それならまだ良いかもしれない。先ほど「世界BとAはトンネルのようなものでつながっている」としましたが、このつながりが切れてしまった後に、タイムトラベルを試みるとどうなるのだろう。
えみるが未来に向かう方法はある。高速で動けばいい。でもその方法で未来に行けるのは世界Bの未来なので、世界Aに戻ったルールーはいません。
ルールーが過去を目指したとしよう。そこにいるのは世界X「2018年はぐたんが来なかった世界」のえみるです。世界Bとのつながりは切れているので、行けるのは世界Aの過去(そして分岐する)。ルールーの知るえみるではありません。
仮に彼女たちがこれに気づかずに、決死の覚悟でタイムトラベルを試みてしまったら、起きた結果に愕然とするに違いない。辛い…。
こうなってくると、ルールーらのやっているのはタイムトラベルではなく、ただの異世界航行です。パルミエやトランプ王国と同種の「異世界」と認識した方がいい。
実際、劇中で野乃さんらは「タイムトラベル」という単語は使っていなかった(少なくとも頻繁には)ように思うので、あれは「ミライ」という名の異世界だと考えた方がいいのかもしれない。
そしてそれならば、なんでわざわざ「未来」と呼んだのかが疑問です。視聴者の私たちには「その方がイメージしやすい」利点はありますが、劇中人物にとっては無駄な混乱を招くだけ。ジョージの不可解な行動(彼は分岐世界と認識しているようには見えない)に象徴されるように、根幹に関わる部分に齟齬をもたらします。
結局のところ、次から次に問題が出てくるのは、パラレルワールドを前提にしているからに思えます。
シンプルに「単一世界」を前提にした方が、すっきりするんじゃなかろうか。
参考:
●HUGっと!プリキュア 愛崎えみる研究室問題考察(一覧)